デレマス短話集   作:緑茶P

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(・ω・)さぁ、かくぞーとなって机に座った瞬間に何を書く気だったか忘れて10分くらいぼんやりしてたsasakinです、どうもこんばんわ。

 渋の方で沼友たちが盛り上がった勢いで始まった”リゾート企画”です(笑)

 あっちでも色んな沼の住民が色んな浜辺のアオハルを書き綴っているのでぜひ見に行ってみてください(笑)



夏の潮騒  ー 346リゾート編  オープニング ―

 空は何処までも広がり、突き抜けるような青が地平線を満たしている。そんな整いすぎて逆に現実感のなくなる景色は頬を撫でる潮の匂いと肌を焼くように照り付ける太陽の二つによって一気に生の感覚を齎す。そんな感覚に抗う訳ではないが手元に持っていた冷やされたビール缶のタブを引けば“かしゅっ”なんて聞きなれた音が一気に自分を現実に引き戻され、喉を流れていく炭酸とホップの苦みにオッサンぽく声を漏らしつつ小さく溜息を吐く。

 そうすれば、柄にもなく浸っていた雰囲気という物はあっという間に消え去っていき遮断していた音も感覚も戻ってくる。書割の中で放られていた音にはエンジンが力強く波をかき分ける飛沫の音とウミネコの気の抜けた声が耳に飛び込んでくるし、足元が少しだけ揺れるのは体に入れた酒精のせいではなくマジで揺れている。

 

 真っ青な海に、プカリと一隻浮かぶ連絡船の甲板。

 

 それが今、俺が立っている場所である。

 

 なんで、こんな所に俺がいるのか―――説明するにはちょっとだけ時間を巻き戻した方が早いだろう。

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 むせ返るような熱気と轟くように響いていた声援に満ちていた巨大なコンサートホール。それは、今は静寂に満ちていてその狂乱があったことなど嘘のように静まり返っている。そんな中、最低限の灯りに照らされたステージに残るのは満身創痍ながらも眼に張りつめた光を宿す色とりどりの美姫達と鋭い目を宿した偉丈夫が向かい合い、その脇に控える杖と使い魔が固唾をのんで偉丈夫が言葉を紡ぐのを待ち望み―――

 

「先ほど、全観客の撤収が確認されました。……これをもってシンデレラガールズプロジェクト初の全国ライブツアー8都道府県18公演の日程は完遂です。 皆さん、本当にお疲れ様でした」

 

「「「「「「「「お疲れさまでしたっ~!!!!!」」」」」」」

 

 一拍、間をおいてもたらされた言葉に―――弾けるような感情と、想いが溢れ出して怒号の様な声がソレに答えた。

 

 強行スケジュールで駆け抜け、遂には完遂が認められたこのツアーの終了報告に誰もが大いに喜び、泣き、笑い、ぷっつりと切られた緊張の糸はさっきまでの統率も嘘のようにあちこちに弾けまわって彼女達は思い思いにその心労を形にする。仲間と思い切り抱き合うモノもいれば、その場で青天するかのようにばったりと崩れ落ちるモノ、張っていた緊張を緩めて溜めに溜めていた涙を一気に溢れさせるもの。中には脇に置いていたバケツに顔を突っ込んで遅れてやってきた心労にえずくものまでその表現は百人百色である。

 

“魔法使い”こと“武内”さんはそんな阿鼻叫喚の光景に小さく微笑みつつも、自身も多大な責務から解放された事にちょっとだけその肩を安堵に緩めて自分の教え子たちに優し気な微笑みを向け、小さく息を吐いた。

 

 笑顔に号泣、成功に後悔。あらゆる感情が入り乱れるその光景は、成功したからこそできるモノである。だから―――ここでの成功も失敗も、成長も反省も全てが彼女達の糧になるだろうと事を思えば大学の夏休みをほぼ犠牲にして日本中を駆け回った甲斐はある。そんな事を一人笑って彼女達を見ていれば、足元もおぼつかないくらい満身創痍な年長の一団が武内さんを筆頭とした事務方にヤクザみたいに肩を揺らしてダルがらみをしてきた。

