デレマス短話集   作:緑茶P

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ヽ(^o^)丿祝・初有料リクエスト作!!

(/_;)ありがたい事にナスビのお話のリクエストを頂き、『ナスビ Good end』を書かせて貰いました!!

( *´艸`)”true end” や ”やめるってよend”とは違う甘々な二人の幸せの軌跡をお楽しみくだされば幸いです!!



=貴方に『幸福』を=

 おめでとうございます。

 

 課金アイテム“幸運の福引券”からの発生フラグ【幸運の女神】【無価値な寵愛】【その瞳に映った感情は】【夏の潮騒】【不埒な傲慢】等の達成 及び 各種パラメーターが条件値に達したことにより詩篇【鷹富士 茄子 Good end】が解放されました。

 

 この √ を選択しますか?

 

 

――――― 

 

→  ・Yes

 

   ・No

 

――――― 

 

 

 

―――――それでは、【鷹富士 茄子】との物語の一編を引き続きお楽しみください。

 

 

 

…………………………

 

 

 

 さてはて、世の中というのはいつも目まぐるしく変化を迎えているものだと私【鷹富士 茄子】なんかは思う訳です。

 

 もうこれ以上の進化はないと思ってたリンゴマークの携帯はいまだに新作機を生み出し続けてたり、長年勤めていた首相が唐突に入れ替わったり、お気に入りのコンビニスイーツはあっという間に消えてしまって悲しくなったりと人によっての大小様々な変化は望むと望まざると多くの人に訪れていて――――そんな変化は、私にも突然に訪れました。

 

 カコン、なんて気の抜けた音と共に自販機の取り出し口から吐き出された缶ジュース。

 

 普通の人ならばソレを手に取って、あるいは、もう一つ買うためにお財布に手を伸ばそうとするのでしょうが、私はそうすることも無く背筋をまっすぐ伸ばしてお決まりのおめでたい当選音と共に“おまけ”が出てくるのを待ちます。待つのですが――― 一向にその気配がないままの自販機に寒空のもと首を傾げてしまいます。

 何を寝ぼけてるのかと軽く自販機に足で活を入れてやりますがソイツは不満げに冷却音を再び漏らし始めるだけでただただ足の痛みと、自販機をいきなり蹴飛ばす危ない女認定されて不審げに見られる私だけが残るという実に遺憾な結果となりました。

 

「……あれぇ?」

 

 この“鷹富士 茄子”、この世に生を受けて不肖二十歳と少々の中で人生初の―――――“ハズレ”を引いた歴史的な日と相成りました訳です。

 

 

 これは、そんなどこにでもある変化の物語。

 

 

 呆然と立ち尽くす私を鴉が呆れたように笑ったのに中指を立てて、私はその足を進めたのでありました。

 

 

――――――――― 

 

 

「という訳で、買った缶ジュースも忘れてつま先が痛いのもそのままここに来ちゃったんですけど、急に私の幸運が無くなった理由を知りたいんですよ、“芳乃“ちゃん」

 

「ほー、缶ジュースを忘れてきたのも足が痛いのも完全な自業自得以上でも以下でも無いのでしてー」

 

「ち~が~う~く~て~! そういうのじゃないんですよ~。聞きたいのはそんな正論なんかじゃないんです~!!」

 

「童の様に床で駄々をこねるのは見た目上、オススメしないのでありましてー」

 

 そのまま直行した事務所で鮮やかな着物に身を包んだ小柄な彼女“依田 芳乃”がいつも寛いでいる事の多い畳敷きの控室に特攻して単刀直入、この異変の答えを教えて貰いに来たのですが、興味もなさそうに緑茶を啜る彼女はとても冷たい。もう、何なら駄々をこねて手足をジタバタさせる私を見る目はもう極寒である。そういうのは時子さんあたりのファンにやってあげれば喜ぶと思うので、私には是非とも温かい目で見守って頂きたい。

 

 そんな文句をグチグチと零しながら彼女の入っている炬燵へとズルズル潜り込んで勝手知ったる他人の控室と言わんばかりにお茶を急須から注いで寛いでいく。そんな私のふてぶてしさに呆れたように眉を顰める芳乃ちゃんに今度はこちらからチクリと嫌味を返してやる。

 

「大体、プロの“拝み屋”さんなんだからクライアントの要望は真摯に聞くものじゃありません?」

 

「わたくしが聞き遂げ与えるのは“値段にあった助言”であって便利屋ではないですしー、そなたが本気でその答えを求めているようには思えませんのでー」

 

 お前の“本業”と“秘密”を知っているぞ、と暗に仄めかす様な言葉を投げかけてはみるモノの全く意に介した様子もない彼女の反応が面白くなくて私は机の上の歌舞伎揚げをバリボリかみ砕きながら携帯をいじいじ。しばらくしてからピロリとなる彼女の携帯とソレを見た瞬間に顔を顰めたのが面白くて意地の悪い笑いがクツクツと漏れ出てしまった。

