デレマス短話集   作:緑茶P

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(*''▽'')さー、今日も脳みそ空っぽでいってみよー!!


進む路は祭囃子のごとく揺らめいて 前編

『カメラに映るのは見渡す限りの田畑に行きかう軽トラ。人よりも鹿やウサギ、猪に熊という野生動物こそが覇権を握っているのだと言わんばかりの田園風景が地平線と蒼天の帳で締められたその地方都市に――――そのカリスマは現れた!!』

 

「○○県○○市のみんな、やっほー☆ 今日の“いきなり☆シンデレラ!”でココに来たのは私“城ヶ崎 美嘉”!! 一通の悩めるお便りに今回もバシッと解決に導いてくよ☆!!」

 

 カメラの向こうから出された入りのタイミングに合わせて軽快なポーズと共に番組冒頭の決め台詞を高らかに宣言することで収録は始まった。

 

 さっきまで気さくに会話をしていたスタッフの雰囲気は引き締まり、誰もが私の交わすゆるめの司会進行とは対照的にその一片もミスを許さないように仕事に徹しているのを感じつつ―――私は笑顔を張りつけながらも徹底的に確認してきた流れを入念に脳内でトレースし、丁寧に番組を進めていく。

 

 『所詮、編集があるから何とかなる』なんて甘えは許されない。

 

 全力を絞り切って、どのシーンを表に出すかをスタッフに悩ませるくらいに見どころを作るのが私の仕事で、腕の見せ所。

 

 業界最大手の346の新設部署というご立派な看板も、内部のドロドロで毎日が綱渡り状態なのだから必死にもなるし―――まあ、本来の性分から適度に手を抜くというのが上手くない私には案外とこういうスタイルは性に合っている。

 

 自分は、分を弁えている方だとはと思うし、勘違いだって出来る立ち位置でもない。でも、だからこそ―――自分に出来る全力はいつだって把握できていて、ソレを絞りだす事に戸惑いなんてない。

 

 そんな事を心の中で噛みしめながらいよいよこの企画の肝である視聴者からのお悩み相談のメールの開封を行う。

 

 この“いきなり☆シンデレラ”は手紙を貰った相談者の地域に出向き、些細な悩みから結構大掛かりな相談までを解決するという趣旨の番組でゴールデンタイムとは行かないモノの結構な視聴率を誇るウチの屋台骨とも言える企画。寄せられた手紙の中でプロデューサーがこれはと思うアイドルを派遣して現地で内容を知らされる為にこっちも内容は開けるまで分からない為にいつもその封筒を開けるまでドキドキなのである。

 

 余談ではあるが、幸子ちゃんは町御こしのキャンペーンガールになり神輿の頂点で“カワイイ”を半泣きで叫んだり、小梅ちゃんの心霊レポであったり、楓さんの酒蔵の容赦ない品評会で杜氏が半泣きに成ったりという回は未だに神回であったと語り草だ。……一介のJkにそんな大層な期待を背負わせられても荷が重いのだけれど。

 

そんな緊張と共に空けた封筒に込められた“願い”は随分と可愛らしく、それでも年頃の乙女としては切実な思いが込められた可愛らしい便箋であった。

 

「今日の相談は……『オシャレがしたいのにド田舎過ぎて全然お店がありません! どうしたら少しでも美嘉ちゃんのようにオシャレに近づけるでしょうか?』 ……てさ☆!」

 

 あぁ、なるほど。やっぱりあのプロデューサーの目に狂いはない。

 

 この依頼ならば誰よりも私以外の適任はいないだろう。

 

 生まれついてから飾る事も無く美貌に恵まれ、意識することなく、息をするようにセンスに恵まれた仲間達はそもそもが“より綺麗に”と思ったり、“自分らしくオシャレにありたい”という願望にはとんと無頓着。

 

 だからこそ―――埼玉のド田舎でもがき苦しんできた私こそがこの企画には相応しい。

 

 さて、出来る事もやるべきことも分かった。

 

 ならば――――後は意地と見栄と根性で塗り固めた“カリスマJK 城ヶ崎 美嘉”が悩める子羊たちに道を示し、導いてやるだけの事である。

 

 

「オシャレな小物や服が売っているお店が無い田舎に生まれたJK、諦めるにはまだ全然早い☆! そんな絶望を抱いてるみんなには都会には無い最高のファッションを提供してくれる最高の店を紹介するよ―――その名も“大型ホームセンター”っ☆!!」

 

 とびっきりの決めポーズで宣言したその一言にスタッフすら唖然とする現場の中で―――気だるげな男だけが呆れたように肩を竦めたのが見えて知れずニヤリと笑ってしまった。

 

 

――――――― 

 

 

「はいっ、という訳で今日紹介した自家製カリスマ小物たちを身に着けたコーディネートで今日のおさらいをしていくねっ☆」

 

 締めの場面用のカメラが回った合図を確認して出来る限り華やかな声と姿勢で映った自分の姿を確認しつつもゆっくりと今日の成果を見やすいように映してゆく。

 

