デレマス短話集   作:緑茶P

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(*''ω''*)時子、俺をふんでくれっ!!← 


【時子様ボイス応援SS  -指輪- 】

 

「分相応というモノを知りなさい?」

 

「えー、でもこのドーナッツみたいな指輪すっごい可愛いし今だけしか買えないんだよー?」

 

 いつもと変わらぬ社会人よりも社畜として駆け回って一段落を迎えた午後の事。いろんな諸々の打ち合わせだったり、送迎だったりが終わったかと思えば山済みにされた書類の山に溜息を吐きつつ取り組んでいるとパーテーションの向こうにあるアイドル達の談話室的なスペースから何かを言い合う声が聞こえ作業の手を止めた。

 

 別に姦しいのはいつもの事なので気にするような事ではないのだが、その言い合う二人の声は珍しくなんとは無しに覗き込めばいつもは仲睦まじい我らが女王様の“財前 時子”と“椎名 法子”がとある雑誌を覗き込みながら何かを揉めている。

 

 なんだかんだ面倒見のいい時子と、無邪気に懐く法子の仲良しコンビである二人にしては珍しい光景に興味がそそられて休憩ついでにその原因を覗き込む。

 

「あっ、ハチさん!! ね~、この指輪すっごく可愛いでしょ!! 最近はお仕事も順調だし、ご褒美に買ってみてもいいよね!!」

 

「……鴉、分かってるとは思うけど甘やかせて図に乗らせるような軽挙妄動は慎みなさい」

 

「ほーん、そういうアレか」

 

 味方を見つけたと言わんばかりに甘えた声を出す法子に、溜息と共に額を押さえた時子が俺に睨みを利かせる。そんな対照的な二人の原因は何かと思って彼女が開いていた雑誌のページに映っていたもので俺はついつい苦笑いを浮かべてしまう。

 

 雑誌の見開きに映るのは、乙女の指で淡い桃色の輝きを放つリング。

 

 俗にいう、“指輪”という奴だった。

 

 現代では乙女たちのアクセサリーや婚姻の証としての意味合いが強いが、そのルーツは古く長い。

 

 本来は魔除けや身分証明、その他にも変わり種で言えば武器としての意味合いもあったり拘束具としての仕様用途もあったという実に興味深いものである。だが、いまの状況で用途を問われるのならば、間違いなく年頃の少女が当然のように抱く憧れからの可愛らしい背伸びというのが妥当な所だろう。

 

 だが、そういった変化に難を示すほど時子が狭量ではない事も俺は知っている。

 

 そんな彼女が難色を示しているのはその華やかなページの端に描かれている子供のお小遣いで買うには桁外れな金額のせいだろう。

 

 お値段驚きの15万6千円。

 

 法子の稼ぎなら無理なく買ってしまえる金額だが、そういった金銭感覚に慣れてしまう事を時子は懸念しているのだろう。生まれながらにブルジョアな時子からすれば大した金額ではないのだろうが、そういった彼女だからこそ金の欲というモノへの理解は深く厳しい。

 

 欲というモノは際限がない。

 

 満たされたと思えば、すぐに飢えが来て次のモノへと目移りをしていくのが人間の性。それが、心の成長が未熟にも関わらず莫大な稼ぎをあげている子供にどんな影響を与えるかを心配しての事だろう。

 

本当に、何とも世話焼きで愛情深い事である。

 

 別に法子だって両親にお金を預けているのだから家でも怒られるし、止められるのは目に見えているのにわざわざ厳しい言葉を掛けるのだからもはやそういう他にあるまい。

 

 そんな二人の相反する視線に少しだけ頭を悩ませ、俺は妙案を思いつく。

 

 少々だけ子供騙しではあるが、まあ、今回の件に関しては妥当な所だろうなんてほくそ笑みながら俺は言葉を紡いだ。

 

 

「よし、そんなのよりもっといいのを俺が贈ってやろう」

 

 

 形の良い眉を怪訝に寄せた時子と、眼を期待に輝かせる法子のコントラストに俺は小さく笑いつつも二人の手を引いて歩きだしたのであった、とさ。

 

 

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 さてはて、対照的な二人を引き連れやってきたのは美城の誇る時計塔が見下ろす屋上庭園。屋上にも関わらず四季折々の草花と野原が広がる休憩時間の人気スペース。だが、休憩時間も過ぎた今では風が緩く吹き抜け、誰もおらず独占状態である。

 

 そんな中で二人に飲み物を持たせベンチで待たせる事、数分。

 

 ちまちまと野原で作業していた俺が会心の出来となったソレを手に潜ませ、不思議そうにこちらを眺めていた法子の元へ戻って来て緩やかにその手を取って―――指に嵌めてやる。

 

「うわっ!! カワイイ!!」

 

「高級品じゃなくて悪いけどな、まだお前らの世代にはこっちの方が似合うぞ?」

 

「……………ふんっ」

 

