ヽ(^o^)丿今日は沼友の雪見さんからのリクエスト代価である”泰葉”回!!
さてはて、季節はあっという間に移ろいゆくものであれだけ暑かった日差しはあっという間に心地いいものになって逆に日陰に入れば薄ら寒くなるような有様になってきた。そんな陽気に合わせる訳でもないのだろうけど芸能界のファッションというのも日進月歩、先取り上等してなんぼな世界なので求められるアイディアはもう既に粉雪がちらつく頃の装いなのである。
まあ、つまり、有体に言えば自分の所属する346プロダクションのロビーに併設されている喫茶店でさっきから空回るデザインラフを書いては消して書いては消してを繰り返しているのは全くそのその作業が進んでいない事からの現実逃避という奴だ。
ついには完全に止まった手からペンを放り出して何杯目かも分からない紅茶をズルズル吸い込み溜息を零すだけの産廃へとなり果てた私“佐藤 心”は気分転換に秋の陽光を燦然と受けて輝く豪奢なロビーに視線を流し、時間を食いつぶす。
かつての一介の地下アイドルであった自分がひょんな出会いから“デレプロ”に拾って貰ったきっかけである衣裳デザインの業務。実はこの仕事がアイドルと兼任で続けさせて貰ってる事は一般にはあまり知られていないが、かつて作られた同僚たちの衣裳のほとんどには関わらせて貰っている。
それは、ここがトップアイドルになり小早川コーポレーションの援助が受けられるまでに人手が足りなかったという切実な理由もあるし、個性的なアイドル達の意見を忌憚なく聞き出してソレを制作側の可能領域までの落し所を探せる人材というのがいまだに見つからない事が起因しているとはいえ、何よりもやっぱりこの仕事に愛着と誇りがあるからそういう部分で力になれているというのは素直に嬉しいし、誇らしい。
ただ―――それが無限にこなせるほどに才能が溢れているかどうかはやっぱり別問題。
ただでさえ普通のアイドルグループを超える大人数。その上、それら全てがぶっ飛ぶ個性を抱えている子達の特性を掴みつつ、予定されている新規・既存ユニットのイメージを損なわない衣裳で更に季節感まで加わった物の原案を絞りだし続けるのは毎回ひと苦労なのである。
せっかちな事に納期に余裕がある訳でもないが、こういう時に切羽詰まって洗練してない思考を突っ込むと大体の場合において碌なことが無い。
だから、こういう時はいっそのこと脳みそを空っぽにして全然別の事をして凝り固まった思考を緩めるというのも一つの技術で―――ちょうどいい時におあつらえ向きの玩具が通りかかるのもいつもの事なのである。
豪奢な時計塔が見下ろすエントランスに現れた全く雰囲気にそぐわない猫背で気だるげなその姿。トレードマークのアホ毛に呑気な欠伸を浮かべる彼“比企谷 八幡”が自分の視界を横切るのはちょうどそんな時だった。
自分の運命を変えた男で
憎らしくも、可愛くて仕様がない。
そんな自分の奥底にある何かを常に刺激する彼に私は嬉々として足を踊らせ近づいていった。
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季節は澄み渡る天高き空に、かなこ肥ゆる秋。それと反比例するように削られて行く俺のやる気とボッチゲージ―――ドーモ、社畜の比企谷です。
心の中で大学に行きもせずバイトという名の激務に身を費やす我が身を嘆きながら今日も所属アイドル達を現場に送り届けたり、外回りの挨拶を終えてきた体力ゲージ真っ赤な俺の肩を叩く何者かにワザとや嫌味でなく深く溜息を漏らしてしまう。
自分で言うのもなんだが、色んな事情や成り立ちから所属しているアルバイト先は社内では蛇蝎のごとく嫌われていたりするのだがそんな部署でも売れている事は確かなので接触を図る人間は結構いたりする。というか、俺をバイトじゃなく正社員だと思っている人間も結構な数でかなりげんなりする。そうよね、ステージ発注からスケ管に打ち合わせに予算交渉までしてるのがバイトとは思わないよね? 俺もそう思う。ふざけんな。
