デレマス短話集   作:緑茶P

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(´ω`*)今日は特別に連続更新(笑)


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『仁義なき争い』

 

 ここは芸能界最大手346プロダクション。

 

 都心にありつつもその摩天楼と歴史を感じる時計塔は高々と聳え立ち、行きかう人々は誰もが世間の目を惹きつけるトップタレントであったり、業界の誰もがその動向から目を離せない仕掛け人だったりする正に選ばれた者たちのみが集う誇り高き芸能事務所である。

 

 そんな煌びやかなビルの一角に歩く乙女たちのグループ“Lipps”もまた世間に知らぬモノがいない少女達で、今日も今日とて圧倒的なパフォーマンスで仕事を熟ししばしの時間の休暇への想いを馳せて明るく声を交わしていたのであった。

 

「うーん、今日の収録が終わればお休み♪ 明日はフレちゃん久々に羽を伸ばしちゃう!」

 

「にゃははは、フレちゃんご機嫌だねぇ。うーん、私も久々についてって失踪しちゃおうかにゃー♪」

 

「それは失踪じゃなくて普通に遊びに行ってるだけじゃない?………うん、でも、久々に皆で遊びに行くのもいいかも!☆ えへへ、私もちょっと行ってみたいいい店みつけてるんだよね~。奏も行くでしょ?」

 

「うーん、そうねぇ……映画に一本付き合って貰えるならいいわよ。なんとこのご時世に全部が着ぐるみで撮影しているとびっきりのB級が―――――「あー、はいはい、その映画はまた今度いこーねー。それより、周子ちゃん新しい和菓子のお店が気になるな~ん」

 

 フランス人形のごとく整った金髪少女“フレデリカ”に猫毛のケミカル少女“志希”が抱き着きいちゃつくのに苦笑しつつも明日の予定を調整し始めるピンク髪が特徴的なギャル“美嘉”が残りのメンバーに確認を取る。それに勿体をつけながら答える“奏”に茶々を入れつつB級映画という地獄の回避を図る“周子”。

 

 そのやり取りだけで彼女達が普段からどんな関係や補い方をしているのかを見て取れる微笑ましい光景が広がっていて、年頃の少女達が口を開けば華やかな会話が花開くのは自然の光景。

 

 あーでもない、こーでもないと姦しく明日の予定に思いを馳せていたのだが―――その平和な時間は突如として終わりを迎えたのであった。

 

「「――――――っ」」

 

「だーかーらー、国外は流石に遠いって………フレデリカ? 志希?」

 

 始まりはお互いに絡まるようにイチャついてふざけ合っていたせいで2歩ほど後ろを歩いていた二人。パリに行きたいだの、本場のケバブが食べたいだのと好き勝手言っていた二人に苦笑しつつ対案を出そうとした美嘉が唐突に切れた声を不審に思い振り返れば―――無言のまま倒れ伏す二人が目に入り息を呑む。

 

「だ、大丈夫っ、二人とも!?」

 

 いつもの悪ふざけかと思ったのも数舜、苦し気なその様子に慌てて駆け寄った美嘉が慌てて介抱するも二人は白目と泡を吹いて呻くばかり。

 

 芸能人として非常時への警戒心は常に抱いているものの、こんな事態に事務所のビルの中で鉢会うとは思っていなかったために焦りは募っていく。なんならばいつも大規模な騒ぎを起こす二人が被害者になっているというレアなケースにも混乱は増すばかりだ。

 

 とりあえずは早く二人を医務室に連れて行かなければと残る二人に救援を求めようと振り返れば―――――残る二人も無言のまま壁に寄りかかるように崩れ落ちていた。

 

「奏っ! 周子!?」

 

 そんな、なんで、一体何が。そんな思考が空回る中でも彼女はその真っすぐで美しい性根に従い迷いを切り捨ててすぐさま残りの仲間の元へと駆けていく。

 

「どうしたの!? どこか痛い? 今すぐ誰か呼ぶから少しだけ―――」

 

「み、か……」

 

 息も切れ切れな弱々しいリーダーの声。だが、反応があっただけでも今はありがたい。

 