 法子の細くしなやかで幼い指に嵌められたのはシロツメクサの可愛らしい花弁がクローバーによって引き立てられた可愛らしい指輪。

 

 その素朴で、質素な出で立ちの指輪を心底楽しそうに、嬉しそうにはしゃいで眺める法子の表情にクスリとしながらも彼女の頭を緩く撫でてやる。

 

「ああいうのが欲しくなるのも分かるけど、もうちょっとこういうので練習してからの方がいいかもな?――――それが枯れたならまた俺が作ってやるからさ」

 

「えへへへっ、これすっごく可愛い!! ねぇねぇ、これってどうやって作ったの!?」

 

 感情が高ぶったのか俺の首っ玉に飛びつき興奮のまま作り方を強請る彼女を抱えつつ俺は原っぱの方に足を進めていく。

 

「こんなの序の口だぞ? これさえ極めれば指輪にネックレス、花冠まで思いのまま好きに作れるようになる」

 

「ドーナッツ天国じゃん!!」

 

 そんなブレない彼女の歓喜の声に苦笑を漏らしつつ、穏やかな天気の野原に彼女を下ろして丁寧に作り方を教え、慣れないながらに一番いい花を真剣に吟味して結っていく彼女を眺め、俺はかつて小町にコレを作ってあげたかつての日を思い出した。

 

 妹を楽しませるために調べたこんな知識が役に立つ日が来るのだから―――人生、分からないもんだ。

 

 そう独白した俺を、緩やかな風が撫でていった。

 

 

 

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「雑学も納めとくもんだ」

 

「鴉の浅知恵にしては上出来ね」

 

 あれから法子に作り方を教えてしばし、すっかり花飾り作りに夢中になった彼女の元を離れて美味くもないだろう自販機のコーヒーを啜る彼女の座るベンチに戻り、声を掛ければいつもより少しだけ柔らかい声が返ってくる。

 

「別に、値段はともかくああいう事に興味が出るのは自然な事なんだろうけどな」

 

「高価だとか、安物だとかそういう問題ではないわ。そういうモノを身に着ける時は意義と意味を理解して置かなければいつかモノを金額でしかモノを測れなくなる。――――あの子が信念を持って選び、買い取るのならば私だって反対したりしないわよ」

 

 そういって少しだけ疲れたように溜息を漏らす時子の珍しい姿が育児に悩む母親の様でつい笑ってしまう。ギロリと睨まれるがそれも照れ隠しと分かればカワイイ物だ。

 

「ほれ、そんなお前にもエールをくれてやろう」

 

「…………はんっ、こんな子供騙しで機嫌が直ると思ってるなら、相当な愚物ね」

 

 時子の視線に苦笑を返しつつも、ゆるりと空いている手を取ってさっきセットで作った花の指輪を差し込んでやる。一瞬だけ驚きに目を見開いた彼女がマジマジとソレを眺めた後にいつもの様に不敵に傲慢不遜な笑みを浮かべてこちらを見てくるので俺は小さく肩を竦めて応える他にない。

 

「要らないなら返してくれてもいいぞ?」

 

「渡した物を返せとは見下げ果てた男ね。―――大体、この指にリングを嵌めた意味すら理解してない癖によくそんな口を叩けたものだわ」

 

「意味?」

 

「おだまり、愚物」

 

 そうは言われてもこちとら男やもめのボッチである。左手薬指は結婚指輪だと分かるが逆側の右手薬指は何の意味があったかなど知る訳もない。単純に取った手の、サイズ的に嵌めやすい指に嵌めただけなのだが……まあ、帰ってから調べればいいだろう。調べてヤバい意味だったら知らん顔で通せばいいだけなのだ。へーきへーき。

 

「時子さんにプレゼントっ!!」

 

 そんな事を考えていれば今度はいつの間にか俺たちのベンチの後ろ側に忍びこんでいた法子が俺たちの会話をぶっちぎり、特大の花冠を時子の頭におっかぶせたのであった。

 

「ちょ、やめなさい!!」

 

「えへへー、時子さんかわいい!! 花嫁さんみたい!!」

 

 シロツメクサやネジバナ、その他にも多くの花を編みこまれた花冠。

 

 それを被り困ったように窘める時子と、嬉しそうにお揃いの花冠を被っている法子のじゃれ合いを見ていると柄にもなく少しだけ可笑しくて笑ってしまう。

 

 世間では恐れ敬われている時子。

 

 だが、そんな彼女がプライベートで親しい女の子相手にこんな優し気な表情を浮かべていると知れば――――随分とまた世間は騒ぐのだろうなと思い、俺はソレを飲み込んだ。

 

 天気は快晴、風は穏やかで、少女達は今日も華やかに微笑んでいる。

 

 

 今日も、いい日和である。

 

 

 そんな益体もない事を“比企谷 八幡”は無責任に透き通る青空に零したのであった、とさ。

 




(*''ω''*)時子はきゅーと属性。異論は認めない(暴論

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