デレマス短話集   作:緑茶P

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(*''ω''*)これにて美波√は一旦・了!!

(´ω`*)あー、つかれたー。このプロット思い描いてから早3年?これ書くまでマジ何年やる気溜めてたか分からん(笑)

_(:3」∠)_まあ、これで気兼ねなく美波も正ヒロインとしていちゃつかせられるね(笑)

クリスマスとか、バレンタインデーとか、いろいろなイベントも作品群にあるのでよければ探してね~!!


#179 美波√ 序章 完 =仲直り=

「ちょっとっ、比企谷さん! 髪の毛もシャツもぐちゃぐちゃなんですから最低限は整えてくださいってば!!」

 

「いや、慣れたスタジオだしいいでしょ別に…」

 

「駄目です。見た目が全てとは言いませんけど、最低限の身だしなみはエチケット。少なくとも、仮眠明けの格好は普通に失礼です」

 

「はいはい、わーった。わーりました」

 

「返事は一回!!」

 

 事務所に響く賑やかな声にいつもの風景とも言える掛け合いが混じる。

 

 寝起きの気だるげな風情を隠そうともしない彼“ハチ”君と、世話女房よろしくそんな彼を叱り飛ばしてあれこれと世話を焼く彼女“美波”ちゃん。

 

 生真面目で世話焼きな彼女とズボラな彼のお決まりのやり取りは見慣れたものだったはずなのに最近ではついぞ見なくなって久しい。ソレが復活したことを喜んでいいのやら、焦った方がいいのやら乙女心としては複雑な気分でソレを横目で眺め小さく息を吐く。

 

「“敵に塩を送る”…とはよく聞く慣用句ではありますけど、十時さんがそうするとは少し意外でした」

 

「むむっ、文香ちゃんも意外と毒を吐きますねぇ」

 

 そんな私の耳に滑り込むのは呟くような声なのに人の意識を不思議と引き止める声。

 

 それに引かれて目線を滑らせれば眼を覆うように垂らされた艶やかな黒髪のベールの奥から覗く空を切り抜いたような瞳が悪戯気に手元の本からこちらに映されていて、こちらも不敵に頬を引き上げて答えてやる。

 

 この事務所で多くの人がハチ君に好意を寄せているのは今更だが、その中でも自分の中の要警戒欄に乗る数少ない女の子。

 

 大学の同級生で、彼に救われ、多くの時間を共に過ごし、想いを交わしてきた知的で穏やかな上に自分にも負けない身体的魅力を誇る彼女“鷺沢 文香”ちゃん。そんな彼女の挑発ともとれる言葉に肩を竦めて私は答える。

 

「私だってライバルは減ってくれるに越したことはありませんけどねぇ……でも、それでハチ君や周りが変な空気になるのは勘弁です。その他の子が凹むだけなら構いやしないんですけど、傷つけた事をきっとハチ君は後悔しますから」

 

「…………ふふっ、やはり十時さんは強いですね」

 

 お道化つつ答えるが、瞳に込めた私の決意を確かに彼女は汲み取ったようで一際に柔らかく微笑んで本を閉じ言葉を紡ぐ。

 

「“敵に塩を送る”という言葉は長年に渡って争った武田軍が困窮した際に上杉氏が塩を送った事から生まれたそうです。ただ、この真偽は未だに判然としておらず謎に包まれていますが―――同盟破綻から塩を得られぬ甲州の民を救うために上杉氏は“義”を示したという説を知っていると、そういうモノなのかもしれませんね」

 

「そこまでするのに和解できない、ってとこまでがワンセットなのが悲しい人の性ですけどね?」

 

 そんな私の軽口に二人揃って吹き出してしまう。

 

 そうとも。かつての戦国武将たちだって民を苦しめたかったわけでは無い。むしろ、豊かに幸せに暮らせるようにと誰もが戦に出向いた。

 

 だけれども悲しいかな、天下は一つだけ。

 

 焼け野原の天下を治めた所で意味などない。

 

 勝ち取った天下を思い切り抱き寄せ、その幸せを万民に行き渡らせてこその天下泰平。

 

 それは―――恋だって変わらないでしょう?

 

 幸せそうにかつての日常を楽しむ美波ちゃんをチロリと睨みつつ席を立つ。さてはて、十分に塩も送った事ですし民も潤った事でしょう。ならば、後は存分に征服させて頂いてもいい頃合いだと私は思うのです。

 

「文香ちゃんも行きます?」

 

「いえ、私は後でのんびりと」

 

「くそぅ、その余裕を絶対に崩してあげますからねぇ?」

 

 にっこりと答えるその笑顔を恨めしく思いながら、私は意気揚々と夫婦漫才(非公認)を続けている想い人とライバルの元へと最高の笑顔を固めつつ突貫する。

 

 

 手助けはここまでですよぉ、美波ちゃん。

 

 ここから先は絶対に譲ってあげませんから――――正妻の貫禄って奴を見せつけて私の完勝まで突っ切らせていただきます!!

 

 

 

「はっちくーーーーーーーーん!!」

 

「どわっ、ちょっ、ばっ!!」

 

「え? きゃ!?」

 

 

 その後、ちょっとタックルの勢いが余り過ぎて3人で年少組にはお見せできないあられもない体勢になってしまったのは……まぁ、ご愛嬌という奴でしょう?