 謎だらけな状況の中で彼女達を助けられる切っ掛けの一欠けらでも得られれば御の字。その掠れた声を聞き逃すまいとかがみ込み、耳を近づけ――――「逃げ…て。わ、な……よ」―――そんな意味不明の言葉に疑問を抱いた瞬間に体験した事のない衝撃が貫いた。

 

 倒れ込んだ奏に寄り添うために膝をつき、お尻を突き出す様な形になっていた私の下半身から脳天まで貫いていくような衝撃と苦痛。そして、今もなお容赦なく私のデリケートゾーンに突き立てられる細い“何か”。

 

 余りの未体験に力なくそのまま床に崩れ落ちる私の目に辛うじて映ったのは、見慣れた着ぐるみに可愛らしい容姿。そして、幼さゆえの無邪気な残酷さで微笑む最年少のアイドル仲間“仁奈ちゃん”のニヒルな笑顔であった。

 

「な、ん……で……」

 

「隙を見せた奴からやられて行く――そういう世界なんでごぜーますよ、美嘉」

 

 自分を貫いたであろう2本指を拳銃のごとく吹きそう呟く幼女―――おい、なんで今匂いを嗅いで眉を顰めたクソガキ。

 

「う、ぎ…ぎぎっ、ぎぎ……アンタ、こんな事してタダで済むと思ってないでしょうねぇ!」

 

「うきゃーーっ、怒ったでやがります~! 撤退、撤退~~!!」

 

 いまだに吐き気が襲う中、気合で彼女にお仕置きをするために立ち上がろうとするも彼女は大声で楽し気に走り去っていき、その背を追う物陰から出てきた数人。

 単独犯ではない事と、その手慣れた犯行に他の仲間達が新たな被害者にならないように祈りつつ――――私は追う事も出来ず崩れ落ちた。

 

 奏の“もうお嫁に行けない”だの、フレデリカの“…あ、これ、ぜったいいったわ”などとメソメソと絶望の入り混じった声だけが無慈悲に廊下に響く中で私は意識を手放したのであった、とさ。

 

 

 

 

『case by 木場 真奈美』

 

 

 

 この346にアイドルとしてから所属してしばし経つが環境の変化としての面でいえば実に得るモノの多かったと言えるだろう。

 

 誰にも負けない事を、進化し続ける事を信念として故郷を飛び出して海を渡り、様々な環境で自らを磨きあげて確固たる自信を築いてきた。その中では結構に業界でも名が知れてありがたい事に帰って来てからも食うに困ることも無く生活は出来ていた。

 だが、そこから先というモノに明確なビジョンが無くなりかけてきた時にココに招かれてからは実に多くの経験と仲間に恵まれたし、業界最大手と呼ばれるだけあって器具からコーチにレッスンプランは間違いなく今が最上級のモノを甘受していると思う。

 

 それに―――いままで自分の信念を守るためにやっていた面倒なプロデュース関連の雑務を誰かに安心して任せて、パフォーマンスの向上だけに集中できるというのが一番大きい。

 

 愚直で見た目にそぐわない情熱を持つプロデューサーに、気だるげに振舞っている癖に誰よりもその身を削りアイドル達に寄り添うアシスタント君。

 

 こればっかりは、縁というモノだけは自分で揃えようと思っても上手くいくものではない。

 

 だからこそ、その幸運に報いるために私は自分を磨き上げる事に一層に邁進するのだ。

 

 そんな決意と共にあげていたベンチプレスをバーに乗せて、大きく息を吐きつつ体を起こして記録を書き込んで行く。記録更新の自己ベスト。伸び悩んでいたモノが目に見えて高みに上っていくというのはいつ見ても気持ちがいい。

 

 そんな喜びに少しだけ微笑みつつも、後ろから忍び寄る影を見逃す事はない。

 

 ここに来てからもう一つ面白い変化があった。

 

 自分の周りにはいつだって自信に満ち溢れ、ソレに違わぬ実力者たちが揃っていたモノだが――――後先を考えない無謀なチャレンジャーというものは最近めっきり見なくなっていた。

 

 だが、いいことか悪い事かココにいる仲間達はそんな奴らに溢れていた。

 

 それがいい事とか悪いかはさておいて、挑戦者のチャレンジを無下にするほど枯れてはいないので私は忍び寄る足音をワザと気が付かないように捨て置く。

 

