今回は、リクエスト回収から第一弾【幻の新章:新天地編】のプロローグですね(笑)。
最近、シャニマスもみたいという声も多く聞いたので自分なりに導入。この後、283事務所での邂逅編とアイドル達との交流までちょっと書いて放置します。←
これは、僕の書いてる”ハチP@”という脳内ノベルゲームでのノーマルEND後のお話という設定ですね。全員の好感度が高く、かつ、誰とも√に入ってないとこの√に入って普通に346に入社します(笑)。
東京都内の一等地に燦然と立ち上る時計塔。その周りに彩り豊かに四季を感じさせる庭園に囲まれ、他所様には羨望と嫉妬を込めて“城”とすら呼ばれる芸能事務所がある。そこでは多くの伝説が生まれ、育ち、根を張っており最近では名実ともに芸能界の最大手になってから随分と久しい。かつて、自分もその一端を間近で見ていたひとりとしては感慨深さと同様になんで自分がこんな似つかわしくない場所に籍を置き―――
「比企谷さん!! すみません、昨日の案件ですが―――」
「比企谷君!! いい所に来てくれた。先日の契約が――」
「比企谷!! 見ろ、お前の予想が的中だ!! この前の作家が――」
「先輩っ!! 助けてくださいっ!!」
「フヒヒ、聞いてくれ……親友。今日の朝に、最高に弾けたフレーズが湧いてきたんだ…!!」
自分に与えられたデスクにつき朝礼を始めるどころが、玄関ホールに一歩踏み入れた瞬間に大量の人間から揉みくちゃにされるような日々を送っているのか。ホント謎。
誰も彼もが身勝手に緊急なんだか世間話なんだか良く分からない案件を鼻息荒く語り掛けてくるが、聖徳太子でもないので聞き取れる訳もない。―――あと、輝子。お前のは俺じゃなく担当の音楽プロデューサーに最初に聞かせてあげなさい。
ギャーギャー途切れる事のないその喧騒にガックリと肩を落とす俺を嘲笑うかのように豪奢な時計塔が始業の鐘を晴天に、天高く響かせる。
“346芸能プロダクション アイドル統括部門 部長補佐 比企谷 八幡”の入社以来ここ数年代わり映えのない騒がしい社畜ライフが今日も始まりを告げた。
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「ん、ここの予算だけもう少し余裕を持ったモノに変更しといたほうがいい。それと、ここのステージだとこっちのリストに載っている近隣の業者と民家への挨拶回りは欠かさずに行っといてくれ。何なら別途予算で―――っと」
「大丈夫ですか?」
「―――ああ、すまん。なんでもない。……ざっとの所はこれくらいか?」
「あ、はい。すみません。忙しいのに最終確認までして貰って…」
「コレが仕事でな。ソレに、もう少し経てばそんな事も言ってられないくらい忙しくなるから気張ってくれ」
「……これ以上ですか?」
「その想像の3倍くらいは」
朝から続く立て続けの報告と相談最後の一件に、そう言って意地悪に笑う俺にガックリと肩を落とした後輩が項垂れつつも背を向けて自分のデスクに戻って行くのを苦笑で見送りつつ、先ほどファイルを取り出した拍子に零れ落ちたボロボロの紙束を拾って何とはなしに捲ってみれば、懐かしい思い出に思わず笑いが零れた。それは、自分がこんな場違いな職場に残るきっかけになった原因で、一つの“本物”の形。
大学卒業を機に長らく続いたこの職場を後にしようとした俺がかつてバイトのアシスタントと所属していた“アイドル”達からの身勝手で、我儘で切実な思いが込められていたその紙。
それは、本来は当時の上司であった緑の悪魔が気まぐれにアイドル達にばら撒いた福利厚生の一環であった“わがままチケット”なんていう傍から聞けば笑ってしまう様な名前で、スタッフが聞いてあげる事が可能な限り我儘を聞いてあげるという無茶苦茶な物。当時はどんな無茶を言われるかと思い胃を痛くしていたのだが、意外にも誰もが後生大事にその安っぽい紙を抱えたまま使う事が少なかったのでついぞ忘れていた。――――辞める事を告げ、大学を卒業するその日までは。
