迷宮要塞攻略に向けて、直哉達は浦の星鎮守府と共闘することになった。
そこで、長期滞在がほぼ決まっている為、日常生活に支障が出ないように施設の案内を受けていた。
最後に、霞が執務室を案内した。
「――で、最後にここが執務室ね。私とルビィは大抵ここにいるわ」
一同は執務室に集まっていた。
案内を受けている間、一番うしろの電と直哉は、
「うちより豪華だね、流石海軍」
「なのです」
等と、ぼそっとした声で会話を交わしている。
何せ、宮戸島鎮守府はコンテナハウスなのだ。
「何か質問はありますか?」
と言うルビィの言葉に、直哉が手を上げ、
「寝る場所などは宿舎棟で事足りると思うのだが、私はどこでお昼……」
と、言い終わる前に電に足を踏まれた。
直哉は悪戯っぽい顔をして電を見下ろすと、再びルビィの顔を向いた。
「……いや、作戦立案を行えば良いのだろうか?」
「え、えっとそれは……どうしよう霞ちゃん?」
その問いに、困ったような顔をするルビィに、霞は溜め息を吐いて、
「それぐらい考えておきなさいな!そうねぇ…この執務室に、机があと一、二卓は入りそうなので、あの
一同は頷き、ルビィも意気揚々と、
「うゆ!がんばルビィ!」
と声を上げていた。
そんな中、霞は明石に電話を掛け、執務机を30分以内に用意するよう手配を掛けていた。
――――――――
30分後、執務室には高菜提督と電の机が用意されて、迷宮要塞攻略に向けての作戦を立て始める…筈だったのだが、
直哉は演習を提案したのだ。
「え、演習ですか…?」
目を丸くしているルビィに、直哉は内心溜め息を吐いていたが、隣の霞はある程度納得していた顔だったので、そこは救いだと考えていた。
「それは当然のことじゃない。お互いの戦闘力も知らないでの共闘は、リスクが高過ぎるもの」
その言葉に直哉も頷いた。
「霞の言うように、まずは一度お互いの事をよく知ることが大切だからね。今日の午後にでもどうだろうか?」
ルビィは頷くも、一個気掛かりな点があるように口を開いた。
「今日は、ルビィ達は特に出撃任務は無いので大丈夫です。それよりも、ルビィ達の方には足柄さんもいますけど、どうしますか?駆逐艦だけにしますか?」
そのルビィの言葉を聞いて、ふと直哉は意地の悪いことを思い付いていた。
ルビィの提督に対しての姿勢を疑問視していた彼には、丁度いいと思っていたのだ。
「いや、その必要はないよ。寧ろ戦艦が居てもいいぐらいだ」
心の中で、戦艦がいても負けない算段は付いているけどね?と、言葉を付け加える。
電は、直哉が何を企んでいるか想像が付いていたので、大きな溜め息を吐いた。
「直哉、
その笑顔に、直哉は肩を竦めた。
――――――――
「ところで直哉、作戦はどうしましょう?」
演習前の作戦会議に一室を割り当てられ、薄雲が口を開くと直哉は暫し考える。
「うーん、作戦なんか要らないんじゃないかなぁ?」
と言う直哉に、電は諌めるように、
「相手を過小評価するのは戦術の愚、と説明してくれたのは、直哉の持論じゃなかったのですか?」
と口を挟むが、直哉は困ったような笑みを浮かべて、
「まあそうなんだけどね。やっぱり、愛ちゃんとは違うよ」
直哉は、バッサリとそう断じた。
「愛ちゃんとは違う。なのですか?」
「そう。愛ちゃんには、元々才能があるかは未知数だった。本人もそれを自覚していて、周囲に頼ったり、戦術書を抱えて演習を繰り返しては参観日に臨んだ」
その言葉に、卯月はポツリと呟いた。
「愛ちゃん、元気にしてるぴょん……?」
「さあ、どうだろうね?」
直哉は肩を竦めると、真面目な表情に戻った。
「では作戦だけど、薄雲。アンカーを下ろして、
「狙撃は慣れています。ですが、アンカーの引き揚げまで無防備になりますが、よろしいですか?」
薄雲の言葉に卯月と子日が、
「そこはうーちゃんがフォローするぴょん」
「だから安心しててね」
そう笑顔を向ける。
「問題は霞だ、練度も高そうだしね?潮と響は電に頼むよ。魚雷でいいかな?まあ、任せるよ。指揮官の練習だ、私は何も指示をしないよ」
「了解なのです。格の違い、と言うのを見せ付けてやるのです」
全員、特級艦娘検定保持者の自信に満ち溢れていた。
演習の結果は、酷いものだった。
威嚇と突出阻止の為に撃ち込んだ、アイキャンフライ砲一発目と艦隊の前進だけで、ルビィ艦隊は潰走したのだ。
ルビィは、前進でも後退でもなく
直哉は内心舌打ちをしながら、腕を組んだまま厳しい顔をして戦況を見守っている。
電は、若干の失望を感じながら薄雲に狙撃を命じる。
「薄雲!第二弾目、単発発射なのです!狙いは足柄」
「了解、狙い撃ちます」
ズガァンッ!
