デレマス短話集   作:緑茶P

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久々の更新(テヘペロ


SSS ~シャニマス ノクチル 編~『方向性』

 

 

 

「昨日お母さんが、『アンタでもまともに雇ってくれる事務所があるなんて……“お笑い”。しっかり頑張るのよ!!』って涙ぐみつつ激励してきた件について」

 

「「「「…………」」」」

 

 麗らかな日差しの差し込む午後の事。レッスンも終わり特に何をするでもなくダラダラと駄弁っていた幼馴染4人衆“ノクチル”の他愛の無い会話で“浅倉”が思い出したようにそんな事を呟き姦しかった会話は途切れ、それをBGMに事務仕事を片していた俺までが思わず手を止めてしまった。

 

 まとめ役の“小糸”は視線を泳がせフォローすべきか笑うべきか迷い、愉快犯の“雛菜”はニコニコとこの一石がどう転がるか楽しみと言わんばかりに口を閉じ―――俺はこめかみの奥からじわじわ来る頭痛を押さえる様に額に手を当てる事しか出来ない。

 

 そんな空気を作り出した張本人はいつもの様に投げた石の行方も追うことなく呑気に手元のミルクティーを啜って我関せず。

 

 そんな何ともしがたい沈黙の中で一人だけソレに動じぬ女がいた。

 

 沈黙を打ち破る様にパラパラ興味もなさそうに捲っていた雑誌を閉じて顔をあげたのは“樋口 円香”という泣き黒子とクールな瞳が印象的な浅倉と最も付き合いの長い幼馴染の彼女。

 

 付き合いの長さからか、こういった突飛で微妙な話題がぶっこまれた時に反応するのは決まって彼女で――――

 

「……あぁ、だからウチのお父さんも『お父さん、円香の為にネタ作ってきたんだけど読んでみてくれないか…』とか照れ臭そうにクソ寒いギャグばっか書き殴ったノートを持ってきたんだ」

 

 更に混乱を引き起こすのもいつもの事なのである。ああ、クソ、さらに頭が痛くなってきた。

 

「もうキリがないから突っ込んでやるけど……ちゃんと“アイドル”だって否定してきたんだよな?」

 

「はぁ? 女性に向かって白昼堂々“突っ込む”とかいい度胸ですね、このMr.セクハラ。大体が私の事をなんだと思ってるんですか。ちゃんとその場で―――ネタのダメな所を徹底的に追及してボコボコにして来ましたよ」

 

「やめてやれよ!! 娘の事を想って必死にネタを考えて作って、歩み寄ろうとするお父さんにとって殺されるよりキツイ仕打ちだろ!?」

 

 得意げに腕を組んで鼻を鳴らす彼女に俺の良心は遂に耐え切れず追加ツッコミをしてしまう。まず、第一にお笑い芸人になったと思われてる所の否定から入れや。そして、例え辛くても使えなくてもソコは大人になって優しく聞いてやれよ。世の中のお父さんだって頑張っているのだ、そんな仕打ちを受けた次の日はうっかり出勤できなくなるレベルの致命傷不可避である……。

 

「そして、聞いてください。コレがその後にお父さんと練り上げた至高のネタ―――浅倉」

 

「うい、登校前にリビングで合わせた“アレ”だね?」

 

 颯爽と立ち上がる拍子に華麗に放り投げた雑誌が霧子の植木鉢を割ってしまった。そんな一幕は見なかった事にして彼女は相棒の名を呼び現実逃避に奔り、浅倉は不敵に笑ってソレに応える。

 

 そんな事してるから両親から芸人に間違われるのではと心の中で思いつつ、小糸も雛菜も完全にワクワク観戦モードになっているので止める人間はいない事を悟って俺もとりあえず様子を見る事にした。

 

 そして、始まる馬鹿犬コンビの漫才。

 

「私ら巷で噂の女子校生♪」

 

「その名もノクチル♪」

 

「そこのけ、そこのけ、一般ピープル♪」

 

「近づきゃ巻き込まれる、“武勇伝”!! 樋口、いつものやったげて!!」

 

「聞きたいか私の武勇伝! 朝起きて洗顔ごしごし♪ ミントの香り♪」

 

「気がつきゃソイツは歯磨き粉!!」

 

「「WAO!!」」

 

「まだまだあるぜ“武勇伝”!! 浅倉いつものやったげて!!」

 

「聞きたいか私の武勇伝! 近所の河原、子供らキャンピング♪ 1串くれる優しい子供♪」

 

「脇見りゃケース一杯のカエル軍団!!」

 

「「WAO!!」」

 

ぼぼん、おーえんだんっ♪ れげん、ちぇりーぱい♪ ららん、かんげーかい♪―――♪

 

 

「「どやっ」」

 

「ネタの完成度ははともかく……パクリじゃん」

 

「「!!?」」

 

 いつぞや話題を博したコンビ漫才に伝説的なアニメのOPをノリノリでやり切った二人に後輩ズ二人は大爆笑で声援を送っているが、多少お笑いが好きな人とアニメ好きな人は間違いなく知っているネタである。

 

 芸の完成度やオマージュとして受けいられるかどうかはともかく、コレがライブで突発的に披露される前に防げた事は僥倖といっていいだろう。―――というか、芸人じゃなくてアイドルなんだから問題なくてもやられては困るのだけれども。

 

「ふふっ、でもネタは100%自前だよ。……カエル、美味しかった」

 

「ふっ、そんな知識まであるとはさぞ仕事の合間の息抜きが充実してるんですねMr.暇つぶし。歯磨き粉で顔を洗うと危険というメッセージを世間に伝える最高のプランの邪魔はさせません―――なにより、お父さんがこれの放送を楽しみにしてるんです」

 

「いい話風に纏めようとしてもやらせねぇよ、馬鹿共め」

 

「ぴゃっ、でも、これ、私もやりたい…かも」

 

「あはは~、やっぱり先輩たちといるのが一番おもしろ~い」

 

 また姦しくわちゃわちゃし始めた彼女達に深く溜息を吐いて苦笑をポロり。

 

 まあ、限られた青春。限られた時間を常に面白ろ可笑しく過ごそうとするこの無駄な時間すらも振り返ればソレは一生を支えるナニカになってくれる。ソレを本能で分かっているのか、天然かは俺には分からないが――――そんな彼女達の姿はなんとなく眩しく思えて眼を眇めてしまう。

 

 とりあえず、俺がこいつらの為にしてやれる事といえば

 

 二人のご両親に誤解を与えてしまっている“職種”と“方向性”というものをご説明するため家庭訪問の連絡を入れるくらいの事だろう。

 

 

 

「むむっ、まだ結納挨拶には気が早いですよMr.せっかち」

 

「だまれ、馬鹿犬」

 

 

 今日もこの事務所は姦しい。




_(:3」∠)_評価・感想をくれるとむせび泣く

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