デレマス短話集   作:緑茶P

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('ω')どうも、いつも通り好き勝手やってるsasakinです。

 新章:導入編はここまで。次回のシャニキャラ個別√一本書いて終わりです。ちなみに、僕はやってないので設定の細かいミスは合ってもツッコまないのはお約束だよ?(ビクビク


やはり俺の芸能界ライフはまちがっている?

 

 晴れ渡った晴天に鳥は高く飛び、子供は無邪気に遊びに出かけるため跳ねる様に駆け抜けていく心地いい小春日和。ともすれば昼下がりの気だるげな空気に緩みそうになるのに抵抗して缶コーヒーの最後の一吸いを飲み干してほおり投げたゴミ箱からの気の抜けた音をゴングに公園のベンチから立ち上がってすぐ目の前にある古ぼけた雑居ビルを見上げる。東京郊外に立てられた四階建ての小さなビルながらも内装は整えられているだろうことを感じさせる小綺麗な入り口に掲げられた看板の名は“283プロダクション”という流麗な筆記体。つまりここが―――今日から俺の職場となる。

 

 新設の事務所というのでおっかなびっくりだったが、思ったより環境としては悪くなさそうだ。そもそもがエステやジム、食堂にプールに庭園まで揃えている346が異常なのであって、普通はビルを持っているだけで事務所としては十分に立派だし、それが整えられているというのだからいらぬ杞憂だったようだ。そんな思いに溜息を吐いてインターフォンを鳴らせば、若い女性の事務員らしき声が聞こえ短く素性を伝えればつつがなく応対してくれる。ここまで立派な事務所であれば出向する必要はなかったんじゃないかとすら思えてくる。

 というか、元々の理由が理由だしな。案外、常務もそこまで負担にならない場所を選んでくれたのかもしれない等とウチの大ボスの気遣いに苦笑を漏らしていると玄関ホールについているエレベーターがベルを鳴らし、若草色の髪をゆったりと纏めたほのぼの系美人さんが笑顔で出迎えてくれた。

 

「今日から346さんから出向して頂く予定の“比企谷”様ですね? 私は臨時事務員の“七草 はづき”と申します。―――社長がお待ちしていますので、ご案内致します」

 

「…宜しくお願いします」

 

 折り目正しい完璧な所作に思わずこちらも畏まった対応をしようとして、一拍間が空いた。別に見惚れてたとかそんな東京ラブストーリーみたいな話ではない。彼女の言葉の一部が何故か魚の骨の様に引っ掛かり気になってしまったのだが、ソレを確認する前にエレベーターは到着のベルを鳴らして聞き出す機会は失われた。だが、いまから二年は付き合うことになる上役との顔合わせ。そんな些事に気を取られへまを踏むわけにはいかないと久々に締めるネクタイと共に気合を入れ、七草さんによって開かれた社長室へと踏み込んだ。

 

 その先に広がっていたのは変わり映えのない事務室に少しだけ重厚なデスクが置かれ、来客用のソファーも立派ではあるが質素に洗練されたものだった。これだけでここの主人は無駄な虚飾を嫌う実務的な人間だと感じさせる。そして、そのイメージは部屋の中心に立つ人物を見て間違いでなかったことを証明してくれた。

 

 高めの身長を一部の隙も無く整えられたスーツに身を包み、鋭い顔つきはオールバックに纏められた髪形と初老に入ったかどうかという皺の具合が合わさり老獪でありながらも頼りになる印象を人に与える。そんな男性がニヒルに口元を吊り上げ、手を差し出してくる。

 

「283プロダクション社長の“天井 努”だ。お前んとこの美城とは海外でしばらく仕事をした事があってそれ以来の腐れ縁という奴だな。活動拠点を日本に移したばかりでまだ無名ではあるが―――そっちの思惑通り、私は全部をひっくり返してやるぞ」

 

 獰猛な獣の様にこちらをねめつけながら、それでも楽しそうにそう語り手を強く握ってくる天井社長に思わず苦笑を漏らしながら応える。彼の言う思惑とは出向の表向きの理由だ。まさか、社内の“ゴタゴタ解決の為“だなんて阿呆な事を喧伝するわけにもいかないのでよそ向きの理由もしっかりある。

 

 長らく続いたアイドルブームはいまだに健在ではあるが、かつて世間を熱狂させたアイドル達の引退と共にその熱量は最盛期の物とは言い難い。ウチもそうだし、765、961、などの看板アイドル達も多くが引退をしている。だが、それでもこの三つはいまだ人気・実力共に上位であり続けていて――――それが問題だ。かつて、覇権を争ったこの三つ巴も長い時間が過ぎれば飽きが来る。