人の卒業式に街すら歩くのも困難なくらい有名人が揃ったアイドルグループが怒りも露わに、泣きそうに、悔しそうに、祈るようにこぞって押し寄せ、この紙の束を俺に突きつけるその時まで、すっかり忘れていた。
書かれた内容は “辞めるな” というシンプルな一言。
あれだけ、啖呵を切ってあと腐れもなく辞められたと思えばこの様である。
人がどれだけ悩んで、迷ったかも知らずに―――そんなのを簡単に飛び越えてあいつ等は俺の芯を揺らしてくるのだ。その、揺らぎと真剣な瞳に絆された俺は遂には白旗をあげて笑顔で入社届けを持ってきた緑の悪魔と偉丈夫に苦笑と共にサインをしてしまった。
これは、その時の物だ。
それぞれに秘めていたであろう渾身の我儘には横線を引かれ、色んな筆跡で同じ一言を書き連ねるそれは依存してばかりだと思っていた自分が確かにあいつ等にも残せた絆の形なのかもしれない。そんな郷愁を思い起こして今は解散してそれぞれの道に進んでいってしまったプロジェクトのメンバーを悼みつつ、一服を挟むために席を立とうとすると部下の一人から呼び止められた。
「比企谷さん、社長から至急来るようにとの連絡が……そんな嫌そうな顔を私に向けないでくださいよ」
「………一本吸ったら行くって言っといて」
「私を殺す気ですか?」
せめてもの抵抗にジョークを挟んだのだが、本気で顔を青くする生真面目そうな女子社員に深―くため息を吐いて俺はお馴染みの喫煙所へ向けた足を渋々とこのビルの最上階に鎮座する最高権力者の元に向けたのだった。
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「お前には2年ほど出向してもらうことにした」
「………ここ最近で、そこまで怒らせるようなことしましたっけ?」
受付で特殊なキーを押さないとたどり着けないようになっている最上階のワンフロア。絨毯は絢爛でフカフカ、内装は歴史ある洋館の様に贅と歴史を存分に振るったしつらえの部屋に都内を一望できる巨大な一枚ガラスを背にこの春に見事昇進した女王“美城社長”はそんな突拍子もない事をついて早々に俺に嘯いた。
年齢も出会ってからそこそこ立っているのに変わらない美貌はいつもの様に冷たく顰められていて冗談という訳では無さそうだが、そんなハッキリ言って左遷のような辞令をいきなり突きつけられるようなポカはここ最近では思い浮かばない。そんな思いを隠しもせずに零した俺にようやくめんどくさそうに舌打ちを返してくる社長。しかし、どちらかというとこの人の場合はこっちの方がプライベートに近いので空気を和らげたと取るべきだろう。
「お前の成果は十分に聞いている。新人プロデューサーの補助、予算申請・運用の最終確認と訂正、企画の進行に必要な各所の顔つなぎ等と申し分ないし、あの時の特例入社も無駄ではなかったと言ってもいい程に有能さを示している」
「……手放しで褒められるのは気味が悪いですね」
急に気味の悪いことを言い始めた彼女に警戒心が逆立っていくのを感じつつ目を細めれば、興味もなさそうに爪を弄っていた彼女は軽く爪先についていた何かを軽く吹き飛ばすことをため息の代わりとして真っ直ぐとその強すぎる瞳をこちらに向けた。
「“有能すぎる”というのも会社という精密機械には害悪という話だ」
「平社員には少し荷が勝ちすぎる話題っす」
なんとなく話のオチが見えてきた為にとぼけるが、それすらもこの大会社の主にはお見通しらしい。むしろ、これから口に出す自分自身の言葉に苛立ちすら感じているのかソレを抑えるために小さく息を吐いて言葉を紡いでいく。
「武内、ちひろ、私、その上に他の業界人の肝いりで入ったお前は様々な障害と妨害を跳ねのけ、十分に結果を出した。そこは素直に称賛に値する。だが、次の重役選出で最有力の武内。その懐刀のお前に、経理関係を牛耳っているちひろ。その二人が揃った陣営に最近はしっかりとした組織も出来上がりつつある――というのは些か他の陣営を刺激しすぎた。
