邂逅
年も明けた2020年。仕事始めに、直哉達は早速硫黄島科学要塞研究所に呼び出された。
「明けまして……いえ、今年は喪中の年でしたね」
明石は、大垣 守を失ったんだ、と言うことを改めて思い出していた。
それを見た一同は、今年もよろしく、と返事を返す。
「さて、会談の目的を聞かせてもらうよ?」
早速直哉が切り出す。
とは言え直哉には、会談の目的は大体解っていた。
目の前に、巨大な
円形の装置で、四方に立てられた円錐状の柱が印象的なその装置。
「何かのゲートなのです」
電が呟くと、明石が目を輝かせた。
電は、余計なエサを与えてしまったのです、と苦い顔になる。
「よくぞ聞いてくださいました。これは『クロスゲートシステム』と言いまして、好きな場所に移動できる装置です。無論、場所だけではなく次元も……要するに『大垣 守の世界の明石』の遺産の
その言葉で、明石の意図は大体判った。
「これで過去に行って、大垣 守の世界をジレーネから守ろうとするのは無理だよ。その時点で、大垣の世界は
「やはりそうですか………」
厳しく指摘した直哉に、がっくり肩を落とす明石。
そんな彼女を慰めるように、直哉が続ける。
「まあ、世界間移動なんてものは派生世界を生み出すだけで、大垣 守の世界も派生世界かもしれないね?」
「派生世界………ですか?」
「そう。元となる世界が存在していて、
その直哉の仮説に、真面目に聞き入っている明石。
「まあそう言う訳で、大垣 守の世界だけでも見に行こうかね?」
最後はきっちりフォローしている直哉と、突然目がキラキラし始めた明石に、夕張とアルティメットいなづまちゃんは頭を抱えた。その隣にいる島風は、我関せずな雰囲気である。
「そう言うのを待っていました!では早速参りましょう!」
そう言いながら、クロスゲートシステムを起動させ始める。
ウィーン……と起動した瞬間、円形の構造物の内側から大きな渦が現れて、空間が歪み始めている。
「何が起きたんですか!?」
「
夕張とアルティメットいなづまちゃんが怒鳴ると、明石は冷静に笑みを浮かべている。
「いいえ。これは、おそらく別の世界の私がゲートシステムを起動させたのでしょう。それに連動して、その世界に向かってゲートが開いたのだと思います。さすがは私、どの世界の私も
会ったこともない平行世界の同一人物に、自画自賛している明石に直哉達が突っ込む。
「いや、早く止めろよ!?」
「止まらないのですか!?」
「早く止めるぴょん!!嫌な予感が増し増しだぴょん」
「もう手遅れだと思います」
「だね」
ゲートの渦はどんどん大きくなって行き、辺りのものをどんどん吸い寄せて行く。
夕張はアルティメットいなづまちゃんのおかげで、明石はワイヤーアンカーで壁に固定して、島風は素早く動いてその難を逃れるが、直哉達がどんどんゲートへ吸い寄せられて行く。
そして、一気にゲートに吸い込まれる。
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
そのまま、直哉達『宮戸島の提督と艦娘達だけ』がゲートに飛び込んで消えてしまった……
直哉達が居なくなった硫黄島科学要塞研究所。
直哉達を吸い込んで、機能を停止したゲートは姿を消していた……
――――――――
その頃岩沼沖では、岩沼鎮守府の妙高四姉妹が哨戒に出掛けていた。
すると突然、海からニョキッと円形の構造物に円錐が四本横に開いている
「何なの、これ……?」
足柄が近付こうとした途端、中からワラワラと深海棲艦が現れた。
この深海棲艦は知性を持たず、
