デレマス短話集   作:緑茶P

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(´ー`)ようやく、泰葉登場回・完結。 約束は果たしたぜ、ブラザー(笑)



約束 後 ②

 少女の小さな、だが、深い絶望を湛えた声が部屋の隅から隅まで響き渡った時に空気は張りつめた糸のような緊迫感を孕んで誰もが息を呑んだ。誰一人としてその言葉に声を上げることが出来ずにそれぞれの心中に生まれた重い鉛のような感情に沈黙が溢れ―――ソレを破ったのも、その少女であった。

 

「私は――我慢しました!! 貴方が“責任者が決まるまでの中継ぎだから”という言葉を信じて、困らないように、迷わないように笑顔で見送りました!!

 貴方が残してくれた大舞台の仕事と、綿密なスケジュールをこなし切る頃には全てを終わらして戻って来てくれると信じて必死に、命懸けで応えてきたんです!! 一流の“舞台女優”になった姿で貴方を迎えるために、貴方が教えてくれた大切なモノを全部かかえてここまでやり切った!!

 

 それなのに――貴方はたまの面接の打診すら取り合わず、あまつさえ、戻ってくるどころかこんな問題だらけのプロジェクトを更に大きくしてのめり込んで……私なら、私だったら――――貴方のためにもっと、もっと役立てるのになんで帰って来てくれないんですか!?

 

 

 ……私は、もう、貴方には要らない存在なんですか?」

 

 能面のような笑顔で完全に自身をコントロールしていた人形のような少女の面影は既にそこになく、顔を真っ赤にして感情をむき出しのままの癇癪を起す子供のような…いや、年相応な少女が零れる涙を拭いもせずに声を絞りだす。

 そして、最後に言葉にする事すら恐ろしくて躊躇していたであろう問いを掠れる声で問いかけた彼女は小さな喉鳴りと嗚咽を漏らしながらも武内さんの袖を最後のよすがの様に握り締めつつ俯いてしまう。

 

 見るからに、痛々しい姿だった。

 

 見るからに、惨めな姿だった。

 

 だが、それでも、彼女の“真実”から絞り出されたその姿を笑うことなど――誰が出来ようか。

 

 そんな中で、たった一人だけ冷ややかにその姿に声を掛ける女がいた。

 

「……最初に訂正しておきますが、面会の打診を全て握りつぶしていたのは私であって武内さんは何ら関わっていません。そして、総合的にプロジェクト運営側の観点から貴女のお話への回答は―――“一介の女優のために最高の売り上げを誇る我が部署の最高責任者を引き渡す必要は全く見受けられない”、とだけお答えしておきます」

 

「っ!! ちひ―――千川さん、その言い方はあまりにも…。それに、面会の打診を握り潰したというのは、どういった意図なのでしょうか?」

 

 心胆を凍らせる、という表現があてはまりすぎるその声で淡々と確認事項の様に少女の想いを踏みにじる姿に武内さんですら動揺を隠せないまま聞き逃せない一文を問う。

 

 答えを半ば予想しつつも、聞かないわけにはいかないのだ。

 

「貴方が、先輩が苦しむのが分かっているのに――その要因を近づける訳がないじゃないですか。そして、貴方が負う傷も、罪悪感も、全ては私が請け負うモノです。

 貴方がもし、本当に心からこのプロジェクトの終焉を望むならば私は十全に、完璧にこなして見せます。―――でも、先輩は、たった一人の少女のために自分が人生を変えてしまった女の子数十人を見捨ててそうする事は出来ないでしょう?

 

 だから、――――私が、この問題を綺麗に片付けてあげる。たったそれだけの事ですよ」

 

 余りにも淡々と出されるその理論は一切の無駄がない。感情がない。後悔がない。ただ、自分の中の最優先事項を守るという事だけに特化した、残酷な慈母の微笑みを浮かべて“千川 ちひろ”は何の罪悪感も無いままに目の前の少女を切り捨てる事を選択した。

 

 あまりにも、あまりな無慈悲さに声を上げそうになる武内さんだがその返答に隙は無く何度か口を開きかけ―――結局の所は口を噤んで俯いてしまう。

 俯いた先に自分と初めて芸能界を歩んだ少女の震える手が目に入っても、その手を取ることも振り払う事も出来ない偉丈夫はただただ苦し気にその顔を歪めるだけしかできないのだ。