模擬弾の二発目のアイキャンフライ砲は、正確に足柄を捉え、数十m吹き飛ばしていた。
「きゃああっ!!!」
『足柄さん!!』
悲鳴のようなルビィ艦隊の声を聞くと、電は口の端をにいっと歪める。
「電の本気を見るのです!うーちゃん、薄雲の護衛は子日に任せて、大きく迂回して相手の後ろ側に付くのです」
「了解だぴょん」
と叫びながら、一気に単独突出していた。対応して向かってくる響と潮に、ありったけの魚雷を叩き込んだ。
急いでアンカーを巻き上げている薄雲を、護衛する為に残っている子日。
卯月は大きく迂回して、電との挟撃戦を企てていた。
ありったけの模擬魚雷を食らった潮と響も、撃破判定で吹き飛ばされる。
「終わったのです」
その瞬間だった。相手旗艦の霞が、電を無視して突出したのだ。
そう。電がフリーハンドで動く為に、薄雲を旗艦に据えていたのが、裏目に出たのだ。
旗艦をやられたら、その時点で
「しまった!!」
「引き返すぴょん!」
卯月が、ざざっと急転回して霞を追い掛ける。
「こっちは通さないよ!」
突進して来た霞と、子日の一騎打ちになった。
獅子奮迅の動きをする霞に、子日が軽い損傷を受ける。
「あうっ!」
「動けない薄雲さんに当てれば……っ!」
「拙い、まだアンカーを巻き上げてます……速度が……っ」
霞の主砲にロックオンされた薄雲は、子日の体当たりで直撃は免れたものの、アンカー解除が間に合わず至近弾を受けてしまい、軽い損傷を受けた。
そして子日はそのまま転倒、立ち上がった直後薄雲は、アイキャンフライ砲の三発目を何もない方向に発射する。
「急速後退!アイキャンフライ砲発射!」
ズガァンッ!
「えっ!?」
爆煙と共に、反動で遥か後方まで下がった薄雲を、霞が追い掛けようとした瞬間だった。
彼女の水中電探が、危険を知らせていた。
振り向いた時にはもう遅かった。視線のその先に、卯月が笑って立っていた……
そして足元を見ると、吸い込まれて行くように殺到する酸素魚雷模擬弾……
「しまった!!」
模擬魚雷は軽い爆発を起こし、艤装が撃沈判定を知らせる。
「はい、全員撤収なのです」
足柄達を救助して戻って来た電は、港に戻るように指示を出す。
直哉は、隣の埠頭で呆然としているルビィを見遣りながら、電に通信を送る。
「55点」
『やっぱりなのですか』
「勝因のない戦い。何で勝てたか?と言うと、相手司令部の作戦指揮が拙かったのさ」
『返す言葉が見つからないのです。申し訳ないのです』
電の返答を聞いてからヘッドセットを外すと、ルビィと共に艦娘達の所に向かう。
「皆!」
と、駆け寄ろうとするルビィを手で制すると、直哉は笑みを向けて、
「お疲れ様。反省会とかは後にして、一先ず入渠をして来てくれるかい?いくら模擬弾とはいえ、軽い損傷を受けてるだろうしね?」
その言葉に薄雲が、
「さあ、行きましょう」
そう言って、皆で工廠の入渠所に向かって行った。電以外。
「入渠をして来て欲しい、と言うのは、損傷を受けてない娘もなんだけどなぁ……電?」
その直哉の言葉に電は、
「直哉のことなのです。今から、ルビィ提督にお
と、側に控える電の頭を優しく撫でると直哉は、
「そうかそうか……泣かせないように努力するよ」
と、少し離れた場所で夕焼けに染まる海を見つめるルビィの方へ歩いて行った。
「ルビィちゃん」
直哉が声を掛けると、驚いた様子もなく振り向いた。きっと声を掛けられる、と分かっていたようだ。
「何でしょうか?高菜提督」
その言葉に、直哉は今までにない険しい表情で問うた。
「今回の敗因は、何だか分かるかい?」
ルビィは暫く考えると、
「ルビィ達の鎮守府の練度不足ですか?」
と答えた。
直哉は首を振ると、歩きながら口を開いた。
「確かに今回、浦の星鎮守府の所属艦娘達の練度不足はあったかもしれない。でもそうだとしても、もう少し時間を稼ぐことは出来た筈だ、と思う」
そこまで言うと足を止め、ルビィの顔を見た。
「要するに、今回の惨敗の一番の原因は、ルビィちゃん。君の指揮なんだよ」