 

 だから、テコ入れを行う。

 

 自分たちを倒しうる新たな勢力を自ら作り上げ、首を狙わせる。

 

 悪質なマッチポンプと劇場型の犯行であることは否めないが、それでもそれが成功すれば多大な利益となり業界自体を大きく押し上げるだろう。そして、天井社長もその思惑に気づきながらも逆に利用する事を選んで今日ここでこんな事になっているというのだから社長業というのは正気では務まらないのかもしれない。

 

 ヘラりと笑って返す俺に肩透かしでもされたかのように小さく鼻を鳴らした彼が脇に控えていたもう一人の男性を呼び、紹介をする。

 

「なにぶん、新設もいいとこで事務方はそこのはづきと私。そして―――この“プロデューサー”だけだ。元地は悪くはないが何分、若い。その狭い視野を補うのが“アシスタント”のお前の仕事になる。上手くやってくれ」

 

「は、初めまして。俺は“――――”って言います。あの“シンデレラプロジェクト”の補佐をしていた君から見れば不足ばかりかもしれないけど、全力で頑張るよ!!」

 

 高い身長に十分イケメンと言っていい顔。だが、爽やかさに交じるちょっとだけ自信のなさを表すような愛想笑いが印象的な男だった。だが、それでも、瞳の奥にある輝きがあの寡黙な男と類似した熱を発している。…プロデューサーという職業人はみんなこんな目の光を灯してるからちょっとだけ苦手なのはココだけの話。

 だが、余計な事を語る必要性は全くないのでこちらもただ短く答えその手を軽く握り返すに留める。愛想笑いはどうせ上手くいかず気持ち悪いだけなのでとっくに諦めた。

 

「さて、俺たちの自己紹介は済んだがお前のがまだだったな。ああ、いまさら経歴だのなんだのは要らん。俺達が知りたいのはお前の“実力”の方だ。―――役に立つのかどうか、今から見極めさせてもらおう。俺は、アイツほど甘くはないぞ?」

 

 そんな俺達のぎこちない挨拶を見ていた天井社長は遊びは終わりだと言わんばかりに手を打ちそんな事を宣った――が、そういう事の方が分かりやすくて助かる。事務にしろ、スケ管にしろ経営者にとって知りたいのはそういう実利的な所だろうし、人格ややる気なんて無い物や隠しパラメータありきのギャルゲみたいなモノを要求されてもお手上げなのだ。だから、その提案はむしろ俺にとっては渡りに船、ばっちこーいなのである。

 

「はい。……とりあえず事務処理でもしておけばいいですかね?」

 

「何を言っている。ここはアイドル事務所だぞ? なら一番最初に見るべきは“才能”を見抜く能力だろう――――入ってきたまえ」

 

 馬鹿を見るかのような眼を向けてきた天井社長が一声あげれば、いつの間にか廊下に待機していたのか7人の少女が入ってくる。誰も彼もが個性的で対応もそれぞれだ。面白そうにこちらを伺うモノ、興味なさげなモノ、品定めの様に目を細めるモノ。それらは様々だが共通しているのが―――誰もがそこらには転がって無さそうな美少女である事だろう。

 

 これら全てを新設のこの事務所に一人でかき集めたのだとすれば、後ろで心配そうに自分を見ているこのプロデューサーは相当な人たらしである。そんな個人的な感想を心の中で呟きつつ、この余興の主催者に趣旨を問う。……いや、いきなり目の前に美少女を並べられても意味わかんないしね?

 

「……才能を見る目って、何をどうすればいいんですか?」

 

「なに、簡単な事だ。今から渡す簡単なプロフィールと短い会話で彼女達の方針を思うまま意見して見給え。プロデューサーの補助が主な目的とは言え、それが数字を追うだけでは意味がない。方向など人柄やキャラクターを深く理解せねば、相談も成り立たん。だからこそこの試験で“目”を確かめさせて貰うという訳だ。―――単なる魔法使いの腰巾着でアイドルの実力に助けられてきたというのでなければ簡単な試験だろう?」

 

「………ほーん」

 

 いや、ドヤ顔で語ってるけど言ってる事は結構に無茶苦茶だ。というか、コレは他の部署で経験したことがある“ぶちかまし”という奴だろう。人手不足とはいえ他社。しかも、大手から来た若造の鼻をココで折っておいてやる事でヒエラルキーを強制的に下げておけば、プロデューサーは意見も指示も通りやすくなるという親心。甘くはないと言いつつも身内の為にそういう狡すっからい事をして泥を被れるその性格は―――結構、嫌いじゃない。