 

「……この口座をどこで知ったのかー、や。こんな大金を気軽に投げる倫理観を叱りたい、だのと色々言いたいことも聞きたいこともたくさんあるのですがー、その前に一つ。―――そなた、そんなに“アレ”に未練があったので?」

 

 ピコピコと携帯を操作して何処かに連絡っぽい物をしていた彼女がため息交じりにそんな事を呟く中で最後の問いの一瞬だけ瞳の奥が透き通って、自分へと一編の虚偽も許さないと言わんばかりに覗き込んでくる。

 おおよそ、年齢通りの少女は出来る訳ないし、してはいけない眼光に睨まれつつも私は興醒めな気分でソレを鼻で笑って見つめ返す。

 

「芳乃ちゃんみたいな不思議な経歴の持ち主の身辺、幸運でもハッキングでもなんでも使って調べないわけないでしょう? 送ったお金に関しても、たまたま転がり込んできたあぶく銭の使い道なんて“占い”ぐらいがちょうどいいんですよ。あと、最後の質問に関しては――答え合わせしない問題集って気持ち悪くないですか?」

 

「………傲慢と強欲、身勝手も過ぎれば純真無垢と変わりないのでしょうー。いや、むしろそれこそが神代の巫女に近しい素質なのかもしれませぬー」

 

 さらっと貶されたような気がしないでもないですが、なんとなく答えてくれそうな雰囲気なので不問にしてあげましょう。自分の寛大すぎる心に慄きながらも答えを急かすように彼女の隣へと移動すれば彼女は呆れの溜息を大きく吐き出した後にまた携帯を弄って今度は某有名な動画サイトを開き始めている。

 

「ん? 何してるんです?」

 

「ソナタは失せモノの無くなった理由を問いましたので―――その答えが“コレ”なのでしてー」

 

 古臭い拝み屋なんて商いを裏で営んでる骨董少女の癖に随分とハイテクな事だと呆れながら眺めていると、とある動画で彼女の指が止まってソレを再生する。ゲラゲラと明るい笑い声が響くスタジオで芸人さん達と―――自分が映っているのを見て首を傾げる。

 記憶が確かならば、コレは昨日の夜に生放送で取ったバラエティー特番だったはず。視聴率も上々、かくし芸も完璧、芸人さんとの掛け合いもばっちりで文句のない出来だったはずのソレを見せられてどうしろというのだろうか?

 

「ここのシーンが、今回の件の“理由”でしてー」

 

 そして、とりあえず数分だけソレを眺めていると―――その答えが目の前に映し出された。

 

―――― 

 

『私は神様の事べつに好きじゃないですけど、神様が私の事好きすぎちゃって(笑)』

 

『かー、いうねぇ!! 茄子ちゃん、いうねぇ!!』

 

――――

 

「 あ 」

 

「意中の相手からそんな事言われたら100年の恋も冷めるのでしてー」

 

 今日一の冷え冷えとした声と目線を向けてくる芳乃ちゃんを尻目に、私は確かに昨日自分が言った言葉を思い出して―――こう思ってしまった私をきっと誰も責められないはず。

 

 

“乙女かよ、神様”

 

 

 考えを読まれたのか“ベチリ”と頭を叩かれた。

 

 あいたぁ…。

 

 

―――――――――――

 

 

 とまあ、そんな事があって芳乃ちゃんの控室を追い出されてから、私の人生史上で最も何もない平凡な日々が早くも1週間が経ちました。

 

 道を歩いていてもお財布は拾わないし、買い物してもオマケも当選もせず、気まぐれに買った宝くじも全部が大外れ。ついでに言えば、少女漫画の様にあちこちで運命的なイケメンとの出会いもないそんな“平凡”な日々というのは慣れていないせいか随分と違和感を感じるモノでしたが、まあ、実際の所は困った事がないのが正直な所。

 今までが、見た事もない“神様”とやらが過剰にサービスしていたというだけで別に“幸運”という物がなくたって生活に困ることはないのだが――――世間様にとってはそうもいかない事らしい。

 

 難しい顔で首筋を擦る偉丈夫の“武内”プロデューサーを始めとして、経理のちひろさんや事務方の美優さん。それに、自分が絶賛アピール中の気だるげなアルバイトの彼“比企谷”さんまでもがプロデューサーの執務室に集い、乱雑に広げられた書類を睨んでいるという珍しい状況になってようやくその事を理解しました。

 多くのアイドルを少人数の部署で養っているために常日頃から多忙そうに各地を走り回ってる人達がこうして揃いの唸り声をあげて対応に困っているのがその証拠ともいえるでしょう。

 

 

 曰く、『弊社所属の”鷹富士 茄子”の撮影・収録の一時見合わせ』という物が一枚、二枚と……数十枚分くらい積み重なっている。

 

 

