デレマス短話集   作:緑茶P

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いつもコメントくださる方ありがとうございます!!

今回も頭を空っぽでお楽しみください。

僕も農繁期で頭を空っぽにして花出荷マシーンしてます。

ちなみに、鬱々してない平和な鷺沢家を楽しみたい方は蛇足だけ読めばOKです(笑)


捨てる神あれば拾うアイドルありて 中編

「あれ、比企谷君は珍しくお弁当持参ですか?」

 

 346本社の豪奢な時計塔が正午を告げる鐘がなり、事務所内の空気が緩んだ昼飯時の事だ。バックから小包を取り出した拍子にちひろさんから物珍し気な声を掛けられる。

 

 言われた通り俺が手に持っているシンプルな形状の箱には昼飯が詰まっている。

 

普段、昼飯をコンビニやロケ弁だけで済ませている自分がそう問われるのは不思議な事ではないのだが、その製作者が頭の中をよぎってしまいほんの一呼吸分だけ体が硬直してしまう。その間を誤魔化すための言葉を必死に組み立てているウチに彼女が思いついたように言葉を続ける。

 

「あぁ、もしかして昨日は小町ちゃんが泊りにでも来ていましたか。その歳になっていまだに妹にお弁当を詰めてもらうってのもどうかと思いますが、たまにはマシな食事をするのは実に感心ですね」

 

「――――ええ、そうなんすよ。愛しい妹の愛妹弁当の代償が高級焼肉とかじゃなけりゃ素直に喜べるんですけどね」

 

「ふふ、社会人になればそれが焼肉くらい安い出費だと思える貴重なことだと気が付きますよ」

 

 勝手に納得したように言葉を続けたちひろさんに軽口で合わせれば、彼女はけらけらと笑いながら席を立つ。

 

「さて、では私はもう一人の欠食社会人を引きずって食堂に行ってくるとします。留守番おねがいしますねー」

 

「ごゆっくりどうぞ」

 

 そういって彼女は事務員スペースの奥で無心にパソコンに向きあう偉丈夫に笑顔で近づき、問答無用でその作業を中断させて社員食堂へと引きずっていく。その見慣れた光景に小さく苦笑が零れる。このプロダクションの総責任者は自分以上に食に対して無関心な仕事サイボーグのためかカロリーメイトと水を飲んだだけで昼食を済ませることが判明してから事務所にいる誰かが強制的に食堂に連れていく事となっている。

 

―――ただまあ、その役目をちひろさんや楓さんが誰かに譲るところをほとんど見た事がない。キジも鳴かずば撃たれず、他人の恋路を邪魔すれば馬に蹴られるらしいので黙って見送るのが吉であろう。

 

 そんな他人の事よりも――自分の事だ。

 

 ピコンッ、と無機質なメールの着信に軽く肩を跳ねさせ、恐る恐る内容を確認する。

 

『妹さんのお弁当には及びませんが―――高級焼肉、楽しみにしてますね。(‘_’)』

 

淡々とそれだけが綴られた簡素な内容。それでも、後半の絵文字に滲み出る不機嫌さに頬が勝手に引きつりそうになるのを何とか繕って簡素なパーテーションで仕切られたアイドル達用のスペースへと足を向ける。

 

半地下という悪条件の中アイドルの私物が多く飾られた内装は賑やかで華やかな印象を与えるなか、無言でソファにて本を読み進める一人の少女。いつもは物静かなその背は明らかに不満を訴えていて小さく息を吐いてしまう。

 

簡素な机の上に置かれているのは―――自分と全く同じ中身の詰まった弁当。まあ、お察しのとおり、俺の持っているものも彼女が作ってくれたものである。

 

課題のレポートどころか衣食住全てを世話になっている現状では彼女にこんな雰囲気を醸しだされると非常に気まずい思いをすることになる。まじでボッチの気ままな生活が恋しく思い頭をかきつつも彼女と一人分の感覚を開けてソファに腰を下ろす。

 