そんなブラック満載の職務環境のせいか勘違いも満載な取引や交渉をしてくる人間も多い。なので、今回もその手のものだろうと思って嫌々と振り返れば―――自分より少し低めの視線と、今どき珍しいおかっぱのような髪の毛の少女が柔らかに微笑んでいたので俺の予感は大きく裏切られたのであった、とさ。
「突然、すみません。……デレプロのアシスタントさん、で間違いありませんか?」
「………そうっすけど。おたくは?」
はにかむように、ちょっとの怯えを混ぜたその表情。折り目正しい仕草に、まっすぐと伸びた背筋。それだけで誰もが育ちのいいお嬢様なのだろうと思う彼女の仕草。百人中百人が嫌悪感なんて抱きようのないその佇まいに俺だけだろう。
“胡散臭い張りぼてがやってきた”だなんて感想を漏らすのは。
その完璧に創られた表情と動作。言ってしまえば、完璧に人間が行う動作をトレースした精巧なアンドロイドのような彼女は俺からすれば随分と気味が悪い。人というのは―――もっと泥臭いのだ。こんな豪華絢爛なエントランスでゾンビのような眼をした男に話しかける人間はもっと忌避感をあらわにするか―――
「おーっす! ハチ公、まーたやる気のない目をしやがって!! ちょっとお姉さんとのお茶に付き合えよ!!☆彡」
こんな風に脳みそのネジが全部ぶっ飛んだ人間かのどっちかなのだ。ここ、テストに出るので要チェックだぜ?
「……って、ハチ公。また女口説いて。そろそろ刺されるぞ☆彡」
「なんで、俺が口説いてる前提なんだよ…見ての通り、声かけられた側だわ」
「そういうところだ、ぞっ、と☆彡」
首っ玉に飛びつくように腕を回した佐藤の乱入といつもの軽口の応酬をしているとそのまま首を絞められた――解せぬ。だが、そんな俺たちを見た少女は一瞬だけアンドロイドの仮面を外して無邪気にクスクスと笑いを零しつつも俺たちの阿呆な会話を緩く否定する。
「くっ、くくく、いえ、すみません。お二人の仲の良さが妙にツボに入って……失礼、申し遅れました。私の名前は“岡崎 泰葉”と言います。この346のアクターズ部門所属の俳優で――――そちらのプロデューサーの“武内”とお話をさせて頂きたくてお声がけをさせて頂きました」
華のある笑み、というのだろうか? 一寸の隙も無く作られた微笑みの中で唯一、目だけは先ほどの無色透明なモノではなく静かな決意の光を灯した物へと変わって俺たちを睥睨する。だが、そんな明らかに故意ありありの危険そうな女をわざわざ多忙なボスの元へ連れていくほど自分も暇ではなく、上司はもっと忙しい。
目まぐるしくココで面倒ごとを断ち切ろうと思考を巡らせている俺と、ソレを完封するための手管を選りすぐっている彼女の間に能天気な声が響き渡った。
「“岡崎 やすは”?……って、おーっ!! 超有名人じゃん。 子役で出てた“冷たい薔薇”も全編みたぞ☆彡 あ、ついでに握手とサインお願いしていい? ウチの部署って嫌われてるからこういう機会って滅多にないんだよね~?」
あっけらかんと、そういって彼女の手を取って笑いかける佐藤に思わず二人揃って毒気を抜かれてしまった。向こうは予想外のリアクションに戸惑いを、こっちはいつもと変わらないその様子に。
「……佐藤、お前さんね?」
「はいはい、わーってるって。“面倒ごとを引き込むな”って言うんだろ? だけど、こーんな業界の礼節も知ってる大ベテランがわざわざハチ公みたいな木っ端に案内を頼んでる時点でもう大体の正規の方法は試し終わってるわけ。
お前に断られれば今度は別のアイドルに接触してPの所に行くわけ。それでも、ダメなら今度はもっと小さい子に近づいてくのが目に見えてるんだから―――どうせなら爆弾は目に見えるとこで処理した方が手っ取り早いだろ☆彡」