 目まぐるしい業界なので、色んな事情でそういう事も珍しくはないのだが、ここまでの分量になればそれはちょっと異常だ。これが不祥事によるものだったならそもそも見合わせや延期なんてモノではなく普通に切られているし、納得も行くのだが――そんなことも無く全ての収録が順調に消化されている中でこうなるというのは珍しい例だろう。

 

「これが、登用の取り消しだというのならまだまだ戦いようもあったんですけどねぇ…」

 

 おもっ苦しい空気の中で最初に口を開いたのはめんどくさそうに積み上げられた書類の数枚を手に取ってピラピラと弄ぶように揺らしたちひろさんだった。そんな彼女の仕草に張りつめていた空気は苦笑とは言えど少しだけ和らいで、それぞれが現状についての打ち合わせを行い始める。

 

「どこもかしこも、機材や現地トラブルに共演者の日程調整なんて取ってつけたような理由での延期でそれ以上の事もリスケも全く送ってこない状況です」

 

「まるで、意図的にその話題に触れる事を嫌がっているみたいな雰囲気で…」

 

「確かに、明確な過失がない状態でこうなるというのは極めて稀なケースです。向こうも、明確な理由をあげないまま収録や放送のバッファを削ってでも様子見に入ったというのは“鷹富士”さんだからこその事態といえるかもしれません。……それで、その、こういった事を議題に上げるのも管理職としては憚られるのですが――」

 

 比企谷さんが気だるげに携帯端末に表示した予定表は全て再調整の一言が加えられている。それらの多くにはこの部署が業界の鼻つまみ者だった頃から付き合いのある情に厚い所も含まれていて、多少の醜聞で撮影や収録を止めるような柔な人達ではない事を知っているだけに今回の異常事態がなおの事、目についてしまう。

 

そんな現状に眉間を揉み解した武内さんが囁くような低い声で纏めたあと、一転してしどろもどろになりながら目線を泳がせ言葉を詰まらせるのがちょっとだけ面白い。というか、何処の取引先も公式に口には出さないだけで耳にタコができるくらいにその噂が広がっているのだから“今更に取り繕う必要もないのでは?”なんて思ったりしてしまうのはご愛嬌だろう。

 

「というか、週刊誌やニュースで普通に”幸運の女神 クジを外す!? 天変地異の前触れか徹底議論!!“なんて報道されている時点で言葉を濁すのも馬鹿らしいでしょう。―――なんなの? この記者もお前も馬鹿なの? 死ぬの?」

 

 そんなプロデューサーの気づかいをぶった切るように比企谷さんが脇に置いていた雑誌を呆れたような軽口と共に机の上にほおり投げた事によって全員がガックリと肩を落とした。

 

「むぅー、いきなりなんて事を言うんです。というか、自販機のあたりが出なかったりくじ引きが3等だったりとか記事にされている私をまずは労うべきじゃないんですか~?」

 

「そんな意味の分からん内容でスケジュールを総見直しになる俺や向こうのスタッフが一番被害を被ってんだよなぁ……」

 

「あっ、今のちょっと嫌味ですよ! 自分が一番つらいと思う奴にはならない♪、という名フレーズに対するアンチテーゼです、今のは!!」

 

「べりべりすとろんぐ してる場合じゃないんだよ、バカ野郎」

 

 張りつめた空気も一転。キャンキャンとじゃれ合う様に罵り合う私達二人によってさっきまでの深刻さはあっという間に霧散してしまい、他の人達も困ったように笑ったり、呆れたりしつつコーヒーを入れ直したりすることによってこの問題は仕切り直しと相なります。

 そうして、どさくさ紛れに彼の隣に座り込んだ私が入れ直して貰ったコーヒーとクッキーをボリボリし始めた頃には、難しいお話をちひろさんとしていた武内さんがその厳つい顔を困ったように歪めつつも今度は少しだけ開き直った様に言葉を紡ぎます。

 

「まあ、端的に言えば先ほど話題に上がった事が原因だと見ても間違いはないと思われます。……こういった風評被害はこの業界ではつきものですし、珍しい事でもありませんので現状では様子見というのが最善策だという結論に至ったのですが――鷹富士さんはその方針でも問題ないですか?」

 

「え? あぁ、はい。私的には全然問題ないですよ~」

 

 というか、そもそもがいつ戻るか分からない“幸運”という物がない生活にも不満がある訳でもない。それに、最近はそれこそありがたい事に仕事が多すぎて目が回る程だった事を思えばここらで一旦すこし休暇と洒落こむのも悪くないと思うのだ。

 レッスンも舞台の勉強も、芸人さんとの掛け合いの為の予習も苦ではないし面白い物ではあるのだが最近は多忙さにかまけて随分と雑になりつつあったのも間違いない。この機会にのんびりとそういう時間を取れるというのは一周まわってありがたい機会ともいえる。

 

 そんな私の返答に事務方の皆さんがほっと胸を撫でおろしたのを感じてちょっとだけ笑いそうになるのを堪えた。

 

