デレマス短話集   作:緑茶P

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(/ω\)もう働きたくないでござる←豪雪地帯

_(:3」∠)_というわけで、ようやく暗黒茜ちゃん 完結!!

そして、始まる茜√!! ここから始まる猛烈デレアプローチ!! 誰か書け!!

(・ω・)急がしくて更新鈍いけど、チッヒとか、ハチの日常とか、クリスマスとかボチボチ書いてます。

_(:3」∠)_期待せず、待たれよ…………誰か、代わりにかいて……


陽光に影 後編

 

 爽やかな風が吹き抜け芝草の匂いが通り抜けていき、耳には子供や奥様たちの姦しい声や楽し気な喧騒が遠くで鳴るのを捉えている。そんなうららかな午後の日差しと陽気を頭上の木陰が柔らかく遮って悪戯気に差し込む光は微睡を誘って呑気な欠伸が、咥えた細巻きの煙と共に零れ―――隣で膝を抱えてジトっとした目で睨んでくる“日野 茜”という少女にぶつかって溶けていく。

 

 あれから店のカレーを文字通り平らげてご満悦になった彼女を引き連れて露店のアイスクリームや流行りのタピオカなんかを突きながら膨れた腹を休めるために寄った公園。別に目的地がある訳でもなく、さらに言えば“駄々っ子三原則”に乗っ取りお昼寝も済ませてしまおうと横になってからというモノ彼女はずっとあんな感じだ。

 

世間に浸透しているいつもの快活そうなイメージにはまるでそぐわない仏頂面だがそもそもコイツの根っこは結構に湿っぽく陰気な所があるせいか、それとも、元が美少女なせいなのか不貞腐れた顔も存外に見栄えがする。美人ってのは本当にこういう所で得である。

 

 だが、まあ―――その顔もいい加減に見飽きてきた。

 

「別に機嫌は直さなくていいからそろそろ横になれよ。これじゃまるで俺が無理やりサボりに付き合わせてるみたいだろうが」

 

「………無理やり連れだしてきたのは“比企谷”さんなので概ねそれであってます」

 

「へー、へー、わるうございまし―――ぐえっ」

 

 俺が気だるい体を転がして日野の方を眺めながらそう言えば、ブスっとした顔で不服を申し立てつつも彼女は俺の言葉に従う事にしたらしく固く抱え込んでいた膝を解き―――なぜか俺の腹にその小さな尻をどっかりと乗せてきて俺をその透き通る様な翠色の瞳で覗き込んできた。

 

 燃えるように赤く、輝くように光を発する彼女のパフォーマンスや日々の言動から誰もが彼女を太陽か炎の様だと例える。だが、そんな彼女の瞳をまっすぐと見据えた事のある人間は意外に少ないから知ることはないのだろう。

 

 その瞳は煌めく橙に染まっていない事に。

 

 夕闇に沈む太陽が稀に発するあの不気味な緑閃光の様な不思議で底の見えない淡い翠であることを。

 

 明るく、直情的なその行動の根底にはどこまで続くか分からない深く入り組んだ感情が揺らめいている事を。

 

 それを感じ取ったからこそ、自分以外でその性質を見抜いた物静かな同級生“文香”は反する性質でありながらも彼女に近い場所に居られるのだろう。

 

 

 閑話休題。

 

 

 そんな身勝手な考察はさておいて、ニコリともせずにこちらを覗き込んでくる少女に意識を戻してみると益々に不機嫌そうな表情を浮かべて固い声を絞りだしてくる。

 

「言い訳は、しないんですか?」

 

「する理由もないし、した所で納得なんてしないだろ?」

 

「…………そう、ですね。そんな気もします」

 

 余りに飄々とした受け答え。

 

 いっそのこと盗人猛々しいとすら言われそうな俺の佇まいに何を想い、何を飲み込んだのか知らないが彼女は吐き出しかけた言葉を苦し気に飲み込んで深い深―い溜息を漏らしつつ肩をガックリと落とし、俺の腕を枕にして寝転んでポツリポツリと恨み言のような独白として零していく。

 

「理屈は、分かるんです。お父様はどうしたって大企業の社長で、私はその一人娘。そんな女の子が無理を言って取ってる席に来る人は嫌でも注目を集めて息が詰まっちゃう事も、純粋にラグビーを楽しめないだろうことも。

 

 分かってても、比企谷さんとあの感動を同じ場所で、同じ時に分かち合っていたかった―――ただの私の我儘です。

 

 別の女の子と比企谷さんが気兼ねなく楽しみたいって言うのも、仕事付き合いのある私に不義理を感じさせないように隠していた事も理屈ではわかります。でも、だから、どんなに言葉や理屈を重ねても―――私は納得なんてしないんです。

 

 だからコレは結局、全部が中途半端な私の 八つ当たりなんです」

 

 そんな彼女の独白は最後に宣言通りぼすりと俺の胸板を軽くパンチをすることによって締めくくられ―――俺はその目尻に浮かぶ一粒の雫をちょっとだけ乱暴にこすりつつ小さく呟くだけで答える。

