デレマス短話集   作:緑茶P

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_(:3」∠)_新章・とりあえず完!!

つっかれたー(笑)

でも、きっと新たな沼のタネはみんなの心に撒けた筈!! 

皆で温泉ランドにいく恋鐘視点とか、実はシャニPの従妹で昔あってるのにいつまでも気が付かづご立腹の透とか、予算削減のためメイクを自分たちで出来る様に特別講師としてカリスマを呼んで親愛度がかっとぶ黒ギャルとかいろいろネタは作ったけど後はみんなにまかせりゅ(笑)



休息はそれぞれに

 

「…まだ、まだ俺はやれるっ!! お願いだ比企谷君、俺はまだやれるんだ!!」

 

「何度も同じことを言わせないでください、プロデューサー。結果は明白に出ていて―――貴方はもう終わりなんです」

 

 事務所内に悲壮な決意を秘めた声が切なく響き、ソレを嘲るかのように冷たいため息と否定の声が響く。それは、若者の滾る想いが具現化して溢れたものの様で、相対的に返す声はソレを押しつぶすかのように重く暗い。そんな二つの想いがぶつかり、火花を散らし―――弾けた。

 

「だから、もうちょっとだけ残業していったっていいじゃないか!!」

 

「だーかーらー、先週も言いましたよね? これ以上の書類上の凡ミスが出るなら2週以上の連勤は認めないって。見てください。企画書に報告書、経費申請―――挙句の果てにはスケジュールまで勘違いしそうになること数回。3週目の頭だったあの時から目に見えて増えてきた事を考えればもう結果は言うまでもないでしょう? アンタの仕事はこの定時をもって終わりで、すべきことは家帰って風呂入って飯食って酒飲んでぐっすり寝る事です」

 

「うっ、そ、それはたまたま忙しくて雑になっただけで……まだまだ、みんなのレッスンや収録を見届けたりとかやるべきことは山済みなんだよ」

 

「両立できてなきゃいつかは破綻しますし、それ全てに顔を出すのは物理的に不可能です。―――少しは“アレ”を見習ってください」

 

  気の抜けた内容で喧々諤々と言い合うのはこの新設事務所に私たちをスカウトしたプロデューサーと最近、社長のコネで大手から出向してきた気だるげなアシスタント。そんな彼が気だるげに指さした先には若草色の髪を持つ女性が間抜けなアイマスクを乗せて涎を垂れ流す勢いですやすやと熟睡している。もはや見慣れてきた光景で何とも思わなくなってきた私たちも私達だが、この喧騒の中で熟睡できるのは相当にぶっ飛んでいる。

 

「事務にダンスレッスン、ボイストレーニング。果てはメイクまでこなすあの人は必要な時間以外はああして休息する事でクオリティを保ってます。ココで言いたいのはミスをしないってことでは無く、どんな超人もああしなきゃ効率が落ちるってことですよ。―――レッスンも収録の付き添いも大切ですが、来月に控えた大会前には嫌でも不眠不休になるんだから踏ん張りどころを間違えるなってことです」

 

「―――それは、だけどっ」

 

「もういいです。そこまで言うならこっちも強制執行させて貰いますから。―――恋鐘、咲耶。連れていけ」

 

「「イッ―!!」」

 

「うわっ、や、やめろ二人とも!! まだ話の途中なn―――うわわわっ」

 

プロデューサーの必死の抵抗も空しく“まぁまぁ”、“よかよか”なんて満面の笑顔でフィジカル最強コンビによって部屋を押し出されて行くのをなんとなくドナドナを流しながら見つめているとようやく事務所内に静寂が戻ってくる。

 

「今日も完勝っすね」

 

「結果が分かってるのに懲りないわよね……」

 

あさひがニシシと笑いながら窓から三人を見送るのに鼻息一つで応えて読んでいた本を閉じる。休みなく働く事で一部のアイドルからは不安視されていた彼の真っ黒なスケジュールは最近になってこういったやり取りの末にかなり緩和されて随分と彼の顔色も良くなった。連行係の二人によると、あの後に歩いて15分の彼のアパートに連れて帰り生活感溢れすぎている部屋でご飯を作ったり、掃除をしたりしつつ彼がこっそり仕事をしようとするのを寝るまで阻止し続けるらしい。ちゃっかりとその料理風景もネットに配信しているせいで恋鐘の家は年季溢れるアパートという事で定着し始めているから笑えてくる。

 

 最初は新顔の癖にこんな事をし始めるのが図々しいなんて思わなかった訳でもないが、結果だけ見れば最良だろう。初めて会った時の失礼な態度を随分と根に持ちはしたものの、この男の着任以来から事務所がグイグイと改善されているのを肌で感じていれば―――文句も言えない。

 

 そんな、何に対するかも分からない苛立ちを表すように手に持っていた本を乱雑にバッグに押し込んであさひに声をかけ立ち上がる。

 

「さ、人の事より自分の事よ。はづきさんを起こしてレッスンに行きましょう?」

 

「了解っす~」

 

 お道化たように敬礼を返す彼女にちょっとだけ笑いながら目端で件の男を見やる。

 

 相も変わらず不愛想で、気だるげ。それなのに―――その手は止まることが無い。そんな様子にもう一度だけ鼻を鳴らして歩みを進めた。

 

 ホントに、可愛げのない男。

 