 

「――――どんな方向からのアプローチでも、いいんですよね?」

 

「構わん」

 

 でも、少なくとも俺個人ではなく“アイツら”の評価にも関わるかもしれないのなら話は別だ。それに―――“人間観察”ベテランのプロボッチを甘くみられるのはちょっと我慢が出来ない。人の輝きは眩しくて見る事は叶わないが 人の“荒”を探すことに関しては誰にも負けない。どーも、千葉を代表するクズヶ谷です。今日も俺のクズレーダはバリサンだぜ!!

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

社畜歴八年になる俺が思うに、物事や社会ってのは“やらなければならない事”と同じくらいに―――“やってはいけない事”を把握する能力が必要不可欠だ。どれほどに仕事が出来ようと、先見の明があろうとそれが出来なければ功績はあっという間に“危ない奴”というレッテルによって書き消され、どん底まで引き落とされる。

 

 “そんなどうでもいい事より仕事を見てください!!”なんて青臭い理論よりも靴を舐め、媚を売り、爆発物を丁寧に丁重に安置する能力を求められるのが社会人である。仲良くする事よりも、上手く付き合う方法を求められるとは恩師の名言である。そんな世知辛い世の中で、特殊なこの職業では自分だけでなく―――担当のそういう部分を嗅ぎ分けるのも職分だ。

 

 目の前の少女達を放置して渡されたファイルを眺めつつ、そんな独白をしていれば、さっそく一人釣れた。

 

「比企谷さんってあの346プロのシンデレラガールズの補佐だったんですよね!? すっごい大御所じゃないですか! あっ、私は“黛 冬優子”っていいます! これから、よr―――「70点」―――は?」

 

 艶やかな黒髪に溌溂と無邪気に、興奮したように語り掛けてくる少女の言葉を遮って俺は可でも不可でもない凡庸な数字だけを端的に言い渡す。凍り付いた様にその笑顔を凍らせる彼女。遮られた瞬間に顔を顰めないのは高評価なのので後2点は足してもいい。だが―――その程度ではまだまだ満点には遠く及ばない。その理由を端的に彼女に解説してやる。

 

「相手の素性を事前に確認しているのは素晴らしい。対面した瞬間にその前評判を確認するため最初に声を掛けたのも高評価だ。―――だけど、意外と業界の人ってあった瞬間に品定めするように目を細めるのって敏感に感じるから今度から出会って数秒は不安そうな顔か、無邪気な感じで行くと面倒が減る。

 

 後は、アーティストってのは面倒な生き物で“何々の○○”って付属品で呼ばれるの嫌う人多いからネットでもなんでも使ってその人自身の功績をおだてるようにした方が気分よく勘違いしてくれるぞ?」

 

「…………へぇ、単なるでくの坊って訳でもないのね。以後、参考にするわ」

 

 俺の視線すら向けない上から目線の言葉に先ほどの無邪気さは一切取り払われた冷たい声が室内に響く。その潔さには個人的な好感を抱くが―――本気で強化外骨格を纏うつもりならごり押しでカワイイを押し通すあざといウチの後輩か、今や建築業界でその悪魔の微笑であまねく人間を地獄に叩き込んでいる友人姉のような魔王感を養って頂きたいものだ。

 

 鼻を鳴らしてから態度を一変させた黛が舌打ちをする事で周囲が苦笑を零し、プロデューサーが頭を抱えたのでここにいる全員が彼女の本性は知る所だったのだろう。そんな茶番に不覚にも少しだけ笑ってしまった俺に、茶色の液体が注がれたコップが差し出される。唐突な事に少しだけ面食らった俺が顔を上げれば―――紫安色の髪をツインテールにした少女が目の前で微笑みつつソレを差し出していた。

 

「あー、ふゆちゃんも悪びれがあったんじゃなくて通常営業なんで気にしないでくださいー。お詫びって訳でもないですけどー、“田中 摩美々”からの仲直りの印って事で麦茶をどうぞー」

 

 差し出されたコップに苦笑と困ったように眉を寄せる彼女。それがまぎれもない仲間への好意からの行動らしく思わず俺も頬を緩めつつソレを受け取り―――

 

「コレが“めんつゆ”じゃなきゃ普通にいい話だったんだけどなぁ」

 

 給湯室の流しに即刻流し込んだ。

 

「………あれー? どこで気が付きましたぁ?」

 

