デレマス短話集   作:緑茶P

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(´ω`*)なつきち、かわいい。なつきちは、きゅーと


da/da/da 後編

 

 

 というわけで始まった夏樹との強制デート。道すがらに完全ご機嫌斜めだった夏樹の口にたこ焼きを放り込んで立て直しついたお台場で―――

 

「おい、ばかっ、これじゃ全景が入んねぇだろ。もっと肩寄せろって」

 

「あーもー、めんどくせぇからこうすりゃ解決だろ?」

 

 何枚かのシャッター音の後に確認すれば赤いザクとガンダムがそそり立つ雄々しい姿の前に心なしかいつもより目に生気を戻した俺と、その首元に思い切り抱き着いた髪を下ろしたoffモードの夏樹が映っている。

 

 ふむ、慣れない自撮りの割には上手くとれたのではないだろうか?

 

 その他にも何枚も取った写真を見返してニマニマしていると夏樹も覗き込んできて嬉し気に声を上げる。

 

「お、いい感じに映ってんじゃん。アタシにもこれと、これと―――コレ送っといてくれよ」

 

「おう。やっぱ、色んなガンダムがあるけど初代と赤ザクが並んでるの見ると胸熱だよなぁ…」

 

「最新の奴もいいけど、私らが生まれる前にコレが出来てたって単純にすげーよな。それに、小さな頃には分かんなかったけどザクも今じゃ相当にロックで好きだぜ?」

 

「ほぅ、語る舌を持っているようだな……小娘」

 

「3つも離れてねーだろうが、アホ。ほれ、せっかくなら中の売り場もよってこーぜ?」

 

「こういうのに触発されると久々にプラモも作りたくなるな…」

 

「お、意外にハチも男の子してるもんだな。私もなんか買うから今度一緒につくるか」

 

「暇が出来たらな」

 

「なら、また私がゴネって作ってやるよ」

 

「アホか。あれは仕事がなくなるんじゃなくて、後に詰まってるだけなんだよ」

 

「……アンタも大概にワーカホリックだよなぁ」

 

「…………」

 

 そんなこんなで穏やかに始まりを迎えた都会の小島での小散策。すぐ横には嫌というくらい通ったテレビ局や自由の女神さまが鎮座してサボり中の俺らを睨んでいる気もするが今日ばかりは目線を合わせずに逃げさせて頂こう。

 

 あーだこーだと展示されているプラモを見ながら好きなシリーズを語ったり、カフェで出されている微妙なラインナップのドリンクに苦笑いしつつ、お目当てのラーメン屋で舌鼓を打ったりとまるで普通のカップルみたいな時間を過ごしている事に苦笑を漏らす。

 こうして当たり前の様に横に並んで歩いているのは世間を賑わすスーパーロックンローラーで、ソロライブですら何万人も押し掛けるアイドル“木村夏樹”なのである。それが、自分の隣で普通の少女の様に声をあげ笑って、ムキになって反論してきて、のんびりと海を眺めて鼻歌を歌っているのだからそうする他にないだろう。

 

 世間にしられりゃ大爆発待ったなしの案件を綱渡りしているのにも関わらず、自然体で過ごす彼女を見ているとそういう難しい事もどうでもいいかと思えてくる。

 

 そう思わせてしまうのがウチのアイドル達の凄い所で、性質の悪い所でもあるのだけれども。

 

 さてはて、そんな不本意ながらも楽しい美少女とのデートと言う名の気分転換も目的地を回り終えいよいよお開きの時間が迫ってきた。ガンダムも見て、ラーメンを楽しみ、気まぐれに入った騙し絵はおもいの他に楽しい体験だった。気まぐれの気分転換としては十分に満喫して日も落ちてきたので帰ろうと提案しようとする俺の口を彼女はそっと袖を引いて引き止める。

 

 

「―――なぁ、最後の我儘を 聞いてくれないか?」

 

 

 そういって、彼女が指さしたのは――――煌びやかな光を灯す

 

 

 温泉ランドだった。

 

 

[newpage]

 

 

「普通、速攻で個室予約とって突撃する人いる?」

 

「は~、極楽極楽♪ 私は別に大衆浴場でもよかったけど、それで大騒ぎになっても周りの迷惑だろ~? いいじゃん、自分でもいうのもあれだけどこれくらいの贅沢は必要経費だって」

 

 湯煙立ち上る浴槽に肌を晒し合う男女が二人……なんて描写すれば卑猥な雰囲気が立ち込めるだろうが今の俺らにはそんな雰囲気は全く流れていないのであしからず。

 

 電話で予約を取った瞬間に適当な店で、適当に見繕った水着をひっつかんだ夏樹に手を引かれるままに入った噂の温泉ランド。芸能人や業界人の目撃情報が多数寄せられるここでは受付も手慣れたもんなのか間髪入れずにスムーズに個室風呂に通されて今に至る。

 

 その結果、人目もはばからず目の前で水着に着替えようとした彼女にバスタオルを投げつけるなどの一悶着はあったがツッコミに疲れ果てた俺はホカホカと湯気を立て温もりを伝えてくる温泉の誘惑に負けて結局のところ湯船にこの身を沈めたのであった。哀れ戦艦比企谷、お湯の藻屑である。

