宮戸島の提督と仲間達のお気楽日記   作:SAMICO

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再戦―Side:N―

「いやあ、一時はどうなるかと思ったよ」

 

直哉は、苦笑いをしながら声を掛ける。

てくてく歩いてくる直哉に、愛とルビィは二人で頷き合った。

 

「高菜先生」

「高菜提督」

 

二人の少女は心に決めていた。

目の前の相手に一矢報いると。

 

『演習、しましょう』

 

 

 

――――――――

数時間後、入渠を終えて響の推進装置を再取り付けしたあと、

沖合で向かい合う、二つの艦隊。

 

一つは薄雲を旗艦とした、電、卯月、子日の宮戸島鎮守府艦隊。

指揮を執るのは、もちろん高菜直哉准将補。

 

もう一つは、霞を旗艦とした足柄、響、潮、それに本人の熱烈な希望により参戦した真愛の、浦の星・土佐連合艦隊。

指揮を執るのは笹野 愛で、参謀長を務めるのは黒澤ルビィ。

 

『ねえねえ、ママ!』

 

無線機から、オープン回線(チャンネル)で真愛の声が元気良く聞こえて来た。

 

直哉は、その無線を聞いて苦笑いを浮かべていた。

その直後に聞こえたのは、直哉も信じられない言葉だった。

 

『真愛、本気出していいよね?』

 

その直後だった。真愛から、禍々しいオーラが発せられて姿が変わったのは……

見た目中学生くらいの少女で、真紅の瞳……そして尖った角、言うなれば駆逐新棲鬼(くちくしんせいき)

 

『それじゃあ、位置に付いて。用意、はじめ!』

審判役のビスマルクの号令で、真愛は3機の真紅のたこ焼き艦戦を繰り出して来る。

それと同時に、真愛は瞬時に加速して突っ込んで行く。

 

「電、前に出ろ!」

『分かっているのです!』

 

牽制射撃を加えながら、電は一気に前へと躍り出る。

たこ焼き艦載機RC(レッドカスタム)のオールレンジ攻撃と、真愛自身の小口径主砲の連射を躱しながらも、二人は距離を詰める。

バチィン!

 

二人は、艦娘にあるまじき体当たりを加える。

その高速度での衝撃は二人を吹き飛ばし、二人共後方に水面を跳ねるように転がって立ち上がる。

 

『このクソガキ!叩きのめしてやるのです』

 

電は、完全に頭に血が昇っていた。

()()()()()()()()()()に吹き飛ばされたことが、『最強の駆逐艦』としての自信に傷を付けていた。

電は、一気に距離を詰めると魚雷をばら撒いて行く。

だが、空中のたこ焼き型艦載機RCが邪魔で、思うように攻撃ができない。

 

『子日が援護していい!?』

「だめだ!先手を取られた!この挑発戦法は愛ちゃんの策だな!?いや、ルビィちゃんに電の短気さを見抜かれていたのかもしれない」

 

子日が独断で援護しに行こうとするのを、怒鳴りながら止める直哉。

 

「ちっ……チート()にはチート(真愛)をぶつけるのか……こうなったら、電と真愛は脱落扱いで放っておくしかない」

直哉は、前回とは違う意味で舌打ちをしていた。

 

その直後だった。卯月が異変を感じていた。

 

『子日、拙いぴょん!対空電探に反応!ロケット弾だぴょん!』

『わかった!子日が撃ち落とすよぉ!』

 

そう。技術オタクの明石謹製の、重巡搭載可能の艦対艦ロケット・ランチャーWG42改が、足柄から発射されたのだ。

上空から襲い掛かるミサイルの群れを、子日が自分の判断で撃ち落としに掛かる。

 

その時点で、直哉は高速艦艇の手駒を一隻失ったのだ。

 

「薄雲、アイキャンフライ砲(80㎝三連装砲)をパージしろ!」

『分かっています。霞と潮と響を、卯月と共に相手します。クラスチェンジ、デストロイヤー』

 

――――――――

 