それに、お前たちの部下も周囲の人間も“魔法使いの道具”の便利さに慣れ過ぎているし、武内に至っては依存を自覚しつつも手放せなくなっているのだから、なお質が悪い。―――自覚はあるだろう?」
「…………」
言われている事は、最近では見て見ぬふりをしていた問題そのものだった。
入社してしばらく、面倒は続いたがシンプルだった。鍛え抜かれた社畜スキルと人脈で回されまくった色んな部署でひたすら仕事を捌き続け、突っかかってきた人間は無視するか上手く潰せばいいだけだったから。その後、古巣の武内さんの部署に戻って数年も似たようなモノだ。今度は御大層に役職まで与えられ、部下という名の足手まといも出来たが形態は変わらない。バイタリティー溢れるボスのアイディアをひたすら形にし続けるだけでよかったし、ソレを実現するのは日本でトップに入るアイドルグループ。障害なんてあってない様なもんだと言っていい。
だから、ここ最近だ。
世間では“魔法使い”と呼ばれる武内さんが更に責任の大きなプロジェクトの総括を担当し現場に顔を出せなくなり、ちひろさんはその補佐で付きっ切りになって別の計理班の指揮にかかりきりになった頃から―――アイドル総括部で実質的な切り盛りをするのが俺一人になってしまったのは。
むしろ、こうなった時の為の人材として雇用されたのだから文句はない。ないが―――それでも、最近は部署全体どころが他部署の人間まで企画のお伺いを俺にするようになりつつある。誰も彼もが、自己判断という機能を放棄し始めている節が目立ってきた。
それは、“健全な機能”とはとても言えたモノではないだろう。
「……お前の責任ではない。コレはかつての“シンデレラプロジェクト”に外部の人間を入れる事を頑なに嫌った武内と、ソレを容認してしまった我々の失態だ。それゆえに、本来はお前以外にもいたはずの後任はおらず、お前が倒れれば部署ごと傾くような欠陥を孕む結果となった。――――この出向で、その問題を取り除かねばならん」
「………話は、分かりました。でも、俺がいきなり抜けて回せるような生温い規模でも病巣でもないでしょう」
つらつらと流れる正論にはグウの音もでない。人生で二度も死にかけた俺だからいえるが、人間はいつ死んだっておかしくないのだ。悪意か偶然か、故意か事故かに関わらずそうなってから代わりが見つからないものはアンティークとしては貴重だろうが、日用品としては欠陥もいいとこだ。それに―――わざと“依存”という言葉にあいつ等を含めなかったのは彼女なりの配慮だろう。そんな妙なとこで気遣いを見せるこの人に呆れつつも、俺は対案を求める。
手前味噌だが、病巣と言われるくらいの仕事はしている自覚はある。だが、問題はソレを解決するため取り除いたとしても、ここまで育てた部署自体が傾いては意味がない。そもそもがソレを引き継げる人間が居るならこんな問題にはなっていない。
ならば、どうするのかと問いかけた言葉に彼女は今度こそ意地悪気なガキ大将のような久々の笑顔を浮かべて
「私がお前の不在中は面倒を見てやる」
そんな事を、傲岸不遜に言ってのけ――――かつて、この人が起こした大粛清を久々に思い出した。
実の父親すら不正を吊し上げ追い落とし“父殺し”と呼ばれ、ソレに連なる全ての人間の首を跳ね―――自分に劣る部署は全て取り潰すと全社員を震え上がらせた女傑にして血みどろの革命者。
あの時と全く同じ笑顔で彼女はそう宣言し、俺に出向先の最低限の要項だけが記されたファイルを渡して俺を部屋から追い出した。
呆然と、だが、確信をもってこれから起こる暴動の規模に頭痛を感じながら俺は渡されたファイルを改めてみると【283プロダクション】という流麗な筆記体が躍っていて、どうやらそこが俺のしばらくの間の職場らしい、なんて現実逃避気味に溜息と共に弱音をポロリ。
「…………“あいつ”、怒るかねぇ?」
こんな時にすら脳裏に真っ先に浮かぶその“女”がどんな表情を浮かべるかが気になるのだから、どうにも俺の“依存”とやらも随分と酷かったらしいとまた深く溜息を漏らし、とぼとぼと歩を進めていく。
今日は、厄日だ。
('ω')まだまだ続くぜ!!