デレマス短話集   作:緑茶P

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( *´艸`)リクエスト第二弾!! 今回”あきあ”様から頂いた内容は ”茄子Goodend(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=13861874)で子供が出来ちゃった茄子が事務所で公開発表しちゃう話”です!!

いつものハチャメチャなここの事務所に嵐が巻き起こり、ちょっとだけホロリと来る仕上げ!

_(:3」∠)_いつもの様に頭を空っぽにお楽しみくだされ~!!




鷹富士 茄子 は ”やれば出来る子” である

 憚りながらも、この“鷹富士 茄子”。ご近所でも家庭内でも『やれば出来る子』という評判で持ちきりでありました。

 

 頭も人並み程度には良く、運動もソコソコ上位。要領も器量も正に箱に詰めておきたいくらいの別嬪さん。更に言うならば磨きに磨いた一発芸は常に親戚とクラス内では大評判でよく“残念美人”との掛け声を貰ったものです。

 だが、人生とはままならないものでこんなに高スペックな私の実力というのは中々発揮させて貰える機会が無かったのも事実でした。

 

 適当に山を張ればテストの範囲は大体当たって、かけっこをすれば自分より足の遅い子達のグループで一位を取り、気まぐれに通学路で拾った猫じゃらし一本が最終的に金の延べ棒に代わる事が日常の生活では能力なんかなくても何時でも一位に輝いてしまい随分と退屈な日々。唯一、私が輝ける時間といえば寝る間も惜しんで練習した一発芸を披露する時くらいのものなのです。

 

 そんな奇妙な『幸運』というモノに幸か不幸か恵まれていた私にも先日、転機が訪れました。

 

 私の心無い暴言のせいで憑いていた神様とやらが壊れる程愛しても1/3も届かない純情な感情をブレイクさせてしまったらしく家出してしまったようで、以来、私の人生で初めての平凡な日々が始まったのです。

 

 DVDをレンタルしに行っても観たい奴は借りられていたり、全力で走らなきゃ電車には乗り遅れるし、株は吟味して買わないと大失敗しちゃう―――普通の日常。

 

 自分には一生縁がないだろうと思っていた、煩わしくも自分自身で選んで歩んでいく人なみな生活。自分自身の力が試されるそんな日々は実に私の好奇心を刺激してきます。“今日は、どんな事が起こるんだろう?”なんて起きるたびに思う。それに―――幸運の神様とやらがいた頃にはどうしても上手くいかなかった彼との関係も進展したのでもう、人生が色づき始めて仕方ない感が半端ないのです!!

 

 ……あぁ、ちょっとだけ余談が過ぎてしまいました。私の人生録なんて閑話休題して、本題に戻りましょう。

 

 えーっ、と? あ、そうそう。私“鷹冨士 茄子”は『やれば出来る子』という所でしたね。そうなんです。昔から言われ続けたその言葉が遂に実証することが出来たというお話でして―――――目の前の妊娠検査薬がハッキリとソレを物語ってくれています。

 

 真ん中の検査結果に真っ直ぐ浮かびあがったライン。それは、どう見ても陽性で、自分の中に新しい命が宿ったという証。

 

 なるほど、“やれば出来る”。

 

 これほど人類史の中で真理言い当てた名言も少ない事でしょう。

 

 処女受胎なんて眉唾の奇跡が起こったのでなければ、心当たりはどう思い返してもあの寂れた海岸で交わった想い人である“彼”とのあの一夜のみ。

 

 ひねくれて、陰気で、ちょっとだけお馬鹿な癖に誰よりも甘くて、子供みたいな純情を捨てきれないお人好しな彼。人との距離で絶対に一線を越えないようにしていた彼に踏み込んでそのまま自分から押し倒した。

 

 それでも―――無理やりでは無かったと、信じたい。

 

 いまさら、不正の一つや二つで揺らぐ面の皮ではないが、彼が迷っていた想いに手を添えただけなのだと誰にでもなく言い訳を紡ぐ。それは、彼を想っている多くの仲間達への言い訳か、コレを聞いた彼がどんな顔を浮かべるかちょっとだけ怖くて震える自分へのエールなのかは定かではないけれど。

 

 