 私の鼻歌に、背後から迫る影。

 

 それが一拍の呼吸を詰めたのを心の目で見極め―――私は迎え撃った。

 

「えぇっ!!」

 

「――――気の抜けた相手へ仕掛けるタイミングと、気配を消すところまでは良かったが、少しだけ焦り過ぎたようだね」

 

 私の背後に立つ小さな刺客である“竜崎 薫”君は突き出した指が私の臀部に挟み込まれ抜くも刺すも出来なくなって捕らわれた事に驚愕の声をあげて、ニヤリとしてやった私にあわあわとする彼女が少しだけ可笑しくて笑いそうになる。

 

 彼女がしようとしていた悪戯はまあ、いわゆる“カンチョ―”という奴である。

 

 ちょっとやんちゃだった方には馴染の悪戯であろうけれども、ピストル型に構えた手で相手の肛門部を貫くという何とも無邪気な割には殺傷性の高い悪戯である。自分はついぞ試す事は無かったが、クラスの男子や女子が悪ふざけでそういったじゃれ合いをしていたのを見て対策のシュミレートは済んでいた。………まあ、この歳で使う事になるとは思わなかったがね。

 

 私のトレーニングウエアの臀部にがっちりと指を捕えられた薫君に不敵に微笑みながら声を掛ける。

 

「さてはて、幼い君たちがこういった事にはしゃぐのは分かるのだけれどもね、やった以上は報いを受けなければならないという事を今日は身をもってしって――――「あ、いたいた。木場さん、今度の写真撮影の件なん、です……け、ど」―――――っ!!」

 

 ひょっこりとトレーニング室の扉から顔を出したアシスタント君こと“比企谷“。

 

 気だるげだが、誰よりも純粋で真摯に人と向き合う……まあ、自分の琴線に触れる彼。

 

 そんな彼が眉を顰めてこの状況に首を傾げた。

 

 憚りながらも“クールビューティー”として名高い自分が、トレーニング室で汗だくなタイトなトレーニングウェアに身を包んでいる中――――小学生の指をケツで挟んで拘束してドヤ顔を晒している。

 

 そんな光景を粉をかけている男に見られて……というか、異性に見られて羞恥を覚えない程に女を捨ててはいない。

 

「……落ち着いてくれ、君はいま大きな誤解をして」

 

 そう、そんな甘さが命取りとなった。

 

 焦りつつ慌てて誤解を解こうと赤面しながら彼に説明をするため意識を向けた瞬間に確かに私は背後への警戒を怠ってしまったのだ。

 

「いる―――――う“ぐぅっ!!」

 

「えっへへへー、隙ありすきあり~♪」

 

 ズムリ、と私の菊門に深々と容赦なく突き立てられた尖塔。

 

 楽し気に彼の脇をすり抜けていく彼女に、全身の力が抜けて倒れ込んだ私。

 

 痛く、苦しく、そして、何よりも今は恥ずかしい。

 

 何が悲しくて25歳にもなって年下の想い人の前でカンチョウに悶絶する姿を見られなければならないのか。この世に神はいないかと思う程の非道な仕打ちはあんまりではないだろうか?

 

「あ、あ~、その、出直します。はい。なんか、その、色々と取り込み中だったみたいなんで………」

 

「まて、まてっ、ハチ!! 君は今、絶対に色んな事を誤解している!! おいっ、扉をしめ―――おーーーーーいっ!!」

 

 余りに悲痛な叫びが346に木霊したとか、しないとか。

 

 

 

 

『case by 阿部 菜々』

 

 

 

「ん“きゅぅっ!!!」

 

「菜々ぱいせーーーーーん!!」

 

「あーはっはっはっ、悪く思わない事ね! これで3000ポイントは頂きよ!!」

 

 ズドッっと容赦のない音と共にとあるウサギはテレビでは流せない声を漏らし倒れ伏し、その脇にいた戦友である佐藤は高笑いをしながら去っていく悪戯系アイドルに持っていたポーチを投げつけながら彼女を抱き起した。

 

「パイセン! 意識をしっかり!! 傷は浅くないぞ!!」

 

「―――っ、―――――ぁ」

 

「えっ!? 何すか?? 聞こえないッス☆彡!!」

 