 

 そんな俺の横には惜しげもなくそのナイスバデェを晒す夏樹が足を伸ばして温泉に浸かり、俺は日頃の疲れからかそんな眼福な光景に目を奪われる暇もなく体の奥から染み出てくる日頃の疲れからか蕩ける様にその身をたゆとうばかり。

 

 健全で結構なのだが、年頃の男女としては興味がなさすぎるのも不健全だなと思わないでもない、と思っていたら

 

「おん? なんだぁ? 貧乳の私の水着には興味ないんじゃないんでしたっけ?? あれれ? おかしいなぁ、なんだかさっきから視線がどっかから凄い感じるなぁ?? どこの誰からの視線なのかなぁ???」

 

「はいはい、巨乳巨乳。わるーございましたよ。……お前も意外と根に持つ奴だな」

 

「へへっ、別に大きさなんて気にして生きては無いけど売られた喧嘩は買う主義なんだ、ぞっと♪」

 

 肩一つ離して座っていた夏樹は俺が降参の白旗を振れば、ムカつく煽り顔を解して肩をドンとぶつける様にあて笑ってそのまま寄り添う。普段の性格からは考えられないくらいに細く、華奢なその身体は女を感じさせるくらいに柔らかできめ細かい癖に触れた部分から感じる熱は熱く、普段脇に置いていた男の部分を刺激する。だが、なんとなく反応するのも負けた気がするので素っ気なく対応。

 

「別に、お前が美人なのは今更いう事でもないだろ」

 

「…………………そういう所なんだよなぁ」

 

 キョトンとした後に困った子供を見るような眼で苦笑して一歩離れる彼女。頬が少し赤いのは湯の温もりのせいか、照れているのかは少し判別がつきがたい。

 

「……でも、まあ、そういうのは抜きにしてもいい気分転換になったよ。ああいう行き詰った時に昔なら泥沼にはまって爆発する事ってよくあったから―――今は、こうやって誰も嫌な思いをさせずに自然体になれるってのは本当にありがたい」

 

「あの湘南で会ってからのお前を見てるとそういうタイプには見えなかったけどなぁ」

 

「ははっ、あれは散々に炎陣メンバーや内匠とやり合った後の私だからな。それに……いや、まあ、自分の事だけで精一杯になる姿もあんまりロックじゃないからさ」

 

 あの湘南で内匠さんに拉致られて訪れた神奈川支部であった時には彼女は実年齢よりずっと落ち着いていて、バランサーのような立ち位置であったとは思う。それでも、譲れない事にはどこまでも頑固に反抗し、悩み、進み続ける生き様だけはあの頃から変わらない。そんな彼女が歯切れも悪く飲み込んだ言葉が何だったのか少しだけ気にはなったが、ソレは語られるまで俺が聞くことでもないんだろう。

 

 そう一人心の中で結論付けて湯船に肩まで浸かり直すと、なぜか少しだけ不機嫌な目で彼女が睨んでくる。

 

「………なんでそこで引いちゃうかなぁ?」

 

「聞いて欲しいのか?」

 

「しね」

 

 理不尽なやり取りの末にお湯を顔に掛けられた泡を食う俺の頬が摘まみ上げられ、グニグニ。化粧と髪を下ろしていつもよりすっぴんの彼女は幾分幼く可愛らしい容姿で頬を膨らませつつ俺にことづける。

 

「そう言うのは聞きだすんじゃなくて引き出すもんだぜ、ハチ。罰として、この後の予定に観覧車も追加だ」

 

「えぇ……意味が分からん」

 

「その後は、バーに行って朝まで呑んで、朝は築地で海鮮丼ってのもいいなぁ」

 

「俺、明日も仕事なんだけど?」

 

「そんなの私が知るか、ばーか」

 

 そういって無邪気に肩を組んでくるロックな少女に呆れつつも俺は溜息を吐いて無抵抗を決め込む。どうせ言っても聞きゃしないし、臍を曲げられて困るのはこっちである。

 

 それに―――この無骨な風で意外と繊細な女の子のたまに来る我儘くらいは飲み干せる男でありたいと思うから。

 

 比企谷 八幡はそんな彼女の悪ふざけに肩を竦めつつも答えてやりたいと思うのだ。

 

 二人きりの浴場に、カラカラとした笑い声が緩やかに木霊した。

 

 どうかこの少女の、一片の暇つぶしになれれば木っ端バイトの残業も報われる事だろう。

 

 そうであればいいな、と 俺は願うのであった、とさ。

 

 

[newpage]

 

 その後、木村夏樹が出した新曲は今までとは違う思春期の恋を歌ったラブソングであり多大な反響と話題をよんで世間を賑わしたのはまあ、俺には関係の無い話だろう。

 

 後は、なぜか事務所のアイドル達が無駄にガンダムに詳しくなって俺の元に話を振りに来るようになったのも俺には関係の無い話だ、きっと、メイビー…………。

 




( *´艸`)次の犠牲者は、もみやでさん ぐふふ

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