近付こうとした足柄に、ル級の砲弾が頬を掠めた。
「な……!?」
一気に、バックステップで皆のところまで戻る。
「深海棲艦が攻撃した!?」
那智は、驚愕の表情を隠し切れずに居た。
「あのゲート、もしかしたら異世界に繋がってたり……」
羽黒が、いやーな予想を立てる。
そして、ハッと全員が気づいた。
『
その叫びは、砲撃の始まっている岩沼沖に木霊した。
「せ、戦闘態勢!散開陣形で対処しましょう! 数が多過ぎるから救援要請も!」
妙高が冷や汗を流しながら、どんどんと現れて来る深海棲艦に対処すべく、指示を出す。
「了解だ!」
那智は前に出ると、前線の駆逐級から沈めて行く。
「はいっ!」
羽黒も、那智と共にオフェンスを担当する。
「私が連絡を取るわ」
退がった足柄が、腰に帯びている無線機を取り出して、
「岩沼艦隊より岩沼本部へ。謎のゲートらしきものから、異世界の深海棲艦多数出現、交戦に入ります。
と、岩沼鎮守府の羽佐間眞一郎准将に通信を送った。
『了解、すぐに扶桑と山城を差し向ける。どうぞ?』
と、すぐに眞一郎から連絡が入ると共に、桐山からも通信が入る。
『こちら女川本部、宮戸島警備中の女川艦隊を向かわせる。どうぞ?』
戦闘態勢を取る妙高四姉妹に、深海棲艦の群れは容赦なく砲雷撃の雨霰を叩き込んで来る。
それを必死に避けながら、深海棲艦達の群れに攻撃を加える。
次々と爆沈していく下位深海棲艦の群れを見ながら、増援にやって来た扶桑・山城も絶句していた。
「こんなに沢山!?」
「ああ、不幸だわ」
そして、女川艦隊の神通・金剛四姉妹・陸奥が到着した頃には、混戦模様となっていた。
『あまり無理はせず、現状を死守せよ』
眞一郎の指令で、この宮戸島ゲート事件の火蓋が切って落とされた。
そして南三陸の艦娘達や気仙沼の艦娘達も逐次投入され、どんどん戦線が拡大して行った……
――――――――
その頃。
「う……ううん……ここは……?」
直哉が意識を取り戻したのは、見たこともない建物の、医務室のベッドだった。
隣には、駆逐艦響が腰掛けている。
「浦の星鎮守府だよ」
その言葉に、直哉は直感的に平行世界に来てしまった、と実感していた。
浦の星と言う鎮守府は、聞いたことがない。
そんな直哉の心を見透かしたように、響は続ける。
「ここは、提督とは違う平行世界だと思うよ?」
そんな、まっすぐにじーっと見た響を、見つめ返す
直哉は、その瞳の奥に底知れぬものを感じると、無意識に目を逸らした。
「私は、宮戸島鎮守府の高菜直哉。階級は准将補だよ」
「知ってると思うけど、駆逐艦響だよ」
自己紹介の後、再び黙り込む二人。辺りが沈黙に支配される。
「皆を呼ぶね?」
「ああ。頼むよ」
ぽつりと響がそう言うと、電話を取り出して意識が戻った旨を、誰かに伝えていた。
電話が終わると、「そこで待っていて」と言い、響はそれ以上何も言わなかった。
――――――――
医務室で待っていると、海軍の服を着た提督の少女と電と艦娘達がやって来た。
「君がここの鎮守府の提督かい?私は高菜直哉、宮戸島鎮守府で提督をやっている者だ。君は?」
その問いに、少女は極度に緊張をして自己紹介を始める。
「ピギャ!?く、く、黒澤ル、ルビィとい、言います。ここ、う、浦の星鎮守府で、て、提督をしてい、いましゅ、よ、よろしくお願いしましゅ!」
「噛んだわね。」
「あれは噛んだわ。」
「噛んだね。」
「噛みましたね。」
「噛んだのです。」
医務室にいた艦娘全員から総攻撃を受け、ルビィは恥ずかしさのあまり物陰に隠れてしまった。