 今回の件で彼らの一番のネックは“過失がない”という部分だったはず。仕事自体も延期というだけで無くなった訳でもないのに、幸運という不確かなモノを理由に休業を言い渡されれば普通の人間なら拗ねるか、荒れるかのどっちかである。

 ここで、ソコソコに売れている私が荒れて揉め事や移転なんかを仄めかせば彼らは無理矢理に圧力を使ってでも仕事を作らねばならず、余計な禍根をあちこちに残さねばならなかった。そういう意味では今回の件は丸く収まったともいえるのだからめでたしめでたしである。

 

 そう思って纏めようとしたところで、ちょっと悪戯心がむくりと起き上がったのを感じる。せっかくなら、最後にもう一押し空気を緩くするためにおチャラけて見るのも悪くないだろう、なんて一人心の中でほくそ笑んで隣に座る“彼”の腕にしな垂れかかる様に抱き着く。

 

「というわけで、休暇中は比企谷さんの事もちょっとお借りしていきますね♡」

 

「はぁ? そんな暇ある訳が……なんで皆さん黙ってるんすか?」

 

「「「……いや、それは………ごねられたり、拗ねられる方が……ぇぇ……というか、労基がそろそろ………では、そういう方向で……」」」

 

 抱き着ついて猫なで声をだす私に顔を顰めていつもの様に軽口を返そうとした彼を真顔でジッと見つめた事務方正社員達が円陣を組んでぼそぼそと何かを打ち合わせし始め、不穏なワードが漏れ聞こえてくる。

 

 そんな謎の光景を二人で息をつめながら眺めていると、内密の会議も結論が出たのか、ちひろさんが代表となったらしくこちらにニッコリ笑顔で近づいてきて―――

 

 

「庶務・雑務担当 アルバイトの比企谷君。君にはこれから短期間の休暇中に限りですが不調中の茄子ちゃんの日常生活のサポートを命じます。 拒否権はなく、サボった場合は死ぬよりむごい目に合う事を心に刻んで励んでください」

 

「「 えっ 」」

 

 

 そんな予想だにしなかった棚ぼたが私と比企谷さんの前に超特急で投げ込まれ、二人揃って間抜けな声を出すしか出来なかったのでした、とさ。

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 ちらりと手元の腕時計を覗き込み、それだけでは信用ならないと公園に設置された時計も確認する。何度見ても秒針一つ違わない結果を見届けた後に自分の立っている店の前に張られているショーウインドウで身だしなみ確認。

 秋空に映えるであろう全体的にゆとりがあるボルドーニットにキレイ目のカーキスカート。その上に甘さを出すための純白の大判のストールを羽織った事で温かさと柔らかさな印象のままに上品さを損なわない徹夜で考えた渾身のコーデは何度見ても一部の隙も無い、はず。

 

――――無いはずなのだけれども、それでも何度も確認して自分を奮起するのは乙女の悲しい性か、それとも、あの掴みどころのない今日のデート相手の好みを把握しきれていない不安によるものか。

 そんな何度も繰り返した自問自答に結局は答えを出すことも出来ないまま、約束の時間には40分も早い時計をまたソワソワと眺める体制に戻ろうとした所で低く気だるげな声が掛けられた事で心臓が飛び出そうになる。

 

「……約束よりこんな早く集合されてると気まずいんすけど」

 

「うひゃっ!! じゃなくて―――えっ、ひ、比企谷さん、どうしたんですか!? 約束の時間まであと40分はありますよ???」

 

「おい、その言い方だといつも遅刻してくるみたいに聞こえるだろうが。――もしかして、かなり待たせたか」

 

「ほ、ほんの二時間前に来たばっかです♡」

 

「どうせ繕うなら、やり切って欲しかった…」

 

 慌てて振り向いた先にいるのはいつもの澱んだ瞳に特徴的なアホ毛が揺れていているのは変わらないのに、その装いは一転している事が更に動揺を誘って余計なことまで口ずさんでしまった。あって早々にげんなりと溜息を吐いて細巻きを咥える彼の服装は見慣れたそんな動作にすら色気を加えている。

 

 いつものシャツに黒のパンツという見慣れた格好に薄いベージュのカーディガンを羽織って首元にネックウォーマーを一つ巻いただけだというのにまるでファッション誌のワンシーンを切り取ったような姿になるのは本人の資質のせいか、それとも、惚れた弱みでそう見えるだけか―――答えは出ないが、そんな装いをしてくれる位には気を使って貰えたという事実にお腹の奥からポカポカとしてしまう自分はきっと大分ちょろいのかもしれない。

 

 ただ、ソレを素直に認めてしまうのもちょっとだけ癪なのでいつもの様にお道化て彼の腕をしゅるりと取ってニマニマと顔を覗き込んで見る。短期休暇限定とはいえ、見分を広げるという名目にさえ乗っ取れば彼を独り占めできる貴重なチャンスなので存分に構って貰うためにココでの主導権は譲れません。

