デレマス短話集   作:緑茶P

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_(:3」∠)_春がまちどうしい。



寒苦の寄る辺 プロローグ

「わざわざ駅まで送って貰ってありがとうございました。それじゃあ、比企谷さんもよいお年を」

 

「あいよ、年越し番組ラッシュお疲れさん。残り少ない冬休みを楽しんでくれ」

 

「ふふっ、お土産楽しみにしていてください―――ほら、茄子さんもいい加減諦めてください」

 

「むが~~  ぷはっ、なんで比企谷さんは一緒に帰らないんですか~!?」

 

「なんで用もないのに県外で年越さなきゃいけないんだよ……」

 

 年末年始の混雑も過ぎ去った駅は人込みも随分まばらになっており不幸系アイドル“白菊 ほたる”とざっくりとした締めの言葉を交わしていると簀巻きにされ猿轡までかまされた相方の“鷹富士 茄子”がモガモガと車を降りまいと抵抗している随分とアレな光景が広がっていて、そんな彼女の絞りだした抗議にこっちも連れなく返して手を追いやるように振ってやる。

 

 年末年始の芸能関係はゆっくりする所が息つく暇もないのは例年どおりである。そんな時期を乗り越え遅れてやってくる遅めの冬休み。

 願掛けも掛けているのかいつも通り最後まで仕事が残っていた二人を無事に送り返す任務が終われば無事に自分にも訪れる久々のオフにわざわざ遠出なんて冗談じゃない。

 

「どうせ一週間もしたら嫌でも顔合わせるんだからさっさと行け。乗り遅れるぞ」

 

「逆転の発想です、比企谷さん。ここで一緒に帰れば美女二人を侍らしてウハウハな一週間を過ごせるというお得プランだと。こりゃ行くっきゃな――ムガムガ」

 

「もう散々その勧誘は失敗したんですから往生際よくしないと皆に怒られますよ。……それでは、今度こそ良いお年を」

 

「ムガーーーー!!」

 

 それでも食い下がるナスビに呆れていると手際よく猿轡と縄を締めなおした白菊が苦笑を浮かべながら小さく頭を下げてベルの鳴るホームへと消えていく。暴れる幸運の女神(笑)とソレを叱りつける彼女の逞しく育った姿にこちらも笑いながら見送って、ようやく肩から降りた荷に力なくハンドルに寄りかかって脱力する。

 長らく続いたイベント三昧に奔走した日々もこれでようやく一段落を迎えたのだ、細巻きの一つくらい燻らせたって文句はあるまい。

 

 さっきの地元への誘いも、休暇中に遊びに行く約束だって数多の所属アイドルから要請されたがこれで最後の一組も無事に交わし切った。こんな根暗なボッチを誘った所で面白い事もないだろうに物好きな奴らだと苦い笑いは意図せず漏れていく。

 

 そうは言っても、なんと言っても、彼女達は芸能人だ。

 

 それも、今や世間を賑わすトップクラスのアイドル。

 

 常日頃から人の眼に曝され注目を集める彼女達が唯一、羽を伸ばせる実家への帰省にわざわざ水を差す様な野暮なんてさせる訳がないだろうに気を使って声を掛けてくれる事に喜ぶべきか、困るかは未だに判然としない。だが、きっと胸の奥でムズムズと勘違いしそうになる“ナニカ”が反応しているという事は嫌がってはいないのだろう、自分は。

 

 そんな自分の気の迷いに小さくかぶりを振って笑い飛ばし、長い付き合いになった愛車のバン君のエンジンを入れる。

 力強く震える車体に、流れてくる温風。そんな変わらないものを感じつつも閑散とした物寂しいオフィス街を滑らせて―――自宅ではない目的地へと向かう。

 

 流れる街灯に、すっかり通常営業に戻った街を眺めながら想う。

 

 そう、誰も彼もが帰る場所を持っている。

 

 何があっても、どうなっても拠り所となってくれる魂の岸部が普通はある。

 

 だが、―――――ソレを持っていない連中だって世の中にはいるのだ。

 

 そんな奴らは、彼女達は―――どこで羽を休めればいい?

