ブレイクブレイド×ガンダムseed destiny 作:くろねこ7
「いいから答えてくれホズル」
そういったシンの眼は依然として鈍い光を持ちながらホズルを見つめている。そこに見られる感情は決意――そう、大切な何かを失いたくないという硬い意志。ホズルはそう思ってしまう。
ホズルはひとつの国を統べる王である。だからこそ様々な陰謀や策略に巻き込まれてきた。少なくとも、嘘をついているという雰囲気を察することができるくらいには。
そんなホズルの眼にはシンが嘘をついているようには思えない。
「本来なら、部外者のお前にこんなことを言うべきではないのだが…。いや、それを言うならここにいる時点でそうだったな」
顔の前に組んでいた手を解き、俯かせていた顔を上げホズルは立ち上がる。
「もしお前にそんな力があるというのなら。俺はどんなことをしても、お前にこの国を救ってくれと懇願するだろう。俺の頭で満足するなら、いくらでも下げる。みっともないように思えるかもしれないが、俺は一国の王だ。民を守り、導く義務がある。それがどんなに無様で情けなくても…このクリシュナで笑って暮らしている人たちが、いつまでも笑って暮らせるためならば」
そう言い切ったホズルに、もう先程までの弱々しさはなかった。もう自分が打てる術は既にやり尽くした。親友であるライガットに捨て身の策を押し付け、その手伝いをシギュンにさせた。自らの部下には死んでくれと言っても過言ではない無理をさせている。
自らの無力さを嘆いている暇はもはやないのだ。たとえそれが幻想だとしても、そこにわずかでも希望があるというのなら、私は喜んでこの身を差し出そう。無力な私にできることなら。
シンはホズルのその答えを、じっと目を閉じ、静かに聞いていた。目を閉じていてもホズルのその決意と覚悟は伝わってくる。そう、もとよりホズルに選択肢などなかったのだ。シンの提案を馬鹿げていると一蹴することも、できるわけがなかった。
(俺は、卑怯な奴だな…)
予想される結末を恐れ、自らで答えを出せず、挙句の果てにその決定を藁にもすがる思いでいるホズルに押し付け、またその責任から逃れようとしていた。自分はあの戦争からなにも学んでいないのか――――。
おもわず自己嫌悪に陥りそうな思考を強制的にシャットダウンさせる。そんなことに思考を割いている時間はない。事態は1秒毎にに悪くなっていっていると言っても過言ではないのだ。
「ありがとうホズル。俺の馬鹿げた話に付き合ってくれて。正直頭でもおかしくなったのか、とか思っただろ?」
そういって苦笑する。はっきり言って状況が状況であるから殴られても文句は言えないのだが、ホズルはそれでも一緒に笑みを浮かべた。
「いや、シンなりの励ましだろうに。そうだな、下を向いていても仕方がない。俺が今出来そうなことを無理矢理にでも探し出してやるか」
すごいやつだな、とシンは思う。戦争なんか望んじゃいないのに、こんな状況でも諦めることは決してしない。半ば押し付けられた王位を投げ出すこともなく、真正面から取り組むその姿は、何故だかシンには眩しく思えた。
「――――さてと。ホズル、一台バイクを貸してくれないか。もちろん運転手付きで。俺は運転できないから」
やることは決まった。完全に決意を固めたわけではない。だけど、やれることはやるのが自分の信条だ。決めてから後悔するのだけはしたくない。準備はしておいて損はないだろう。あと数日しかないといえばそれまでだが、逆に考えればあと数日はある。ライガット達が作戦を決行するまでの4,5日。俺に残された迷いの時間はそれまでだ、そうやってシンは自分に言い聞かせた。
2
荒野を一台のバイクが砂ぼこりを立てながら疾走していく。あたり一面の荒野。周りを見回しても生き物一匹の気配すらせず、ひっそりとサボテンが所々に生えている様子だけが目に入ってくる。
そのバイクの後部座席に揺られながらシンはそんな砂漠の様子を眺めていた。
シンがいたプラントという場所ではあまりこういう景色はない。都市部と植林が施された地域があり、砂場という物自体が珍しかった。地球に行けばこのような景色を見ることはできるのだが、わざわざ見に行こうとも思わなかった。
だが改めて見てみるとその雄大さがひと目で理解できる。地平まで続く茶一色の地面。この広さに比べれば人一人などどれほど小さな生き物なのだろうか。
シンが柄にもなくそんなことを考えていると不意にバイクが停止する。目的地についたのだ。
「さて着きましたよ。しかしいいんですか? 本当にこんなところに置き去りにして」
運転手兼案内役の男がシンの方に振り返って言う。ホズルからの勅命で二つ返事で了承してくれた男で性格は気さくなほうだ。
「あぁ、ここからは大丈夫、ありがとな」
シンがそう言うと、男は腑に落ちないといった様子で少し顔をしかめたが、すぐに頭を切り替えたのかシンに頭を下げるとバイクを反転させ、元きた道を再び走り出していった。
そのバイクが小さくなっていくのを見送ったあと。シンは目の前にある深く、巨大な谷に目を向けた。下を覗いただけで吸い込まれるような感覚さえする暗闇。今日は晴天のはずなのに、谷底は真っ暗だ。そして、だからこそシンはここに自らの武器を隠した。
そう。ここにシン・アスカと激動の時代を共に駆け抜けた機体、型式番号ZGMF-X42S、正式名称『デスティニー』が眠っているのだ。シンがこの世界に来たとき、騒ぎになってはならないとすぐさまこの機体を谷底へと封印した。
底へと続く細い脇道を下っていく。降りていくに従ってどんどん足元が暗くなっていくのがわかった。
不意に体が水平になる感じがする。どうやら谷底に着いたようだ。あたりは真っ暗で明かりがなくては自分の手すら見えないほどだった。シンはバックパックから懐中電灯を取り出すと、かつて自分がたどってきた足跡を頼りに歩き出す。さすがにこんなところに人は来ないようで、ありがたいことにその時の足跡がそっくりそのまま残っていた。
5分ほど歩くと、不意に足跡が消える。明かりを上へと向けると、そこには片膝を立て静かにそこに存在しているデスティニーの姿。久しぶりに見る相棒の姿にシンは胸に来るものを感じたが、それをぐっと奥に押し込め、素早く機体へと乗り込む。ぼやぼやしている暇はないのだ。こうしているうちにアテネスの軍が、クリシュナを占領せんと、クリシュナの領地に攻め入っているのかもしれないのだ。
シンは操縦席に座るとすかさず、完全にシャットダウンしていた各電源を手際よく起動していく。そしてキーボードを呼び出し、初期化し、無力化していた機体のデータを打ち込んでいく。
「CPC…いける。ニューラルリンケージ完了。イオン濃度正常。メタ運動野パラメータ設定。原子炉臨界。パワーフロー異常なし。全システムオールグリーン…よし、いける!」
すべての設定を完了し終えると、シンはレバーに手をかけ思いっきり前へと倒す。それと同時に足元のレバーを全力で踏み込んだ。
少しだけ力をためた後、デスティニーは飛翔する。しばし離れていた、空を飛ぶ感覚。今はそんな余韻に浸っている暇もない。いまはただ急ぐのみ。友が待つ戦場へ。ただ、自分を助けてくれた人を守るために。