「いや、別に―――“ピコンッ”」

 

『冗談ですよ( *´艸`)』

 

 何に対する言い訳なのか分からぬまま言葉を紡ごうした瞬間に再び鳴ったメールを開いてみれば、届いた何とも気の抜けた内容のメール。それに渋面を浮かべてゆっくりと彼女の方を伺ってみれば、小さく肩を揺らしているその姿に大きくため息とともに肩を落とすと彼女はこらえきれなくなったのか小さく吹き出して喉を鳴らす。

 

どうにも、からかわれていたらしい。

 

「なんだかちょっとずつ性格悪くなってないか?」

 

「自分でもちょっとだけ自覚がありますね。不愉快でしたか?」

 

 零れた目じりの涙を拭いながら笑いかけてくる彼女に両手を挙げて降参を示しておく。そんな俺の様子にもう一度笑みを浮かべて彼女も文庫を閉じて弁当箱を開く。

 

「意地悪の続きでもないのですけど、味の感想を聞かせて貰えますか?高級焼肉に値するくらいの味には近づけていきたいので」

 

「お前が作るのは全部うまい」

 

「―――こういう時だけ無邪気にそういう事を言うのは少しずるい、です」

 

 口の中に放り込んだ唐揚げの旨味をかみしめながら軽口で答えを返すと、彼女は今度こそ本当に拗ねたように何かを呟き自分の弁当に箸をつける。

 

 雑な感想と感性で実に申し訳ないが、実際に彩りよく盛られたこの弁当に文句も要望も出やしないのだから仕方ない。時間が立ってもしっとりとしたから揚げに少し甘めの卵焼き。ほんのりと出汁醤油が効いたほうれん草のお浸し。ぶっちゃけ小町の冷食だらけの手作り弁当より味自体は格段に旨いのだが、小町の愛情というチート級隠し味があるので小町には敵わない。何ならカップ麺を単品で目の前に出されても圧勝するまである。マジで愛ってすげぇ。

 

 そんな益体もない事を考えていても箸は止まらず動き続けあっという間に弁当が空になる。くちくなった胃袋に満足げに息を漏らせば文香が絶妙のタイミングでお茶を差し出してくれる。あまりのタイミングの良さに“熟年夫婦か”と心の中で一人突っ込み、そのお茶をありがたく受け取る。

 

 文香に公園で拾われてから早くも一週間が経った。弁当の世話までされるほど着々と鷺沢家の生活に馴染んでしまっているが、流石に叔父も一緒とはいえ現役アイドルと一つ屋根の下なんて面倒な状況をプロダクションに話すわけにもいかないということでひっそりとこの生活を続けている。

 

 だがまあ、その最たる原因であったレポートも昨日、無事提出が終わったのだからそろそろ潮時だろう。何より―――――後ろめたさからの好意にどっぷり浸かっている現状は長引かせるべきではないだろうから。

 

 

繰り返してきた痛みが訴える悔恨は

 

       同じことを繰り返そうとする愚かな自意識を

 

 何度だって諫めてくれるから

 

   俺は迷いなく     その言葉を口にする。

 

 

「そういや、言い忘れてたんだが…」

 

「どうしました?」

 

 

 

「明日、出ていくわ。レポートやら生活やらホントに助かった」

 

 

「……へ?」

 

 

-----------------------

 

 

fumika side

 

 過ごしなれた事務所でのうららかな午後。

 

 彼とのくすぐったいような、温かいような幸せな気持ちに包まれて食後の一服を楽しんでいるときに呟かれたその言葉に私の思考は凍り付くように止まってしまいました。

 

 紡ごうとした言葉はつっかえるばかりで、冷え切ってしまった心に嫌に耳につく鼓動の音を必死に意識の外に追い出して何とか目線だけをなんとか、彼へと向けます。

 

 

 “なぜ?”と 

  

     それだけを何かの聞き間違いだと

 

そう必死に願いを込めて。

 

 

 ただ、それでも彼は困ったような苦笑を浮かべて冷たい現実だけを紡いでゆきます。

 

