デレマス短話集   作:緑茶P

135 / 178
(/・ω・)/祝え!! デレステ沼に遂にエンディングが完成だ!!→https://twitter.com/OW_LieMaker/status/1355799942850203651

(*''ω''*)動画作成から絵まで全部書いてくれた最強の男”沖竹さんhttps://www.pixiv.net/users/28368080”の渾身の力作をみんなも是非みて悶えて欲しいっす!!

('ω')もう、読むたびにこのエンディングを聞いて浸って欲しい!!てか、聞いて!!(圧力


『君の名は』

 

「武内、例の企画の進捗はどうなったの?」

 

「はい、先日の打ち合わせから先方の希望も纏まったらしく―――」

 

 

 かじかむ寒い冬も抜けて日差しに少しずつ暖かさが混じり始めてきた春の事。迷いのないピンヒールの足音も高く、事務所を横切っていく高貴な雰囲気の麗人“財前 時子”が高圧的な声をココの責任者である偉丈夫に投げかけた。

 ぱっと見一回りも年下の人間にそんな態度を取られれば普通の人ならば眉を顰めそうなものだけれど、プロデューサーである“武内”さんは特に気にした風もなくその声に応えて纏めていたファイルを片手に応対を行った。

 

 そこからは何やら小難しい打ち合わせが始まったために聞き耳を立てて見ても内容はさっぱり。早々に無駄な努力を辞めて私は相方の“みく”が入れてくれたミルクティーをズルズル啜る作業に戻り―――ふと浮かんだ疑問を口から零した。

 

「時子さまって意外とプライベートじゃ“ぶたぁっ”とか言わないよね……ビジネスサドなのかな?」

 

「「「「「……………」」」」」

 

「えっ、なに? みんなどしたの??」

 

 レッスン終わりに久々に集まった同期のみんな。さっきまで賑やかにお喋りをしていたはずのなのになぜかその口を一様に閉ざして私の事を信じられないものを見るかのように眺めてきた。そんなに見つめられるとちょっと照れるので辞めて欲しい、などと考えていると思い切り耳を抓られた。

 

「いだだだっ、急に何すんのさ! みく!!」

 

「いや、最近はもう怒りを通り越してちょっと尊敬してきたから敬意を示してるのにゃ」

 

「敬い方が斬新過ぎない??」

 

 必死の反抗も空しく耳が千切れるかと思うくらい引っ張られてようやく解放された私は助けを送ってくれない薄情な同期達に文句の視線を送るも、誰もが相手にする所がされて当然だというった風に呆れの眼を剥けてくるものだから酷い話である。

 

「そう言うのはデリケートな話題なのにズカズカ踏み込むのが李衣菜ちゃんの悪い所にゃ。大体が、日常生活でそんな感じだったら完全にヤバい奴にゃ」

 

「………みくも“にわか猫キャラ”だしね」

 

「いてこますでほんまに?」

 

 私の軽口に今度はグーを振り上げて胸倉を掴み上げてくる彼女を必死に宥めていると、間に割って入ってくれる皆のおねーさん“美波”さんが何とか場を纏めようとしてくれる。

 

「ま、まあまあ、二人とも落ち着こう? というか、時子さんってテレビではそういうのが目立つけれど普通に立派な人なんだからそういう風に言うのは良くないわ」

 

「んー、でも、時子さんって日常的に“あだ名”で呼ぶ人もいるよねぇ」

 

「あ、ソレはわかるにぃ。お豚さんは結構幅広く気分で呼び分けてるけど、それ以外のバリエーションが結構あって聞いてると面白いよねぇ」

 

 無難に纏めようとした話題を混ぜっ返すのは【あんきら】の二人であった。みんなも何を危惧していたのかは知らないが最初の謎の緊迫感は薄れ、その話題に徐々に口を緩ませ始めた。

 

「うーん、未央ちゃんが見てる限りでは“豚”って呼ぶのはファンの人達とか希望者のタレントさんやスタッフさんが多いよねぇ。後は、子供たちの相手をしてるときはすんごく優しい声で“子豚”って呼んでるみたい」

 

「お昼寝や絵本を読み聞かせる時とかもう、聖母感が溢れてますよね!!」

 

「ふふっ、そう考えるとあの口調と態度がご褒美って言われてるのはそういう“保護対象”として見られてる気分なんじゃないかな?」

 

 ニュージェネが今までの時子さんを思い出すように語って小さく笑い合えば、今度はちょっとだけ不満げな声がソレに異を唱えた。

 

「えー、でも、私はこの前のレッスン前に普通に“豚”って呼ばれたよぉ?」

 

「それは、かな子ちゃんが差し入れのホールケーキを一人で食べきっちゃったからだとおもうなぁ……」

 

「「「「初耳ですけど? かな豚ちゃん?」」」」

 

