二月中旬の学校の放課後、望が成原先生の補習を受けていた。
まずは、持ち帰ったテスト問題の改めての自己採点から始まった。
「うーん。成原としては、合格圏内だと思っていたんだけどな。はー、悲しいなあ」
「だよね」
「まあ、入試と言うのは
「せんせぇ、あんま追い詰めないでよぉ」
望は、机に突っ伏すと泣きそうな声になる。
「ほらほら、顔を上げろ。時間がないぞ。成原は今夜、予定が入っているんだ」
「もしかして、直人先輩とお約束?」
成原先生の言葉に、ばっと顔を上げて笑顔になる望。
「そそ。だから、早く顔を上げて課題を熟すんだよ」
「はぁい」
一生懸命勉強をしている望を見ながら、成原先生はこれからのデートに思いを馳せていた。
今日は花の金曜日、お泊りデートの予定なのだ。
「そう言えば、初デートはどんな感じだったの?」
「初デート…………ああ、付き合って初めてのデートのことか。成原はダーツが好きで、ダーツバーに行ったよ。直人にもちゃんとダーツを買ってあげてね、直人も誕生日で二十歳になったってことで、大手を振って飲酒ができるようになったからね。はー、楽しかったよ」
「ほうほう、ダーツバーっておしゃれだね。望達はネットカフェのダーツしか行ったことないから」
「そりゃそうだろう。横澤達は未成年だからね」
望の言葉にふっと笑うと、望は課題を熟しながら、
「その後は?」
「ん?言わなくてもご想像のとおりだよ。成原は朝帰りで、シャワーを浴びに帰って出勤だよ」
「だよねー」
「はー、成原は横沢にお礼をしたいと思っているんだ。だからこうやって毎日補習をしている訳だから、横澤もソレに応えて公立高校入試をパスしてもらいたいね」
「はぁい」
元気よく応える望に、再び笑みを零しながら、その様子を見守っている成原先生だった。
――――――――
直哉達が退院して帰って来る頃には、望の学力も向上していた。
「ふむふむ、70点なのです」
艦娘として引退した電は、当面は「宮戸島鎮守府司令官副官・三等
電の希望により、陸上自衛隊を選択したのだった。
二人お揃いの陸自制服を身に纏った、直哉と電。
電が採点すると、直哉もそれを受け取り見ている。
余談だが、熊崎提督の妻・不知火とは同じ沈みかけた元艦娘同士、連絡を取り合っているようだ。
「ふむ、これなら合格圏内だね」
「でしょでしょ!頑張ったっしょ!」
直哉の言葉に嬉しそうな顔をしている望に、秘書艦の薄雲が冷静に、
「油断は禁物です。試験とは相対的なもので、公立高校は定員を超えています」
と言うと、前回の女子校――かなりの高倍率で皆滑り止め受験をした結果だが――の敗北を思い出して、望はしょんぼりする。
「それが心配なんだよね……」
「まあ、やるだけやって後悔のないようにね」
「なのです」
ぽんと電が頭を撫でると、望は笑顔になる。
「おーっす!」
「こんにちは」
真っ先に、圭一と史絵がやって来る。
「望センパイ、ちゃんと勉強やってっか?」
「成原先生にも教わってるから大丈夫でしょう」
「あの成原センセな。変わりもんだけど、頭いいんだろ?」
続いてやって来るのは、寛太と優花である。
「こんにちはー!」
「こんにちはぁ~?」
そして、慎と奈緒子と櫻子もやって来る。
「うっす」
「のんちゃん勉強してる?」
「だね」
一気に賑やかになる、宮戸島鎮守府。
「こんなに大勢でワイワイやるのも、後一月と少しだねえ。私達と圭一くんと史絵ちゃんは東京に行って、代わりに愛ちゃんと健太君達が戻って来る訳だ。そろそろ引っ越しの準備もしないとねぇ」
感慨深そうに直哉が言うと、皆も頷いた。
――――――――
三月に入って、望の受験当日である。
受験するのは、ギャルズの三人である。
「三人で受かろうね!」
「それな」
「うん!」
皆でお揃いのお守りを手に、三人で頷く。
慎や圭一、史絵、それに寛太と優花もお見送りに集まっている。
