デレマス短話集   作:緑茶P

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_(:3」∠)_pixivの方で溜まってきたのでソロソロ更新します。



(*''▽'')さあ、更新が待ちきれない人はこっちで先に読んじゃいましょう!(笑)→https://www.pixiv.net/users/3364757/novels


デレステSSS =それゆけ、りあむちゃん TAKE②=

 

 牧場の朝は早い。……いや、というか、昨日の夜中に子牛の出産でたたき起こされたからほぼ寝てないに等しいのだが、まあ、とにかく早いのだ。

 

 清廉な朝の空気と日差しをカーテンを開けて取り込み、猛々しく萌える山々と草原を見つめるたびに俗世からの汚れが濯がれ生まれ変わる様な気持ちになりながらもハンガーにかけられた愛用のツナギに袖を通す。

 

 あの日、雫ちゃんから手渡されたこのツナギもたったの3か月であちこちがくたびれたり、擦り切れたりしてしまったが今では最初のような嫌悪感も無くむしろこびりついた汚れの一つ一つが誇らしい。

 

 そんな自分の変化は、追い出されるようにココにやってきた裸一貫の状態で築き上げた一つの重大な足跡なの――――「りあむちゃん~? はやくご飯食べないとかたずけちゃいますよ~」

 

「あ、はいっ、い、いますぐ行きますから! ていうか、みんなご飯食べる速度が異常すぎるよ!!」

 

 後ろから掛けられる雫ちゃんの聞きなれた穏やかでのんびりとした声に隠れた急かす色にビクつきながらも慌てて部屋を飛び出る。飛び出た頃にはもう姿が無いくらいの忙しなさ。気持ち急ぎ足で食卓に続いて入れば明るく大きな挨拶が及川家の皆さんと従業員さんから掛けられる。

 

 ……うん、毎回思うけどすげえ光景だな。

 

 食う量もそうだけど、もうみんな嚙んでないじゃん。流し込んでるじゃん?

 

 あっけに取られているウチに次々と完食して席を立つ皆に置いてかれないように慌てて私もご飯に飛びつき必死に流し込んで、そのまま席を立つ。

 

 自分の喉を通り切らない内に駆け出すのは牛舎。そこでは腹をすかして嘶きの声を上げる牛達が『飯はよ』と言わんばかりの非難の目を向けている。うるさいな、こっちだってまだ碌に飲み込んでないんだからちょっとは待ってくれても罰はあたらないだろぉ!!

 

 荒ぶる彼らの腹を満たすためにフォークを手に取り牧草をこれでもかと巻き上げ、次々と餌場にほおりこんで、かたずけしてる間に搾乳が始まって、豪快に跳ねとんだ糞を掻い潜り片付けて、掃除して、放牧して、ご飯食べて、また畑とか柵の補修に走り回って、放牧して返ってこない牛を泣きながら探して、ご飯を食べて―――すっからかんの状態で布団に倒れ込む。

 

 こんな毎日がもう3か月も続いている。

 

 だけれども、なんだか都会の人込みで四角い画面ばかりに捕らわれていた時の様な息苦しさは感じない。

 

 なんだか―――生きてるって感じだ。

 

 罰則でココに送り込まれた時にはもう終わりだと思ったけどこんな生活も悪くないなんて思えるくらいに私は変われたのだ。

 

 失敗もするし、愚痴も吐くし、怒られるけど、ココの皆は『家族なんだから気にすんな』といって笑ってくれる。それから、ここに来てから本当に迷惑かけっぱなしの雫ちゃんにも凄く救われてるし、あっちではみる事の出来なかった逞しくて輝いてる姿を知れてもっと好きになってしまった。

 

 ただ、ちょっとその朗らかな笑顔に陰りが見えてきたのが少し気がかり。

 

 原因は自分のお目付け役として一緒に送られた“あの人”のせいなのは明白。

 

 それこそ及川家の皆が『雫が婿を連れて帰ってきた!』なんてお祭り騒ぎになった彼も当然のように牧場の仕事をさせられ僕と一緒に息も絶え絶えだったのだがそれなりに小器用で社畜慣れしていたせいかスグに適応していた。

 