 “やっべ”みたいな顔してかな子ちゃんは視線を逸らすが、豚も泣かずば撃たれまいに。それに甘いものが独り占めされていたという初耳の情報に皆の眼が半眼になって刺さる。女子の中で甘いものの恨みというのは存外に根深いのだ。というか、その場で怒られただけで皆に広まっていなかったのでちゃんとその件は秘密にしてくれていたらしい。やさしい。

 

「後はどんな呼び方があったっけ?」

 

「うーん、大体が時子さんって自分が認めた人は普通に名前で呼んでるけど……“下僕”に“犬”。それに“猫”と“狼”と“タコ”とかは聞いた事あるかなぁ」

 

「シトー? 前の二つはわかりますけど、後半は悪口ちがいますね??」

 

 まだ年少に入るであろうみりあちゃん達が指折り語録を数えているとアーニャちゃんがソレに首を傾げる。確かに、前二つはよく聞く罵倒だけども後半はちょっと個性的過ぎる気がする。そもそも、それで呼ばれてる人って誰だろう?

 

「うむ、“猫”は薬瓶を携える者で“狼”はロキの事よ。最後の赤き悪魔は甘美なる雫に酔いしれるワルキューレを指している(猫は志希ちゃんの事を“猫みたいに性質が悪い”って呼んでからそうなってますし、悪戯好きな麗奈ちゃんの事を“オオカミ少年”になぞらえてそう呼んでるみたいです!! 最後の“タコ”は飲み会で泥酔した大人組の皆さんが真っ赤でグニャグニャだった時に叱り飛ばした時にネーミングされました)」

 

「前半二つは愛称で片付けられたのに最後のはガチのお説教じゃん……。というか、みくはここでも猫とは認めて貰えなかったんだね」

 

「その喧嘩言い値で買うから表でるにゃ。お代はお前のギターと命にゃ」

 

 残酷な事実を励まそうと肩を落としている相棒の背を叩いたらキレられた―――解せぬ。

 

 そんなこんなと、いつもの様に脱線・逸脱ばっかりの馬鹿話は最初に見せた賢い沈黙なんて忘れたかの様にみなが好き勝手にお喋りに興じていると、開いた事務所の扉から現れた人物にもう一つの“愛称”が思い出されて思わず口から零れてしまった。

 

 男の人にしては濡れた羽のように黒く、長い髪と一本だけ跳ねたアホ毛。

 

 ここではないどこか遠くを見ているかの様な茫洋とした昏い瞳。

 

 それなりにあるはず上背は、気だるげに丸められた姿勢。

 

 そんな陰気な雰囲気なのに何処かコミカルで、皮肉気な物言いが特徴的な我らがアシスタント“比企谷 八幡”の姿を見た時に―――彼女が、時子さんが頑なに名前で呼ぼうとしない彼の“愛称”がストンとイメージ通りに落ちてきたのだ。

 

「“鴉”」

 

「――――少なくとも、鳥類に属した記憶はねぇなぁ」

 

 私が思わず零した言葉に誰もがはっとしたように気が付き、そのイメージが皆の中にも同じように当てはまったのかクスクスと笑いが次第に零れてさざめいていく。そんな集まる視線と笑い声に首を傾げつつもいつもの様なひねくれた答えが返ってきてついついおかしくなってしまう。

 

「あははは、いや、時子さんがハチさんの事をそう呼ぶ気持ちがなんとなく分かっちゃって―――て、あだ、あだだだだっ」

 

 零れる笑いの中で事情を説明しようと口を開くと今度はさっき引っ張られたのと逆の耳が抓りあげられて痛みとヒヤッとした感覚に肝が冷えてしまった。痛みに呻きながらなんとか視線をそちらに動かせば、美麗な顔に貫くような冷たい瞳が二つ。噂の渦中である時子さんが呆れたようにこちらを睥睨していた。

 

「噂話も悪口もせめて本人がいない所でするくらいの慎ましさを持ちなさいな。子豚ども?」

 

「ひゃーっ、ごめんなさいごめんなさい! いたいです! 痛い~!!」

 

 キリキリと持ち上げられる耳はみくとは比較にならないくらいの“お仕置き具合”で、相方の愛情はこんな所にまで滲み出ていたのかといつだって失ってから気づく人間の愚かさを心の中でロックンロールしつつ、そんな絆を頼りに救援の視線を向けると皆が両手を上げて降参の意を示しつつ眼を合わせてくれない。

 

 絆とは儚いものだと知った“多田 李衣菜”17の春。

 

「そういや、何で鴉なんだ?」

 

「陰気で、皮肉で、可愛げがない上に懐かないからよ」

 

「“悪口は本人のいない所で”ってありがたいお言葉は何処に行ったんだよ……。まあ、いまさらか。とりあえず、法子を拾いつつ局に送るからその辺で切り上げてくれ」

 

「ふんっ、明日この調教の続きをするから全員覚えておきなさい――――さっさと行くわよ、鴉!!」

 