 

「うへへぇ、そんなこといいつつも比企谷さんだってこんなにおめかしして早めの集合だなんて待ちきれなかったんじゃないんですか~?」

 

「見た目以外はホントにつくづく残念なナスビだよなぁ、お前って…」

 

「……ほぇ? あれ、いま、もしかして、」

 

「ほれ、今日は気になってた俳優の舞台の“見学”なんだろ? さっさと行くぞ」

 

「あっ、ちょっと!! いま、私を超絶カワイイって言いましたよね!!? もう一回!! 今度は録音するんでもう一回お願いします!!」

 

「言ってない。断じて、そんな事は言っていない」

 

 さらっと、零された言葉の真意を問いただす前に彼は組まれたままの腕を振り払うことなくのそりと歩き始めてしまいます。それに引かれるように足を進めつつも聞き間違いでなかった事を確かめるように彼の顔を覗き込もうとしつつ何度も呼びかけますが、答えは釣れないものばかり。

 

でも、きっとアレは捻くれた彼の最上級の誉め言葉だと知っているから

 

 それだけでも、今日のために費やした時間はきっと無駄ではなかったと私は心から思えたのです。

 

 晴れ渡る秋空の晴天に、馬鹿みたいに騒がしい二人の声が愉快に響き渡りました。

 

 

 

―――――――――――

 

 

 暗く、静まり返った会場に朗々と情感の籠った台詞が響き渡り、誰もが彼らの紡ぐ物語の行く末に息を呑んで見守り、結末でそれぞれの願いが報われる事を祈って熱い眼差しを向けている。

また、コミカルな動きから、迫力のある演技に真に迫るような切迫感。それら全てを自分のいま体験している事のように表現するその演者たちの一挙手一投足が全てに魂が籠っていて確かに、若手実力派のみで構成されたという前評判に恥じる事のない演目であった。

 

 ただ、そんな豪華な舞台を前にしてなお俺が目を引かれるのは―――隣で瞬きをすることも無くソレを見つめ続ける女だった。

 

 演目が始まる瞬間までいつもの能天気さでくだらない事をベラベラと話し続けていた彼女は会場の灯りが消えた瞬間にその金色に近い鳶色の瞳をピタリと舞台に定め、呼吸しているかすら分からない程にただただ無心に流される演目の全てを貪欲に貪っていた。

 足運びを、呼吸を、発音を、瞳で交わされる合図を、観客に伝えるための細かい工夫を、小さな癖を―――何一つとして見逃すまいとするその姿勢に困惑する。

 

 幸運に愛され能天気に、傲慢に育った彼女。

 

 幸運を抜きにしても、全ての物事を追求し貪欲に学び続ける彼女。

 

 その落差に、彼女の輪郭がたまに分からなくなる。

 

 だが、思い返してみれば自分が他人の何かを理解できたことがあった試しなどないのだからその思考だって意味の無い物だ。勝手に想像して、勝手に願って、勝手に期待して大けがを繰り返してきた。―――だから、俺は経験に学ぼう。

 

 期待も、失望もしない、ただソコにいる陰でいい。

 

 隣の女を見て疼きだしそうになる俺の自意識を強く戒めて、俺は静かに彼女に向けていた視線を舞台へと戻した。

 

 演目は、誰よりも“本物”を蔑み、誰よりも“本物”を待ち望んだ哀れな王の物語だった。

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

「ふぅ、なんだかんだでやりたいことを思いっきりやっていればあっという間でしたねぇ」

 

「予定を詰め込み過ぎなんだよ…。ほぼ後半は意地になってこなしてた感まであったぞ」

 

 私が満足げな溜息を交えて、しげしげと茜に染まっていく海に向かってそんな事を零せばみっちり過密スケジュールに付き合わされた彼が心底うんざりといった風情で応えるのに思わずコロコロと笑いが零れてしまいます。

 

 短期休業を私が言い使ってから早くも一週間が過ぎ去りました。いまだに幸運の神様が戻ってくる兆しはないですが、それでも今まで溜まっていた遣りたい事を一気にやり切ったお陰で充足感に満ちあふれています。

 見たかった観劇や映画を節操なくハシゴして、知り合った芸能人さん達に教えてもらった隠れ名店を思うがままに味わいつくし、見て見たかった景色を求めて山に川にと彼に車を走らせて貰って―――寝る暇もないくらいに駆け巡った最後の終着点として連れてきてもらったのがこの誰もいない海岸でした。

 

 “貴方の知っている一番綺麗な夕暮れが見える所”という半ば冗談交じりで言った抽象的なリクエストに彼が選んだのは彼の故郷である千葉の片田舎にある海岸。観光地として気の利いた施設がある訳でもないただの海でしたが、その分、人気もなくただただ潮騒の音が沈みゆく夕日に黄昏時を伝えている清貧な雰囲気が心地いい。