 でも、まぁ――――――何とかなるだろう。

 

 

 なんて生来のお気楽さがモヤモヤした思考をうっちゃって、私は出掛ける準備に取り掛かる。今まではそういう時の根拠のない自信は無尽蔵な幸運によるものだったけれど、今はちょっと違う。

 アイドルを辞めたとしてもお金を稼ぐ術も実力も自分にはある。最悪、実家に帰って梨でももげばいい。だけど、まずはその前に人間は目先の事よりも足元を見なければいけない生き物なのだ。

 

まずは―――にっくき恋敵どもを蹴散らして、ダメダメで根暗な王子様とやらを完全に囲い込んで首を縦に振らせるためにありとあらゆる手を尽くしてからの話である。

 

それに―――なんとなく自分には自信があるのだ。

 

あの日、自分の名前を呼びながら抱きしめてくれた彼は多分きっと、なんだかんだと最後にはいつもの苦笑いを浮かべて自分をまた抱きしめてくれるという自信が。

 

 その先にある、甘く、優しく、楽しい未来に思いを馳せて私は姿見の前で決めポーズ&不敵な笑顔の最終チェック。

 

 いつものちょっとだけ童顔な自分の顔にほっぺを染める赤。スラリとしつつも、そこそこに見栄えのする縁起のいい数字のナイスバディもあとちょっとすれば見納めだが、それも悪くない事を確認しつつも頷いて、玄関に足を向けた。

 

 “やれば出来る子” 鷹富士 茄子――――出陣です!!

 

 

 

--------------

 

 

 

「うい、これが月末までの予定表だ。あくまで“予定”だから細かい変更はアプリの方を見て確認してくれ」

 

「「「「はーい」」」」

 

 都内の一等地に佇む346本社の摩天楼。その一角にある我らが“シンデレラプロジェクト”に与えられた見晴らしと日差しの心地いい事務室に気だるげなアシスト“比企谷”さんの声が響いたのに対して、世間の話題を独占するアイドル達の陽気な返事が揃って返された後にそれぞれが渡された紙の予定表を覗き込みながら姦しく話を弾ませる。

 

 そんな光景を見ているとついつい忘れがちになるけれども、つい半年前まではこんな居心地のいい事務室ではなく、陰気な廊下を渡った先にある半地下でぎゅうぎゅうに詰まりながら笑いあっていたのだから感慨深いものがあるなぁ……なんて独白を一人噛みしめていると隣に座る相方の“多田 李衣菜”ちゃんが人の予定表を覗き込みながら声を掛けてきた。

 

「あれ、みくってこの日は私と別行動なの?」

 

「李衣菜ちゃんが有名バンドの収録に見学行きたいって言ったからでしょー? 菜々さん達に迷惑かけちゃダメだにゃ」

 

「えっ、みくも行くもんだと思ってたのに……」

 

「……いや、興味ないにゃ。というか、最近は付き合いで弾き始めた私の方がギター上手くなってる事にもっと危機感を持った方がいいと思う」

 

「はぁ! みくってそういうとこがロックじゃないよね!!?」

 

「はいはい、ロックじゃないみくは別の収録行ってくるからたのしんでくるにゃ~」

 

 付き合いも大分長くなったおかげか最近は十八番になり始めた“解散芸”もすっかりなりを潜めてムムムッなんて眉を寄せて唸る李衣菜ちゃんに肩を竦める程度で収まるようになってきた。というか、自分で駄々をこねてねじ込んだ癖に私までセットで巻き込めたと思ってるのは流石にちょっと難ありだと思う。

 そんな困った相方に苦笑いを零しつつ応えていれば、さっそく細かい修正か、それとも単純に自分の想い人との関りを増やすためかは分からないが渡された予定表を片手に何人かの仲間達が気だるげにパッドを弄っているアシスタントの比企谷さんの所に集まっていくのが見えた。

 

 気だるげでやる気が無さそうな猫背の彼はぱっと見の第一印象で言えばどうにも胡散臭く感じるのだが、こう見えてこの世間を賑わす大規模プロジェクトの初期メンバーにして今でも多くのアイドル達の面倒を新人・ベテラン問わずに見て回っているこの部署の重要人物でもあるのだ。