 

「“あの時”の事の恩返しのつもりならもう十分に助けてもらった。それに、あんなのは別に俺が何かをしたわけでもない。俺が余計なことをしなくたってお前はきっと立ち直ってたよ。――――だから、もうこれ以上俺に親切にする必要はないんだ」

 

 その何気なく語られる言葉に、その達観しつつおびえるような笑顔に、今度こそ私は言葉を失ってしまいました。

 

悪質な事件で心を閉ざして息をすることすらできなかったあの時の私を救ってくれた彼が心の奥に潜めていた深い傷を持っていたことに、今更ながら気が付かされたからです。

 

あれだけ近くにいて、長い時間を過ごしていてずっと勘違いをしていました。

 

気だるげで、ひねくれていて、お節介焼のお人好しな彼。

 

踏み込んでほしくない心の境界をいつでも適切に図って接してくれる彼。

 

でも、それはきっと全部、自分の中にある境界を踏ませないための彼の必死の処世術だったのかもしれません。

 

彼は、理由のない悪意にはきっといくらでも耐えてしまいます。

 

でも、理由や利益の無い好意に彼はきっと耐えられません。

 

 

彼は納得さえすればどんな犠牲も、労力も惜しみなく受け入れ差し出すでしょう。

 

でも、対価を払えない施しを支えられません。

 

 

あまりに歪んだ、歪んでしまった彼のその在り様に―――悲しくなってしまいました。

 

そんな理由で貴方と接していたのではないと叫びたかった。

 

きっかけの後に積み上げた日々に嘘はないのだと聞いてほしかった。

 

困っている貴方を、きっと誰も見捨てたりはしないと抱き寄せたくなる。

 

 

それでも、私はこぼれ出そうになる激情を飲み込み、自分勝手に流れそうになる雫を押しとどめてもう一度彼をまっすぐに見つめます。

 

迷子になって途方に暮れた子供のように

 

行く先を見失った渡り鳥のように

 

力なく笑う彼に向ける言葉はきっとそんな自己満足のものではないと感じたから。

 

 

「……わかりました。こちらこそ強引にお誘いしてしまってすみませんでした」

 

 私の返答を聞いた彼は微かに安堵の色を浮かべて、息をつく。

 

「いや、こっちこそ本気で助かった。そのうえ、何から何まで世話になって悪かった」

 

肩の荷を下ろしたような表情で頭を下げてくる彼に手のひらに爪が食い込むほど握りしめて必死に感情を制御する。自分に、こんな燃え上がるような感情があったとは知らなかった。

 

ここに来てから、ほんとに驚くことばかり。

 

だから、今までの自分になかった選択肢だって選べるはずだ。

 

「では、そのお詫びというわけでもありませんけど――― 一個だけお願いしてもいいですか?」

 

 きょとん、とした彼に静かに微笑みかけます。

 

 この誰よりも鬱屈してしまった想い人が偽りだと語った重ねた日々を投げ捨て、すべてを最初からやり直しましょう。

 

 そこを、私の物語の本当の始まりとするために。

 

 

 何かに裏切られ続けた少年 と 冴えない少女の長いプロローグに終わりを告げましょう。 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

~~本日の蛇足~~

 

 抗いがたい誘惑というモノを経験した方はいますでしょうか?

 

 やってはいけない事とは知りつつも、その先の一時の快楽に目がくらんでしまい過ちを犯してしまう事を題材にした文学は実に多くあります。詰まるところ人間の深層心理の中では欲求と倫理が二律背反することの苦しみと、それによって膨らむ背徳感すら楽しんでしまう人の業の深さは古来から多くの注目を得てきた題材なのでしょう。

 

 物語の中で繰り広げられるその悲劇または喜劇は大変興味深いもので読むたびに随分と引き込まれたものですが――――やはり、所詮は本で得た知識だったのでしょう。

 