 

 そんな海の岬にある灯台の元で手すりに二人で寄っかかりながら感想や文句、愚痴なんかをだらだらと零して苦笑を零し合ったりしているとあっという間に日は沈み、煌めく灯台の灯りが果てのない闇の地平へと呑まれて行く時間になって、私は一歩だけ彼に詰め寄ってその肩に頭をこてりと乗せます。

 

「比企谷さんって、気遣い下手ですよね」

 

「……よく、言われる」

 

 ちょっとだけ嫌味と意地悪を込めた言葉に彼は怒るでもなく小さく苦笑を噛み殺しながら細巻きに火を灯す。まるで―――そうすることで世界と自分の間に紫煙で幕を張るかのように。

 

 入って来るなと、警告するように。

 

 それでも、私は 踏み込む。

 

 こんな痛ましい人を、一人になんてしていられないから。

 

「ずっと、おかしいなって思ってたんです。いつもは手負いの獣みたいに絶対に一線を越えないように振舞ってた比企谷さんが甘かったり、褒めたり、隙を見せたりし過ぎているって」

 

「………酷い言われようだな」

 

 おチャラけて逃げようとする彼を逃がすまいと抱き着けば、自分より一回りも細くて小さい存在に抱きしめられただけのなのにまるで何かに怯えるように彼の体は強張ったのが疑念を確信に変えて、それが悲しくて、そうじゃないと伝えたくて言葉を紡いでいく。

 

 

「心配してくれてるなら、そう一言でも言ってくれないと分かりません」

 

 

--------------

 

 

 沈黙は何よりも雄弁、というのはこういった時に生まれた言葉なのかもしれないと俺は小さく心の中で苦笑を零しつつ、涙目で睨んでくるナスビ…いや、茄子にどう答えるかを決めあぐねていた。

 

生まれついて持っていた『幸運』というモノを失くしたコイツと強制だったとはいえ過ごした日々で行った事にはそういった意味合いが多く含まれていたのは否定できない。慣れない誉め言葉に、過剰なボディタッチも好きにさせて、挙句の果てには優男みたいに気障なエスコートの真似事までしたのは“それで気が紛れるのならば”と言った打算じみたものがあったのは確かだし、それなりに効果はあったような気がする。だが、それが壁に直面している彼女に対しての心配からの配慮だったのは随分と初期のあたりから形骸化してしまっている。

 

 あの、真剣に舞台から何かを掴もうとする瞳が。

 

 あの、無邪気に映画を楽しむ姿が。

 

 あの、せっかくの景色が雨で台無しだった時に悔しそうに空を睨む表情が。

 

 『幸運』だのなんだのを差っ引いても強く、眩しく輝く彼女に対してそういった打算や憂慮は持てなくなっていて―――単純に彼女の目まぐるしく変わる表情を見たくてそうしてしまっていた。

 

 何度も頭の奥底が“繰り返すな、踏み込むな”、と警鐘を鳴らす。

 

 それを掻き消すくらいの温もりを伝えてくる目の前の女の子に暴れ出した自意識が身を捩るように“違う、そうじゃない”だなどと叫び出しそうになるのを奥歯を噛みしめて堪える。

 

 “お前に、そう接したのは×××からだ”

 

 黙れ、出てくるな。

 

その身勝手な妄想や理想の押し付けが――大切だった少女を泣かせた。

 

 言葉は口に零せば、すれ違って、傷つけて―――全てを壊す。

 

 ならば生涯、口を閉ざして朽ちていこうと決めただろう。

 

 違えるな、絆されるな、緩むな――――俺は

 

「私は、言えます。 貴方が心配です。 貴方が苦しそうにしていれば泣きたくなります。 貴方が他の子ばっか構ってるとムカつきます。 貴方といると楽しいです。 貴方が――、 貴方が――――人に心を通わすのが怖いというなら、私がウンザリするくらいに、飽きるくらいに伝えます。

 

 

  貴方が――――好きなんです  」

 

 

 必死に逸らそうとした目を手で押さえられ、まっすぐな瞳そのままに――彼女は膨大な想いを俺に流し込んでくる。そして、今まで見たどんな顔よりも優しく慈愛に満ちた表情で微笑んだ彼女は俺の唇を奪った。

 

 冗談のように柔らかな唇に自分の口内を愛おしむように撫でさする真っ赤な舌。その行動と感触に驚愕した俺は阿呆のように目を見開くことしかできず、押されるがままに近場のベンチへと尻もちを付いてしまった所でようやく彼女の唇が糸を引いて離れた。

 

「な、 にを…」

 

「貴方が、言葉にするのが怖いっていうなら何度だって私から勘違いのしようのないくらい伝えます。言葉で伝わんなくたって体で伝えます。―――幸運の無くなった私にだって、貴方に好きって気持ちで満たして幸せにしてあげる事くらいできるんです」