 

 そんな答えの出ない問いを、俺は細巻きと共にもみ消して無理やりにかき消した。

 

 

 

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「うい、邪魔するぞー」

 

「おかえりーん、思ったよりも早かったねー」

 

 愛車のバン君をボチボチ走らせた先にたどり着いたのは小生意気な後輩が隣に住むアパートではなく、古びた旅館の様な風情を湛えた346女子寮であった。そんなある意味では見慣れた寮の古びた玄関を開ければ段ボールをいくつか抱えた狐目の妹分“塩見 周子”とちょうど鉢合わせになって気の抜けた出迎えの声が掛けられた。

 

「道路も空いてたからな。……ほれ」

 

「………おにーさん、そういうとこやで?」

 

 何とは無しに差し伸べた手は少々の瞬きを挟んで苦笑と共にゆるりとはたき落とされた。

 

「はいはい、さりげない女たらしの御点前は気持ちだけちょーだいしとくわ。……それよりも、お待ちかねのお姫様に顔出したり~」

 

 呆れたように笑う彼女に何かを語り掛ける前に寮のエントランス奥にある談話室から派手に何かをひっくり返す騒々しい物音と慌ただしい足音が響き―――その原因である少女が廊下の角から勢いよく飛び出してくる。

 

「はちさんっ!!」

 

「おいっ、小梅。そんな走んなくても別にハチさん逃げやしねーって!!」

 

 どたどたバッタンバンと軋む床板を鳴らして元気にダイブを決めてきたのは小柄な体に金というかは透き通るかのような髪を持つ顔なじみの少女“白坂 小梅”で、その後を追いつつ窘めるのは切れ長の鋭い目つきに美麗なスタイルを持ったバンドガール“松永 涼”である。

 

 突っ込まれ、思い切り首を抱えられているこっちが心配になる程に細い小梅は爛々と眼を輝かせ、そんな小梅を苦笑と共に見守る松永に周子。

 以上がこのせっかくの遅れてきたお正月休みという機会にも関わらず実家との関係が微妙で珍しく寂しく物静かな女子寮への居残りを決めたメンバーであり――――誰にでもある帰る家を持たぬ奴らである。

 

 一人は、悪い事ではない。

 

 むやみに寄りかかり合う関係なんて反吐が出る。

 

 それを長年にわたってボッチをしていた俺は断言できるし、誰にも文句なんて言わせない真実だと心から思う。

 だけれども、凍える寒空の下で一時の寒風を凌ぐ間ぐらいは“一人モノ”同士で身を寄せ合う事があってもいいではないかと思うようにもなった。

 

 冷たい風が通り抜けた先で、またそれぞれに歩み出す。そのための小さくみじかな協力関係。

 

 海を渡る鳥も隊列で気流を作り、海を渡る蝶も筏の様に身を寄せ合って羽を休めるそうな。ならば、この短い彼女達の冬休みの小さな暇つぶしくらいは付き合ってもいいんじゃないかと―――誰になく俺は言い訳を心の中で零した。

 

「ハチさん! 今日はね、怖い映画いっぱい用意したから一緒に観よ!!」

 

「だー、もうっ。ちょっとは落ち着けって。その前に風呂やら飯やら済ませてからだっての!!」

 

「今日は特別寒いからお正月の皆の持ち寄った特産品フルコース鍋やで~、周子ちゃんとチヨ婆が腕によりをかけてるからお楽しみに~」

 

「…………ま、退屈はし無さそうな正月休みになりそうだ」

 

 

 玄関先、隙間風で冷え込むにも関わらず姦しい彼女達の会話を聞いているだけでなんだか少しだけ空気が和らいだ錯覚を感じつつ俺は小さく鼻を鳴らして寮へと足を踏み入れた。

 




(´ω`*)明るいニュース!!

沖武さんhttps://www.pixiv.net/users/28368080がなんと沼デレの【デュラララ!!EDhttps://www.pixiv.net/artworks/86865318】の絵を書いてくださいました!!

(/ω\)おいらには無理っぽかったので誰か、誰か動画化してください(懇願

(; ・`д・´)作ってくれたら好きなリクエスト頑張って書きます!! 誰か!! だれか~!!


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