 そんな独白を一人で噛みしめつつ、“黛 冬優子”は小さく舌をうった。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 時刻は戌から亥へと移ってしばしの事。レッスンも終わりあさひたちと適当に外食をして騒がしくも楽しい時間を過ごしいよいよ帰ろうかとなった時の事である。皆に別れを告げて帰りの電車を調べようとした時にはたと携帯を事務所に置き忘れていた事に気が付いた。普段ならあり得ない事だが、あのユニットメンバーといると小さな四角形の世界に目を向ける余裕がないくらいせわしく―――楽しいため、気が付かなかった。

 

 明日でいいか、と思い頭を軽く掻けば完全休業日だったという事を思い出して深く溜息を吐いた。面倒ではあるが、幸いにも事務所の近場で駄弁っていたので10分もあれば回収できる。問題は鍵が開いているかどうかなのだが不思議とソコは疑問に思うことはなかった。ついでに、ホントになんとなくだが、甘いものを飲みたくなって自販機で適当なミルクティーを購入する。……ドリンクバーでお腹ちゃぷちゃぷであろうとそういう気分だったのだからしようがない。

 

 わざとらしいため息をたなびかせながら、私は都心の雑踏をかき分けて一路事務所へと歩を進めていった。

 

 

――――――― 

 

 

 ついた瞬間に“ほれ見た事か”なんて、つい毒づいてしまった。 

 

 薄暗く昼間の喧騒が嘘のように静まり返った事務所の中で煌々と照らされたデスクに丸まった猫背が一つ、気だるそうな雰囲気を隠すことも無くカタカタとタイピングの音を響かせている。驚かせてやろうかと抜き足差し足で忍び寄り、冷えたミルクティーを首筋にあてる前に声を掛けてくるのだから更に可愛げがない。

 

「良い子はもう寝る時間だぞ?」

 

「プロデューサーを追い返しといて、自分は一月以上連勤してる比企谷さんは当然、悪い子ですよね~」

 

「俺は適度に手を抜いてるからな…ソレに先々週は休んだろ?」

 

「自社への報告にね?」

 

 適当にカマを掛けただけだったが苦笑を返すという事は当たらずも遠からずといった所なのだろう。張り付けた微笑みのままミルクティーを手渡せば彼はソレを受け取って喉を潤しながら肩を竦めるだけ。問い詰めた所で本当の所を言うつもりはないのだろう。

 えぇ、えぇ、そうでしょうとも。―――後日、お酒の匂いとこの事務所以外の女の残り香をこれでもかと付けてきたんですから墓穴には近づきもしたくありませんよね?

 

「なんでちょっと怒ってんだよ……」

 

「怒ってませんけど?」

 

「いや、眼が……」

 

「はぁ?♡」

 

「……なんでもない。別に産業スパイって訳でもないから安心してくれ。そういうのは、弱いトコから強い方に送んないと意味ないしな」

 

「その余裕も、時間の問題よ。何なら今のうちにふゆ達に上手く媚び売っといた方が乗り換えるときに同情を買いやすいかもね?」

 

「ぜひ、そうなってくれ。観客としては楽しみにしてる。―――とりあえずは、媚売りの一歩として最寄り駅まで送る事にするかな」

 

 私のねめつけと挑発もどこ吹く風でゆるりと笑う彼に不覚にも息を呑んでしまった。普段は何があろうとその仄暗い瞳で覚めたように見てくるくせに、こういう素の自分で噛みついた時にだけ見せるその眩そうに眼を眇める仕草が―――なぜか自分の芯を揺らす。

 だが、そんな内面を悟らせないように飲み込んだ息を小さく吐き出していつも通りに、でもちょっとだけ素に近い自分で声を紡いでいく。

 

「あら、そういった気遣いも出来るならもっと普段からしたらいいのに。あ、それとも――ふゆを一人で返すのが不安になっちゃった?」

 

「はいはい、大切で可愛いアイドル様に何かあれば大変だからね。あと、普通に最後の仕事が終わったし、お前を口実に社用車で直帰できるしな」

 

「もう完璧後半が本音じゃない、クソが」

 

 気だるそうに私に取り合うことも無く軽口を零しつつ席を立つ彼の背を不満たらたらに追いかけていく。薄暗い廊下に差し込む月灯りにほっそりとしたその背中に緩く纏めた髪が揺れて歩を進める。それらに伴ってクツクツと愉快そうになる喉がその男が本当にこの世の物か分からないくらい倒錯的に見えて、観えて―――視えて。

 

 その今にも霞みそうな背中に乱暴にぶつかる様に体当たりをして、その手を絡めとる。

 

 紫煙の煙ったい匂いと、微かな紅茶の香水。それが確かにこの男はここにいるという事を証明しているようで心の何処かで安堵の溜息を漏らし、そんな意味不明の行動をとってしまった羞恥を彼への攻撃でかき消す。

 

「ふゆ、どうせなら〇×ホテルのディナー限定ケーキを食べてから帰りたいな♡」

 

「この時間にケーキとかマジで自殺志願者だな……ラーメンでいい?」

 

「あんた、恋鐘みたいにラーメンって言っときゃ解決すると思ってんなら大間違いだからね?」

 

「じゃ、やめとくか?」

 

「……あっさり塩味なら付き合う」

 

 みんなの前でぶってサラダセットだけで済ました弊害が私の判断を狂わせた。でも、そういった瞬間に少しだけ無邪気に笑ったコイツの顔を見れば―――さっき感じた謎の不安と、恋鐘が楽し気にコイツとラーメン屋を巡る理由がちょっとだけ分かった気がしてしまった。

 

 悪態とひねくれた答え。そんな馬鹿らしいやり取りがひっそりと事務所の暗闇に溶けては弾けていった。

 




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