デレマス短話集   作:緑茶P

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(・ω・)デレプロの未来はどうなっちまうんだ…


新規√【KRONE Producer】 周子編  【ただいま】 中

 

 

「おう」

 

「………あー、その、おつかれさまーん」

 

 都内某所の裏路地にひっそりと在るラーメン屋。雑な内装に安っぽい椅子。それに場末のラーメン屋らしく脂ぎった床と手書きのメニュー。それと古びた裸電球が通らしさを醸し出すその店の暖簾をくぐった先で肩を縮こまらせていた狐目の女“塩見 周子”に声を掛ければ実に気まずそうに聞いた事のないくらい歯切れの悪い挨拶が返ってくる。

 

 目も合わせようとしないまま俯く彼女に鼻を鳴らすだけで答えて、どっかりと隣のカウンターに腰を下ろせばこんな豚骨臭が溢れる店内でも彼女特有の白檀の匂いがふわりと薫って、そのギャップに笑いそうになる。

 だが、ソレを顔に出すと百年に一回といっても過言でもないこの女“塩見 周子”のしおらしい態度というモノを見学できなくなるかもしれないので堪え、不愛想な店長にオーダーを簡素に伝えつつ不機嫌オーラをこれでもかと醸し出して隣に女をマジマジとねめつけてやる。

 

 長く肩甲骨あたりまで伸ばされてざっくり纏められていた銀糸の様な髪はうなじのあたりでバッサリと整えられ、見慣れたエプロンに動きやすさ重視の管理人見習としての服は久々に見る彼女の私服に包まれてなんだか見た事のない女のように感じるが、それでも目の前にいるのは―――あの日、夜も更けたこの店で声を掛けてきた彼女そのものなのだ。

 

 変わった髪形と服なんてどうでもいい。

 

 いま、俺の胸を擽るこの感傷の最たる原因は、彼女のその顔だ。

 

 虚ろで濁り切っていた瞳には感情が宿り、気まずげに冷や汗と照れくささを湛えるその顔は退廃的で自暴自棄な雰囲気ではなく悪さをした子犬の様に不安としおらしさの中でも、生きている事を実感させる生気があった。

 

 単身、着の身きのままで実家を飛び出していく当てのないまま最後に、見知らぬ男であった俺に身売りを持ちかけた少女。

 その時の眼を覆うばかりの陰鬱な彼女からは想像もつかない程に明るく、快活になったその姿の対比を楽しみつつも小さく苦笑を漏らして、出てきた麦酒をコップに映して感慨ごと飲み干し言葉を紡ぐ。

 

「なーんで意を決した謀反先にお前がいるんですかねぇ?」

 

「うっ、いや、そのー、……ちゃうねん。もっと本当は劇的におに―さんの前に出場して驚かす予定やってん!! ていうか、何でおに―さんシレっとこっちに寝返っとるん!? 今までの皆との時間を裏切って痛む良心とか普通はあるもんやないん!?」

 

 冷や汗だくだくで弁明をあわあわと捲し立てる周子の頭を乱暴に引っ掴んでその髪をワシワシさせてシェイクしてやると、文句ありありな涙目の瞳でこちらを睨んでくる彼女を鼻で笑いつつ細巻きに灯をつけた。

 

 結論から言えば―――俺のだした条件は杞憂の空回りだったらしい。

 

 そんな自分の間抜けさに嘆息を吐きつつ事の顛末を思い出す。

 

 俺が常務にデレプロを裏切って着くために出した条件は“塩見 周子の生家との和解”であった。

 

 このバイトへ武内さんに引き抜かれる時に俺が出した交換条件が身分証明もままならない家出少女である周子のバイト先と下宿の斡旋であった。正直、その経緯を話せば大分ややこしくはあるのだが、その時の俺は大分ナイーブでついつい見知らぬ自暴自棄な馬鹿にお節介を焼いてしまった。

 

 色々と訝しげにされたものの全ての責任は俺にあるという誓約書の元で周子はデレプロ女子寮という宿とそこの見習い管理人という職を得て人並みの生活を送ることが出来るようになったのだが―――肝心の問題は結局、今日の今日まで触れずに来てしまった。

 

 未成年で、なんの手続きもせずに飛び出した彼女は免許どころが保健証などの公的な身分を示すものは何一つないまま今に至る。

 

