デレマス短話集   作:緑茶P

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_(:3」∠)_久々にぐっすり寝て体力全開!! 調子に乗ってランニングと山登りしたら体力全消費!!

('ω')誰か俺にスタドリをくれ……。

そんなこんなでビーチ編ラストはたっしーさんリクエストの”宮本フレデリカ”!!

ホントはリップス制覇のつもりだったけど個人的に満足したので次に移ってゆきます(笑)



夏の潮騒  ー 346リゾート編  ビーチ編 (宮本 フレデリカ編) ―

 ぼんやりとした意識がゆっくりと微睡をもって覚醒していく中で感じたのは馴染のないものばかりだった。漣が寄せては返す音に風に乗って感じる微かな潮の匂い。そして―――小町が生まれてからすっかりと縁が無くなってしまった柔らかな温もりと、耳朶を揺らして微睡を甘やかすような歌声。

 それらに引かれる様に思い瞼をゆったりとこじ開ければ広がる常夏の風景に竹で編まれた屋根に差された影。そして、作り物の様に精巧で整った顔が遠くの地平を見据えながら異国の子守唄を口ずさむ現実離れした光景だった。

 

 日陰の中にあっても煌めきを失わない金の髪とその肌を持つ“宮本フレデリカ”。後頭部に感じる柔らかなで滑らかな感触は彼女の太ももを借りて枕にしているのだと気が付いてもその普段は見せない彼女の触り難い雰囲気に推されて息を呑んで見とれる事しか出来ない。だが、そんな幻想的な時間も彼女がその視線を慈愛に満ちたモノに変えてこちらを覗き込んできた事によって終わりを迎えた。

 

「ん、起きた? はっちー」

 

「……残念ながら、な。それに―――あのバカ猫にされた事も今さっき思い出した」

 

 彼女との二人きりの誕生日以来たまに見せるようになった甘い蜂蜜のようなこの表情に胸が勝手に不整脈を起こしそうになるのを誤魔化すために意識を失う前の事を思い出して無理やりに顔を顰めてみる。それに付随してこの非売品の高級枕からも離れようとしたのだが、それは彼女の緩やかな手つきで額を抑えられることによって遮られた。

 

「んふふ、あれだけ無茶したんだからもうちょっと休んでた方がいいよ。……ちょうど、みんなも休憩に入ってる事だしね?」

 

 俺のせいじゃないだろ、なんて心の中で思いつつも耳を澄ませば確かにあれだけ姦しく響いていた浜辺は静かに波の音だけを響かせていてそれぞれが設置されている休憩場で一休みを挟んでいるらしい。柔らかな癖に離してはくれなさそうなその細腕に抵抗するのも馬鹿らしくなって力を抜く。いつから寝ているか分からないが――本人がいいというなら既に疲労困憊の体に鞭を打つ必要もないだろう。

 

 そんな俺を見つめクスクスと笑う彼女は掛けてくれていたであろうタオルケットを掛け直して触り心地も良くないだろう俺の髪を梳くように撫でていく。その久しく感じる事のなかった甘やかされきった行いが無性にこそばゆく感じつつも、ちびっこ相手などで疲れ切った体はゆるゆると現金に溶かされていきゆったりと体重を預けていく。

 

「今日のはっち―は素直で実にトレビアンだねー」

 

「疲れてんだよ……休日に家族サービスするお父さん方の苦労が今日だけで嫌ってほど身に染みたね」

 

「んふふ、はっち―はいいお父さんになるよ。この宮本さんが保証しちゃう!」

 

「なんの保証なんだか……他の連中は?」

 

 苦笑を漏らしつつ海側の方へと寝返りを打ちつつ他の話題へとシフトする。このおかしな状況も大概だが、まるで慈母のように微笑む彼女とその間に挟まるたわわな果実はちょっとだけ心臓に宜しくない。そんな男の諸事情を知ってか知らずか甲斐甲斐しく太ももの位置を微調整してくれながら彼女はその形の良い顎に指をあてつつ記憶を探りながら言葉を紡ぐ。

 

「小っちゃい子達は亜里沙先生とか清良さん達おねーさん組と一緒にお昼寝にいったよ。他はバラバラかな? 休憩したり、スイーツ食べに行ったり。元気な子達は素潜りでダイビングに行ったりね。ちなみに、はっち―の気になる志希ちゃんは秋葉ちゃんと一緒に常務に怒られて反省中でーす」

 

「……ま、妥当なとこか」

 

 それぞれが思い思いに満喫しているようで何より。それに、年少組の面倒を小まめに見てくれる大人組が最近は多く加入してくれているのでこういう不在時の不安が少なくなったのは本当に助かる。あいつ等が面倒を見られるようなタマかどうかは置いといて気分と沁みついたお兄ちゃん属性の問題だ。―――まぁ、志希達に関してはもう少しダラダラしてから適当にからかいついでに解禁してやろう。

 

「へいへーい。日本中が憧れる太ももを独占しといて他の女の子の事を考えるとかフレちゃんプライドが傷つくなぁ~?」

 

「めんどくさい事言い始めた……」

 

 わざわざ逸らした顔をかがんでまで覗き込む彼女。柔らかに梳いていた手は比企谷家のトレードマークのアホ毛を緩やかに握り、細めた目の奥はちょっとだけ笑っていないのが恐怖を煽る。―――やめろ、そのアホ毛は波平でいう所の3柱。いわゆるアイデンティティで不可侵だ。ごめんなさいすみません。

 

 あの日以来に見せるようになった彼女のこういう面倒な側面。

 