 

「いやー、きつかったけどもこんな大盛況で終われてホントにさいこうだったわ!!」

 

「ホントホント!! ――――日本全国を湧かせて回ったなんてそこらのアイドルにできる事じゃないから大したもんよ!!」

 

「そうですねぇ、こんな努力を続けるためには―――“ど-りょく”に燃料をくべないとアッというまに止まっちゃうかもしれませんねぇ?」

 

 にっこにこの笑顔を湛えて武内さんを囲んだ年長組を目ざとく見つけたメンバーがソレに習う様に武内さんを囲むように包囲していきその輪はアッと今に群体となって、されど、直接的な言葉を漏らすことも無く彼を追い込んでいく。

 

「全メンバーが参加できる夏休みしかできないスケジュール。今回は大成功で終われて本当に良かったです~。……おかげで、全然あそびに行けませんでしたけど~」

 

「……九州で見た海に、千枝憧れちゃいました」

 

「………なんか、ご褒美的なのあってもいいんじゃないかなぁ?」

 

「――――この度のライブの成功はささやかながら皆様の報酬に反映させて頂ki「あん?」―――そ、その他の何かで補填させて頂きたいと考えています」

 

 もうどっからそのドスの効いた声出したの? というか、眼が全員据わっててマジで怖い。そんなアイドルに囲まれた武内さんが冷や汗を流しているのに巻き込まれないようにソロっとステージを離れようとしていると舞台裏から聞きなれた甲高いピンヒールの音が響くのを耳が捉えた。規則的なその音に、生来の生真面目さと融通が利かなそうな貴意高さを感じさせるその音に俺“比企谷 八幡”はこれから起こるである波乱の予感に小さく天を仰ぎ溜息を深々と漏らしたのであった、とさ。

 

 

――――― 

 

 

「………用は、慰安目的の旅行をしたいという事だろう―――それくらい連れて行ってやればいいのではないか?」

 

「「「「「「――――へ?」」」」」」

 

 キツめのメイクに真っ直ぐ背を伸ばして周囲を睥睨するような女傑“美城常務”が全国最大規模のツアーズを終わらせたシンデレラプロジェクトに有難い激励とねぎらいのお言葉を掛けに来て、すったもんだしている自分たちの事情を聴いた答えは至ってシンプルな物だった。というか、あんまりに軽く言うものだから誰もがその言葉の意味を飲み込み切れずに目を白黒させながら首を傾げる以外に反応することが出来ないでいる。そんな自分たちの方こそおかしいと言わんばかりに眉を顰める彼女に代表するように武内さんが疑問の声を上げた。

 

「い、いえ、常務。お気持ちは有難いのですが、慰労を兼ねた祝賀会程度は企画していたのですが、自分たちの大所帯での慰安旅行など想定しておりませんでした。明日から一週間は完全休養とはいえ、いまから企画をするには少し厳しい物があるかと……」

 

「武内、お前こそ何を言っている。大体がタレントであり、大人数の彼女達がまとまって旅行に行くなどどれだけ綿密に企画した所でまず不可能だ」

 

「……はぁ、自分もそう思いますが」

 

 だったら何を言い始めたんだお前は、という視線を珍しく武内さんすら隠さずに全員が常務に向けた所で今度こそ呆れたように溜息を漏らした彼女は一転して睨むような視線を端っこの方で息を潜めていたおさげの女性“ちひろ”さんに向けて言葉を朗々と紡ぐ。

 

「お前は業界最大手に勤めている自覚と、自社の福利厚生に無頓着すぎる。――他所にわざわざ行かなくても税金対策でプライベートリゾートぐらい保有しているし、これだけの功績をあげた部署の慰労のためなら貸し切りにするのも吝かではない、という事はそこにいる事務員だって重々承知の筈だ。―――何なら、二人分だけ不自然に予約をしていたはずだが?」

 