「―――――」

 

「………そ、そんなっ、なんで今まで言ってくれなかったんすか!!」

 

「言える訳、無いじゃないですか」

 

 息も絶え絶えな菜々の声を何とか聴き遂げようと彼女は更に耳を寄せ―――衝撃の真実に打ち震えた。

 

 この小さな体で、可愛らしい容姿でそれでも彼女は不屈の魂で遂には地下に泥ウサギから月に映るウサギにまで上り詰めた傑物だ。だが、その代償と覚悟を自分は全く理解できていなかったのだ。

 

 体力がなくなってきたのも知っていた。

 

 腰が悪いのも知っていた。

 

 だが―――――まさか、お尻にまで“爆弾”を抱えていたなんて知らなかった。

 

 「ぱいせーーーーーーーん!!」

 

 佐藤は激怒した。寄る年波も理解せずに無邪気に人の爆弾を破裂させた邪知暴虐の少女達を許しはすまいと怒りにその拳を握り閉めたのであった。

 

 

 

 

『case by 鷺沢 文香』

 

 

 年少組の間で突如流行った“カンチョウゲーム”。詳細は未だ首謀者が掴まっていないせいで明らかになっていないが彼女らの逃走時に残された証言からどうにも人物によって得点が付けられているらしく獲得点数で優勝者が決まるらしい。

 

そんな魔のゲームに次々と犠牲者は積み重なり、誰もが尻を隠して疑心暗鬼になった事務所の中で姉妹のように仲のいい二人“鷺沢 文香”と“橘 ありす”は怯えつつも気心の知れた二人でいられる事に胸を撫でおろしていた。

 

「お、恐ろしい企画が始まってしまいました……私達も気を付けましょう、ありすちゃん」

 

「本当にナンセンスでノットシンキングな遊びです!!」

 

 同期達の暴挙に憤慨してる彼女を見て少しだけ頬を緩め、文香は気分を入れ替えようと席を立ち――――

 

「あ、りす……ちゃん?」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい―――でも、文香さんをやれば2万ポイントなんです」

 

 力なく崩れた体と、いまだに強く残る尻の異物感。その正体が泣きながら千年殺しの指を象る実の妹のように思っていた友人によって齎された事を知り……彼女はこの世の無常を嘆きながら力なく意識を手放したのであった。

 

 

 

 

=本日のオチという名の蛇足=

 

 

 

 阿鼻叫喚の地獄と化した346プロダクションの中で俺は元凶と思われる二人の元を訪ねてとある休憩室の扉を開けば気だるげに冷房を利かせた部屋で炬燵に包まるクソガキ代表たちが呑気にせんべいを齧っていた。

 

「あれ、ハチ君どったの?」

 

「あー、サボりにきたんだ~。いいつけてやろー!」

 

「喧しい、クソガキども。……あの騒ぎは何なんだ。どうせお前らの差し金なんだから早く畳んでこい」

 

「えー、今回は私達じゃないよ~。というか、私達がやるならあんな温い事しないもん」

 

「というか、大元を言えばハチ君のせいでもある」

 

「はぁ? 俺が元凶??」

 

 菜々さんの痔が爆発したり、真奈美さんが見た事もないくらい凹んでたり、文香が引きこもったり、美嘉が未だにケツを押さえてひょこひょこ歩いたり、美優さんが艶めいた声を事務所に響かせてしまったりと大惨事が相次ぐこの大騒動が温いという言葉に恐怖を覚えつつ聞き捨てならない事を聞いてしまった。

 

「…なんで俺のせいなんだよ?」

 

「ハチ君、今度の遊園地ロケについてくんでしょ?――――年少組5人限定の」

 

「――――そういやそんな企画もあったな」

 

「ソレが答えだねぇ……まあ、みりあと莉嘉ちゃんは前にプライベートでハチ君といったから興味ないけど」

 

「????」

 

「「………これだよ」」

 

 彼女らの言葉の意味が分からず首を傾げる俺に、おおきく、ふかーく溜息を吐いた二人のあきれ顔が妙に脳に焼き付き――――今日も346プロダクションの摩天楼には濁った悲鳴が響くのであった、とさ。

 




(/・ω・)/お尻にぶすっとなー♪

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