デレマス短話集   作:緑茶P

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(*''ω''*)ひぐち、しゅき


SSS ~シャニマス ノクチル 編~ 『密談』

 

 

 

「ねぇ、樋口ってさ。昔から好きな子に構い過ぎて壊しちゃうよね」

 

「……なに、急に」

 

 仕事もオフでレッスンも特にない平日。そんな日は別に何をするわけでもないが私と浅倉はどっちかの部屋でゴロゴロ好き勝手に過ごして時間を潰す。いつもと変わらない日常で今日もご飯に呼ばれるまでそうしてリラックスしていられると思って、お気に入りの芸人を眺めていると急にベッドに寝そべる浅倉からそんな声が掛けられた。

 

 余りに急に話し掛けられるものだからつい手から携帯を落してしまった。別に、私の“そういう事情”が感づかれている事に焦った訳ではない。ないったらないのだ。

 

「馬鹿らしい。自分が好きな人と過ごせてるからってそんなピンクな思考に私まで巻き込まないで」

 

「“りょーすけ君”、“ユウタ”、“けんご”。えーっと、後は―――うわっぷ、うは、ちょっとやめてっ、くふふふふっ!!」

 

「そんなにその口を塞いで欲しいのならっ、お望み通りにっ、してあげる!!」

 

 指折り数えてゆくたびに出てくる名前はかつて自分には重大な意味を持った符号。だけれどもソレをコイツに話した事もないし、隠しきってたはずなのに的確にソレを言い当てていく気恥ずかしさに遂には実力行使に踏み切った。

 

 手元にあったクッションで浅倉の頭をひっぱたき、その憎い口を塞ぐようにグイグイと押しつぶす。それでも聞こえるのはくぐもった笑い声ばかりでなんだか張り合うのも馬鹿らしくなって私は力を抜いて、その代わりに赤く染まってるであろう顔を見られないように枕に顔を埋めた。

 

「いやいやいや、あれだけ独占欲全開な上に意地悪ばっかしてたら嫌でも気が付くって」

 

 そんな私の羞恥など知った事かと言わんばかりに上にのしかかってきた浅倉がポムポム頭を撫でてくるのが無性に悔しいが、いまは反応したら負けなターンである。それに、なんとなく、本当になんとなくではあるが反論はしがたい事をしてきた自覚があるのが癪に障る。

 

 世間の一般で知られる私のイメージとは違い、自分は結構人なつっこい性質である。だから、それが周りと自分の認識のずれから噛み合わず話しかけられる事が極端に少ない。そんな人に飢えている私は幼馴染以外の人と触れ合えば割かしすぐに好意を持つようになってしまったのは自然な流れだろう。

 

 さっき浅倉が上げた名前の他にも仄かな恋心を抱いた男子は幼稚園から高校まで結構な数がいるし、実際に付き合った人も居る。

 

 だが、私にとっての悲劇はそこが始まりだ。

 

 口下手な癖によく回る舌は気恥ずかしさから好意を全て裏返しにして刺々しい言葉で一日中刺しまくり、そのくせ、他の女どころか同性でも自分以外と睦まじくしている所を見れば抑えきれないくらいの怒りから更に攻撃性を増す。

 今まで告白してきた男は二日と持たず逃げ出し、付き合ってすらいない恋心を抱いた男子たちは不登校になったり、泣いたり、鬱になったり、転校していったりとボロボロにしてきてしまった。

 

 浅倉の言う通り、察するなという方が無理かもしれない。というか、幼馴染以外はその光景を“男嫌い”のイジメと捉えていたかもしれないが―――まあ、なんにせよそんな恋愛遍歴を持つ私にとってその話題は色んな意味でタブーなのだ。

 

 それを察しつついきなり持ち出してきた浅倉に少なからず胸に痛みと悲しみが走るのを押さえられない。

 

 だけど、その痛みは―――次の一言でひっくり返される事になる。

 

 

「でも、“比企谷さん”はどんなに樋口がじゃれついても  壊れなくていい感じじゃん?」

 

「………なにを、急に」

 