 雇用側も、俺も、周子も何か一つボタンを掛け違えていれば実に面倒なことになる綱渡りでここまで来ている事を誰もが見て見ぬふりをしてきていた。だが、そんな状態がいつまでも続けられるとは誰も保証してくれないのだ。だから、俺はあらゆるものを切り捨て恨まれる事を承知でこの妹分の問題解決を選び取った。

 

 例え、周子自体が復縁を望んでいないとしても、天下の大企業の346の代表者と下手人が頭と首を持ち寄って懇切丁寧に詫びを入れれば少なくとも彼女の生家も無体にはするまいという打算の元で出した交換条件。

 

 それを聞いた常務はその怜悧な雰囲気をかなぐり捨て大笑いした上で呆然とする俺に新たに彼女が設立するグループの企画書を投げつけ、そのメンバーに度肝を抜かれる事になった。プロフィールだけでもトップアイドルになることを予感させる少女達の中にシレっと混ざり込む―――隣で頭を抱えて唸っている妹分がいた時の衝撃は今でも忘れない。

 

 見栄えはすると思っていた、歌が上手い事も知っていた。度胸も頭がいい事も長い付き合いで思い知らされたし、その目が―――寮に泊まるアイドルの少女達に憧れを抱いていた事も分かっていた。

 だが、まさかこのタイミングで、この陣営でデビューを勝手に決めているとは夢にも思わなかった。

 

 頭を抱えて悪態を突く俺を楽し気に眺めつつ、新たなボスが出した最初のミッションを脳内で転がしつつも隣でその時と似たような雰囲気で唸る彼女に苦笑する。

 

 常務の手先になると宣言してきたデレプロでも一悶着があったし、俺の裏切り宣言で動揺するどころが怒りに燃え盛る彼女達から宣戦布告まで受けてきた。そのうえ、先に顔合わせを行った常務の集めたメンバー達はどいつもこいつも癖が強すぎる変人奇人、問題児ばかり。

 そんなどっちに転がってもどうせ苦労はしたのだろうな、なんて他人事の様な感想を心の中で漏らしつつ出てきたラーメンのために箸を割る。

 

「おら、とりあえず文句も愚痴も説教もラーメン食ってからだ。覚悟しろ、馬鹿狐」

 

「久々にココのラーメンをおにーさんと食べるのに気が重いとか最悪やん………」

 

 ぶちぶち文句をいいつつ箸を割る彼女を横目に一拍、手を合わせる。

 

「「頂きます」」

 

 あの時と全く変わらない懐かしいラーメンという芸術をすすりながら―――俺はポケットの中に忍ばせた京都行のチケットに思いを馳せた。

 

 

「なぁ、おに―さん。ウチが“アイドル”になった理由が“寂しかったから”なんてゆうたら笑う?」

 

「………いいから、さっさと食え」

 

 

 そんな小さな囁きが小さく耳朶を叩き、俺はソレに答えずはぐらかす。

 

 その孤独の根源はもっと深く重い。その溝に俺が出来るのは薄っぺらい布を被せて隠してやる事だけで埋めてやるには余りに大きすぎるのだ。

 

 だから―――俺は、いつか彼女自身がその根源に向き合えるように手を打とう。

 

 少なくともそれが、彼女を無責任に拾った俺のケジメという奴だ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 そんなこんなで俺がインターンとして迎えられた瞬間に正式にデレプロから常務直属の“KRONE”に引き抜かれ、宣戦布告がなされてから早一週間。

 

 余りに苛烈で強引なその手腕に社内の緊迫感は社内に極限に近い緊張を齎し、一月後のクリスマスに行われるお互いの存続を掛けたライブバトルに対してシンデレラ達が気炎をあげ、“速水 奏”を始めとする常務の隠し玉たちはその存在を密にしながらも着々とパフォーマンスの精度を仕上げていく忙しい日々の中で俺は―――この国最古の古都を訪れていた。

 

 別に暇を持て余してという訳ではない。

 

 自慢にもならないが新ボスである常務は引き抜いた人材を遊ばせておくほどに甘くはなく、クローネ自体はまだ始動していなくともやる事が山積している彼女の秘書の真似事としてついて周りそれこそ前と変わりないくらいに投げられる膨大な仕事に奔走する毎日である。

 