 

「…………いったぁ」

 

「でも、怒ってない訳じゃないですから」

 

「いだっ」

 

 俺のお道化た対応に、今度は普通にニッコリ笑顔で脇腹をパンチされた。痛い。

 

 今度は自分の目尻に浮かんだ涙をこすりつつ、二撃目、三撃目と俺の脇をパンチしてくる彼女の攻撃を防ぐために彼女が枕にしている俺の腕をヘッドロック風に締めて反撃をしてやる。苦し気に藻掻きつつ“アホ”だの“バカ”だの“浮気者”だのと言われもない暴言を喚くその口を〆るためにごちゃごちゃとプロレスごっこが始まった。

 

 なんだかんだと揉み合いながら格闘しているウチに彼女は何がおかしいのかカラカラと減らず口を叩きながら笑って反抗し、俺もソレを迎撃しつつ小さく笑ってしまった。

 

 そういえば、俺が拗ねた小町を宥める時は結局いつもこうだった気がする。

 

 試行錯誤を凝らし、考え抜いた小細工は大体が効果を発揮せずに最後は二人でこうやって揉みくちゃになりながら暴れて、腹減って、文句言いながら一緒に風呂入って、一緒に寝て――――次の日にはなんで喧嘩してたかも忘れてた。

 

 何がノウハウだ。結局は自分も大人ぶったふりしてクソガキだっただけだ。

 

 クソガキが、斜に構えて、酒飲んで、煙草吹かして―――何も変わらずいつもと変わらない解決方法に行きついている。

 

 そんな自分の成長の無さに呆れるべきか、そんな自分でもお嬢様一人のご機嫌取りが出来る事を喜ぶべきかちょっとだけ悩みつつも俺は結局、いつもの様に苦笑を漏らすだけに留めた。

 

 空は晴天、風は気持ちよく、世は事もなし。

 

 馬鹿みたいに原っぱで揉みくちゃになりつつ騒がしい馬鹿二人の声が、何処までも響き―――――――ま、コイツが落ち着いたら近くの運動場でやっているラグビー部の練習試合を覗きに行くのくらいは付き合ってやるか、なんて俺は呑気に思いついたのだった、とさ。

 

 

 

 

 

 

――その後 という名の 蛇足――

 

 

 

 

「えっ、高校の恩師?」

 

「おん? ああ、その頃から世話になってる先生に誘われてな」

 

「………あ、あはは、そうだったんですか。私はてっきり、事務所の誰かと行ったものかとばかり…」

 

「なんで、芸能人連れてそんな人混みに行くんだよ……。もし連れていかなきゃいけないなら普通にお前の取ってるVIP席に押し込んで、俺だけ一般席に行くまである―――て、あつっ、え? なんで急に体温上がってんの? というか、顔赤くない。 めっちゃ赤くない?」

 

「わ、わたしっ、もしかしたら! もの凄い勘違いをしていたかもしれません!! いえっ、声を掛けてくれなかった事自体はムカついているんですが!! なんだか、もの凄い勘違いをしていたかも知れません、ぼんばーっ!!」

 

「う、うるさい…」

 

「比企谷さん、ラーメンがお好きでしたよね!? お、お詫びに奢りでこの後、オススメのカレーうどん屋に行きましょう!! 絶品です!!」

 

「“うどん”は“ラーメン”と定義していいのかって所から審議が始まるな……」

 

 そんな馬鹿カップル二人組ぽい大声が練習試合に精を出す選手たちの心を締め付けたという話があったとか、無かったとか…とさ。

 

 

 

 

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「んじゃ、気を付けて帰れよ」

 

「今日は、ありがとうございました!!」

 

 結局あの後、オススメのカレーうどんを一緒に食べた私を駅まで送り届けた彼“比企谷さん”はいつもの気だるげな雰囲気を漂わせながら最後まで【うどんはラーメンなのか?】という命題に首を傾げながら去っていくのをクスリと笑いながら見送って私は電車の空いている席に腰を下ろして小さく息を吐きます。

 

 それは、最近ずっと抱えていた陰鬱とした気分のモノでなく――ずっと、清々しい溜息だった。

 

 あの日からずっと脳内をよぎっていた嫌な考えは消え去って思い返すのは今日の楽しい出来事や、今まであった彼との楽しい記憶ばかり。

 

 そんな現金な自分に苦笑が漏れてしまうのもしょうがない事だと思います。

 

 自分の家柄が心の中で親しく思っている人との障害になり、生まれて初めて自分が日野家に生まれた事を後悔した。誇りと愛情をもっていた家族を疎ましく思ってしまった。だが、そんな自己嫌悪よりも―――自分以外の誰かが彼の隣であの熱狂の舞台で笑顔を浮かべ、肩を抱き合い、熱狂を分け合ったと知った瞬間にヘドロの様な感情が湧き上がって止まらなくなった。

