【あらすじ】
なんやかんやライブの打ち上げ中に罰ゲームで蘭子と二人羽織する事になった。このアイドル達はやっぱり芸人を目指しているのだろうかと微かに不安になってきた比企谷八幡21歳と蘭子15歳。
――――――
「思ったより動きにくいな、コレ」
「我が盟友よ、魂の導きに従い饗宴を楽しめ(うわぁ、これなんか面白いですね)」
馴染のお好みやでの打ち上げ中に悪乗りから始まった王様ゲーム。強制的にひかされたクジは無情にも自分と蘭子を指名し、世代的にも知っている人がいるかいないか微妙な罰ゲームが執行される事と相成った。こうなれば下手に抵抗するよりも無機質にこなしたほうが被害が少ないのは織り込み済みなので素直にどっからか持ち出した馬鹿でかい羽織を被っていると何故かやる気満々の蘭子が自分の座っている席の真ん中にちょこんと収まった。
なんだか人懐っこい犬が座り込んだような可愛らしさに苦笑を漏らしつつ巻かれた目隠しと他の娘によってすっぽりと蘭子まで羽織に収められていよいよ視界と動きが取りずらくなった時に目の前に皿が置かれる音と微かに甘い香りが漂ってきたので準備が整ったらしい。
「……というか、料理は何なんだ? これ、まさかテレビみたいに素手で掴んで口に放り込む奴じゃないだろうな」
「甘美なる白の悪魔だ。その脇には護衛も控えておる(ショートケーキです! ちゃんとフォークとナイフも脇にありますよ!!)」
「定番っちゃ定番だな……」
大体がこれで口元や顔に失敗して顔をメレンゲまみれにするのだろうが、テレビでもないのでウケを狙う必要もなかろう。キャッキャッと無邪気に喜んでる蘭子なら案外それでも楽しみそうだが女の子の顔にそんな事を出来る程に鬼にはなれなさそうなので出来るだけ被害を少なめにパッと終わらせてやろうと思い俺は視界の効かない中で手をゆっくり伸ばす。
「まず、食器から探すぞ?」
「うむ、よきにはからえ(がんばってください!)」
暗闇の中、テーブルのヘリを求めて手を伸ばそうとすれば意外に蘭子が間に挟まっているのが邪魔で無意識に前に傾けた体が小さく華奢な体を押してしまった。
「うきゃ」
「む、すまん。苦しくないか?」
「う、うむ、案ずるな(ちょ、ちょっと驚いただけです~)」
軽く謝りつつ、見つけたテーブルの淵から指の感覚を頼りに食器や皿の位置を探っていくが蘭子のフワフワの髪の毛がくすぐったくて思ったより集中が出来ないし、成長期のせいか随分と体温が高く感じて息苦しい。蘭子も動く度に変な声を上げるな。気が散る。
そんな感じでてこずりつつも漸くそれぞれの位置の把握に成功した。とはいえ、手掴みではないのでフォークが刺さったりする危険があるので焦らず慎重に皿の上のケーキを切り分けて持ち上げる。重量的に持ち上げられたのは確かだが、大きさがいまいち分からん。
「これくらいの大きさで食べれそうか?」
「ふぅ、ふぅ…え、あ、ぐ、愚問なり(だ、大丈夫です!)」
「ん、じゃあ―――口の位置を確かめるぞ?」
「へ? わ、わわわ――うきゃっ!?」
なんで黙って見ているだけの彼女の息が荒くなってるのか分からないが、大丈夫だそうなので間違って刺してしまわないために彼女の口の位置を確認するため彼女の手から辿る様に―――肘、肩、鎖骨―――首筋、顎――――そして、最後にその瑞々しい唇へとたどり着いてなぞる。
「――――っつ!!? ―――――――っつっつ???!!??」
「おい、暴れたら危ないだろ。くすぐったいのは我慢しろ」
体をなぞるたびに跳ねる様に震える彼女を軽く叱りつつその頤を軽く固定して口を開くように指示をする。
「さぁ、刺さると危ないからゆっくり入れるぞ? そんで、半分くらいの所までいったら一回唇で甘噛みして止めろ。―――そんで慎重に最後は自分で食べるんだ」
出来るな? なんて聞き逃しの無いように耳元で囁けば震える様に頷く。さっきまでの元気さが鳴りを潜めたのを怪訝に思いながらもゆっくりと指で唇をなぞって最終確認。位置と角度的にも問題が無さそうだと確信しつつフォークを進める。
蘭子が口を開いたのも分かったのでゆっくりとケーキが自分の指先で方向がずれてない事を確認してその唇に乗せて押し込んでいく。指先で突いた感覚では少し大きかった気もするがいけない事はないだろう。唇の両端が汚れるくらいは勘弁してくれ。
ほんの少しの間をおいてフォークに抵抗を感じたので進行を止めて―――最後の工程に入る。
「いけ」
「―――はひゅ」
微かに目の前にあるいい匂いのする小さな頭が動いたのを確認して、軽くなったフォークは彼女が忠実に自分の指令を聞いてくれた事を意味する。その事の深く達成感を覚えた俺はくたりと脱力して寄りかかってきた彼女の頭を優しく撫で―――――更に残っていたもう一欠けを彼女の元へともう一度運んだ。
「―――――へ?」
「ん? こういうのって食べきるまでやるもんじゃないのか?」
奪われた視界の中、なんだか妙に色っぽい声を出した蘭子が唖然とした感覚が伝わってきたが――まぁ、もう途中まで来たので続行する。
さっきと同じ手順で。
皿が空になってようやくゲームが終わったかと思い目隠しを外せば顔も真っ赤に荒い息の蘭子がスカートを強く抑えてフラフラとトイレに行ってしまった事で色々と納得した。トイレを我慢していたならそういえばいい物を。
そんな微笑ましい物を見送る俺にいつの間にか静かになった店内で集まったアイドル達の視線が凄まじい物だったと聞いたのは、次の日になってからの事だった。
(/・ω・)/いぇーい☆彡