 

 そのやり取りに、親の仇を見るかのように憤怒に顔を染めた岡崎の視線すらウチの金庫番はいつもの微笑みを返すだけ。そして、その隣に座る楓さんはその視線に下唇を噛みつつもそのオッドアイを逸らすことなく見つめ返す。

 

 かつて、部署どころか会社全体すらも巻き込んで彼女は自分の我儘を貫いた。

 愛する男を手に入れるために全てを掛けてその手を握り止め、全てをひっくり返す覚悟を決めたからこそ彼女は今、ここで武内さんや仲間の隣で笑っている事が出来るのだ。

 

 そうして望むものを手に入れた彼女だからこそ、分かってしまう。

 

 彼女では―――掛け金が足りな過ぎると。

 

 そして、優しすぎる自分の愛した男は苦悩の果てに彼女を選ぶことが出来ないという事も。

 

 だから、冷笑で彼女を路傍の石を見るかのように微笑むちひろさんとは対照的に彼女は全てを飲み込んだ固い表情でその少女の行く末を見守る。誰かを犠牲にしてでも自分は欲しい物を手に入れる事を決めた時から―――彼女はそういう覚悟だって決めているのだから。

 

 

 そんな、煮詰まって、張りつめて、どうあがいたって絶望しかない展開の中で隣り合った肩を冷や汗でだくだくにした佐藤がコツコツと突いてきやがったのでホントにこいつは存在そのものから空気を読むことを学ぶべきだと思う。なんだよ、こんな“SYU☆RA☆BA”な状況でもお前がいるだけでもうギャグ時空になっちゃうだろ? ちょっとは自重しろ。

 

「……なんだよ」

 

「いや、っべーって。まじベーだろ、コレ。どうすんだよっ☆彡 事務所で刃傷沙汰とかマジ勘弁☆彡だぞっ!?」

 

「お前が引き込んだんだから、宣言通りに叩きだせよ。…俺は止めたぞ?」

 

「悪かったって! こんなんフツーは想定できないだろ! 頼む!! こんど、童貞を殺すセーター着てやるから!! 胸も三揉みまでなら許す!!」

 

「お前、煽ってんのか、頼ってんのかナチュラルに分かんねぇんだよなぁ……」

 

 佐藤の冷や汗だらけの顔に肘のド付き合いをするたびに薫る甘い香りにちょっとだけ緊張の糸が緩むのを感じつつも、一瞬だけ佐藤の“対童貞抹殺衣類”の姿を思い浮かべてしまったが……顔と体だけはモデル顔負けなんだよなぁ、コイツ。

 

 天は二持を与えた代わりにこの女から“シリアス”というモノを奪ったのだろう…なんてどうでもいい事を考えながらコソコソ話しつつ、まあ、簡単な解決方法が思い当っていない訳でもない。だが、こんな緊迫した空気の上に明らかにヘイトを買いそうなそんないつもの自分の解決方法を取るメリットは今回全くないわけで。

 

 そんな思考の中でゆらゆら黙秘に偏りかけている俺の天秤は―――はしっと掴まれた袖と縋るような佐藤の眼によって止められてしまう。

 

「……このまま、あの子の気持ちをポッキリ折って捨てちゃったら多分、ここにいるみんなが最後に大笑いできなくなっちまう気がする。だから、私も出来る限り頑張るから……なんかない?」

 

「………そういうとこだぞ、佐藤」

 

 下からお願い風にしおらしく眉根を寄せて微笑む佐藤。

 

 かつて、地下の売れないアイドルとして空回り続けて遂にはその夢すら捨てようとした女のその視線と言葉は懇願というには少しだけ重い哀愁を湛えるものだから意志の弱いボッチには少々強すぎる毒だ。なんだかんだと、ソレに毎回絆される俺も俺で大概なんだよなぁ…なんて他人事のように強制的に傾けられた天秤に溜息を吐きつつも俺はお手本のような修羅場に一歩だけ踏み出して声を上げた。

 

 

 さぁーて、今日も小鬼が舞台をひっかきまわしちゃうぞ☆彡?