 

 

 ちゃんちゃん♪

 

 

 

-------------------------

 

 

 

 もはや通い慣れたように感じる都内から少し外れた郊外の裏路地。

 

 この短期間の間に随分と酸いも甘いもこの通りで抱えたまま歩いてしまったけれど、今日は運のいい事に“甘い”気分でこの道を踏みしめられる事に感謝しつつ隣で中々進まない足を急き立てる様に引っ張り、見慣れたアンティークな扉を開く。

 

 涼やかなベルの音に、色とりどりのステンドグラスのランプの灯りに照らされた柔らかい室内。そして―――特徴的なネコ目を驚きに見開く馴染のマスター“神木”さんの驚く顔。

 

 それを見られただけでも今日、ここをごねる彼を無理やりに連れてきた甲斐があったというモノだろう。

 

「席、空いてます?」

 

「――――ああ、もちろんだとも。隣の彼のお陰か今日も君たちの貸し切り状態。やはり週3のペースで通って貰った方が私的には嬉しいくらいかな。 もちろん、隣の彼女を連れてね?」

 

「もっと働け、個人経営」

 

 そんな彼の憎まれ口に遂に笑いを押さえきれなくなった私たちがクスクスと笑いを零すともっと不機嫌になった彼“比企谷”さんがブスッとして出て行こうとするのを私と神木さんの二人でまぁまぁと取り押さえて無理やり席に座らせる。

 

 その際に神木さんがサラッと“close”の立て札を掛けてくれたのに小さく笑って感謝を伝えれば、彼女も控えめなウインクで返してくれる。そんな何てことの無いやり取りが“常連”っぽくてついつい嬉しくなって心は浮足立つ。

 

「さて、さてさてさて。今日ここに二人で来たという事は私はもしかして秘蔵のシャンパンでも開けなければならないという事かな、若人たちよ?」

 

「くふふっ、残念ながら“まだ”そこまでは行ってないですけど……でも、いつかの楽しみにソレは取っておいて貰えると嬉しいです!!」

 

「…………おい、こんないい娘にココまで言わせて君は何をしてるんだ?」

 

「そんなことを言えるのもこいつの泥酔状態を見るまでですよ。泣くわ、暴れるわ、絡んで来るわ、方言はこわ―――いでっ!!」

 

 神木さんに睨まれ余計な事を口走る彼の足をカウンターの下で踏みつけながら黙らせる。

 

 いや、ちょっとあの日は酔った勢いで日頃から溜まった鬱憤や想いを発散しすぎてしまったきらいはあるがそもそもの原因が彼なのだ。その上にいえば、“酔った出来事を次の日に持ち越さない”。ソレが大人のルールなのである。

 

 大体、広島弁は恐くない。

 

 関東の言葉が軟弱すぎるのだ。

 

 美波、悪くないもん。

 

「いや、広島弁は恐くないとしても泥酔状態のお前は―――」

 

「学習能力がないんですか、貴方は?」

 

 再び軽口を開く彼の足を踏みつけながら睨めば、今度こそ神木さんは堪えきれないというように大笑いをして私たちの仲裁へと入ってくれる。

 

「はっはっはっ、いや、いやいや。良い先輩後輩関係を築けているようで何より。その後の事は今後に期待させて頂くとして―――そろそろ喉が渇いてきた頃合いじゃないかな?」

 

ひとしきり私達の様子に腹を抱えて笑った彼女はクツクツと笑いを零しつつもそう言葉を紡いだ。その瞳は嬉しそうに細められつつも背筋を伸ばして真っ直ぐと自分達を見つめるその瞳は彼女の私人としてのモノでなく“バーテンダー”としての公人としてのモノで思わず私達もじゃれ合いを辞めて背筋を伸ばしてしまう。

 

「そうだねぇ、今日の君達にはどんなのがいいか。………ふむ、そうだな。コレがいい」

 

 ゆたりと細巻きを燻らせた彼女が優しげに微笑んで中空を眺める事しばし。微笑んだ彼女はいつもの人の視線を惹きつけるカクテルの妙技でなく静かにボトルを取りマドラーで緩くかき混ぜるだけ。たったそれだけの動作なのに私たちは眼を縫い付けられたようにソレを見つめて息を呑み、グラスが差し出されるのを見つめてしまった。

 

「“モスコミュール”。コレの奥深さや、味わいについては置いておくとして―――カクテル言葉は“仲直り”。今日の君たちにこれ以上にふさわしいモノは無いだろう?」

 

「「…………まぁ、別に? 喧嘩もしてませんけど?」」

 

 まったく同じタイミングでそう言い放つ意地っ張りな私達に苦笑する神木さん。だけれども、せっかく作ってくれたお酒を無駄にするのも悪いのでゆったりと手を伸ばし、お互いに気まずそうな顔を浮かべる彼と形ばかりの乾杯を交わす。

 

 ガラスを鳴らす軽やかな音とジャズ。

 

 温かく見守ってくれる友人。

 

 そんな柔らかな世界で交わした彼との“仲直り”の盃は―――爽やかで、甘く、渋い、これからの二人の未来を指し示しているようで、ついつい笑ってしまった。

 

 きっと、自分が子供の頃に思い描いていた甘い甘い恋愛なんかは望むべくも無いのだろうけれども。こうして喧嘩して、諫められ、お互いに気まずげにここに来て“仲直り”する。

 

 そんないつか来るささやかな日常。

 

 それが、彼との日常になればいいなと心の中で願い―――私は、小さく微笑んでこう呟いた。

 

 

 

「喧嘩したらまたここに来ましょうね、比企谷さん?」

 

「………気がむいたらな?」

 

 

 

 そんな彼の可愛げのない一言に、私達は―――大きく笑った。

 

 

 


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