 

 二期生である自分との最初の出会いこそ最悪の印象であったが、それがこのひねくれた男の最大のツンデレである事が年少組との一幕で明らかになってしまったのは懐かしい思い出だが―――意外にも面倒見がよく、お人好しな彼に好意を寄せる人は結構多い。

 

 そんな状態なのに修羅場みたいなピりついた空気にならないのはなんだかんだと皆がその空気を楽しみつつ、恋の鞘当てを楽しんでいるせいなのだろう。彼の周りの集まった人はワイワイきゃいきゃいと無理難題だったり、ちょっとした我儘だったり、真剣に今後の方針だったりを彼に投げかけつつも彼もソレにいつもの様に答えていく。

 

 そんないつも通りの日常に誰もが束の間のゆるみを楽しんでいると、元気いっぱいに扉が開かれてそこから飛び込んできた影に誰もが視線を集めた。

 

「おっはよーございます!! 比企谷さん、比企谷さん!! 今日はなんとビックでハッピーなお知らせがあるんですよ~!!」

 

「朝からうっせぇ……。というか、集合時間はもう十分も前に過ぎてるんですけど?」

 

 飛び込んだ勢いそのままに比企谷さんに飛び込んだのは『幸運の女神』という呼び名で名高い“鷹富士 茄子”さんであった。スラリとして清楚な見た目に反して結構ファンキーな彼女はやる事なす事全てがぶっ飛んでいるので彼女の突然の乱入にもみんなが小さく苦笑いを漏らす程度で彼女の動向を見守った。

 結構に過剰なスキンシップに冷たく彼が返す。そんないわゆるテンプレといった風景に誰もがまた心の底ではほっとしているいつもの光景なのであった。

 

 ただ―――

 

「なんと、“おめでた”です!! これから二人で幸せな家庭を築いていきましょうね!!」

 

 今日の悪ふざけはちょっとだけ重かった。

 

「「「「「―――――あはっ、あはははは!!」」」」」」

 

 一瞬だけ凍った時間が数舜を挟んで温かい笑い声と共に動き出す。誰もが彼女の言葉の意味を正しく理解することに時間を擁して、その間で彼女がどんな人物だったかを思い出して自然と笑いが零れたのだ。

 人間は驚かされた反動が大きければ大きい程に笑いも深くなる。なので、彼を狙ってる仲間もそうでない人もそのとびっきりの爆弾が彼女の冗句だと気が付いた瞬間に笑いが止まらなくなって口々に感想を漏らしていく。

 

「あははは、もー、朝から冗談がキツイですねぇ~。そんな事を言って遅刻を誤魔化したって駄目ですよぉ?」

 

「ふふっ、ユーモアというには……ちょっとだけ、内容が過激すぎますね…」

 

「ふーん、不覚にもちょっと面白かったよ? でも、まぁ、多用はしない方がいいんじゃないかな? 私達、これでもアイドルなんだし」

 

「もぉ~、そういうのはまゆ、ビックリするので“メッ”ですよぉ?」

 

「―――はっ!! 私、あまりそういう冗談が分からないので驚きました!! こういうのがプロのビックリという奴なのですね!! 勉強になります!! ぼんばー!!」

 

「……ぁぁ、なるほど、“ジョーク”でしたか。日本語はやっぱり難しいでーす。しとー? ミナミ、どうしましたか?」

 

「え、あ、あぁ、うん……なんでもないよ。ところで、アーニャちゃん。そのナイフってどこから持ってきたの? 危ないよ?」

 

 なんか一部の眼の光が怪しいがおおむね誰もが彼女に朝から一発かまされただけだという事に気が付いたらしく笑い合う。そんな誰もが窘める言葉を紡ぐ中で唯一、本当に何を笑われているのか分からないといった表情を浮かべる茄子さんがキョトンとしたまま事務所中を見回して首を傾げる。

 

「んん? 冗談も何も―――比企谷さんの子供が出来ましたってご報告なんですけど? なんか、間違ってますかね?」

 

 心底不思議そうにそう繰り返す茄子さんに流石にちょっと思う所があったのか彼女の相方である“白菊 ほたる”ちゃんが一歩踏み出して窘める様に彼女に声を掛けた。

 

