ソファーで寝そべっていた俺にのそりと体の上に柔らかくて熱く、それなりに重量感があるものが圧し掛かるのを感じて、心地いい酩酊感から来る微睡がぼんやりと薄れていくのを感じて重い瞼をちょっとだけこじ開けた。
その先に映るのは、紗のような黒髪の書くから覗く空色の瞳が月光を幻想的に反射させた女がいた。その瞳もやはり先ほどまで一緒に呑んでいた酒精の影響かとろりと蕩けたような塩梅で普段の知性的な静けさとは違った光を放っている。俺が目を覚ましたことに気が付いただろうにそれでも彼女は人の顔を物珍しい動物でも見るかのようにしげしげと眺め、その華奢でヒヤリとする指で輪郭を確認するように柔らかくなぞってクスクスと鈴のような声で忍び笑いを零す。
大学に入って、しばらく。ひょんな縁から知り合った彼女と出会ってから結構な時間が流れた。お互い多弁な方ではなく人込みを嫌って本の虫だったせいか生息域は自然と被り、彼女の叔父の我儘や希少本のやり取りをしているウチに周囲からは自然と付き合っているものだと認識されているらしい。
だが、それも人嫌いの気のある自分たちは都合がよく何より―――こうしてたまに飲み交わす酒の席で体を交わる事を何度も重ねているのだから否定もしずらいし、わざわざソレを声を大にして解説する相手もいなかったのでこの関係はダラダラと続いている。
そんな彼女も知的好奇心は旺盛で、一度こうして体験すれば他の知識も試したくなるらしく情事が一通り終わった後は思いつきで自分のお気に入りの図書にあったシーンをなぞるように振舞う事が多い。
今回は何だろうかと思って好きにさせていると、そのままグラスに残っていたワインを口に含んでおもむろに俺の唇に重ねちょっとずつ流し込んできた。
赤の渋さと甘み、ソレに彼女の唾液なのか特有の滑りを含んだされをされるがままに飲み込んで―――最後に呑み切った事を確認するように口内を一周丹念に嘗め回した彼女は満足げに微笑んで酒臭いキスを俺の頬に落とした。
「……今度は、なに読んだんだ?」
「中世ヨーロッパで書かれた、怪談ですね。病気で死んでしまった愛する人が信じられなくて、最後の方にやっていた自分の口で噛んだ食物や飲み物を与え続ける内容で――とても悲しくも背徳的でした」
「寝てるだけの人間を、勝手に殺すなよ……」
「わぷっ……。比企谷さんの寝顔はとても綺麗で、もしかしたら、そうなった主人公もこんな光景を見ていたのかと思うと随分と感慨深いです。でも、やはり、肌を重ねるなら――これくらい温かい方がいいですね」
縁起でもない事を言う彼女を引き寄せ肌寒さを誤魔化す肉布団としてその豊かな身体を引き寄せればスズランの香水と、微かに先ほどまでの情交の残り香が鼻孔を撫で、同じように匂いを確かめた彼女が深く息を吸った後に楽し気にコロコロと笑いを零して俺に体重を乗せてくる。
「……知らないうちに殺されないように、もう少し痛めつけとくかな?」
「くふふっ、返り討ちに合うかもしれませんよ?」
その身体の柔らかさにあれだけした後だというのに固く立ち上がる男の性をゴリっと軽口と共に押し付けてやれば、一瞬だけ驚いた彼女は楽し気に、その瞳に今度は分かりやすい情欲を灯して撫でさする事で応えた。
「そういや、この前されてたスカウトってどうしたんだ?」
「? 読書の時間が減るので、断りましたけど?」
「あ、そ」
俺の大学生活は 順調に―――淫らに堕ちていく。
(´ー`)ある意味では幸せっぽいのがなんとも…