 雫ちゃんと並んで仕事をする姿は本当の新婚夫婦みたいで微笑ましく、隣に立つ彼女もなんだかその時ばかりは少女のように無邪気で眩しかったのだが―――僕に問題がなく働けると判断された先月から一足先に東京の方に戻ってしまったのだ。

 

 誰もが惜しむように引き留めようとしたのだが、誰よりも傍に居たいであろう彼女が笑顔で送り出すのにそれ以上の言葉は掛けられなかった。

 

 それ以来、時たま寂しそうな顔をする彼女を見るとなんだか……やむ。

 

 いや、東京のプロデュース業も人がいなくて大変なのは分かるけどさ、女の子にあんな顔をさせてまで優先すべきなのだろうかと思わないでもない。

 

 長らくに渡るここでの生活で完全に優先順位がひっくり返っている自分の価値観に気が付かぬまま寝返りを打ったころに雫ちゃんが廊下から声を掛けてきたので心臓が飛び出そうなくらいに跳ね上がってしまった。

 

「あの~、りあむちゃんおきてますかぁ?」

 

「は、はいっ! 今度は子牛? 鶏? 雨!? いますぐ行きますっ!!」

 

「あ、いえ~、牧場の仕事じゃなくて、お客さんです~」

 

「はへ?」

 

 お客さん? このクソ辺境にわざわざ、僕に?? 

 

何で??

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

「あっ、りあむさん! おひさしぶりでしゅっ!!」

 

「歌鈴ちゃん!? こんな所にどうしたの!!」

 

 雫ちゃんに案内されて来た客間にて私を待っていたのは小柄で可愛らしい巫女服アイドルの“道明寺 歌鈴”ちゃんであった。久々に見る生アイドルの眩さと、気持ちお花みたいな香り。それに特徴的な噛み癖に僕のテンションは余裕でぶち抜ける。そして、それと同時に首も傾げてしまった。

 

 売れっ子である彼女がわざわざこんな辺境に来る理由の心当たりも無く、ましてや僕を心配してというにはあんまり今まで関りは無い。いや、あかりちゃん達も手紙一回くれたっきりだ。お前らはもっと心配しろ定期。

 

「ほわわっ、また嚙んじゃった…。えへへ、今日はね、りあむさんに良いお知らせと悪いお知らせがあるんですけど―――どっちからがいいでしょうか?」

 

「え、こわ。その選択肢って絶対にどっちも悪い前振りじゃん……。えーと、じゃあ、いい方からで」

 

「おめでとうございましゅ!! りあむさんの謹慎が解除されました!」

 

「………へ?――――う、うぉぉぉぉぉぉおお!! マジか!? マジで!!? マジのいいニュースじゃん!! あのおばさんもいいとこあんじゃん!! よっっしゃぁぁっ!!」

 

 きた。

 

 ついに、この時が来た!!

 

 僕の真面目な仕事ぶりはちゃんと届いていたらしい。慣れて来て、馴染んできたとはいえやっぱり皆には会いたいし、心の安定のために寝る間も惜しんで擦り切れるくらい読んだアイドル雑誌のライブは今でも行きたくてしょうがない。

 

 だって、それは僕の人生の根っこなんだもん。

 

 あの推し達のライブに駆けつけられると思うと今から胸がおど 「それで、悪い方のおしらせなんですけど……次はコレがりあむさんの仕事着になります」

 

「……みこ、ふく?」

 

「はい、次は私の実家の本流の大社の方で人手が足りなくて…」

 

「い、いやいやいや、ちょ、ちょっと待って。全然理解が追い付かないんだけど?? ここに送られたのって僕の炎上が理由だよね? ここ来てから僕携帯もなんにも使ってないんだけどまだあのオバサンおこなの? いい加減に労務局に駆け込むぞ??」

 

「………りあむさんが変身した手紙の中に書かれてた内容と写真がたまたま常務に見つかりまして――――貴方がこんな事かいて寄越すから」

 

 そういって彼女が差し出した手紙は確かにあかりちゃん達に返信した僕の書いたもので、クシャクシャに歪んだその紙の一部が荒々しくマーキングされて怒りがこれでもかと表されている。

 