 

 そう、最後に微笑んだ彼女は唖然とする俺にのしかかり再び余計な事を口ずさもうとする俺の口内を蹂躙する。何度も、なんども、なんども繰り返される水っぽい音を響かせる交接と、息継ぎの合間に脳内を溶かす様な甘い声で好意を囁き続けられるウチに俺の思考も溶かされていき意識が朦朧としてきてしまう。

 騒ぎ立てる理性は甘く重たい言葉に打ちのめされるたびに黙り込んでいき、長すぎるキスによる酸欠かフワフワし始めた体が唯一感じられるのは体の奥に静かに灯った情欲の熱と、秋の冷たい海風の中で無防備に自分に柔く温い体を擦りつけてくる女の体温だけとなり始めた。

 

 そんな状態を目ざとく見抜いたのか、それとも、一目で分かるくらいに自分の理性のタガが外れていたのかは定かでないが――――

 

 

「幸運の女神じゃない私の処女でも、貰ってくれますか?」

 

 

 恥じるように初雪のように白く、淫靡な女体をまろび出して誘う彼女を見た後の記憶は――――海から太陽が顔を覗かせるまで全くなかった事をココに告白させて頂く。

 

 

 

 

 

 

―その後 という名の 後日談―

 

 

 

「あ、鷹! それ私のマフラーじゃん!!?」

 

「あれっ、お賽銭の小銭って誰がもってる?」

 

「扇ちゃん、もう出発するからゲームしまおーよー!!」

 

「霞ちゃん、武内君を墜とすならいい雰囲気になった時にガっと行くんですよ? お母さんはそれでお父さんをゲットしました!!」

 

「お母さんマジうっさいっ!! 紅葉(こうよう)とはそんなんじゃないっつってんでしょ!!」

 

 今年も除夜の鐘がゆく年を見送りくる年を迎える音を告げるまで間も無くとなった頃、我が家の玄関は神妙さなど程遠い喧騒が溢れていてどうにも改まった気分とはなりずらい。そんな変わらぬ日常に思わず苦笑を零しつつも、一番年下ののんびり屋の愛娘のマフラーを締め直して体が冷えないように整え、ようやく五人姉弟が出掛ける準備が出来たのを見回して声を掛ける。

 

「まぁ、大丈夫だと思うけど皆ちゃんと霞の言う事を聞いて、きちんとお参りしてこい。――霞も悪いけど頼んだわ」

 

「ん、了解」

 

 気だるげな目尻に比企谷家のトレードマークのアホ毛を揺らす高校二年になった長女に声を掛ければぶっきらぼうな返答が短く返ってくる。反抗期と思春期真っただ中で昔のように無邪気に笑う事は減ったがそれでも何くれと下の弟妹の世話を見てくれる優しい娘に育ってくれている。

 そんな俺らの横では結婚当時から変わらない嫁“比企谷 茄子”が下の子供たちに目線を合わせつつ楽し気に声を掛けている。

 

「みんな初詣が終わったら武内君達も連れてきてあったかいお蕎麦をたべましょーね~。なんと、今日は海老が二匹も入ってる豪華版な上に夜更かし無制限のスペシャルdayですからお年玉を掛けた人生ゲームデスマッチ開催予定!! 勝ち残るのは誰だ!!」

 

「「「「おれだー!!」」」」

 

 パリピよろしく玄関先で小踊りを始める馬鹿嫁と大興奮の弟妹たちに全く同時に溜息を吐いて肩を落とすのだから俺の苦労性は長女に受け継がれてしまったらしい。なむさん。

 そんなこんなでバカ騒ぎをしているウチに除夜の鐘は刻々と近づいて、待ち合わせ場所で律儀に凍えているであろう上司の兄妹に風邪を引かせるわけにもいかないので騒がしい彼らを送り出した。

 

 玄関先から暗く冷え込んだ夜道を大はしゃぎで歩いていく彼女達を見えなくなるまで見送った所でようやく一心地ついて、肩の力を抜く。

 自分に似ずに明るく陽気な嫁の性質を多く受け継いだ子供たちの日々は底抜けに愉快で飽きがこないが、その分、気が抜けない。だが、そんな騒がしい日々に慣れているとこうしてあいつ等が出掛けた後の家の静けさというモノが嫌に耳について少しだけ寂しさを感じてしまう。

 

「ふへへ、賑やかな家族の時間も大好きですけど……久々の二人っきりですねぇ」

 

「なんでお前がセクハラしてくる側なんだよ」

 

「あだっー! 何ですか! いいじゃないですか!! ちょっとくらい姫始めをフライングしたって罰は当たりませんよ!!」

 

「お前の煩悩は108所のレベルじゃないな……」

 

 そんな寂寥感に浸っている気分は――腕に感じ慣れた体温と、だらしない顔で俺の一物を撫で擦ろうとしてくる馬鹿ナスビの頭をひっぱたく事であっという間に雲散霧消してしまった。俺のセンチメンタルを返せ、馬鹿やろう。