薄雲は、アイキャンフライ砲をパージすると、腰に身に着けていた装備カードをチェンジャーに挿し込んだ。

ホログラフと共に駆逐艦装備に変更すると、接近する霞達に向かって前進する薄雲と卯月。

 

「百戦錬磨の宮戸島艦隊を」

「舐めないでもらいたいものです」

 

薄雲と卯月は頷き合うと、ターゲットを潮に絞っていた。

 

『ふぇっ!?』

 

右に位置していた潮に、ピンポイント雷撃を叩き込むと、オープン回線で響き渡る悲鳴と共に、潮は撃沈扱いで陸地に戻されていた。

 

「これで……」

『私達を舐めないで……!』

 

霞の通信で、薄雲は自らの失策を悟った。

 

『拙い!下がれ!潮は囮だ!!』

 

直哉が、必死に通信を送って来る。

そう。薄雲達も直哉も、()()が残っていた。

クロスファイアポイントに誘い込まれたのは、薄雲達の方だった。

 

「薄雲は下がるぴょん!」

 

薄雲を必死に押し退けると、自らクロスファイアポイントに踏み込む卯月。

砲撃と雷撃の集中砲火を浴び、撃沈扱いで陸地に戻されて行く。

 

残るは、ロケット弾を処理し終えた対空の達人・子日と、冷静な薄雲の二人である。

 

 

――――――――

「これは……やられたのです」

 

戦場から逸脱した電は、初めて相手の真愛の電との相打ち戦法を悟った。

お互い最大火力をぶつけ合いながらも、高速度で躱し合って行く。

真愛は、電の砲雷撃を自慢のスピードで振り切って、牽制攻撃を加えて行く。

電は、真愛のたこ焼き型艦載機RCの機関砲を躱しつつ、真愛の進行方向に魚雷を放って行く。

 

それでも、島風を超える速度の真愛には追い付かない。

 

「まだ足りないのですか……」

 

両者共、最初の体当たりで中破状態になっている。当然真愛の甲板は損傷しており、着艦不可能だ。

暫く戦っていると、たこ焼き型艦載機は燃料切れで失速して行く。

漸く自身の枷が外れたと思い、一気に距離を詰める電。

それに気づいた真愛は、にぃっと笑った。

 

「えっ……?」

「電おねえちゃん、つーかまえた」

 

そう。たこ焼き型艦載機RCが、一直線に電に向かって突っ込んで来たのだ。

所謂カミカゼアタックである。

ドカンドカンと電に体当りして、次々と陸地で目を回しているたこ焼き型艦載機RCトリオ。

たんこぶを作っている、たこ焼き型艦載機RCトリオを潮が介抱しているのを電が目にした直後、自らの足が止まっていることに気づいた。

 

「あたーっく!」

 

真愛まで体当たりをして来たのだ。

 

「うわあああああっ!!!!」

 

どっかーん!

 

ものすごい衝撃音と共に、二人共お目々ぐるぐるで陸地に戻されていた。

真愛も、霊子を使い切って子供モードに戻っている。

 

――――――――

「やっぱり、そうなったか…………」

 

直哉は苦々しい顔をしながら、戦況を冷静に分析していた。

相手は足柄に霞、それに響である。

 

緻密に後退をしながら、何とか響をクロスファイアポイントに誘い込んで撃沈扱いにしたものの、状況の不利は拭えなかった。

何より、薄雲には一発逆転の切り札・アイキャンフライ砲がない。

 

その膠着状態のまま、日が暮れようとしていた。

 

直哉は日が暮れたところで、頭をポリポリと掻いて大きな溜め息を吐いた。

そして、愛とルビィに通信を送った。

 

「参ったよ。完全に私の慢心だ。両方とも合格点だよ」

『やったぁ!!』

 

二人の少女の喜ぶ声を聞きながら、直哉はふふっと笑みを浮かべていた。

 

 

――――――――

 

「それじゃあ、作戦の成功と!」

「ルビィ達の演習の勝利に!」

 