 心臓が一気に跳ね上がったのを嫌でも感じる。ソレを浅倉に気づかれてないか不安に思いながらも脳内に浮かぶのはあの“変な人”。

 

 大手からの出向という名目で急にウチにやってきた気だるげで不気味な男に当初、私は最大限に警戒をした。少なくとも幼馴染達や他のグループのメンバーは付き合っていて気持ちのいい連中であったし、あの人が良すぎて気味の悪い浅倉の“想い人”であるプロデューサーも葉月さんも、社長も嫌いではなかった。

 

 正直、芸能活動なんてどうでもいいけれど、この居心地のいい環境を壊す異分子に立場を分からせてやるために意気揚々と罵倒を繰り出した私は見事に返り討ちにあってしまったあの日。

 

 そんなファーストコンタクトからいい印象を抱くわけもなく、事あるごとにあの人に噛みついていた訳だけれども。

 

 その暗い瞳の奥に宿る静かな煌めきが、暴言の数々の後に見え隠れする面倒見の良さが、ふとした瞬間に見せる優しい微笑みが、噛みついた私との会話に呆れはすれど傷つかないその懐の広さが―――いつの間にか私の奥深くにしまい込んだ厄介な感情を目覚めさせた。

 

 だが、ソレは。それだけは今度こそ表面に出さずに隠しとおしていたはずだ。

 

 今までに感じた事のないくらい大きなこの想いが破れてしまった時は、本当に自分は立ち直ることはできないと謎の確信があった。だから、見ないように気づかないように丁寧にしまい込んだその感情を余りにあっさりと浅倉は引きずり出す。

 

 その真意が分からない。

 

 そんな疑念と混乱でかき乱されてる私に浅倉の声は子守唄の様に優しく滑り込んでくる。

 

「ねぇ、私さ、勝手に脳内で想い描いている未来があるんだけど………私の隣にはプロデューサーが指輪なんか嵌めて隣にいて、樋口はニコニコしながら比企谷さんと腕組んでて……そんで、その視線の先には私たちの子供が仲良く遊んで、日が暮れたら私達みたいにお互いの家で順番にご飯食べさせて、旅行に行って、幸せに暮らしてんの。

 

 ね、樋口。 それって胸アツじゃない?」

 

 そんな、そんな妄想で空想が詰め込まれたただの願望。

 

 ただ、ソレは妙に確信と自信にあふれていてうっかりと私まで夢想してしまう。

 

 あの人と二人で愛を育んで、ソレを惜しみなく子供たちに注ぎ込み育て上げる。そんな面白みのないテンプレみたいな生活に人生全てを喜んで捧げたいと心から想う。そんで、日常のちょっとした愚痴や苦労なんかは昔から隣にいる浅倉とあの無駄に人のいいプロデューサー夫婦で分け合わせて貰って―――いつかは共に育った子供たちが愛し合うようになって本当の家族になんかなっちゃたりして。

 

 そんな世迷いごとの様な妄想は―――――

 

「胸アツ……かも」

 

「でしょ?」

 

 羞恥に染まっていたはずの自分の貌はいつの間にか脳内の幸せ家族に蕩けさせられて、だらしなく緩んでしまっている。そんな私が呟いた一言に我が意を得たりとばかりに横に寝転んだ浅倉が悪い顔で微笑んでいる。

 

「………プランはあるんでしょうね?」

 

「もち」

 

 私の疑わし気な視線にも自信満々に胸を叩く幼馴染になんだか難しく考えている自分が馬鹿らしくなってつい吹き出してしまった。さてはて、やる以上はもう止まれない。というか、止まれないからしまい込んでいた感情なのだから後は野となれ、山となれだ。

 

 昔からの二人きりの定例会議。

 

 悪だくみは大人にバレないように布団の中でひっそり、こしょこしょと。

 

 零れる笑い声は世界を変える大作戦を祝福するファンファーレだ。

 

 

 さあ、想い 重い 思ひを乗せた恋心で  均衡なんて叩き割ってやろう。

 

 

 私たちなら、やって見せるとも。

 

 

 愛しい男を世界と引き換えに手に入れろ。

 




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