 俺の社畜適性の高さがまた証明されて鬱になりそうだが、そんな中で何とか空けた時間に滑り込ませたこの機会。

 

 すなわち――――周子の実家へのお礼参りである。

 

 俺の交換条件では一緒に頭を下げて貰う、という内容だったはずだが肝心の常務から言われた一言は“嫁の不始末は自分で解決して来い”との冷たいお言葉を賜った。

 

 “話が違う”とか“嫁じゃねぇ”とか色々と言いたいことは溢れてきたのだが、ニマニマと意地の悪い笑みでこちらを見てくる彼女の想定していたプランを聞くに連れていくと俺の思い描く理想のルートは叶いそうにないので結局、一人で来る事になった。

 

 少なくとも、あらゆる書類の手続きをするにあたってどうしたって一度は“両親”の承諾があることに越したことはないのだ。それが“アイドル”なんていう商売で生きていこうと思うならばなおさらだ。それでも、周子がいまの心境で両親の元に頭を下げに行く事は難しい事のこの前のラーメン屋で確認した。

 

 となれば、デビューさせようとした常務はどういうプランだったのかと問えば“未成年だった二年前ならいざ知らず、成人した女がウチに就職したと挨拶する程度でも十分だ”という下手なヤクザよりもシビアでざっくりした計画だった。

 

 まあ、正直、それでも事は成る。

 

 行方も知れなかった娘が大企業でデビューするという一報が入るだけでも実家は騒ぎ立てる事は無くなるのだろうけれども―――ソレは一種の絶縁状に近い。

 

 少なくとも、家族大好き勢の俺からすればそんな結末はちょっと認められそうにない余りに寂しい繋がりの途絶え方だ。喧嘩もするし、腹も立つし、めんどくさいし、心配もかけまくって親不孝もするだろうけど、それでも、繋がってさえいれば“いつかは”と思える選択肢は必要なのだ。

 

 だから、カワイイ妹分の代わりに頭を下げてぶん殴られるくらいは請け負ってやろう。

 

 そんな情けない決意を新たに、いまだ慣れない上物のスーツの襟を正しとある情緒ある和菓子屋の前で足を止める。

 

 年季の入った看板には“塩見屋”という文字。

 

 いつもは人で賑わっているであろう店先には休業の看板が立てかけられ、わざわざ俺の来訪に備えて店じまいしているであろう事が窺えて緊張が胃を締め付けるが、いまさら帰る訳にもいかない。意を決してその引戸を開け、声を張ろうとしたその時―――

 

 

「こんっ、人攫いがぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

 

 いぶし銀と頑固さを絵に描いたようなオッサンが般若も真っ青で逃げ出すほどの険しい形相で胸倉を掴み上げ、渾身の右ストレートで俺をお迎えしてくれた。

 

 頭の奥で火花が散る幻覚と鼻を抜けて目玉の裏に痺れるような感覚によろめいて体制を崩せばそのまま思い切り蹴り飛ばされ、道路に尻もちを付いてしまう。いまだに思考が追い付かず体中が発する痛みの信号に体から空気が漏れ出るが、息つく暇もなく馬乗りになられ首を荒っぽく揺さぶられる。

 

「人んちの娘をかどわかしてっ、弄んだ上に!! 今度は、見せもんにするから挨拶に来るだのっ、舐めとんか!! おいっ! 寝とらんで何とか言うてみんかい、ごらぁっ!!」

 

 時間にすれば数秒だろうか? そのオッサンが目を血走らせ俺に跨って罵倒を浴びせつつ拳を振り下ろす事、数回。慌てて店から飛び出てきた店の若い衆がオッサンを無理やり引きはがすまでのその僅かな間におろしたてのスーツはボロボロになり、顔も体も痣だらけ。いやはや、何とも昔からそうだが俺はどうにもビシッと決めるには向かない星の元に生まれたようだ。

 

 だが、俺はいまだに半狂乱で暴れるオッサンやソレを宥めつつも俺に鋭い敵意の眼を向けてくる職人たち。おっかなビックリながらもかつて可愛がっていた看板娘の行方を心配してわざわざ休業にも関わらず残っていた売り子さん達。そんな大勢の誰も彼もが“周子”の事を心配して、ここまで感情を露わにしてくれることが嬉しかった。

 