愛とルビィが手を取りながらグラスを掲げると

 

「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」

 

ワイワイと賑やかにすき焼きパーティが始まる中、直哉は皆に気付かれないようにささっと外に出ていた。

それに気づいたダイヤも一緒に……

 

 

庁舎の外の埠頭では、口髭を蓄え、軍服に大将の階級章を着けた男が佇んでいた。

その隣には小柄な女性が控えていた。彼女も軍服に准将の階級章を着けていた。

 

「やはりあなたでしたか。大貫 悟大将閣下」

 

直哉が声を掛けると、振り向いた大貫 悟は笑みを浮かべた。

ダイヤも、直感で謎の電話の主の声がこの男だと悟っていた。

 

「高菜君か。久しぶり……いや。初めまして、と言っておこうか」

「あの電話はあなたでしたのね?」

 

ダイヤも、大貫の言葉に確信したように口を開いた。

 

「君の世界の大貫 悟がどうなったかは判らないが、()()()()にも大貫 悟や高梨 湊も存在している。紹介しよう、支援砲撃は助かっただろう?攻撃型潜水艦『海渡』こと高梨 湊准将だ」

 

大貫の言葉に、小柄な女性はふふっと微笑んで笑って見せた。

 

「あのトマホークは君の仕業だったのか……助かったよ」

「はい、お役に立てて光栄です」

 

直哉の言葉に、湊は柔らかな笑みを見せた。

 

「ちょっと待ってくださいませ。(わたくし)達の軍には『大貫 悟』なる人物がいるなんて情報は……」

 

ダイヤも、直哉の依頼で大本営に問い合わせていたのだ。

大本営からは『大貫 悟』なる人物は軍のデータベースにない、との回答を得ていたのだ。

 

「うむ、我々は裏の提督だからな。深海棲艦との戦争を影で『見守る』立場だ」

 

大貫の言葉にダイヤは首を傾げるだけだったが、直哉は分かっていた。

 

「ジレーネ……の危険性ですか?」

「うむ。この世界にもジレーネが存在する確証はないが、()()()()()()での私の願いは、人類の平穏だ」

「……私の願いも同じです」

 

大貫に続いて、湊も口を開いた。

 

「ダイヤさん、私達は知らなかったふりをするほうが良さそうだ」

「そのようですわ。今宵の会見はなかったことに」

 

ダイヤをちらりと見てから言った直哉の言葉に、ダイヤも直哉をちらりと見て二人の方を見た。

その一瞬の裡に、ピューッと風が吹き、大貫と湊の姿は掻き消えていた。

 

「……逃げ足だけは疾いお方だ」

「ですわね」

 

直哉は苦笑いを浮かべながら、月夜を見上げていた。

 

「それでは(わたくし)は宴席に戻りますわ」

 

そう言って庁舎に戻って行くダイヤと入れ替わりにやって来た電が、月を見上げている直哉に声を掛けた。

 

「導き手の仕事も一段落なのです」

「そうだね」

 

傍にやって来た電の頭を撫でると、電はくすぐったそうにする。

 

「あとは圭一達の進路だ。彼等を導いたら、私は……」

「退役したいのですか?」

 

電は不安そうに問いかけるが、直哉は首を振った。

 

「いいや。漸く肩の荷が下りた。抑々私は自衛官になりたくてなった訳だし、足立さんも七原さんも、定年まであと1年と少しだ。私は――」

 

そう言うと直哉は一呼吸置いて、

 

「結局は大貫 悟の策略だったのさ。兄が財界を、姉達が政界を握った。私は軍事の、少なくとも大本営幕僚総監を託された。そう思っていたのさ」

「大本営幕僚総監……」

「そう。そして、大貫 悟の正体は……私は、知らなくていいことだ、と思っている」

「…………」

「結局の所、このテレポート事件も何かの導きだった、と思っているよ」

「まだまだ『不敗の魔術師(マジシャン)』も修行不足なのです」

 

電がふふっと笑うと、直哉も笑みを浮かべた。

 

 

 

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