「慣れてる」

 

「どんな人生歩んできたらそんな言葉が出てくるのか……摩美々、普通にドン引きです」

 

 あんな笑顔で人を騙そうとするお前にも俺はドン引きだよ。というか、こちとら何年も問題児たち相手に体を張っていないのである。毒物・催淫剤・自白剤・その他危ないの多数が注がれ続けた俺の飲み物に対する警戒心はそんじょそこらの悪戯程度ですら生き死にが掛かっているため、差し出されたモノには最大限の警戒を払っている。………どんな人生歩んでるんだ俺は。普通に自分でもドン引きした。

 

 悪戯の失敗にしょんぼりする田中を他所に気持ちを切り替えて凛と背筋を伸ばして楽し気に状況を見つめる少女に俺は視線を向けた。プロデューサーさんが“やべっ”みたいな顔したけど気にせず、ある意味胃が破れそうな暗澹とした気持ちで質問を絞りだした。

 

「なにか?」

 

「……間違いだったら訴えてくれても構わないんだけど―――お前ってレズ?」

 

「馬鹿にしないでくれ、美しいモノなら性別関係なく愛でるのが世の真理だろう。……ふむ、というか、分かりやすいアクセサリーもマークもしていないのによく分かったね?」

 

 予想以上の返答による頭痛に頭を抱えながら溜息を吐けば、プロフィールに乗っている黒髪をポニーテールにした“白瀬 咲耶”は本当に不思議そうに問うので応えるかどうか迷ったが素直に答えることにした。

 

「知り合いにレズのバカップルがいる。なんとなく感じる雰囲気がソレに似ていたっていう理由以上はないな」

 

「ほう、それは興味深いな!!……実は男女問わず愛でようという気持ちはあるのだが、“恋愛”という所まで至ったことが無いのが悩みでね。是非とも今後の参考に紹介してもらえないだろうか?」

 

「………機会があればな。あと、お前はそれ間違ってもテレビで漏らすなよ?」

 

 余りに爛々と輝くその瞳にウンザリしつつも犬を払う様に追い返せば、彼女も意気揚々と立っていた場所に戻って行く。別にもう既にその辺のジェンダー関係には過去に折り合いをつけているし、当人同士が納得しているなら外野がとやかく言う事ではないので、ソレを目で送りつつ後ろで膝つき、頭を抱える社長とプロデューサーに溜息を吐く。いや、俺に対してアドバンテージを得たいならなんでこんなキワモノばっか連れてきたんだ。正直、こういう変態の相手は慣れてるを通り越して日常の域ですらある。

 

 残り4人。

 

 見るからにドルオタと、ウチに関りが深いはんなり京娘と確執がありそうな和服美少女。そんで今にも毒を吐いてやるぞと不機嫌さMaxの赤毛の少女。ソレに、アイドルにあるまじきニンニクとトンコツの匂いを漂わせる少女。ついでに呼ばれてもないだろうに面白そうにドアの隙間から爛々と目を輝かせてこの茶番の行く末を見ている奴ら。

 

 それら諸々の混沌としたこの部屋に対してガックリと深く息を吐き自分の甘さを痛感する。小綺麗で? 設備が整っていて? 長も部下もしっかりしていて?―――挙句には、あの女ボスが自分に配慮して気を張る必要のない会社を選んでくれた?

 

 どうにも自分も長らく続くルーティンにボケていたらしい。

 

 俺の人生にそんな甘い選択肢がある訳もなく、立ちはだかるのは俺に負けず劣らずの変態とめんどくさい奴らばかり。そんな久しく忘れていた感覚に怠惰を貪っていたひねくれ心が目を覚ますのを感じる。

 

嗚呼、あぁ、いいとも。

 

ええ、えぇ、知っていたとも。

 

 メラメラと湧き上がる怒りと切なさと伝わらない1/3の感情を糧に俺はそれら全てを澱んだ瞳で睥睨して覚悟を決める。

 

 お望み通り、ここをあの女帝が目を剥く程の天敵に仕立て上げてやるとも。だが、これだけははっきりと今日は宣言しておかなければならない。

 

 

やはり俺が芸能事務所に勤めるのはまちがっているんじゃない?

 

 

 そんな今更な慟哭を俺は心の中で密やかに漏らして、次々と問題児共の“荒”を暴いてゆくのだった、とさ。

 

 そんな決意と振り返りと共に少女とオッサン、新人プロデューサーの阿鼻叫喚が麗らかな晴天に響き渡った。

 




(´ω`*)うふふ、推してもいいのよ?
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