 

 

――――――――――

 

 

 

「簡単な解決方法があるんですけど……興味あります?」

 

 硬直した場に全くそぐわない気だるげな声が急に響いた事に誰もが驚きつつも声の主に視線を向けた。ただ、その感情は自分も含めて好意的――とはとても言えたものではなかったけど。

 

 自分のプロデューサーであった人を取り戻そうとする私からは新たな敵の出現に敵意に塗れた眼を、私を切り捨てる様に進めてきたおさげの事務員からは“余計な事をするな”という非難の眼を、世界の歌姫として名を馳せ自分の想い人とタレントとプロデューサーの関係を大きく超えていると言われる女からは意外そうな眼を。そして――苦悩と葛藤に苦しんでいた武内さんからすらちょっとだけ責めるかのような目を向けられたアホ毛の彼は飄々と進み出て肩を竦めるだけで応えた。

 

「比企谷君。コレは、バイトの貴方が口を出す領分ではありません。下がりなさい」

 

「それこそ、妨害工作やらを重ねてきた一介の事務員が口を出す問題でもないし、ここまでややこしくて感情的な問題になったのは8割アンタのせいでしょ? それに、聞くかどうかは武内さんに聞いたのであって、アンタに聞いた訳でもないですから」

 

 ホントに身内同士なのかと疑ってしまうくらいに棘だらけの言葉の応酬と視線の火花に状況を忘れて呆れてしまっていると、その声に小さく肩を揺らした武内さんが弱り切った様に視線を上げて彼に目線を向けた。

 だが、常識的に考えれば――この先の提案は私を切り捨てるという帰結で結ばれる事は想像に難くない。

 

 かつて、社内を騒がした集団クーデターをこの部署が行い未実行のまま成功を収めたのは大金を稼いでいた彼女達とその総括である彼が全力で実行の道筋を整えてしまったからだと聞いている。それに比べ、最近になって人気を回復させ始めただけの私一人が同じことをした所で意味がない。

 

 その結果が分かっていたから、私が取れる手段は“彼の心情に訴える”という選択肢しかなかったのだ。

 彼が苦しむと知っていても、それでも、自分を選んでくれるという微かな希望しか私には縋るものが無かったのに―――その希望は苦悶に歪む彼の零した言葉で粉々に打ち砕かれた。

 

 そんな中で、もたらされるこの男の提案はきっと、私への最終通告になる事だろうという予想を噛みしめながら彼の事をせめてもの抵抗としてぎっと睨みつけ―――

 

 

「岡崎をウチの部署に引き抜けばいいだけの話でしょう?」

 

 

「「「「―――――へ?」」」」

 

 

 予想外の言葉に、誰もが間抜けな顔と声を漏らしてしまったのです。

 

 

――――――――――――

 

 

 

 誰も彼もが間抜けな顔を浮かべ俺を見る中で、チッヒだけはもの凄い顔で睨んでくる。いや、めっちゃおっかない。おしっこ漏れそうだぜ。というか、その表情を見るに最初からこの最適解に気が付いていた癖にそこにもって来させないように思考を誘導していたのだろうからこの女の性悪加減も大概である。

 今後の八つ当たりにちょっとだけ陰鬱な気分になりながら、まあ、佐藤の童貞キラーのセーターを笑ってやるために軽い脳みそと口を働かせることにした。

 

「“タレント攫い”なんて汚名がつくくらい他所からアイドル引き抜いてるんですからそれくらい今更だ。それに、岡崎の要求も“武内さんのプロデュース”という一点ですし、演劇の舞台公演やドラマに出演するのも最近じゃ珍しくないくらいウチのアイドルも出演してるんだから“女優 兼 アイドル”という路線で行きゃいいでしょ。―――問題は、お前がそれでいいかってとこなんだけど、大女優?」

 

「あ、えっ―――の、望むところです!!」

 

「だ、そうですけど……どうします?」

 

 さっきまでの敵意満々の瞳は何処へやら、キラキラと目から落ちた鱗の先に希望と期待に満ち溢れた輝き満点で首をぶんぶん頷く少女。会った当時の御人形っぽさは何処にやったのかと苦笑を零してソレを見届けた後に武内さんに水を向けてみるが――まあ、顎に手を当てつつ黙考するその姿を見る限り聞くまでも無かったかもしれない。