はっきりと言い放った。
「っ!!」
ルビィの顔が一気に暗くなった。それでも構わず、直哉は続けた。
「ルビィちゃん。君の指揮は、艦娘を大切にしようとするあまり、それが逆に艦娘を危険に晒しているんだ。例えば私が艦隊を前進させた時、ルビィちゃんは後退を選んだ。何もその指示が間違っている訳ではないんだよ。後退と言うのは、戦術としてあることだからね。でも問題は、後退の
ルビィの目に涙が溜まっているのが見えて、電が「止めた方がいい」という目線を送ったが、直哉は話をやめない。
「もし、今回のようなことが戦場で起これば、最悪の場合ルビィちゃんの艦隊は壊滅する。もっと艦娘達を信用してあげることが大切だよ。もしかして、ルビィちゃんは艦娘のことが嫌い?」
その言葉を聞いて、ルビィの顔に怒りの色が出て来たように見えた。
「そんなことないもん」
その言葉に、直哉は意地悪く聞き返した。
「何て言ったか、良く聞こえないなぁ?」
「そんなことないもん!!ルビィ、皆のこと大好きだもん!!」
今までに聞いたことが無いようなハッキリとした声で、目からは滝のように涙を流しながら、ルビィが叫んだ。
その言葉を聞いて、直哉は過日の室戸鎮守府での参観日を思い出していた。
悔しそうに泣いた、愛の姿とダブって見えたのだ。
そんなルビィを見て、直哉はフッと笑みを零した。
「何がおかしいんですか?」
不機嫌そうに訊くルビィの頭を優しく撫でると、
「いや、その気持ちが聞けて良かったと思ってね。その気持ちがあるならルビィちゃん、君は良い提督になれるよ?」
それだけ言うと、ポケットに手を突っ込んで執務室へと向かって歩き出す。
「やれやれ。大貫さんは、この世界でも私に『導き手』をやれと言うのか……?この世界でどこにいるのか知らないが、全く、面倒事を押し付ける」
ぼそっとそう呟きながら。
「
追い掛けてきた電に、直哉は肩を竦める。
「いやあ。二人を足して二で割れば、完璧な司令官なんだけどなぁ、と思ってね?」
「ん?どういうことなのです?」
「愛ちゃんは、本質的には『勇敢』とか『猪突』タイプなんだ。逆に、ルビィちゃんは『慎重』とか『臆病』タイプだからね。足して二で割ったら、知勇の均衡の取れた完璧な司令官になるなぁ、と思っただけさ」
直哉の話に、電はふふっと笑う。
「ルビィちゃんにも、愛ちゃんにも、良いところも悪いところもあるのです。それが人間、と言うものなのですよ」
「そうだね。それこそ、成長した愛ちゃんが司令官で、ルビィちゃんが参謀で立ち向かわれたら……私は勝てる自信がないね。末恐ろしい限りの天才肌だよ、二人共。或いは夏海ちゃんもいるね、あの子は万能型だからね」
直哉はルビィのポテンシャルを見抜いたからこそ、あそこまでの苦言を呈したのだった。
「直哉。これはきっと、大貫さんからのプレゼントだ、と思うのです」
「結局『導き手』と言う仕事をやれと言うことだね?電、最高の司令官と言うのは、三つの才能を必要とする。まずは、決断する勇敢さ、判断する冷静さ、そして全体の構想力。私や愛ちゃんは、少なくとも二つは兼ね備えていると思う。夏海ちゃんは三つ全て、ルビィちゃんは少なくとも一つは持っている筈だよ」
「司令官としての決断力、判断力、全体を見渡す能力、なのですね?」
「そう言うことさ。愛ちゃんは、少なくとも決断力と判断力は持っている。ルビィちゃんは、決断力と構想力は持っている筈なんだ。ただ、武藤さんと一緒さ。
武藤提督から聞いた言葉を思い出す。
彼は、「行ってらっしゃい」と「お帰りなさい」を言う役回りに徹している。
彼曰く『私は、自分の指揮では艦娘を大事にし過ぎて、却って危険に晒す程の無能者だ』と言うのだ。
直哉は、彼のその姿勢は『自分を知る』才能の持ち主だ、と高く評価している。
それ故に、長門は戦術を身に着け、南三陸鎮守府の指揮統率を担っている。
「なるほどなのです」
「だから、そこを自覚してどうするか……と言うことになるね?」
