デレマス短話集   作:緑茶P

156 / 178
('ω')皆、文香をすきになーれ♪♡(情緒不安定


(*''ω''*)今日も脳みそ空っぽでいってみよおーーー!!


文香選挙応援SS 【批評の善悪とは?】

「むぅぅぅっ」

 

「…………どうかされましたか、ありすちゃん?」

 

 宣伝写真の撮影や次回のライブの衣裳合わせ等の比較的に忙しくない業務を終えて事務所に顔を出した私の前で、年下の友人でありユニットの相方でもある“橘 ありす”ちゃんが電子パッドを睨みながら不機嫌そうに唸っているのが目に入りました。

 

 普段からしっかり者の子ではあるのですが、自分の中の感情には年相応に素直に発散するのでこういった時は大体何かに悩んでいるか憤っている事が多い。

 

 それは人の機微にはとんと疎い私にはむしろありがたい事で、何か力になれればと思い彼女の隣に腰を掛けつつ声を掛ければ彼女は溜まりかねた鬱憤を晴らす様に私“鷺沢 文香”へと開いていたホームページを差し出してきます。

 

「文香さんっ、この間の収録で一緒になったコメンテーターのホームページを見てください!! 私たちが紹介した本の事をこんなに悪く書いてるんです!! しかも、言ってる事が物語の本質を欠片も読み取ってない的外れな事ばっかり!!」

 

 予想を上回る剣幕で差し出されたページの脇に映る男性は―――えー、はい、まあ、言われてみればこういう方もいたような……いなかったような……自分の対人記憶力の低さは言い訳のしようもないのを恥じ入るばかりです。

 

 とはいえ、そこが本題ではない様なので問題のレビューをちらり。

 

 書かれた題名は確かにいつぞやの収録の時に紹介したいくつかのオススメの短編集。

 

 余談ではありますが、こういったオススメというモノを私達の様なアイドルや芸能人が紹介するのは実に多くの制約や配慮がいるために権利が切れた物や、公開されたモノ。その他には統計の上で上位に乗ったモノにコメントや感想を当り障りのないように紹介するという実に面倒ごとが多い。

 

 読書好きとして多くの人に認知して頂いてる身の上としては今の旬を好きに語れないという、もどかしい所はあるのですが、そういったモノの中でも名作は多くいつだって自分の中のオススメを紹介しているつもりではいます。

 

 歴史的にも、過去の著名人や大御所たちの評価的にも良い名作だったとは思うのだが――――書き連ねている批評はなんと言ったものか……実に挑戦的な切り口でした。

 

 つらつらと書かれたそのレビューは主人公の出自の批判から始まり、物語のご都合主義を徹底的に糾弾し、結末にはそういう解釈もあるのかと驚きと新鮮味すらも感じさせる辛口具合。そこから始まる著者の人格的問題や思想の危険性を大いに語る内容はなんとなくこれ自体が新たな作風の書籍なのではないかと思ってしまう。

 

「…………ふむ、内容の好き嫌いはともかく……読みごたえは凄いボリュームですね」

 

「なんでちょっと感心してるんですか!?……というか、もっと酷いのはその先です!!」

 

 

 その一種の熱量に謎の感銘を受けていると、ありすちゃんに怒られてしまいます。そんな私に呆れたように深い溜息を吐いた彼女は気を取り直したように画面をスクロールして次のページに進み画面を突き破らんばかりに指し示す。

 

 “知識の浅いにわか文学少女がネットから一夜漬けで探してきた苦し紛れの作品。コレを勧める時点で【アイドル】という浮ついた職業の涙ぐましいキャラ作りという事が証明された”

 

 そんな一文の背景には私の宣伝用の写真が貼られ、つらつらと先ほどの作品評と同じくらいの分量で私の容姿や撮影時の挙動に、普段の私生活の不真面目さをこき下ろしたうえで、昨今のアイドルや芸能界。ひいては現代社会への持論が展開され大いに嘆かれている。

 

「あの名作短編集をこんな批評するのも大概ですけど、共演した人間の事をこんな風に書くなんてもうとっくに限度を超えています!! これは事務所を通して徹底的に抗議するべき案件です!!」

 

「あ、でも、ありすちゃんの事は“少しおませな少女、今後に期待”って書いてありますよ?」

 

「それ、褒められてないですからね!!? むしろ、馬鹿にされてますから!!!」

 

 私の決死のフォローも届かずに激情のまま地団駄を踏んで暴れる彼女にどうしたものかと思いつつ、改めてその人のホームページに目を滑らせる。

 

 このページだけでなく多くの著書や最新作。その他の共演者の事も似たような論法で扱き下ろしており、ならばと彼のオススメとなった書籍を眺めて見れば最近話題のモノから昔の名作をさっきとは別のベクトルで褒めそやして、ソレがどういった良い影響をあたえるのかと熱弁を振るっている。

 

 その内容は頷ける物もあれば、そうなのか? と首を傾げるモノもある。

 

 隣にて涙目交じりで暴れ狂うありすちゃんに片手間で相槌を答えながら読み進めているウチに―――思わずクスリと笑いが零れた。

 