諭すように声を掛けた佐藤はくだらなそうに手を振って俺のお説教を打ち払い、つらつらとそんな事を言うので思わず顔を顰めてしまう。
普段のおチャラけた側面ばっか見ているせいか忘れがちだがコイツは人の機微に敏く、頭がめっぽう回る。だから、こういう風にグウの音もでない程に理論的な事を詰めてくる事があってソレに言い返せず声を詰まらせた時のコイツの俺を見る目は非常に居心地の悪い柔らかさがあるので非常にやりづらい。――ただ一つだけ反論させて貰うなら、俺は爆弾があると分かったなら即時その場で埋めて見なかった事にする派である。
そんな俺にクスリと笑った佐藤が今度は一転して意地悪気に微笑みつつ振り返って岡崎に声を掛けた。
「ま、そんな訳であと腐れなくウチのボスに面会させてやっけど下手な事したら叩きだすつもり満載なんで―――そこんとこ夜・露・死・苦☆彡」
ぴらぴらと“よっちゃん様”とサインしてもらった手帳を振りながらそう凶暴に笑いかける佐藤に目を瞬かせた岡崎は、たまりかねたように吹きだして笑って答えた。
「ふ、ふふふふっ、あははっはっ!! いえ、くふっ、すみません、変わった人が多いとも聞いていたのでこういう返答は予想外で……いえ、ここまで言われたなら下手に隠すのもマイナスでしょうから正直に言わせて貰えばこんなに頭が回るとも思っていませんでした」
「ほほーう、天下の人気子役にそういわれるとははぁとも鼻が高いな☆彡」
「いえ、たった半年で芸能界の―――アイドルという幼い分野とはいえ、トップに躍り出た貴方たちを安くは見積っていたつもりもありませんよ」
ケラケラと無邪気に笑っていた彼女は一瞬でその瞳に深い思慮と、暗い感情を宿して俺たちに相対する。最初の折り目正しさも、無機質で小綺麗な動作だけでもない――明確な敵意と侮蔑。その両方を並々と湛えたその視線。
それに目を丸くした佐藤の小脇を軽くどつきながら俺は小さく嘆息を漏らした。
ほれ見ろ、ろくなことになりゃしない。
年齢が邪魔をする佐藤の渾身のテヘペロに若干の苛立ちを覚えつつ、頭の中で言うべき言葉を纏めている時に―――聞きなれた、低く囁くような声なのに妙に芯を揺らす声が俺の耳朶を揺らした。
「比企谷さんに、佐藤さん。―――ただいま出張から戻りましたが……何か問題ですか?」
その無条件に頼ってしまいそうな力強く、微かに感じる強い熱と穏やかさが混ざった声の持ち主である偉丈夫“武内”さんは厳つい見た目に似合わないきょとんとした表情でこちらを眺めている。その後ろには、空港へと出迎えに意気揚々と出ていった“ちひろ”さんと今や世界中からの公演以来が止まない世界の“高垣 楓”さんも何事かと首を傾げている。
そんな最悪のタイミングで鉢合せた彼らに頭痛を感じつつ、説明しようと言葉を纏めている時に―――――彼女は、“岡崎 泰葉”は動いた。
舞うように、軽やかに。
切実さを感じる程に力強く。
何より―――先ほどまでの無機質な冷たい仮面を捨て去った、無邪気に頬を染めた少女の顔で。
「武内さんっ!!!」
「―――泰葉さん、ですか?」
泣きそうなくらい切実な声で―――彼の胸元へと飛び込んだ言ったのだ。
彼女の豹変ぶりに思考が追い付かず目を白黒する俺と、佐藤。
意中の男に構って貰うために日々、鎬を削る恋する女二名が涙を溜めて縋りつく少女とソレを優しく抱き留めた瞬間を絶対零度より低い温度で射貫いた事。
その他、エントランスを通り過ぎようとした誰もがそんなドラマティックで意味不明な光景に目を奪われ、満場一致で全く同じ言葉を漏らしたのであった、とさ。
皆さん、ご斉話ください。
「「「「「「「は?」」」」」」」」
_(:3」∠)_へへへ、感じるぜ、修羅場の波動をよぉ…