「いや、お前待ちなんだっつーの」

 

 そんな二人のやり取りの果てにぽいっと投げ捨てるように私の耳は放り投げられ、時子さんは入ってきた時と同じように背筋をシャンと、ピンヒールの足音高くその部屋を後にしていった。ただ、若干、音が大きく聞こえたのは耳がジンジンしているせいで怒っているからでなければいいなぁと希望的観測をして私は耳を擦るのであった、とさ。

 

 

 

 

 

~蛇足 という名の 小話~

 

 

 

「“鴉”、ですか?」

 

「ん、あぁ。なんだか時子が呼びつける時の名前が話題になってたんだが“陰気で、皮肉で、可愛げがない上に懐かない”からそうなったんだとさ。気にしたことも無かったが改めて言われると中々に的を射てるもんだと思ってな」

 

 夜の冷え込みも随分と緩んだ春の夜の事。叔父が出版社から貰ってきた銘酒と大学のレポートを餌に自分の下宿先に呼び出した彼“比企谷”さんが大半が終わったレポートを脇に寄せ、私が注いだグラスを傾けつつ気分転換のようにその話題を漏らして苦笑する。

 

 その時子さんのあけすけなモノの言い様と、いつもの様に些細な話題でも真剣に楽しみ好奇心を爆発させる賑やかな後輩たちの姿を思い浮かべつつ私もクスリと笑ってしまう。そんな楽しい気分を肴に自分もグラスを傾け、その甘く爽やかな酒気を運ぶ液体を口の中で転がしながら水面の波紋を見て思索にふけってみる。

 

 “鴉”というのは最近では都市部のゴミ漁りや、農作物への危害。後は創作物においても多くの場合不吉なモノとして描かれる事が多いせいか基本的には忌避される類の鳥といってもいいでしょう。だけれども、そうでない面が多くあるという事を知っている人間はどれくらいいる事でしょうか?

 

 古来からその高い知力と慧眼で多くの神に愛され重宝された神の使いであると信じられ、時には神自体であるとすら信じられてきた神聖な生物。有名な逸話では北欧神話のオーディン神や八咫烏などが最近では伝わりやすいかもしれません。

 

 神話等を抜いても生物的にも他の鳥類には持たない特徴も多く、人と変わらぬほど発達した視覚に九年以上も覚えた顔を識別するという記憶力と畏怖すら覚える知能の高さ。何よりも苛烈なのは番や巣を守ろうとするときの抵抗の激しさは類を見ない程強く、私の身勝手で独善的な見方をすれば―――どんな鳥よりも愛情が深い。

 

 そんな豆知識とも言える雑学ではあるのですが、少なくともあらゆる分野で教養を収めた彼女“時子“さんはこの知識を知っていないとは思えないのです。

 

 人に疎まれ、嫌悪される鳥でありながら神聖であらゆる神に重宝されたイキモノ。

 

 我が身を顧みない程に愛情が深く、それゆえに、執念深い。

 

 そんなイメージこそを彼に抱いてその呼び名をしているのではと思ってしまい、小さく笑いが込み上げてきます。ソレは自分だけの知っている秘密を知っている人間に出会った小さな喜びと自分以外にもソレを知ってしまっている人間が居るという小さな焦りを含んだ懊悩でもあるのですが、コレも楽しんでこその恋路と思い込むことにします。

 

「………なんだ急に。気味の悪い」

 

「ふふっ、いえ、存外に時子さんも可愛らしい所があると思っただけです」

 

 私の言葉に怪訝そうに眉を顰める彼に微笑むだけで答えてはぐらかす様に杯を進め、ゆっくりと彼のグラスの水面を揺らしもう一度だけ思索にふける。

 こんなあからさまなで意地らしい照れ隠しをつまびらかにするほど無粋ではありませんし、新たな恋敵候補に塩を送る程に余裕のある身分でもないのですから、考えるのは別の事。

 

 

 鴉の逸話にはもう一つ有名なモノがある。

 

 かつては誰もが目を見開くような美しい白羽を持っていた神鳥。

 

 だが、その羽はたった一度の過ちで誰もが目を背ける醜い姿となってしまった。

 

 誉れも崇拝も失ったにも関わらず、知見と慧眼を持ち続けたがゆえに――――遂には、その神性は不吉の象徴とまで言われるほどに堕ち、汚される。

 

 人の侮蔑を受けても役割を果たし続けるその鳥は何を思うのだろうか?

 

 その汚れを注ぐことはできなくとも―――その姿を愛する者がいると、どうしたら聞き遂げさせることが出来るだろうか。

 

 そんな答えのない問いを酒器の水面に映る満月に問いかけて、今日も“鷺沢 文香”という愚かな女は彼の隣に寄り添う。

 

 

 どうか、この傷だらけの鳥に――― 一時でも安らぎを、と祈って。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。