「………………文香さん、こんな事実無根の悪口を書かれて悔しくないんですか! というか、私の話を全然さっきから聞いてませんね!?」

 

「あ、いえ、そういう訳ではないのですけれども……」

 

 私の為に怒ってくれているありすちゃんに対して少々だけ不誠実な態度であったことを恥じ入りながらも、彼女の問いに応えるべく思考を紡ぐ。

 

 さて、怒っているかどうかと聞かれれば答えは“否”となるのだろう。

 

 作品の受け取り方というモノは千差万別。それがどれだけ歴史的な名著であろうとも面白い人も居れば逆もしかり。むしろ、興味すら引かれずに手に取ってみる事さえない事の多い“書”という知識の形態で言えば批評を受けた時点で世に出された証を残す大成果といっても過言ではない。

 

 その“書”を読んだ人がその後に見えた景色というのも同様だ。

 

 単純にその世界の情景に浸り想いを馳せるのか、その世界観から自分の現在地を測るのか、単純に知識の一つとして脳内の片隅に放り込み次の書に反復的に戻って行くのか―――全ては読者の自由なのである。

 

 むしろ、“答え”の統一された物語ほど不健全で、気味の悪い物はない。

 

 書いてる著者たちだって“正解”を書きたくて筆を執っている訳ではないだろう。

 

 そのどちらかであっても“人”という不安定な生物が確定的なモノを生み出す様になってしまえば、ソレは正常な状態とは言い難い。

 

 人は、揺らぐのだ。

 

 揺らぎ、迷い、それでも――――這い蹲って、泥にまみれてなお、前に進む。

 

 そんな苦渋の果てに生まれた“作品”。そして、生まれる”批評“。

 

 それら全ては、すべからく美しく尊い。

 

 だから、まあ、怒るというよりは素直に感心する。

 

 自分にはない切り口の解釈は揺らぐ世界に広がりを与えてくれるのだから―――怒りなど沸き立つはずもない。

 

 それに、自分自身の事となればソレはもっと顕著に“否”と答えらる。

 

 ここに書かれている通りに自分は文学を語るには余りにも浅学で薄っぺらく、蔵書量も大したものではない。その上に大学もアイドルとの兼業で勤勉に通っているとも言い難いし、人柄だってここに来る前は立派なコミュニケーション能力に難有りな引きこもり本の虫。

 誰とも合わない、関わらないとなれば3日ほど飲まず食わず身を清めることも無く書に読みふけるズボラを超えた活字中毒一歩手前の人間が“ズボラ人間”と言われた所で何の反論が出来ようか? いや、できない(確信)

 

 そんな私の答えに、可愛らしくむくれるありすちゃんを眺めて微笑みつつ―――その小さな体を引き寄せ抱きしめる。

 

「でも、そんな私の事でも“怒ってくれる友達”がいてくれる事は心から嬉しいんですよ?」

 

「むぅぅぅぅ……私は、友達が悪く言われるのも、好きな作品が馬鹿にされるのも“嫌”です」

 

 不機嫌そうに唸ってそう呟く彼女が可愛らしくて、愛おしくて―――今度こそ私は笑ってしまう。

 

 本当に、自分にはもったいない友人だ。

 

 さあ、この大切でかけがえのない友人の機嫌を直して頂くためにロビーにあるカフェで美味しい紅茶とケーキでも菜々さんに頂きに行くとしましょう。

 

 そんな思考を最後に、頬を膨らますありすちゃんと共に私は事務所を後にしたのでした、とさ。

 

 

 

 

―――後日談―――

 

 

 

 

瑞樹「うっわ、まーたこの親父が文香ちゃんの悪口言ってるわ~」

 

菜々「もうっ、なんでこういう人がいつまでものさばってるのか納得できません!」

 

佐藤「おーい、こういうのに対応するのが仕事じゃねーのか、よっと☆彡」

 

ハチ公「いでっ………まあ、結構に厳重な勧告は出してるんだが…」

 

佐藤「言い訳は男らしくねぇぞー」

 

ハチ公「……見てりゃ分かる」

 

コメンテーター『全く、あの鷺沢さんには呆れてモノが言えないね。この前の講演でのコメントや書籍の促販イベントは3回も噛んで、どもってもっとしっかりしてもらわないとこっちの心臓が持たないよ。それに、この間のグラビアの格好といったらあんな際どい恰好で映るなんてプロデューサーは何を考えてるんだか。彼女はもっとそういう方面じゃなくてだね――――うんぬんかんぬん』

 

全員「「「「――――――うっわ」」」」

 

ハチ公「……まあ、2度と共演はないが、ある意味では有力な広告塔ではある」

 

 

 そんな一幕に、張本人だけは気が付きもせずにお気に入りのシリーズ最新刊に没頭していたとかいないとか。

 

 はてさて、世の中とは好きも嫌いも、善も悪も、良し悪しすらも曖昧に混ざり合って転がっていき―――――その果てとは神様のみぞ知るところ。

 

 それがいいか悪いかも――――きっと誰もが勝手に決めるのだろう。

 




(/・ω・)/投票と評価をくれないとむせび泣く(脅迫

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。