 馬鹿の事を喚き続ける嫁に取り合うことも無く、腕にひっつけたまま温かい家に入りリビングへと戻ると華やかに紅白のクライマックスを飾る豪華な歌手陣の中にご近所の武内夫人が堂々たる貫禄で大観衆を沸かせているのが映っていた。

 

 

「お、さすが楓さんですねぇ。もう、18年連続出場なのにいまだ色あせないとかもう怪物ですよ、怪物」

 

「これで二児の母だってんだから詐欺だよなぁ……お前はちょっと腹がムチってきたな」

 

「新年早々に派手な夫婦喧嘩がしたいんでしょうかね~、ウチの旦那様は~」

 

 炬燵に一緒に潜り込んだ拍子に昔よりエロい肉付きを醸しだした腹を摘むとかなり強めに抓られて思わず笑ってしまう。―――お前だって子供五人も生んでこれなら十分に化け物だろうに、何が不満なのやら。

 隣どおしいつもの指定席で小競り合いをしつつ、こんな日々のもう早20年近くたっている事が妙に感慨深い。

 

 結論から言えば―――あの海岸の一夜で見事に茄子を孕ませてしまった。

 

 それが発覚した時の346社内の大騒動は思い出すのも嫌になるくらいの事件となり、今も社内で脈々と受け継がれているらしい。曰く、包丁が飛び交い、阿鼻叫喚が響き、長期間自我を失い海や空を眺めるだけになり果てた人間が多数いたとかいないとか。……というか、満面の笑顔であの検査結果を振り回しつつ社内のど真ん中で報告したコイツの責任が大部分でしょ、あれは…。

 

 ともあれ、そんなこんなで責任を取ることになった俺はしこたま常務に半殺しにされかけたわけなのだが――あらゆる事情と恩情の末に無事に大学卒業書と就職先を失うことも無く346にそのまま入社させて頂く事を許されたのである。

 

 曰く、『責任というのならば短慮に投げ出さず全てを抱えて走り続けろ』との事。

 

 ウチの常務はちょっと男前すぎると思う。

 

 茄子の方はといえば、『幸運消失疑惑』はあっという間に『電撃妊娠』という報道に塗り替えられ賛否が盛大に分かれつつも最終的には世間に温かく迎えられたと言っていい結果に落ち着いた。もちろん、そうなったのはデレプロのアイドル達が誰よりも祝福とフォローに身を費やし、武内さん達があらゆる手を尽くして俺たちを守ってくれたという事があってこその結果なのだから―――本当に恵まれていた。

 

 常務からも“アイドル”ではなく“女優”や“タレント”の道も用意できると言って貰えていたのだが、結局の所、茄子は芸能界から身を引いてその間の貯蓄を元手として株やら何やらを幸運に頼らない才覚だけでやりくりしつつも専業主婦になることを選んだ。

 

 入社見込みのアルバイト社畜と“元”幸運の女神は、そうして色んなものに助けられながらも平凡で――ちょっと子だくさんの家庭を今日もこうして過ごせている。

 

その奇跡を、テレビの奥に映る光景を目にしつつ夢か幻なのではないかと一瞬だけ疑ってしまった時にふわりと柔らかく、温かい抱擁が俺を包んだ。

 

「ね、貴方」

 

「……急に、なんだ?」

 

 その抱擁に押されるがままに俺の上に跨る彼女があの頃と変わらない微笑みで俺の瞳を覗き込んで、小さく呟いた。

 

「わたし、まだまだ全然こんな幸せじゃ満足してないので―――覚悟してくださいね?」

 

「…………お前には、負けたよ」

 

 これだけの幸せを人につぎ込んでおきながら、まだまだ、もっともっとと貪欲に求める彼女に思わず笑ってしまい、白旗代わりに両手を上げると彼女はガキ大将のようにニシシと笑いながら―――甘いキスをした。

 

 味わうように、噛みしめるように―――幸せの味を俺へと刷り込んでいく。

 

 遠くから聞き覚えのある子供たちの賑やかな声とソレに戸惑う上司の兄妹の声が聞こえる。

 

 きっと、この甘く優しい時間はこれから更に濃度を増していく予感がある。だから、俺もこの幸せが偽物かもしれないなんて怯えるのをもう辞めよう。

 

 いまだに疑念の眼を光らせる理性の瞼にそっと手を添えて―――今まで言えなかった言葉を紡いだ。

 

 

「茄子――――愛してる」

 

「私もです―――八幡さん」

 

 

 そんな囁きを漏らして二人で額をくっつけて笑っていると、静かな家に騒がしい子供たちの帰宅を告げる声が響き渡った。

 

 

 こんな幸せな日常以上に望むものなんて―――あるものか。

 

 

 

 

『鷹富士 茄子』 Good End  終わりん♪


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