明日の最後の10連。もう、俺にはこれしかない……
かなで、みか――――待ってろ。
↑イベント最終日の僕
「……最大手ってのは知ってるつもりだったけど、ホントにすげぇな」
波をちゃぷちゃぷかき分けてひょうたん島よろしくたどり着いた島。その完全な常夏リゾート感にも驚かせられたが、豪華絢爛なホテルのロビーで一旦解散して荷物を置きに来た部屋の扉を開いた瞬間に感じていたはずの気疲れと体の微かな気だるさも忘れて普通に感嘆の息を吐いてしまった。
一人部屋というのが信じられないくらいに広々としたスペースに見るからに一級品と分かる家具やベッド。大浴場や温水プールも屋上にあるというのにジャグジーバス形式の浴室。それに何より――――扉を開けて真っ先に広がるベランダからの海と青空のパノラマに圧倒されてそんな小学生みたいな感想まで漏れ出たのだ。
肩に引っ提げていたボストンバッグをとりあえず床に放り投げて見るからに座り心地の良さそうなソファーに腰を下ろしてしばしその光景に見惚れ、受付で渡されたミネラルウォーターで喉を潤せばあっという間に体はoffモードになって気が緩んでいき、この後の浜辺での集合という予定がどうにも億劫に思えてきた。
そもそもが全力疾走してきた全国ライブの後にそのまま飲み会直行&港に強制連行。連絡船の中で仮眠は取ったとはいえ体にはいまだに色濃い疲労を感じているのだから、こうして部屋で夕飯のバーベキューまでのんびりしていても罰は当たらないんじゃなかろうか?
そんな事を考えれば適温に設定された空調に微睡も合わさってうつらうつらとし始めた頃に―――来訪を訪れるチャイムが鳴らされ、ガックリと肩を落とした。
まぁ、そんな事を許してくれるような大人しい奴らじゃないわな。
なんなら自分以上にハードスケジュールでプレッシャーを感じていたはずなのに底なしの体力で連絡船でもはしゃいでいた彼女達を思い浮かべて俺は小さく苦笑を漏らしつつぐずる体を起こしてドアへと足を向ける。
さて、ついて早々に人の部屋に突撃してくる奴らには心当たりが随分と多いが誰だろうか?
そんな疑問を携えつつ扉の鍵を開けた先にいたのは――――
―――――
【グループ】
→・顔面偏差値の高い、奇人変人グループ“LIPPS”だった。
・三人のシンデレラという偉業を成した王道グループ“ニュージェネレーション”だった。
・とある主従で成されたグループ“velvet rose”だった。
・その他、いっぱい
【個人】
・自分の妹分である見慣れた狐目の娘だった。
・物静かな雰囲気を湛える同級の文学少女だった。
・夏の太陽すら陰るような熱血少女だった。
・その他、いっぱい選択肢
――――
OK? ←イエス
――――
「……海で集合って話なのになんで俺の部屋に集合してんの君達?」
扉を開けた先に並んだニマニマとした顔ぶれはシンデレラプロジェクトの中でもトップクラスの顔面偏差値を誇る少女達で、その奇行や突拍子もない発言で俺の心労を加速度的に上げていくトラブルメーカーだというのだから嫌味の一つも牽制で投げたくなるのはご愛嬌だろう。
「あら、貴方が逃げ出さないように気を利かせたつもりなのよ?」
そんなチクリとした嫌味も涼しい顔で受け流す大人びた少女“速水 奏”がニンマリと意地悪気に口の端を持ち上げる。若干だけ行動も読まれていた事も合わせて口の端が引きつりそうになっているとその間に割り込んでくる透き通るような金髪碧眼と猫のごとくフワフワの赤髪の少女達が満点の笑みでそれぞれ両方の手に布切れらしきものを突き出してくる。
「じゃじゃーん、海パンが家に無かったという報告を受けて優しい、しきフレの二人が下のセレクトショップでお勧めを買ってきてあげたよ~!!」
「にゃはは、さあっ、君のお好みはどれかな? ぴっちりセクシービキニ? それとも、安パイなアロハパンツ型? 潜航も安心のラッシュガード? 意表をついてのふんどしスタイル? 色が気に食わないなら後で交換してくれるっていうから安心して選ぶといいよ!!」
「…………そもそも、何で家に潜入した下手人が俺の箪笥の中身を熟知して周知してるからの議論を始めてくれると嬉しいんだけど」
「「 ? 」」
男物水着を両手に満点の笑顔で迫る馬鹿二人“宮本 フレデリカ”と“一ノ瀬 志希”が俺の言葉に“日本語ワカリマセーン”という感じで肩を竦めて再び選択を迫って来る。お前ら見た目が外人寄りと帰国子女っていう設定雑に使いすぎじゃない?というか、水着の選択に悪意しか感じないんだよなぁ…。
「残念ながら“泳ぐ気ないし”とかいうつもりならもっと過激な子達が強制お着替えに来るかもしれんから素直に選んどいた方がええとウチは思うよ~?」
「まぁ、私たちなりの気づかいって事で受け取っておきなよ☆」
「もう実質的にアロハパンツ一択じゃん……」
げんなりとした俺を見かねたのか後ろで苦笑いをする残りのメンバーである“塩見 周子”と“城ヶ崎 美嘉”の声に、諦めの溜息を深くついて青系の色彩豊かなアロハパンツを受け取った。まぁ、高級店しかないらしいので品質は間違いないだろうし、海に入るつもりはないがどうせ高確率で水浸しになるのならココで勘弁した方が利口かもしれない。そんな理屈で自分を納得させているウチに部屋の中に勝手に入っていく馬鹿娘五人衆が興味深げに中を探検し始めた。
「おー、こっちは洋室にしたんやねぇ。なかなか豪華でいい感じじゃん?」
「あ、凄い、この部屋ライトの色まで変えれるよ志希ちゃん」
「ふふふ、月夜に揺れる波の音を聞きながらこのムーディーなライトで君の心もキャッチーだよ、フレちゃん!!」
「うわぁ、見晴らし最高☆ これは自分の部屋にも期待しちゃいそうかな?」
部屋のソファーに座ってくつろぎ始める周子に、ベッドで愛人ごっこを繰り広げるレイジーな二人。ベランダに出て楽し気に潮風を浴びる美嘉らがそれぞれに駄弁っているのを聞きながら隣でクスクスと笑いを零している奏に素朴な疑問を投げかけた。
「…お前らまだ自分の部屋に行ってないのか?」
「そりゃそうよ、そんな悠長にしてたらあっという間に美味しい所を持ってかれちゃうと思って急いでお店を巡ってきたんだから」
「お前らはたまに意味が分からん事をいう」
「いいでしょ、別に。意味なんて自分で勝手につけていって満足するものなんだから。―――私たちの水着も、期待してていいわよ?」
結局、答えにも何にもなっていない言葉と嫣然としつつもはにかむ少女のアンバランスな微笑みだけを残して部屋で好き勝手過ごすメンバーを回収していく彼女。それに連なって楽し気に笑いながら声を掛けて出ていく少女達を見送って、その嵐のような騒がしさの後に残ったのは渡された陽気な海パンとさっきまで落ち着きを齎していたはずの静寂に感じる物足りなさだけだった。
そんな自分を小さく嗤って、のそのそとベランダで細巻きに火を灯して島を見渡す。
嫌いだったはずの喧騒。
それが無いと物寂しく感じる様になるくらいに自分の中に入り込んでるあいつ等を想って漏らした紫煙が風に溶けていくのを見つつ、太陽を見上げた。
リゾートが、始まる。
”LIPPSの選んだ水着シリーズ”を入手しました。