 なーにが、“ウチの事を心配してくれる人なんてあそこにはおらん”だ。

 

 これだけの人間に心配を掛けさせて、愛されて―――そんな訳がないだろうが。

 

 そんな心の中から零れる苦笑を何とか飲み込みつつ、体中が訴える痛みも眼前も振り切って俺は背を伸ばし立ち上がる。スーツはボロボロ、顔もボコボコ。味方は皆無で、緊張に舌が縺れそうになるがそれら全てを意地で飲み込んであの馬鹿の帰る場所を作るために気合を入れた。

 

 こういう時に、俺の人生で数少ない尊敬する大人たちはいつだってこうだった。

 

 無い意地と、強がりを飲み込んで―――不敵に強気に真っ直ぐと。

 

 

「ご挨拶が遅れました。周子さんを預からせて頂いておりました346プロダクションの“比企谷 八幡”と申します。―――どうか、お話だけでも」

 

 

 愚直に進んでいったのだ。

 

 その背に恥じぬ生き方を今度は―――俺がアイツに見せてやる番なのだ。

 

 

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 店先での騒動からしばし、いまだに俺をぶん殴ろうとする周子の親父さんを後ろからひっぱたき一喝して場を収めてくれたのは和服に身を包んだ妙齢の女性であった。京都訛りは周子より強いが声はそっくりなハスキーな艶のあるモノで、何よりその狐のような眦がそっくりなのですぐに母親なのだろうと見当がつく。

 そんな彼女に促されるまま店の飲食スペースであろう場所に席を移し、十何人に囲まれての親子面談と相成った。

 

「すんまへんなぁ、遠方から来て頂いてお疲れんとこ、ホントは奥に通してお話するべき何やろうけど皆が心配して譲ってくれんからこのままで堪忍おくれやす」

 

「いえ、ご心配はごもっともですので――」

 

「……どうか、されましたん?」

 

「いえ、どうでもいい話なのですが……周子、さんの髪は父親譲りなのだなと思ってしまいまして」

 

 はんなりとそう告げた彼女に慇懃に答えようとしてどうでもいい事に気が付いて言葉を切ってしまったのを目ざとく拾われていうかどうかで少し迷うが、そのまま伝えることにした。

 

 その瞬間に隣で俺を睨んでいた親父さんが目を見開いたので、またぶん殴られるかと思って覚悟を決めていたのだがソレを遮ったのは小さな笑い声だ。クツクツと、堪える様に口元を上品に隠す周子のお袋さんに俺だけでなく店中の誰もが目を丸くした。

 

「いや、いやいや、重ね重ねすんまへんなぁ。……ほんま、あの子は人の縁に恵まれたんやと思って安心したらついホッとしてしまって。あの子を事務的に拾ったり、下心で拾った人間からはそんな言葉出てくるもんやあらしまへん。家を飛び出た馬鹿娘が食いもんにもされず今も真っ当に生きとるんはアンタのお陰なんにこんな仕打ちをしてしまい―――堪忍しておくれやす」

 

 そういって頭を下げるお袋さんに場の誰もが小さく息を呑み、腰を浮かせかけた親父さんも悔し気に鼻を鳴らして席に戻った。

 

 あんな間抜けな一言をそこまで深読みされるのはむず痒いやら、気恥ずかしいやら中々に複雑な面持ちである。急に居心地が悪くなった空気の矛先を誤魔化すために俺は早くも傷だらけになったビジネスバックから小細工用に持ってきたものを差し出しす。

 

「これは?」

 

「自分が行き倒れてた周子さんにラーメンを奢ったあと、寮の管理人のバイトを紹介してからの写真です。少なくとも、彼女は二年間の間は慣れない仕事と環境の中でも笑いながら真面目に自分で日々の糧を得ていました」

 

「「「――――っ」」」

 

 俺が差し出したのは今までのデレプロで撮ってきた写真のデータからアイツが映っているものを現像した写真であった。ソレに誰もが目を見開き、競うように、食い入るように写真を眺め―――誰もが目に涙を浮かべる。

 

 映っているのはたわいもない写真だ。

 

 だるそうに箒を持って掃除してる姿に、大皿にのった飯をみんなでほっついたり、イベントごとにはしゃいだり悪ふざけをしているもの。中には悪戯やサボりがバレて反省させられている写真なんかも含めて―――アイツのなんでもない平和な生活。