「もう、茄子さん。最近、お仕事があんまり無くて暇なのは分かりますけどあんまりそういう冗談って良くないと思います。比企谷さんも困って――――比企谷さん?」

 

 譲らぬ彼女に困った子供を窘める様に語り掛けるものの一向に譲らない様子に小さく溜息を吐くほたるちゃん。これでは、どちらが大人なのか分かったものではない。そんな彼女に最終兵器である“想い人”というモノをぶつける事を決断した彼女だが―――どうにもちょっとその最終兵器の様子がおかしい事にそこで気が付いた。

 

 油汗を滴らせ、口は堅く引き結ばれ、視線は誰に合わせるでもなく顔ごと明後日の方向に向けられて誰とも視線を合わせようとしない。

 

 滅多に見た事のない、その様子に誰もが一歩をにじり寄らせる。

 

「……比企谷さん、どうしましたか? 比企谷さん?」

 

「……なんでもない、でひゅ」

 

 眼を眇めて一歩近づいたほたるちゃんにその肩は大きく跳ね、滅多に聞かないその裏返りどもった声。

 

「なんでもない事は無いでしょう? そんなに汗をかいて……体調が悪いんですか? それなら無理せず休みましょう。  それとも―――具合が悪いのは、この状況の方でしょうか?」

 

「………………」

 

「「「「「――――――――」」」」」」

 

 細めた視線に冷気を纏った声にはいつもの薄命さはなくずっしりと重い重圧をもって彼女はもう一歩詰め寄り、ソレに呼応するように皆の視線が突き刺さる。そんな針の筵に包まれた彼の横であっけらかんと空気をぶち破るのは――――やっぱり彼の隣でニコニコと微笑みながら妊娠検査キットを取り出して掲げる頭のおかしいナスビなのであった。

 

 

「この度、鷹富士 茄子。比企谷さんのハートと体を見事に射止めました!! ぶいっ☆」

 

「「「「―――(バッ」」」」

 

「…………………」

 

「「「「「ふ、ふっざけんなーーーーー!!!」」」」」

 

 

 彼女の宣言のすぐあと、高速で比企谷さんの顔を誰もが淡い希望を乗せて仰ぎ見るが何も語らず明後日の方向を見る彼の姿は何よりも雄弁で―――誰もがブチぎれてた事を隠しもせずに彼らの元へと殴り込みに向かって行った姿を見て、一言。

 

 この事務所、マジでロックすぎるにゃ……。

 

 そんな私“前川 みく”の声にならぬ諦観が誰に聞かれることも無く吸い込まれて行ったのにゃ。

 

[newpage]

 

 

「………ハチくーん。これって、どういう事なんですかねぇ?」

 

「わがともぉ……」

 

「ひきがや、さん?……私、よく、わかんないや」

 

 愛梨さんを筆頭に目の光を失いつつ比企谷さんに詰め寄る一派もいれば、

 

「……あっ、そうです。移住……そう、移住をしなければ、なりません。えっと……一夫多妻で伝があるのは……アメリカ支部のライラさんですね……こうはしてられません」

 

「文香さん!? 文香さん、落ち着いてください!!? いや、気持ちは分かるんですけど、“待てるって”約束を破ったクソ野郎ですけど、一旦落ち着きましょう!!??」

 

「一夫多妻……なるほど、そういうのもあるのね」

 

「新田さん!!? 貴女まで何言い始めてるんですか??」

 

 ぶっ飛んだ方法で合法的に現状を解決しようとする一派を涙目のありすちゃんが必死に宥め、

 

「Это невозможно признать до тех пор, пока ребенок желудка не подтвердится. Да, это только немного больно, но, пожалуйста, будьте терпеливы, не так ли? Все сразу. Да, это просто подтверждение. (お腹の子を確認するまで認める訳にはいきません。そう、ちょっと痛いですが我慢してくださいね? すぐに済みます。そう、コレはただの確認なんですから…)」

 

「お、落ち着け? アーニャ、何を言ってるか全然分からねーけどそのナイフと不穏な声音は絶対碌な事を考えてるのは分かったから……取り合わず、一旦茶でもしばこうや。なっ??」

 