 

 “そこにいたのは自分の筈なのに” 

 

 そんな身勝手な羨望と嫉妬が、際限なく湧きまとわりつく。

 

 理性が、身に着けた自制が、ソレはまちがっていると幾ら諫めても止まることが無い生まれて初めての想い。

 

 怖かった、悲しかった、情けなかった。そして―――怒りで暴れたくなる想いが止まらなかった。

 

 溢れる激情はいつだって精魂燃え尽きるまで体を動かせば解消できてきたはずなのに、この想いだけは力尽きた体の中でどこまでも大きく、重くなって消えてくれない。そんな事実すら振り払うように我武者羅に体を動かしていたらそれすらも失敗してどうしようも無くなった時に―――彼が来た。

 

 約束を、約束だと思っていたモノを破っても飄々と悪びれない彼に、彼の発した言葉に一気に力を抜かれ、そして、納得してしまったのだ。言い訳を、彼が、自分に許しを請う瞬間を待ち望んでいたはずなのに

 

 “どうせ納得はしないだろ?”

 

 言われてみれば、なるほどその通り。

 

 きっと、彼が土下座をしたって自分はこの黒い感情を収める事も、理解することも無かっただろう。逆に、そんな事をするくらいならば最初からそうしろと更に怒っていた気もする。

 

 悪意もない。理由もない。ただ、その方が楽しめたから。

 

 そんなある意味では最低で、だけれども、文句のつけようのないあっけらかんとした理由はなんだかストンと自分の中に落ちてきて溜め込んだ文句も、怒りも叩きつける勢いをすっかり失ってしまった。そんなガックリと崩れ落ちた自分の物理的抗議にいつもの厭らしい笑い方で相手をしてくれる彼と揉み合ってるウチに分かった。分かってしまった。

 

 あれだけ大好きだったご飯もカレーも、最近はすっかり美味しく感じなかった。

 

 やけくそに振り絞った全力をトレーナーさんにボロクソに怒られるのなんていつもの事なのに凹んだ心はいつもの弾力を失っていつまでも浮かんでこない。

 

 何もかもが、うまくいかず、反応を示さなくなってしまった自分の心は彼が現れて、頭を叩いて、声を掛けてきただけで一気に漲ってしまった。

 

一緒に食べたカレーやアイスは最高に美味しかったし、口元を拭いてくれた時には体全体が熱く痺れる様な甘い感覚が走って眩暈がした。荒っぽく叩いてくる自分の首をふざけて締めてくるその身体の温かさに頬は勝手に緩んで、ただの練習試合だというのに彼が隣にいるだけで――――あの世界が湧いた瞬間よりも心が熱くなった。

 

 きっと、この感情に自分はずっと前から気が付いていた。

 

 でも、形を与えればきっともう自分は止まれないから。

 

 今のままではいられないから、知らないふりをしていた。

 

 でも、この優しくて、甘くて、暖かな場所を欲しがってる人はたくさんいる。

 

 そして、自分よりずっとソレを手に入れられそうな人達はたくさん、たくさんいる。

 

 自分にない知性と落ち着きを持つ友。

 

 彼の傍でずっと支えてきて、支えられてきた狐目の彼女。

 

 何度もぶつかって、傷つけあったからこそ固く結ばれたシンデレラ。

 

 自分と彼女達を並べ、選択を迫ればきっとそっちが選ばれると自分自身が誰よりも分かっていた。だから、自分は拗ねて暴れて―――彼の気を引こうと無様に幼稚に振舞っていた。

 

 でも、もう、そんな自分に構ってくれる彼の甘さに浸かる時期はとっくに過ぎてしまって、心の分水嶺は遠く地平の彼方に置き去りになっている。だって、自分の他の女性が彼の隣にいると考えただけで胸が轢き潰されるように痛みを訴える。

 

 それにあの言葉で気が付いたのだ。

 

 納得なんてするはずがない。

 

 私以外の誰かがそこにいたかもしれない時点で―――納得できるわけがないのだから。

 

 私は―――そこに立つ“理由”が欲しい。

 

 

 思考に耽る内にあっという間に我が家が目の前にあった。随分と考えにぼっとうしていたのだなぁ、なんて他人事のように考えつつも見慣れて愛着のあるその家を眺め小さく頷いて足を勢いよく踏み入れた。

 

 

 そう、まずは走り出す前にやるべきことがある。何事も準備は大切だ。

 

 

 勢いよく扉をあけ放ち家族が驚いた様に目を見開き私を見たのを確認し――私は大きく息をすって 堂々と声を上げた。

 

 

 

「お父様、お母様!――――私 “恋” を しました!!!!」

 

 

 

 まずは、恋愛の最も身近な成功例を参考にするべく―――両親の馴れ初めから聞くことにいたしましょう。

 

 その日、日野家から近隣中に響く絶叫が響いたのはまた別のお話です、ぼんばー♡

 




_(:3」∠)_年明けまでボチボチこうしーん

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