その言葉を語っている頃には、鎮守府の庁舎に着いていた。
比較的損傷の軽い潮が、出迎えに来ていた。
「あのぉ……高菜提督、全員入渠終わりました。今食堂に集合しています。……ルビィちゃんは一緒じゃなかったんですか?」
訝しげに訊く潮に笑みを向けると、
「ルビィちゃんは、ちょっと考え事をしてるからそっとしておいてあげよう。それより、食堂に行こうか?」
「はいっ」
「なのです」
二人を従えて食堂にやって来ると、霞が「敬礼!」と号令を発して、皆立ち上がろうとするのを制する。
「いや、そのまま、そのままでね」
その言葉に、霞はお叱りを覚悟しながら腰掛ける。
電は直哉の脇に控え、潮は空いている椅子に座る。
「さて、皆お疲れ様。よく頑張ったね。特に、霞はよく頑張ったと思う」
「えっ?お叱りではないんですか?」
霞の問いに、直哉は肩を竦める。
「どっちかと言うと、お叱りをしたいのは宮戸島の方だねぇ。連携がまだまだなっていない。私の指示がなくても、有機的な戦術を構成してもらいたいものだね。55点」
「直哉は厳しいぴょん……」
「直哉の言うとおりです。相手をナメ過ぎていました。申し訳ありません」
卯月がぼやくと、薄雲が冷静に語る。
「これは、電の驕りなのです。ダイナミックな包囲挟撃戦をやってみたかっただけ、なのです」
「子日は頑張ったよ!薄雲ちゃんを守り切れなかったけど」
電が苦い笑いを浮かべると、子日は努力を主張する。
「はいはい、子日は頑張ったね。……と言う訳で、残念会をやろうか?」
『残念会?』
「ほら、皆でワイワイバーベキューでもやろうか、と思ってね?」
「グリルですね、わかり……オウフ」
その言葉に、ガタッと立ち上がる明石を霞が座らせて、
「提督、グリルがありませんし、鎮守府内での焚き火は規定に違反します。大きいホットプレートでは駄目ですか?」
そう問う霞に、直哉は笑みを浮かべる。
「いいよ。さて……あっちの世界のお金を使うと、偽札になるな……」
「提督、食費なら鎮守府の予算から出せます」
「いやあ、済まないねえ。ゲートが落ち着いたら、
「分かりました」
徹頭徹尾真面目な霞に、直哉が笑みを浮かべると、食堂の厨房から間宮さんも出て来る。
「それじゃあ、買い物組は電に従いて来るのです!」
『はーい!』
電が、お財布係の間宮を含めた艦娘達を連れて行くと、食堂には直哉と霞、それに明石だけが残った。
「ルビィに何か言ったんですか?」
「よく解ったね?」
肩を竦めて、直哉が空いている椅子に腰を下ろすと、霞は内容を聞かずに頭を下げる。
「秘書艦ですから。高菜提督、ありがとうございました」
「いや良いさ。ところで、大貫 悟と言う人間にあったことはあるかい?」
「大貫 悟、ですか?私はお会いしたことはありませんが、軍のデータベースを調べますか?」
首を傾げる霞に、直哉は苦笑いを浮かべる。
「いいや。もしかしたら、この世界にはいないかもしれないし、そんな事はいいよ。ただ――大貫 悟に出会ったら『全く、余計なことをしてくれたものだ』と、高菜が言っていた、と伝えてくれないか?」
「分かりました、必ずお伝えします」
「大貫 悟さんですね?分かりました」
霞と明石は頷いた。
「明石、君にも忠告しておくけど、過去から現在・未来を変えるのは不可能だよ。外部からの異物が侵入した時点で、世界は平行世界化する、と私は考える。
「やっぱりですか。あっちの私も、同じことを考えていたんですね?」
明石は、苦笑いを浮かべながら答える。
「やっぱり、この世界はリセットもやり直しも出来ない世界なんだ。残酷だけどね」
『………』
沈黙する二人に、直哉は笑いながら、
「まあ、全ては大貫 悟……いや、大垣 守と言うやつのせいさ。やつが、ディメンショントラベルなんてしなかったら、私は呑気に副社長でもやって気楽に暮らせたのになぁ。この世界にはジレーネはいるのかな…?それとも、深海棲艦そのものがジレーネなのか?」
「……はい?」