「よく、聞こえませんでした。あははっ、おかしいですね。もう一度、よく考えて―――なんて言ったのか 教えてくれませんか? ぼんばー」

 

「止まりなさい、茜殿。今、冷静を欠いてるのは貴女です…。私の戦闘術が出る前に、そこで止まって欲しいであります」

 

 一部の武闘派(ガチ)が殺気立つのを拓海さんや大和さん達が必死に説得し、

 

「お空、蒼い キレイ………」

 

「うふ、うふふふっ、赤ちゃん。赤ちゃん楽しみですねぇ。真っ赤な毛糸で~愛情たっぷり~靴下を編んで~あなたを待つわ~♪」

 

「粘土をっ、こねるっ!! 一身腐乱にっ!! こねる!!」

 

 虚ろだったり、逆に満たされ過ぎて壊れちゃったみたいに自我崩壊している凜・まゆコンビにその他、狂ったように粘土をこね始める肇ちゃん達など現実逃避しているチームもいて、

 

「あちゃ~、ハチ公ついに捕まったかー☆彡」

 

「これは、荒れるわ……というか、まあ、未成年に手を出さなかったから逮捕ではないけど確実に有罪よね」

 

「孕んだ途端に波乱だ~! って奴ですね」

 

「楓ちゃん、はしたないから止めなさい」

 

「比企谷君と茄子ちゃん、仲良かったですもんね…。そっか……」

 

 大人組が感慨深げにだったり、頭を抱えていたり、ひっそりと心の傷を飲み込んでしんみりしたりと事務所内は正に滅茶苦茶の様相を呈している。

 そんな中で何とか被害をまのがれようと部屋の隅でその様子を傍観していると隣の李衣菜ちゃんがちょっと興奮気味に話しかけてくる。

 

「うひょー、まさにロックンロールて感じだね~。……というか、みくは混ざらなくて良かったの?」

 

「……なんでそこでみくが出てくるにゃ」

 

「え~、だって、たまに二人でいい雰囲気になったりしてなかった?」

 

 悪気があるのかないのか、賢いのか賢くないのか、相も変わらず掴めない相方は今日もズカズカと人の心に踏み入ってくる。ただ、それが毎回の様に核心に近い所を貫いてくるのが手に負えないが、長い付き合いでそのいなし方ももう慣れた。

 

「別にそういうんじゃないにゃ。大体がこんな倍率の悪い賭けにベットするほど向こう見ずでもないし、ソレに賭けれない時点で―――その程度の想いだったんだよ」

 

「……そっか、でも、泣きたい気持ちって納得とは別だから。みくが“いいな”って思えるくらい心の整理が終わった時は、いつでもおいでよ」

 

「李衣菜ちゃんの癖に、なかなかロックな台詞にゃ……」

 

「じぶん、ロックローラーなんで」

 

「ばーか」

 

 阿保っぽい会話の応酬の最後に、緩く二人で肩を寄せ合って笑い合う。

 

 違うと否定するために躍起になるのではなく、ちょっとだけ心を素直に吐き出す。そうする事でようやく頭がいい癖に疑問や建前を解さない彼女は最適解を導きだす事が出来るのだ。心を覆う事のない純真無垢なそのあり方が―――今は、ちょっとだけ染みる。

 

 そんなしんみりとしたり、暴れたり、怒ったりしているカオスな感情が渦巻く事務所の中に低く、重たい声が響いたのはそんな時だった。

 

 

「比企谷君と鷹富士さん。―――常務室まで同行願います」

 

 

 それはこの部署を、シンデレラ達を半地下からこの摩天楼の城まで導いた魔法使いと呼ばれる見慣れた偉丈夫の声で―――この部署の最高責任者の武内“プロデューサー”としての声であった。

 

 その重たく、有無を言わさぬ圧力にお祭り騒ぎだった室内は一気に静まり返る中で唯一静かに比企谷さんと茄子さんが頷き答える。

 

「―――分かりました」

 

 だれもが息を呑み見送る事しか出来なかったその背が、硬く重い扉の奥に消えていくのを静かに私たちは見送った。

 

 

 

-------------

 

 

 

 私がこの346を引き継ぐためにアメリカから帰ってきてもう早いモノで1年近くが経とうとしている。

 

