ブレイクブレイド×ガンダムseed destiny   作:くろねこ7

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迫る決断の時

「報告ッ!! ボルキュス率いるアテネス軍が我がビノンテン前門に展開! 現在、小隊が正門で応戦しておりますが破られるのも時間の問題とのこと!」

 

偵察兵からの報告にその場の空気が凍りついたかのようだった。

 

いや、みなわかっていたはずだった。このままアテネス帝国との戦いが続けば、領土的にも物量的にも劣るクリシュナ王国に勝てる余地などなかったことなど。しかし、認めたくなかった。単にそれはライガットの操るデルフィングの活躍もあった。もしかしたらと、誰もが願わずにはいられなかったのだ。

ナルヴィは思わず歯噛みをする。なんて甘かったのだと。

バルトは伝えられたその報告をずっと目を閉じたまま聞いていた。

 

状況は最悪だった。先の交戦で3将軍の一角であるトゥル将軍は名誉の戦死を遂げ、補給要路である西部戦線はアテネス帝国の手に落ちている。このまま行けばクリシュナ王国の物資は4ヶ月でそこをつき、自分たちのゴゥレムの武器を削ってでも弾薬を作らなくてはいけない。

そして頼みの綱のデルフィングも渓谷に落下した影響で戦闘に出せる状態ではない。ライガットがシギュンに頼み込んではいるが、出せるとしても付け焼き刃の装甲にしかならないことは明白だった。

 

そしてそんな状況の中、シン・アスカは決断を迫られていた。自分がこの世界に漂流してきてから数ヶ月。拾ってもらったライガットと共に都に出てきた。クリシュナ王国の国王であるホズルの友人であるライガットのそのさらに友人という微妙な立ち位置にもかかわらず、こうして暮らせていけるのは、このクリシュナ王国の人たちの恩恵に他ならない。

できることなら今すぐにでもデスティニーを持ち出し、アテネス帝国を退けたかった。この世界は魔力で石英に命令を出し、それで戦闘を行う。未知の技術をみたときはさすがに驚いたが、それでも技術自体は高くなかったから、デスティニーが一機いれば、十分以上に戦況は打開できることはわかっていた。

しかし、ここでデスティニーを持ち出すということは、また新たな火種を生み出すことだということも、シンはわかっていたのだ。

この世界にとってデスティニーに使われている技術はまさしく未知のものだった。まずこの世界にはビームという概念が存在しない。そして、同時に燃料という概念も。

かつて一度シギュンに頼み込んでゴゥレムの内部を見せてもらったことがある。そこにはやはりシンの目には見慣れないものばかりだった。

試しに動かしてみようと思い、シギュンに教わりながら手順通りに操作をしたが、やはり動かなかった。どうやらこの世界でいう、アン・ソーサラーと呼ばれる存在らしく、ライガットと同じということらしい。

ちなみにそのライガットが搭乗するデルフィングにものってみたがこちらも動かなかった。

 

話をもどすと、デスティニーが戦場に出ることにより、よけい戦況が混乱するのではないか、ということをシンは危惧しているのだ。

もう昔のようにただ感情の赴くまま力を振るうことはやめたのだ。行き過ぎた力は混乱を助長させる。そんなことを、シンは嫌というほど目の当たりにしてきたのだから。

 

ゆえにシンは葛藤する。いままで世話になってきたクリシュナ王国への恩か、デスティニーをこの世界に晒すか。選択次第で、この世界の行く末を決めると言っても過言ではないのだ。

 

「頼むシギュン。俺はやれる。ナルヴィの作戦でいこう」

 

シンが自分自身と戦っているとき、会議室では作戦が練られていた。

ライガットがシギュンをじっと見据えているのが目に入った。どうやらシギュンにデルフィングの強化を頼み込んでるらしい。

だが、シギュンはその首を縦に振ろうとはしない。それもそうだ。いま彼らがやろうとしている作戦は、実行部隊の生存確率が極端に低い、いわゆる決死の作戦だった。

士官学校時代からの古い付き合いであるライガットを、ホズルとシギュンがそんな作戦に参加させたくないのは当然のことだった。

 

「…わかった。本当は貴方にこんなことをしてほしくない。だけど、仕事はする。だから…」

 

しかし、シギュンはこの作戦を受け入れるしかないのだ。技術官として、なによりもクリシュナ王国の王妃として。

隣ではホズルが苦虫を潰したような顔でうつむいていた。彼にも、国王としての責と、ライガットの親友としての立場との板挟みになっているのだろう。

 

「では決定だな。各自、ぬかるなよ」

 

バルドがそういって会議を終わらせると、みな散り散りに部屋からでていく。シギュン、ナルヴィ、バルドらも自らの責務を成し遂げるために、それぞれの仕事場へと向かっていった。

 