ぼやく直哉に、霞が首を傾げると「こっちの話さ」と言って、話を打ち切った。
「さて。私達は、ホットプレートの準備をしようか?」
『はい』
直哉の言葉に、二人も立ち上がった。
ルビィが食堂にやって来た時には、買い物部隊も戻って来て、ワイワイと準備を始めていた。
それに気づいた潮が、ルビィに声を掛ける。
「ルビィちゃん、今までどこにいたんですか?今は高菜提督の提案で、皆で焼き肉をやろう、と言うことになりまして、今皆で準備しているところなんです」
そこに、厨房から出て来た直哉もやって来た。
「お、ルビィちゃんやっと来たね?本当は、外でバーベキュー!と思ったんだけど、グリルがないってことで断念したんだが、ホットプレートがあったから焼き肉にしたんだけど…勝手にこんなにやって、ダメだったかな?」
その問い掛けに、ルビィは首を振って、
「そんなことないですよ。寧ろありがたいです」
と答えるのを、笑みを浮かべて、
「ルビィちゃんなら、そう言ってくれると思ったよ。いきなりで悪いんだけど、間宮さんがお肉切ってるから、手伝いに行ってくれないかな?」
「もちろん」と言いながら、厨房へ入って行ったルビィを見送る直哉。
――――――――
「それでは皆さん。手を合わせてください」
ルビィの号令に、全員が手を合わせて、
『いただきます!』
総勢12人と言う、普段の倍ほどの人数での食事に、食堂はいつも以上の活気で溢れていた。
「霞ちゃん、そのお肉取ってくださいなのです」
「はいはい、ちょっと待って」
秘書艦同士、早速意気投合している。お互いの肉を取り合って話が弾んでいる。
その隣では、足柄と薄雲がお酒を片手に語り合っている。
「え?あの距離からのスナイプは余裕なの!?」
「はい、余裕です。ブイ」
無表情で、Vサインをしながら語る薄雲。
DSタイラントレギレクス戦の話をすると、浦の星鎮守府の面々は目を白黒させる。
もっと遠距離でも狙撃できると語ると、足柄は更に愕然となる。
潮が、卯月のコップにジュースを注いでいる。
「卯月ちゃん、ジュース要りますか?」
「欲しいぴょん!ありがと、潮」
そして、響に話しかける子日に、マイペースな響。
「響ちゃんはジュース飲まない?」
「うん、私はいいかな。ありがとう、子日」
皆、今日初めて会ったとは思えないほど仲良くなっていた。そんな中、直哉の目に外へ出て行くルビィが映ったので、気になって外へと出てみると、ルビィが星空を見上げていた。
「ルビィちゃん」
直哉が声を掛けると、驚いた様子で、
「ピギッ!」
と声を出して振り向いた。まだ男性は苦手な様子である。
「高菜提督、どうしたんですか?」
「いや、ルビィちゃんが外へ出ていくのが見えたから気になってね。よく見ているのかい?星空」
直哉も星を見上げながら問い掛けると、再び星を見上げるルビィ。
「いや、よくって訳ではないですけど、たまに気持ちを整理したい時とかは、見に来ますよ?」
その言葉を聞いて、直哉は少し苦笑いを浮かべた。
「さっきは、少し言い過ぎてしまったかな?」
その直哉の気遣いに、ルビィは首を横に振った。
「高菜提督に言われて、ルビィのいけないところが判ったから良いんです。提督として、ルビィにはまだまだ解らないことだらけで、それでも霞ちゃん達、皆が無事に帰って来れるように頑張って行きたいですから」
直哉は優しい顔つきになって、
「ある女の子の話をしよう。女の子の名前は、笹野 愛と言う子なんだけどね。中学生で提督になったんだ。その子も艦娘のことを大事に思って、もっといい作戦がないかと、学校がある日でも夜遅くまで考えているんだよ。愛ちゃんとルビィちゃん、提督としてタイプは全く違うけれど「艦娘の為に」と言う考え方は、同じなのかもしれないね?」
直哉は、やはり成長したこの二人の少女が、提督と参謀として手を組んだら勝てないだろうな、と思いながら語ると、
「笹野 愛ちゃんか…一度でいいから会ってみたいなぁ」
そう呟いた。
それに直哉は思い出したように、