 帰って早々に自分の会社の腐敗具合に頭を抱え、親の首ごと改革に乗り切ったのも既にそれくらい前の事だと思えばたったそれくらいしか経っていないのかと思うくらいに濃い日々であったともいえる。

 

 改革うんぬん以前に、取締役も暇ではない。そんな中で全部署の洗い出しと選別、ソレに対外との外渉も熟しているのだからもはや日付の感覚すら働きすぎて無くなりつつあるのだからさもありなんという奴だろう。それに―――ただでさえ忙しいのに、ひっきりなしに問題を起こす馬鹿共までいるというのだから溜まらない。

 

「お前らは、仕事以外でも私になんか恨みでもあるのか……?」

 

「「「「誠に申し訳ありませんでした」」」」

 

 私が頬杖を突きながら零した嫌味に揃って頭のつむじを見せるくらいお辞儀をしてくる問題部署の事務方衆とアイドル一匹。普段では絶対に見せないその従順さが示されるとそれはそれで馬鹿にされているような気分になるから不思議なモノだ。

 だが、今はそんな事に構っている暇がないくらいに火急の案件があるので早々に片付けねばならない。ならないのだが……気が重くてついつい目頭を揉んでしまう。

 

 いかん、皺が増える。なんて分かっていてもやらずにはいられない。

 

 なんたって、―――売れっ子アイドルが事務方のアルバイトと関係をもって妊娠したのだ。これくらいは許してもらわねば。

 

「………状況は、理解した。そして、私も済んだ事に対して騒ぎ立てる程に暇でもないので簡潔に行かせて貰おう。―――鷹富士、とりあえず君はアイドルの続行は不可能だ」

 

「―――はい」

 

 深い溜息を漏らして私が述べた言葉に何の戸惑いもなく頷いたのは当人だけで、他の面子は懸命に零れそうになる言葉を呑み込むために唇を噛みしめている。言いたい事や反論は山の様にあるのだろうがそのどれもが議論に値しない感情論だというのは明白だ。

 本来、こういった見切りというモノを下すのは武内の仕事なのだろうがその顔を見るにソレは期待できそうにない。ちひろが真っ先に私にこの件を伝えたのは全くの正解だったと言っていい。

 

 限られた時間というのはいつだって有効に、効果的に使うべきものなのだから。

 

「幸いにも、仕事も“例の件”で止まっている事もあるため引退宣言は比較的につつがなく可能だろう。そして―――君には“俳優”か“タレント”どちらかに一旦転向してもらう事になるだろうが、どっちがいいかはおいおい決めてくれたまえ」

 

「「「「――――は?」」」」」

 

 私の口から紡がれるこの後の事に誰もが俯き、その裁きを待っていたのだろうが、全く予想外な言葉が続いた事に彼らは理解が追い付かないといった風な間抜けな面を晒す。

 

「なんだ、その顔は。武内」

 

「い、いえ、その……言いにくいのですが、てっきり退職勧告をココにいる全員が受けるものだと思っていましたので……いまだに理解が、及んでいません」

 

 多少は他の役員より先進性があると思っていたが、手癖の首筋をいつもより強めに揉みこみ戸惑いを零す馬鹿に出来の悪い生徒に諭すように言葉を紡いでやる。

 

「コレが、火遊びの結果ならば私も容赦なくそうするし、内密に婦人科にでも連れていきしかるべき処置をしただろう。だが、女が真剣に恋をして結ばれた想いにソレを強いる程に人間を捨てていないし、従いもしない事は明白だ」

 

 そもそもが、私は実力と売り上げ以外では恋愛を禁じた覚えもない。心で育んだ想いが無いまま紡がれた芸が人心に届きなどするものか。だが、処女性がどうしても重要視される“アイドル”という活動には母体の負担と世間のイメージが負担となることは目に見えている。

 

 ならば、発想を変え――――騒ぎになる前に公にして自ら引退に踏み込む事によって世間のイメージを、先入観をぶち壊すのだ。

 