 自分がその立場になって初めて私は知ったのです。その苦悩を。

 

~~~~~~~~

 

 都内の小さな本屋の奥で私“鷺沢 文香”は一枚の衣類を前にして懊悩していました。

 

 その無地の白いワイシャツは自分より肩幅が大きく、かといって叔父のものでもない。本来はこの家には存在しないはず。それでも、なんの因果か奇跡的にここに引き込んだ想い人のもの。

 

 洗濯機が設定途中で放置されていることに苛立たし気に点滅を繰り返しますが、今はそれどころではないことに気が付いてしまったのです。

 

 そう。“洗濯”を“まだ今日”はしていないのです。

 

 ここに住んでいるということは当然お風呂も着替えもするわけで、いつもの日課として洗濯かごの中の衣類を仕分けしているときに私の中の悪魔が囁きかけてきました。

 

“あれ、これってチャンスじゃないですか?”

 

 囁きにしたがって自分が持っているものに目を向ければそれは彼の昨日来ていたワイシャツ。

 

“凜ちゃんや志希ちゃんがいつも嗅いでるの、羨ましがってたじゃないですか”

 

 さらなる囁きに体がビクリと震え必死に否定しますが、なにせ相手は自分自身です。誰を相手にするよりも分が悪いです。

 

“ちょっとだけ、ちょっとだけですよ?どんな感じかなってのを確かめるだけです”

 

 心の奥底に秘めた願望をつかれた上に、優しい理由付けまでされたことによって私の手が勝手にシャツを広げていきます。―――しかし、しかしです。この行為は短い間だけとは言え、炊事を任してくれた彼への裏切りなのではないのでしょうか?

 

 そんな微かな自制心を振り絞り心の中の天使に救援を求めます。こんな変態も同然の裏切り行為を犯そうとする私にどうか力を!

 

“……汚れとか、細かいほつれがないかチェックするだけ、ですから”

 

 

 満場一致で可決し、理論武装された私は迷いなくそのシャツを顔に押し付け深く深呼吸をしました。

 

 少し煙ったいタバコの香りの後に続く男性特有の汗の匂い。それに、本当に微かですけど紅茶の香りに近い香水も感じます。それぞれが単品のものではなく、複雑に交じり合って絶妙なバランスの果てに届くその匂いは間違いなく彼を連想させる匂いで―――――実に悪くない感じです。

 

 吸って、吐いてを何度も繰り返してるうちにまた悪魔と天使が同時に囁きます。

 

“”ここまで来たらサイズも確認しとく?“”

 

 一度破ってしまえば人のたがなど脆いもので、むしろ“もうこれ以上は”なんて思考がスパイスでさらに気分が高揚してきます。―――結論から言えば、いそいそと彼のシャツを羽織ってみました。

 

「あ、やっぱり結構体つきはしっかりしてるんですねぇ…」

 

 手を伸ばしてみても指先しか出なかったり、肩幅が違い過ぎてずり落ちそうになったりとなんだか彼との体格差が面白くてしばらくジタバタしているとふわりとさっきの彼の香りを感じてドキリとする。

 

 慌てて周囲を見回しても誰もいなく部屋の中は静寂に包まれている。それでも、離れない彼のその香りになんだか妙な気分になってくる。襟首を引き寄せて深く息を吸い込み、肌を彼が着ていた服が撫でていく。

 

 いけない事だとわかってはいても胸の鼓動は際限なく高まり、無意識に手は秘所へ――――

 

 

「文香―!!爪切りしらんかのぅ!!」

 

「ひゃうっ!!し、してませんっ!!!!」

 

 廊下から響く叔父の声に冗談でなく心臓が飛び出そうになって、瞬息でワイシャツを脱ぎ去る。冷や汗とさっきと違う動悸に息が苦しくなってしまう。というか――――自分は今、いったい何をしようとしていたのか!!

 

 

 

 

しばらくの間、真っ赤な頭を抱えて唸る彼女を、叔父が気味悪げに眺める今日も平和な鷺沢家でしたとさ。

 

Fin

 

 

 

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