 二人きりの時は甲斐甲斐しく世話を焼いて、人を駄目にするんじゃないかってくらいに甘く微笑みかける癖に拗ねるときは途端に面倒で嫉妬深くなる子供っぽさ。そのくせ、他の人間が居る時はいつもの様におちゃらけた仮面を頑なに被りピエロに徹する。そんな両面を見ているとどうにも無茶や我慢を普段から重ねている事に気が付かされてほっとけなくなる実に厄介な奴なのだ、この女は。

 

 でもまぁ、そんな感情を特定の人間にでも見せられるようになったことはきっと歓迎すべき成長なのだと思う。それは、彼女がこの歳まで重ねる事の出来なかった“甘え方”という表現の拙いながらも、尊い一歩だ。

 

 俺は、すっかりとそんなものを家族以外にするやり方は忘れてしまったが―――彼女はいま、ソレを手に入れている。だから、そんな大きな子供の我儘くらいには付き合うのもたまには悪くない。

 

“私に構って”

 

 そんな幼稚ながらも誰もがいつか心の奥底に押し込んじまう根源的な願いはきっと、彼女の心にはもう少し必要な栄養素だ。

 

「……膝枕なんて妹が生まれてからして貰った記憶がないから、懐かしい」

 

「…………」

 

 俺の唐突な一言で細めた目を今度はぱちくりと瞬かせるその無防備な表情に思わず苦笑を零しつつも、寝心地のいい―――いや、必要以上に郷愁を思い起こさせるその温もりを回顧しながら言葉を微睡と一緒に紡いでいく。

 

「子守唄も、記憶が確かな頃にはもう妹への奴を横で聞いていたし、謳ってやるもんだと思ってた。それに、下手糞な唄に笑って眠る妹を見ててそれが嬉しかったから不満を感じた事も無いんだが……思ったよりも心地いいもんだな」

 

 ただただ思ったままの感情を漏らせば、心の中のこそばゆさの原因も自ずと分かってしまう。俺は、この温もりは“自分のモノ”ではないと思っていたのだろう。これは、自分に与えられるものではなく愛おしく、大切なモノが受けるべき恩恵なのだと信じていた。

 別に、ヒロイズムに浸るようなモノではない、その辺の長男・長女なら誰でも感じた事のあるありふれた感情。だから、こうして人の肌が自分に損得もなく触れ温もりを分けているという状況に意味のない罪悪感があったのだろう。だが、その本人が“そう感じろ”とここまで言ってくれるなら今日くらいは甘えてもいいんじゃないかと思うのだ。

 

 “お前の為にやっているのだから それ以外に気を逸らすな”と全身で伝えてくる不器用で甘え下手な女がこうも甘やかしてくれるのだから―――休暇のひと時くらいはソレに微睡んで身を任せても罰は当たるまい。

 

 そんな自己弁護を重ねてその細いのに自分の頭を柔らかく包み込む温もりにゆったりと体重を預ければ、柔らかな手櫛と声が戻って来て更に意識を緩やかに解していく。

 

「いつも、おつかれさま」

 

「…ん」

 

「気持ちいい?」

 

「……おう」

 

「はっちーも、たまにはこうして甘えていいんだよ?」

 

「………気が向いたら、な」

 

「  はっちー?  」

 

「……………」

 

「          」

 

 髪を好きながら問われる答えを求めるでもない声にうつらうつらとしながら答えていればゆったりと身を任せているウチにいよいよ瞼が重たくなってきた。返答もままならなくなってきた俺にゆっくりと何か柔らかいものが頬に触れ―――何かを囁いた。

 

 問いはするりと睡魔に溶け、ソレの後を押すように耳朶を撫でる優しい異国のわらべ歌が更に俺の意識を深く落としてゆく。

 

 

 微かな波と、風。そして―――温もりと唄を意識の端に感じつつ俺は、意識を手放した。

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 自分の腿からゆったりとした寝息が聞こえてきたのを合図に幼い頃、母に聞かせて貰った子守唄を紡ぐのを止めてその顔を覗き込む。

 

 気だるげに冷たく振舞う癖にその実、誰かれなく際限なく甘やかす彼。そんな自分以外の人間を引き付け、優しくするこの男に普段は随分とやきもきさせられている。だが、そんな普段の不満もこうして自分の膝元で無防備に寝ている貴重な表情を見せられただけでなんとなく溶かされてしまうのだからずるいと思う。

 

 誰でも甘やかす癖に―――誰にも甘えない。

 

 そんな彼に自分だけがこうして甘やかしている状況という征服感はちょっと、危ういくらいに自分の中のイケない感情を擽ってくる。こうして、ずっと自分だけを感じて、自分だけを想って、自分だけの傍に居てくれたら―――なんて考えてしまうくらいには、自分はこの男に狂っているのだから。

 

 でも、それはどうせ叶わぬ夢。泡沫の全能感。

 

 きっとこの男は自分の元から目覚めればスグに反省中の親友の元に行ってなんだかんだと許しを与えて、他の女の子達にあっという間に連れ去られてしまうオチは既に読めている。

 

 そんな事を冷静に考えてしまう自分の可愛くなさに溜息を一つ、彼の意識がなくなる寸前につけた唇の跡を未練たらしく擦るとむずがるように体を揺する彼に苦笑と小憎たらしさが半々に湧き上がって結局は晴れ渡った青空と海に愚痴を零すしかない。

 

「ずるいなぁ……、コレが惚れた弱みって奴?」

 

 どうせ、さっきの勇気を振り絞った愛の言葉だって聞き遂げずに夢の国に旅立った王子様の寝顔を共に私は小さく呟き、溜息を漏らした。

 

 

 そんなままならない人生初の恋に揺れる私を笑うように―――波がさざめいた。

 




_(:3」∠)_連休……あすは寝放題………最高。

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