 

 そんな何でもない風景はきっとここでも彼女とここにいる全員の中にあったものだったのだろう。だからこそ、芯に響く。

 

「本来は、アイツもここに来て“アイドル”になるため頭を下げるべきなのは百も承知です。ですが、もう少しだけ周子が心の整理をつけられるのを待ってやって貰えないでしょうか?」

 

「……………ほんに、あの子は幸せもんやね」

 

「………………知らんがな」

 

 頭を机にこすりつける勢いで下げ続けた先で―――そんな声が聞こえた。

 

「では、」

 

「ただし、条件があります」

 

 現金にその言葉に食いついた俺を窘める様にぴしゃりとお袋さんが声を挟んだが、ここまで来て躊躇う事もなかろう。どんな条件でも構いはしないつもりでその言葉を待つ。

 

「あの子を守ってやると、ここでうちらに誓ってくれまへんか?」

 

 その真っ直ぐな言葉と、視線と、意味の重さに息を呑む。

 

 誓って、なんになる? どこにそんな保証がある? どこまで、どうやって、何で―――瞬きの内に多くの疑問と否定が交錯する中で煮え立つ思考が急にクリアになる。

 

 そんな事を問われているのではない。

 

 問われているのは“意思”だ。

 

 ならば―――俺の答えはデレプロを裏切った時から、いや、アイツを拾ったあの日からずっと前に決まっていた。

 

 押しつけがましい幻想なんかをお互いに抱かずに、ただ自然に息をするように笑って、怒って、悲しんできたアイツの事である。

 

 答えなんて、考えるまでもない。

 

 

「誓います」

 

 

 アイツを泣かせないためなら、俺は何だってして見せる。

 

 そう誰になく宣言して、俺はそう答えた。

 

 

―――――――――――――― 

 

 

「あれ、おにーさん出張おわった―――って、なにその顔!!?」

 

「わお、ついにデレプロからカチコミが!? フレちゃんの太極拳が火をふいちゃうze!!」

 

「にゃは~、ジャパニーズて思ったより過激なんだね~」

 

「あら、随分と男前になったわねぇ。キス……いる?」

 

「あははは、はっちゃんまるでミイラみたーい!!」

 

「きゃあっ!! なに皆さん馬鹿な事言ってるんですか!! 治療箱は、い、いや、こういう場合はまずひゃ、ひゃくとうば、いや、ひゃくじゅうばん!??」

 

「あー、もう帰って早々うるせぇな……。ちょっと親父狩りにあっただけだよ、おやじ狩り」

 

 お披露目までの情報漏洩阻止のため臨時にクローネ用に借り上げた事務所に諸々の手続きを済ませて久々に顔を出せば相も変わらず騒がしい小娘たちが群がってお祭り騒ぎを始める。だが、詳細を離す訳にもいかないのでテキトーな事を言ってそれぞれをレッスンやら衣装合わせに追い出していくと最後に残った周子が気まずそうに寄ってくる。

 

「……まさかやけど、本当に皆にやられたり、とか?」

 

「それだったら刑事事件にして普通に博打の勝負をする必要もなく勝てたんだけどなぁ」

 

「心配したっとんのに、なにしょーもない事言うてんの。……でもまあ、気を付けてや? 心臓止まるかと思った」

 

 おチャラけて返せば苦笑する彼女。だが、まさかお前の親父にボコボコにされたなんて言える訳もないので肩を竦めて気づかわし気に傷を撫でていた手を掴んで―――ちょっとだけ彼女の瞳を見つめる。

 

「………なに?」

 

「………ん、どうせ二人で謀反したんだ。折角なら勝ってくれよ」

 

「―――ぬふっ、期待しとってーや。おにーさん」

 

 俺の何気ない一言に目を瞬かせた彼女は最後のちょっとだけ気持ち悪い笑い声とにやけが抑えきれないと言わんばかりに顔でそう答えた。

 

 その顔を見れるなら、まあ、折った骨も報われるし―――何本でもおってやろうと思ってしまうあたり俺も大分この女にイカレてしまっているのだろうと、小さく笑って答えた。

 

 

 

 どうか、彼女をいつかあの家へと連れて帰ってやろうとそう俺は新たに誓ったのだ。

 

 

 

 


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