「因みに言ってなかったけど、愛ちゃんには子供がいるからね?」
と余計な発言をすると、ルビィの顔は唖然となっていた。
「え…こ、子供って…え?中学生…ですよね?」
「うん、そうだよ。詳しく話すと長くなるんだけどねぇ。聞きたい?」
何ともいえない空気が流れていると、その空気をぶち壊すように霞がやって来た。
「あ、ルビィ!こんなところにいたのね?今、潮がジュースと間違えてお酒を飲んじゃって暴走中なのよ。ほら、止めに行くわよ?」
「え、待って!愛ちゃんのこと、高菜提督から詳しく聞きたかった〜!」
ルビィが、霞に引き摺られるように食堂に戻って行くと、直哉だけが残された。
「愛ちゃん、元気にしてるかな?」
満天の星空を見上げながら、そう呟いた。
ルビィと入れ替わるように、電がやって来た。
片手にはブランデーの瓶、もう片手にはグラスを二つ持っている。
「こんな所にいたんですか?ブランデーを持って来たのですよ」
「ああ、ありがとう」
埠頭に腰掛けると、電がそっと横に腰掛ける。
「あっちは、賑やかになって来たのですよ」
「らしいね、潮が暴走してるって?」
「なのです」
電が、グラスにブランデーを注いで、そっと渡す。
直哉が受け取ると、自分の分もブランデーを注いでから、乾杯をする。
「直哉、一つ提案があるのです」
「何だい?」
「子日を、ルビィ艦隊に預けてみたいのです」
「ふむ……」
ブランデーに口を付けながら電に問うと、
「子日にも、そろそろ戦術眼を付けて欲しい、と思っていたのです」
「だね」
「直哉は、電がこの提案を持って来ることは予想の範囲内だった、と言うことですか?」
「そうだね。電なら、きっとこの提案をすると思っていたよ。80点」
「残り20点は?」
「そうだねぇ?演習の時に言ってもらえれば、あんな酷い演習にならなかったかな?ルビィちゃんも、あそこまで嫌な思いにはならなかっただろうし」
「直哉は手厳しいのです」
直哉の言葉に、困ったように笑いながらブランデーを飲む電に、直哉は肩を竦めた。
「いやあ、これでも皆に優しくしているつもりなんだけどなぁ?」
「そうですね。直哉は、いつも皆の為を思っているのです。ルビィちゃんにも、何かいい助言はできたのですか?」
「そうだね、愛ちゃんのことを話したよ。もう一人の天才の話は、流石にやめておいたよ。きっとルビィちゃんは、自信をなくすだろうからね?」
その言葉にふふっと笑う電。
「なるほどなのです。夏海ちゃんは、紛れもない常勝の天才なのです」
「そういうことだね」
二人は、事態の収拾ができずに卯月が呼びに来るまで、星空を見上げながら静かにブランデーを飲んでいた。
「直哉、電、潮の暴走が止まらないぴょん!子日まで暴走し始めたぴょん!」
やって来た卯月に、二人顔を見合わせる。
「やれやれ、戻ろうか?電」
「なのです」
「早く来るぴょん!」
卯月に引き摺られるように、食堂に戻って行く二人だった。
――――――――
その頃、直哉達の世界の岩沼沖では……
徹底した絨毯爆撃で、漸く深海棲艦の湧いて出るゲートを破壊していた。
「何だったんだ、これは……?」
「判りませんな……」
「どうせ、明石の作ったブツでしょう」
指揮艦に乗船している眞一郎と桐山一佐、それに奈々海が破壊し尽くしたゲートの残骸を調査していた。
「ああああっ!!!」
その時、遠くから絶叫が聞こえた。
明石と夕張が、硫黄島からやって来たのだ。
「こ、壊しちゃったんですか!?」
明石が、真っ青な顔をしている。
「また貴官か。今度は何をやらかしたんだね?」
眞一郎が憤慨して問い詰めようとした時、明石が真っ青な顔のまま言った。
「別世界に通じるゲートで……吸い込まれた高菜准将補達が戻って来れなくなってしまいます……」
『えっ?』
宮城艦隊の面々は、取り返しの付かないことをしてしまった、と絶句していた。
「と、取り敢えず、高菜准将補の行方不明は内密に…………」
青い顔の明石同様、顔面蒼白の三提督と艦娘達はコクリと頷いた。