「「「「「…………ちひろさん?」」」」」

 

「―――プライベートな事情の為、黙秘権を行使させて頂きます」

 

 淡々と語られる常務の言葉。まず、浮世離れしているスケールのデカいお話に脳みその処理が追い付いていなかったがソレが染み入るように理解してゆき――後半の聞き逃せない“抜け駆け”の暴露に一部のアイドルは剣呑な笑顔を、残りは普通に自分だけ美味しい想いをしようとしていたことに対する怒りで重たい空気を伴って彼女を囲んでいく。というか、あれだけプレッシャーを掛けられて平然と笑顔でやり過ごそうとか心がタングステンで出来ているのかな?

 

 ほーん、というか妙にこのツアー中の激務の中で後半から機嫌が良くなったと思っていたがそういう事か。どうせ、ツアー後の後処理が終わった後にこっそり武内さんを泣き落としか脅迫でそこに連れていこうとか考えていたのだろう。さすがちっひ、きたない。

 

「……まぁ、そういう事だ。美城一族の者は飽きて寄り付かんし、一般社員も私が日程変更を申し出れば問題なく貸し切れるだろうから気兼ねなく行って来ればいい。……羽目を外すのもそこなら大体の事は握りつぶせるから私も気兼ねなく休暇を満喫出来てそっちの方が助かる」

 

「………いつも、申し訳ありません」

 

「ホントにいい加減にしたまえ」

 

 一気に冷えたステージ上の空気の中、笑顔でメンチを切って火花を散らし始めた楓さんとチッヒを横目に深々と頭を下げる武内さんと青筋を立てる常務。むしろ、後半がこの提案の大部分の理由なんじゃなかろうかと邪推してしまうが、ウチの問題児が記事に載るたびに記者会見で頭を下げ続けているので責める事は出来まい。……いや、ほんといつもすみません。

 そんな二人を遠巻きに眺めつつも小さく苦笑を零した。まぁ、確かにこのツアーが決まってからというもの、夏休みに入る前からてんやわんやでようやく息を抜ける様になったのだからこの申し出はアイドル達にとって福音だろう。ソレに、事務方の武内さん達はそれこそあらゆる調整で都内に半日もいないで日本中を飛び回っていたのだから少しくらいは南国のリゾートで骨休めをした方がいい。むしろ、そんな孤島にでも押し込めない限りまたこの人は働き始めるワーカーホリックなのだからそれくらいが丁度いい。上司が休みに入ってくれれば俺も気兼ねなくダラケられ――――

 

「なに、“自分は関係ない”みたいな顔しとんねん。―――おに―さんも強制連行やから、ヨロシク」

 

 後ろから肩を組んで意地悪気な狐の様な瞳を覗かせた妹分の周子が無慈悲にも俺の自堕落ライフを阻止し、パリピな夏に誘おうとしてくる。だが、この“比企谷 八幡”。ライブ後で汗だらけなのはずなのにふんわり白檀の香りを放ってくる女子に誘われたくらいで自分の意思は曲げない。馬鹿みたいに溜まった貯蓄に存分にモノを言わせ三食人気ラーメン屋のハシゴに新作アニメとゲームと小説の制覇。そして、戸塚とのデートと引きこもりの真価を遺憾なく発揮する予定を完遂する固い信念をもって抗う。

 

「え、……嫌だけど?」

 

「「「「「「―――――――は?」」」」」」

 

 ふぇぇぇ、みんななんで目のハイライトがお休みしてるのん?

 

 固い意志はあっという間に崩れ去り―――時間軸は冒頭へと戻る。

 

 

――――――――――

 

 

「いや、思い返してもおかしいでしょ。ほぼ強制連行だったじゃん……」

 

 結局、粘りに粘って見たがあの後に開催された祝賀会でしこたま飲まされ疲労もあって寝落ちしているウチに気が付けば港に連行されていた。何より恐ろしいのは準備の為といって最後の抵抗を試みたのだが、普通に我が家にあるはずの着替え一式と見慣れたボストンバッグが既に船に積み込まれていた事だろう。―――我が家のセキュリティーは一体全体どこに遊びに出かけてしまったのだろうか?