 “アイドルなのに恋をした”のではなく“恋をしたからアイドルを辞めた”という順序に組み替える。勿論、それによって大幅にプロジェクトに影響を受ける事は免れないが致命的ではない。その上で、この“346”という会社が他社とは大きくかけ離れた器を持つことを世間に知らしめることによって部署問わずに多くの原石が見つかるかもしれないスケベ心もある。

 

 その後の彼女の使い道とて無策ではない。

 

 彼女の舞台での実力は目を見張るものがあったし、そもそもがトークからバラエティーまで幅広くこなすのだから“子持ち”としても多くの仕事を斡旋できるし、何なら我が社で起用し続けていればそういう層も開拓できることを考えれば実験としてはそう悪くはない案だ。

 

 “有能には恩恵を” 我が社の方針は何も変わらない。

 

 問題は―――そこで間抜けな顔でほおけてる大馬鹿者の方だ。

 

「彼女の今後に関しては以上だ。会見の準備とお礼参りは出来るだけ華やかで感動を引き出すモノで早急に整えたまえ。―――それで、比企谷。お前は今年で卒業だったな?」

 

「は、はい……」

 

 矢継ぎ早に告げられる方針に決定がなされた時点で目頭を押さえ涙を抑えた武内とソレを支えるちひろ。それに、気負いは無さそうにしていても肩ひじは張ってた鷹富士の横でいまだ俯く比企谷に声を掛ければ何かを覚悟したように答える。

 

 後悔と責任、不安に焦燥。

 

 見るからに小さな器に入りきらない感情を何とか詰め込もうと苦心するその表情を見ただけで碌な事を考えていない事が分かる。

 

 どうせ、取れもしない責任の取り方やパートナーの未来を閉ざしてしまった罪悪感。長年支えてきたプロジェクトの足を引っ張った事への後ろめたさを拭うために短慮な事を考えているのだろう。

 

 だから貴様は―――馬鹿だというのだ。

 

 座り心地のいいチェアから立ち上がり、足音も高く近寄ってシュンと曲がった背筋を正すように手に引っ掴んだ書類をその胸にたたきつける。

 

 内容は “雇用契約書” である。

 

「どうせ責任を取って“ココ”も“大学”も退くとか言うつもりだったのだろう? 馬鹿を言うな。貴様の軽い首一つで収まる話でもないし、そんな自己満足に付き合う程に貴様の身はもう軽くないのだ。

 

 孕ませた男として、嫁と子供の全てに責任をもって生きていけ。

 

 もはや弱音など誰も聞く耳を持たない。

 

 お前に許されるのは全力で働き、養い、誤魔化しの無い愛情を注ぐことのみだ。

 

 それが出来ぬ男に誰がウチのアイドルを嫁がせるものか。

 

 お前はこの女を―――幸せに出来るのか?」

 

「――――っ。 ここで、働かせてください。死ぬ気で、やりきって…見せます」

 

 荒々しく爪を立てられた胸板の書類を、更に強く握り閉めそう呟いた馬鹿に私は小さく頬を緩め――新たな夫婦の新生活に祝福を言祝ぐ。

 

「結構。だが、その言葉には訂正がある。お前には“死ぬ”なんて身勝手はもう許されん。そして―― 一人で抱えられん時は支え合え。それが“夫婦”だ」

 

 そんな当り前の事に言われて気が付いた比企谷が鷹富士に視線を送り、ソレに柔らかく微笑む事で応えた。そんな一歩を踏み出した二人に小さく微笑み―――胸に当てていた手を握り込んで胸倉を掴み上げ、もう片方の手を思い切り握り込む。

 

「あ、あれ? じょ、常務? いま、いい感じに纏まって――え、なじぇ…?」

 

「新生活と懐妊とその他もろもろの言祝ぎは終わったからな……ココからは、向こう見ずで無計画で、私の頭痛と胃痛を際限なく拡張していく大馬鹿者に対する制裁タイムだ。安心しろ―――こう見えて八分殺しは得意な方だ」

 

「あ、っちょ、あ、やばい!! これ、マジのやt――――ぶっ

 

 

「避妊ぐらい!! せんかっ!!!!! この!!  大馬鹿者ぉぉぉっぉぉぉ―――――――!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 私の魂の百連撃が温かく見守る視線の中で軽快な音を立てて比企谷に吸い込まれて、とりあえず、私の気分は大分すっきりとしたモノとなった事は報告しておこう。