 

 やがて、その深い思考の海から意識を戻した武内さんは深く息を吐いて天を見上げ、真っ直ぐに岡崎の眼にその燃やし尽くすかのような熱量を湛えた瞳を合わせて小さく呟く。

 

「私は、岡崎さんとの約束も十全に守り切れない情けない男です。こんな私なんかを追って今までのキャリアを捨てるなど、絶対にするべきではない選択なのに―――貴女が舞台の頂点へと至る道を間近で見届けたいと思ったのも偽りの無い想いなのです。

 

 私には、もう、そんな資格はないかもしれませんが……もう一度、私を信じてくれるのなら必ず今度は最後まで貴方を導いて見せます」

 

「―――っ!! もっと、早くにそういってください!! 私のプロデューサーは、ずっど、まえがら貴方じかいないんですから!!!」

 

 武内さんの言葉を最後まで待つことなく大粒の涙を流しながらその胸に飛び込んでおいおい泣き始める岡崎。喜ぶべきはその涙が憤怒ではなく、歓喜に濡れている事だろうか。そして、悲しむべきは完全にブちぎれて無表情になっているチッヒと、旦那の誠実さに喜べばいいのか、浮気性に頭を抱えればいいのか微妙な顔で見届けている楓さんが『浮気あいてが“うわっ、期待の星”……30点ですね』なんて虚ろな目でセルフツッコミを入れている所だろうか?

 

 そのカオスな状況にどうやってフェードアウトするべきか悩んでるうちに思い切り後ろから首っ玉に抱き着かれそのままヘッドロックしつつこめかみをごにごにされる。

 

「おいっ、なんだよ~。そんな解決策あるなら早めに言えよ☆彡 このこの~、ほーら、ご褒美にしゅがはのおっぱいを存分に味わっていいぞ☆彡」

 

「いだだだっ、ブラジャー越しの胸って硬いから実質的に全然ご褒美じゃないんだよなぁ……。あと、こっから死ぬほどめんどくさくて死ぬほど嫌味たっぷり言われる交渉が始まるからお前の乳と童貞セーターくらいじゃ全く割に会わない件について―――ででえっでっで!!?」

 

 俺の切実な心の声に律儀に答えた佐藤がさらに首を強く締めたのでもうご褒美とか関係ないただの拷問コントとなり下がった俺たちの背後の扉からぞろぞろと盗み聞きしてたアイドル達が入ってきて好き勝手な事を口ずさむので狭い応接室はさらにカオスの増加の一途を辿っていく。

 

 誰も彼もが好き勝手、想いも熱意も、悔恨も執念もごちゃ混ぜにひた走るこの部署に―――今日また新たなメンバーが加わったのでした、とさ。

 

 

 

 

 

――後日談という名の蛇足――

 

「武内さん! 今日はお弁当に挑戦してきたので食べてみてください!! どうせ、またいっつもカ〇リーメイトばっか食べてるんですよね?」

 

「い、いえ、その……最近はですね」

 

「はっきり言ってあげた方がいいですよー、先輩? 今は美味しい社食で昔からの付き合いのあるカワイイ同僚と毎日ランチデートしてます、ってね!!」

 

「せ、千川……(ギロッ あ、いや、ちひろ、さん。その言い方には少々、誤解が……」

 

「怖いですねー、武内くん。なので、二人でサラッめに、サラメシに行きましょー」

 

「か、楓さん!? ジャケットをそんなに引っ張ってはいけません!!」

 

 

 

ハチ公「………リア充も大変だな」

 

佐藤「お前も貢がれた弁当、そろそろ素直に食ってやれよ☆彡」

 

ハチ公「突き返さなきゃあんなん、腹がはち切れるわ。―――所で、蕎麦食いたくなってきたな……」

 

佐藤「おっ、いいね~。ちょっと足伸ばして“草月”行こうぜ☆彡」

 

ハチ公「うし、巻き込まれる前に行くか~」

 

佐藤「うい~☆彡」

 




_(:3」∠)_誰か……お狐周子のために…課金リクエストくれ……。

3000円にしたから……もう、2万溶かしても引けないんだ………というか、もう、運営マジ許さん(殺意。
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