内容は―――『雫ちゃん達の姉妹(乳牛)と共同生活、ちょー爆乳ww 僕も負けてらんないなこりゃwww』←武内、いますぐコイツをクビにしろ(#^ω^)by 美城

 

「これかぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁぁぁあ!! 悪気はなかったんだよぉぉぉっぉ!! ちょっとしたお茶目のつもりだったんだよぉぉぉぉぉっ!!!」

 

「折角認められかけてたのに、なんでこんな迂闊な事かいちゃうんでしゅかぁ……」

 

 崩れ落ち、号泣するように崩れ落ちた僕に涙声の歌鈴ちゃんの声が掛けられる。

 

「携帯はっ!?」

 

「要りません。繋がらないので」

 

「お財布は!!?」

 

「い、要りません。俗世の汚れは持ち込み禁止でしゅ」

 

「ティッシュは!?」

 

「川と葉っぱがありますので…」

 

「雑誌は!!!?」

 

「……まぁ、うーん、バレなければ、多分」

 

「ぼ、ぼくは、今度は、どんなところに送られるの?」

 

「………清廉とした、厳かで、滝の綺麗なところです、ね」

 

「明らかに滝行まであるんじゃねーーーかよぉぉぉぉ!!」

 

 及川牧場に、僕の悲痛な叫び声が轟いた。

 

 

 

 

=蛇足=

 

 

 

「よう、久しぶり」

 

「ふふっ、二月くらいしか離れてないのになんだかすごーく長く感じましたぁ。やっぱり、慣れってこわいですねぇ」

 

 りあむちゃんを歌鈴ちゃんと引き合わせた後に逸る足と鼓動を押さえて、それでもなお急いでしまうのはどうしようもない。そして、開いた玄関の向こうに揺らぐ季節外れの蛍のような紅点に、草木の湿った匂いに混ざる紫煙の香り。

 

 宵闇に混ざるように気だるげに細巻きを吹かす“彼”。

 

 東京では毎日傍に居て、こっちに付き添いで来くれていた間はそれこそ朝から晩まで隣り合ってわざわざ見る事もしなくなっていたそのシルエットになんだか無性に泣きたくなる。

 

 だけれども、まだ、そうするには彼との心の距離は少しだけ遠くて、臆病な彼はきっと困ってしまうから―――心のままに飛びつきたくなる自分を少しだけ抑えてゆっくり彼の隣で微笑むだけに留め揶揄うような言葉を紡ぐ。

 

「こっちでもあっちでも狂って働いてたせいか体感的には1週間も経ってないんだよなぁ…」

 

「うふふっ、こっち一本に絞ってくれても全然うちはウエルカムなんですけどぉ?」

 

「どこもかしこも人手不足だなぁ」

 

 そういう意味ではないのだけれども、肩を竦めて簡単に言葉を流してしまう彼に知らず肩は落ちてしまう。だけども、まあ、こういう人なのは織り込み済み。焦らずやっていこうと決めたのだから今は私もわざとらしい溜息一つで収め、彼の体温を感じるくらいの距離で隣に佇んだ。

 

「まぁ、お陰様で叔父も明日には退院できるそうなので――明日から、またよろしくお願いしますね?」

 

「……もう少しこっちに残ってても大丈夫なんだぞ?」

 

「ふふっ、りあむちゃんのお陰で就職希望者が一杯きてるそうなので大丈夫だと思います。それに――――次の農繁期は比企谷さんも連れて帰ってもーっと楽をさせてあげるよていですから」

 

 ニマリと笑う私に今度こそ苦笑を零して降参する彼に私も無邪気に笑ってしまう。

 

 ゆっくりやっていくとは決めていても―――あんまりうかうか放牧してると狼たちにもっていかれてしまいますから。彼が、気が付かないくらいにおっきな柵で囲い込んでから距離を縮めていく準備だけは着々と進めさせて行かせて貰います。

 

 さてはて、この迂闊なカワイく愛おしい牛さんは―――ソレに気が付いているのかいないのか。

 

 ノー天気に笑う彼が可笑しくて、私はもっとコロコロと笑ってしまいした、とさ♪

 




(・ω・)りあむの旅はまだまだこれから……だっ!!

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