 

 

 

 

 

 

――オマケという名のその後の居酒屋でのみんな――

 

 

 

 

 

あい「というか、デレプロの茄子ちゃんの記者会見はいまだに衝撃だったね。“恋するオトメになったので、アイドル引退します!”って満面の笑みでいい切っちゃうのだから。その後の常務の演説もいよいよ346や芸能界に新しい考えがやってきたって感じだ」

 

早苗「いやいや、この歳で警官辞めてアイドルになったけどアレでソレは間違いじゃなかったって思ったもんよ!」

 

瑞樹「わかるわ~、でも、やっぱりメンバーでも動揺が広がったのは確かよね」

 

佐藤「まあ、色々あるんじゃねーの、知らんけど?☆彡 というか、あのあと常務とちょっと話す機会があって“いいの?”って聞いたらさ~」

 

菜々「おぉ!? どんな回答だったんです!!?」

 

佐藤「“いや、禁止にしたらそれこそ君たちが色々と大変…いや、なんでもない。節度を持って励んでくれ”……とかいう訳よ。 おい、何を濁した?? いま、何を濁したんだ常務☆彡????」

 

楓「今季中にこん婚期は、もう根気がいるって事ですね!!(ドヤッ」

 

早苗・瑞樹・佐藤「「「おい、高垣。ちょっと裏こいや」」」

 

 

―――――――― 

 

 

愛梨「山廃、一升瓶――」

 

文香「ワイン、ボトルで――」

 

美波「ウイスキー樽ごと――」

 

夕美「みんなー、そろそろもう立ち直って―――って、酒くさっ!! いつから呑んで…というか、そんな事以前にどんだけ呑んでんの!!?」

 

「「「………つらい」」」

 

 

――――――― 

 

 

凜「真・添・対――花の道に置いて力みの一点を見せずに、しかし、その一点により幽玄を齎し生まれる調和こそが(ブツブツ」

 

まゆ「うふ、うふふふふふ、たくさんアミアミ。赤い毛糸で寒く無い様にいっっぱいアミアミ(モコモコ」

 

藤原「粘土を、ねるっ! 粘土を、練るのよ――肇っ!!」

 

ありす「皆さん! いい加減に現実に戻って来てください!! もう、もうそこら中が謎の創作物で溢れかえって収まりません!! 収まらないんでずぅぅぅ!!(ガチ泣き」

 

 

―――――― 

 

アーニャ「フーっ、ふーっ、……アー、邪魔は、よくありません。いい加減、そこを通してくだサーイ」

 

拓海「ま、まずはいい加減にそのナイフを置けっつってんだろ……。もう、戦い過ぎていい加減にロシア柔術も慣れてきちまっただろうが…」

 

アーニャ「自分だって内匠が寝取られたらそうなるくせに! ズルはいけまセーン!!」

 

拓海「だ、誰が恋してるだ!! ゴラァ!!?」

 

茜「………………」

 

大和「あー、茜殿? もう、そろそろ泣き止んでは……。というか、そうです。カレーでも食べましょう? 何杯でも自分も付き合うであります!!」

 

茜「………ぐずっ(こくん」

 

 

――――――― 

 

紗枝「よかったんどすか?」

 

周子「……だらだらと、甘えすぎてた罰が当たっちゃったかな? ふふっ、落ち込んでる暇なんてないよ。リップスのみんなも傷心で世界中に旅に出ちゃったし、美嘉ちゃんばっかに任せてないで探しに行かなきゃ」

 

紗枝「―――そうどすか。でも、ちょっと泣いてからでも罰は当たらへんやろ?」

 

周子「……うん、ごめん。すぐいつもの周子ちゃんに戻るから、ちょっとだけ、胸かりる」

 

紗枝「よう、堪えましたなぁ」

 

 

―――――― 

 

 

 

 こんな様々に滅茶苦茶な飲み会が各々の気持ちが収まり新たな答えを見つけるまで2か月ちょっと連日連夜行われ続けたり続けられなかったそうな。

 

 

 

チャンチャン♪

 




_(:3」∠)_これで四つあるウチの一つの√という事実……

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