会議室に残されたのはライガット、シン、ホズルの三名のみだった。部外者であったシンもこの王宮で暮らしていくうちに、この三人の中では欠かせない存在となっていた。

 

「なぁライガット。本当に大丈夫なのか? おれもすこしは知識があるから言えるけど、デルフィングは戦える状態じゃなかったぞ?」

 

シンは思わずそんなことを口に出してしまい、後悔した。そんなことはライガットもわかっているはずなのに。わかっていてもそれしか出来ないから仕方なくするだけなのに。

 

しかし、そんなシンの後悔とは真逆に、ライガットはその顔に黒い笑みをはりつかせていた。

 

「あぁもちろんだ。これで俺はボルキュスの奴を殺せる。やっとだ…やっと…」

 

その笑みにシンは額然とする。この顔には見覚えがある。この顔は、かつて自分がステラを失ったときにしていた顔と同じだ。復讐することにとりつかれた顔。普段のライガットをしっているものにとって、ライガットがそんな顔をするということは異常以外のなにものでもなかった。

 

「死に急ぐことだけはやめろライガット。お前の気持ちもわかる。だがお前まで死んでしまっては…」

 

ホズルはそこで声をつまらせる。ライガットの顔を前にして、その先をいう事は無意味なことだと悟ったからだ。

 

「わかってるよ、俺だって、まだ死にたいわけじゃあない。任せとけって、俺が、この国を救ってやるからよ」

 

そういったライガットの姿は、数多くの死線をくぐり抜けてきたシンにとって、ひどく危なく、脆いものにしか見えなかった。

 

 

2

 

それから2週間とすこしがたって、ボルキュスの率いるアテネス帝国軍は、ビノンテンの最終関門、すなわちここを突破すればビノンテン中央部へ突入できるところまで迫っていた。

戦況はややアテネス帝国に傾いているというところだった。西部戦線を、クリシュナ王国の将軍の手によって奪い返し、ボルキュスたちの補給要路をたったことで物資の供給を途絶えさせることが出来たと同時に、兵たちの士気を回復させることができたのも大きい。

しかし、未だにクリシュナ王国は危機の状況である。ここでアテネス帝国に王都への侵入を許してしまえば、そのままなし崩し的に占領されるのは確実なのだから。

 

そして未だ心を決めることが出来ないシンはホズルとともに会議室で話をしていた。

 

「ライガットは?」

 

会議室に入ったシンがホズルち話しかける。いつもならここか自分の部屋にいるライガットだが、今回はここにはいない様子だった。部屋にはいなかったからここにいるかとふんでいたのだが…。

 

「あぁ、あいつならもう作戦行動に入ったよ。今回は大掛かりだからな。作戦開始の何日も前から準備をしなきゃいけない」

 

そう話してくれたホズルの表情は浮かないものだった。数多くのこなさなければいけない責務に追われているのもそうなのだろうが、親友であるライガットに作戦を託すしかできないという不甲斐なさと申し訳なさにおわれているかのようにみえた。

 

「そうか、もうそんな時期か…」

 

シンはそういうと、窓から見えるクリシュナ王国の首都を一望する。初めてここにきたときのことが思い返される。この世界にたどり着き、右も左も分からないままライガットに着いてきた。何も知らないシンをここの人たちは、自分たちが戦争中だというのに快く受け入れてくれた。

 

人間たちが持つ魔力という概念を何も知らないシンに一から教えてくれたシギュン。忙しいのにもかかわらず自分の面倒をみてくれたホズル。ともに孤児院に行き、この世界の有様とたくましさを教えてくれたナルヴィ。形は怖いが面倒見のいいバルド。シンが戦場にでないにも関わらず、男だからという理由だけで稽古をつけてきたサクラ大隊長。

ここで触れ合ってきた人たちの顔が浮かんでは消えていく。そして、そのすべてを振り返ったあと、シンは強く頷いた。

 

「なぁホズル。もし俺がクリシュナ王国を救えるだけの力があるとしたら、お前は俺を頼るか?」

 

シンのその言葉にホズルは呆気にとられる。突然、今まで何もできなかった少年が、自分の国を救うというのだからそれも無理はないだろう。

呆気にとられた理由はそれだけではなかった。なにより驚いたのは、今まで一緒にいてただの少年だと思っていた人間が、急にどこか力強く感じたのだ。自分よりも年下のはずの目の前の男が、どこか大きく感じてしまう。

 

「なにを、いきなり言い出すんだ…?」

その錯覚に答えを出せないままホズルは問い返す。

こんな質問は現在の状況にすれば、ふざけるなと罵られてもいいほどの馬鹿げた質問なのだ。いまは気休めが許されていい状況ではない。真に国が滅亡の危機にさらされているのだから。

 

「いいから答えてくれホズル」

 

ホズルの戸惑いをよそにシンはなおも強い眼差しをもってホズルを見据える。その力強くも揺れている目は鈍い光を放っていた。

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