 そんな世の無常を儚みつつビールを流し込んで、細巻きの煙を潮騒に流していると後ろから苦笑交じりのハスキーな声を掛けられ、自分の隣の手すりに寄っかかった。

 

「なに一人でボヤいとんねん」

 

「出たな、元凶」

 

「まだゆうてんの? ここまで来たら切り替えて楽しんだ方が得やで、おにーさん。ほらほら、こーんな贅沢な体験なんてなかなか出来るもんじゃないよ~」

 

 恨み節を混ぜて呟けばケラケラと笑う彼女は取り合うことも無くポケットから取り出したリゾートのパンフレットを広げてこちらに見せてくる。その内容の豪華さには確かに中々体験できるものではない内容だろう。

 東京近郊にいくつかある離島の一個をマルっと買い占め、開発したらしいその346のプライベートリゾート。本来はそういう業種が最盛期の頃に常務の祖父が観光業に力を入れるという名目で、とある愛人を遊びに連れ出そうとしたのが始まりらしい。だが、知っての通りそんなブームもあっという間に過ぎ去り利益も挙げなくなったその島は346関係者の慰安目的の施設として作り替えられたらしい。

 

 それだけでもスケールの違いに頭が痛くなるが、もっと驚くべきはその施設の充実さだろう。仕事以外では案外に享楽的な一族なのか、金銭感覚がくるってるのかは定かではないが、自分たちがたまに使うとはいえ不足があるのは許せなかったらしくあらゆるものが最新鋭・最高級なモノを取り揃えている。ビーチの管理は当然として併設されたホテルは全てが最高級ホテルのスイート並みで食事も一流。遊戯施設もテニスコートから体育館に果てはサーキットコースから小規模なカジノやゲームセンターまで取り揃え、ホテル付近の整備された街並みでは高級な服飾店から情緒あふれる雑貨屋までが名を連ねる―――もう、完全なバカンスの為に整備された島なのだ。確かに、そうそうに一般人が体験できることでは無いのは確かだろう。

 

「というか、他の部署の人達がなんかの抽選で騒いでたのってコレが原因だったのか…」

 

「私たちのせいで予定変更になった人はガチ泣きで崩れ落ちたらしーで。ま、そんな訳だから今回は常務の強権を無駄にしないためにもしゅーこちゃん達は全力で楽しむ義務がある訳なんだなー、コレが。おに―さんはどれに行ってみたい?」

 

 理屈が通ってるんだか通ってないんだか良く分からない事を言いながら肩を寄せてくる周子に最後に深く一回だけ溜息を吐いて、その地図とざっくりとした大きなイベントが掛かれたスケジュールを覗き込む。

 

1.ホテルチェックイン

 

2.海集合

 

3.バーベキュー

 

4.夜 自由行動

 

5.朝・自由行動&無人島冒険

 

6.昼・自由時間

 

7.宴会

 

8.船で帰宅

 

「凄まじくざっくりしてるな」

 

「あんまガチガチでも楽しくないやんか。“誰と、どこで、どういう風に過ごすのなんて自由”な方が絶対おもろいって!!難しい事考えんと―――“スケジュール以外でも好きな遊びを組み込む”ってのも全然ありな楽しみ方やで?」

 

「……なら、部屋で一日ゴロゴロしてるか」

 

「それもええけど、色んな子がきて逆に休まらんと思うで?」

 

「自由とは…」

 

 ケラケラと笑った彼女の声が楽し気に海に溶けていき、俺はうっすらと地平線に見えてきた孤島で起こる騒動に思いを馳せたが―――どうせいつも通りこのメンバーがしっちゃかめっちゃかに面白可笑しく走り回るのだろうと緩く笑いを飲み込んで、周子のお勧めスポットの説明とやらに耳を傾けたのだったとさ、まる

 




_(:3」∠)_ランキング……一桁は、遠いぜ……。

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