もちろん講師陣を代表して、直哉と倉田・笹野両医師も集まっている。
「よっしゃ!センパイ達頑張って来るんだぜ!」
「応援してます!」
圭一と史絵が、真っ先にエールを送る。
「ありがと!」
「頑張るね!」
「うん、頑張って来る」
三人も笑顔でそれに応える。望だけは緊張しているが……
「のんちゃん先輩、りらーっくす」
「そうだよ、リラックスして!」
優花が背後に回って望の肩を揉むと、寛太も笑顔でエールを送る。
「ひゃ!リラックス……してみるよぉ」
そんな望の様子に、笑いながら直哉が続く。
「いい言葉を教えてあげよう。『我も人なり、彼も人なり』条件は一緒だ。回答マスだけは全部埋めるんだよ?」
「はぁい」
元気良く応える望の頭を、優しく撫でる直哉。
「私達にできることはしました。後は試験のことだけ考えてください」
「そうね、当たって砕けるつもりで気楽にやんなさい」
倉田先生と笹野先生も駆け付けてエールを送る。
「はぁい!ありがとうございます」
望が笑顔を浮かべて応えると、二人の医師は満足そうに頷いた。
「それじゃあ、悔いのないようにやってこいよ?」
慎が最後に望、奈緒子、櫻子を抱擁するとギュッと抱き返す。
こうして三人は、試験会場へと向かって行った。
そして、三人仲良く合格を勝ち取った。
――――――――
「それじゃあ、受験組の全員合格を祝って……」
『カンパーイ!』
試験合格通知を受け取った夜、皆で祝勝会という名の夕食会が開催された。
そこには、成原先生も招待した。
「はー、成原は心配してたんだよ。でもこれで、全員笑って春を迎えられることが決まって良かったよ」
進路担当の重荷を降ろした成原先生は、望に注がれたビールを飲みながらそう言うと、
「あたし史上一番頑張ったよ!」
と、胸を張る。
「でも、受験合格はスタートラインだからね。頑張りなさい」
との成原先生の言葉に、強く頷いた。
「先生、私達も褒めて褒めて」
「うん」
残りのギャルズ達も主張して来るので、成原先生は割と雑に、
「二人も頑張ったと成原は思ってるよ、偉い偉い」
と、褒めてくれる。
史絵と圭一も、慎達に囲まれてジュースを飲んで上機嫌である。
史絵の小説が、更に重版が決まり、プロ作家として結果を出す、と言うことも果たしたという知らせも、二人を上機嫌にさせた。
夏向先生の一番弟子、だと言う触れ込みも付いて、二作目の連載も人気のベストセラーとなっている。
そんな様子を見ながら直哉と電、それに嫁艦達はこうやってワイワイやるのも、最後だなと実感していた。
家の片付けは大体終わり、そこには愛達が入居することが決まっていた。
笹野家では愛に健太に燿子、リーヴェに真愛、
直哉がそのまま名義変更の手続を取ってくれたのだ。
敷金はそのままで良いよ、と言って。
あとは、引越し業者が荷物を東京に持って行けば、片付けは完了である。
「ところで、俺達は高菜先生の家に下宿するんすけど、司令官達はどうするんすか?」
ふと圭一が、直哉達に訊くと直哉は肩を竦めた。
「それこそ、コネクションさ。有明の三友地所のレジデンスを借りることにしたよ。
「へぇ、そうなんですね……」
「直哉は毎日、防衛省まで電車通勤なのですよ」
「三高ワンダーランドも近いし、良いところだったぴょん」
「部屋も広くて使い易かったです」
「そうだね!」
序でに、と言うことで、嫁艦達は既に下見を済ませており、電と嫁艦の総意でここに引っ越すことを決めたのだ。
「おそらく、あっちの皆も引っ越しの準備を進めているだろうね。圭一達の引っ越しに合わせて、私達も宮戸島を離れるよ。長い間いたからね、名残惜しいよ」
「そうなのです」
「寂しくなるぴょん……」
「春は別れの季節と言いますが、出会いの季節でもあります」
「そうだね」
直哉達が宮戸島を離れるまで、後もう少しだった。
次回おしまい