「うぅ…男の人はやっぱり緊張するよぉ。」
そんなルビィの下にやって来た電は、笑顔を浮かべる。
「直哉は怖くないのですよ〜。だから出て来るのです。」
電に諭されて、ルビィは物陰から顔だけ出した。
「電ちゃん…本当に?」
「なのです」と言いながら、電が手招きをする。ルビィはそれに導かれるように物陰から出て来て、再び直哉の前に立った。
「さ、さっきはすぐに逃げちゃってごめんなさい。改めて、よ、よろしくお願いします!」
知っている少女提督とは違い弱気そうなルビィに、直哉は優しい笑みを浮かべながら、
「うん、こちらこそよろしくね。まだ小さいのに提督頑張ってるね。」
そう褒めると続いて、
「きちんと言えたのです。よしよし、なのです。」
と、電に頭を撫でられて、ルビィは「エヘヘ」と嬉しそうに暫く撫でられていた。その様子を直哉は微笑ましく眺めており、浦の星鎮守府の艦娘達は、
「あら〜、あんなに照れちゃって。かわいいわね〜」と足柄。
「あんなに嬉しそうな顔、嫌いじゃない。」と響。
「ですね。頭を撫でられて、嬉しくない人はいません。」と潮。
「いやいや、艦娘に撫でられる提督ってどうなのよ?」
そう言ってから、ぼそっと顔を赤らめて、
「私も今度撫でてみようかしら?」
と呟く霞と、思い思いの感想を持っていた。するとそこに、明石と入渠を終えた宮戸島鎮守府所属の三人の艦娘が入って来た。
「えーと、これはどういう状況ですかね?提督、取り敢えず三人の入渠が終わりましたよ?」
「あ、ありがとう明石さん。その三人の子達が卯月ちゃんと薄雲ちゃんと子日ちゃんかな?さっき電ちゃんから聞いたよ。よろしくね!」
『よろしく(ぴょん)(お願いします)!』
三人が、それぞれの言葉で挨拶をしていた。
「それとですね、テレポート後行方不明になったテレポーターですが、場所が判明しました。」
その言葉に、皆明るい表情になるが、対照的に明石の表情は、少し曇ったように感じられた。
「場所はどこなんだい?できるだけ、そちらに迷惑を掛けることはしたくないのだが……。」
「高菜提督、残念ながらそう簡単には帰れそうになさそうですよ?テレポーターがある場所は、迷宮要塞です。」
『え?』
明石の言葉を聞いて、浦の星所属の艦娘達の顔色が変わった。その様子を見て、直哉は何かありそうだ、と口を開いた。
「どうやら、厄介な場所にあるようだね?敵が強いだけならば何とかなるのだが。他に、何か問題があるのかい?」
その問いに、霞が答えた。
「迷宮要塞は、敵の強さもあるけど、それ以上に内部構造が複雑になっているのよ。」
霞の話を聞いて、直哉は「それは厄介だ」と言い、腕を組んで黙っていたが、静かに目を開けると視線をルビィに向けた。
「こちらとしては、本当はしたくないのだが、浦の星鎮守府にも協力を要請したい。」
これは、ルビィ達の信頼度も考えてのことだったが、その直後の、
「もちろん協力しますよ。高菜提督のためにがんばr…精一杯サポートします。」
そう言うルビィの姿には、さっきのおどおどした様子はなく覚悟を決めている提督らしさが垣間見える。そんな提督を見て、些か嬉しそうな秘書艦、霞が話し始めた。
直哉は、そんな彼女を少し見直して、信頼できる提督だと思われる。と、評価を改めた。
「早速、作戦会議……にしようと思ったけど、暫くここにいるなら、この鎮守府のことを知っていた方がいいわよね?取り敢えず、鎮守府の案内をしようと思うのだけど。いいわよね、ルビィ?」
「うん、じゃあ行こうか!?」
その会話の様子を、直哉は微笑ましそうに眺めていた。