 最近はオシャレで安価になってきたアウトドア用の衣服にアレンジを加えた私を彩るのはレザー工芸品コーナーにある格安の端材で編み込んだ皮のアクセサリーに、文字型に刻まれた木片を筆箱や小物に接着してオリジナル感を出した小物類。針金や銅線を編みこんで作ったブレスレットに等々に―――指に輝くシルバークレイで作った世界で一つだけの指輪。

 

 これら全てを合わせても2万から少し足が出るくらい。単品ならば数百円程度の出費なのだから寂しい女子高生のお財布にも無理は出ないだろう。

 

 ブランド物に憧れるのは分かるけれども、そういうのは大切な一個を持てばいい。

 

 だけれども、それだけで満足できない貪欲なお年頃。

 

 そういったちっぽけだけれども譲りたくないプライドを今日の番組で何処かの誰かを満たしてくれる知恵になればいいな、と想いながら笑顔で私はカメラに手を振りその日の収録を終えたのであった、とさ。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

「にしししっ、どーよ。今日の収録もばーっちりだったでしょ?」

 

「はいはい、カリスマカリスマ」

 

「なんだか労い方がどんどん雑になってくんだよなぁ……」

 

 いつの間にかホームセンターの中に出来た女子高生の人垣にファンサービスを振りまき、撮影スタッフとささやかな食事を定食屋で取った後の帰り道。別れゆくスタッフ達に大きく手を振り見えなくなった頃に不愛想な顔で運転する俺“比企谷”に声を掛けてくるカリスマに苦笑を零してそんな返しをするのが精一杯。

 

「だいたい、アレって半分くらい俺が年少組に教えてた奴だろ?」

 

「バレたか。というか、あれはあれで本当に感心したし勉強になった。―――無事にこうして芸の肥しにもなった訳だしね?」

 

 俺のチクリとした嫌味に悪びれもせずに舌を出して答える美嘉にいよいよ俺だって肩を竦めるしかない。

 

 いつだか妹の小町が家で作っていた“ミサンガ”。

 

 なんでも体育祭での結束のために作ったそうなのだが、思いのほか面白そうでやってみたら無駄に嵌って大量生産してしまい小町のクラス中どころか学年中に配ってしまった黒歴史。だが、ああいうのは意外と嵌るモノで皮でもなんでも編み方の理屈は一緒なせいか無駄にジョイフル本田に通ったものだ。

 

 その結果、一時期ホームセンターマニアになった俺の知識を持って小梅や莉嘉たちちびっこ共の暇つぶしにあてがっていたのだが……世の中なにが得になるか分からないモノである。

 

「ま、手芸にもやっぱセンスがいるもんだと痛感したのは間違いないな」

 

「えー、比企谷さんが作ったこのシンプルなミサンガも結構私はすきだけどなぁ……私の今日紹介したのだって流行りそうな物に当て嵌めただけだし、最終的にはこういうのって真心でしょ?」

 

 彼女の一を聞いて十を知る強化版アクセサリーたちの出来を見てそう呟いたのだが、少しだけ照れ臭そうに手元に巻いたパッとしないピンクのミサンガを見てそんな事を宣うカリスマギャル。

 

 おい、やめろ。年少組だけでは不公平だと抗議されて渋々つくったソレにそんなものは籠っていない。むしろ持ち上げられるだけ背中が痒くなって溜まらん。

 

「まっ、いいじゃん、照れるな照れるな☆ そういう所に救われてる人も一杯いると思うから素直に褒められときなよ」

 

「運転中に肩を叩くな」

 

 そう締めくくった彼女がケラケラ笑いながら肩をバシバシしてくるのに溜息を一つ。空気を切り替えるために窓を開けて換気をすれば――――初夏の濃い草木と匂いと虫の恋歌。それに、遠くに祭囃子が聞こえてくる。

 

 山間の小さな神社に立てられた弱々しい提灯の灯りに、田んぼを楽し気に駆けて行く幼子達。

 

 それが黄昏時に溶けて消えゆく長閑な光景にしばし見惚れていると、叩かれていた肩はいつの間にか緩く握りしめられている事に気が付いた。

 

「寄ってみるか?」

 

「えっ、あ、……うん、ちょっとだけ寄ってみたい、かな?」

 

 同じようにその子供たちをぼんやりと眺めていた美嘉に問いかければ、夢現から覚めたように遠慮がちに応える。

 いつもの自信に満ちたモノと違って、なんだかひどく脆く砕けそうな表情でそう答えるモノだからいつもの様に茶化すことも無く俺はハンドルを切ってその小さな夏祭りへ行く先を変更したのであった。

 

「変装だけはしとけよ。流石に普通の人込みで囲まれたらかなわん」

 

「有名税も楽じゃないよねぇ……」

 

 そう苦笑して答えた彼女がその艶やかな桃色の髪をキャップで隠し、伊達眼鏡で燃えるような意志の強さを宿す萱色の瞳を隠すが大して変わり映えが無かったので肩を竦めるしかない。

 

 まったく―――祭りも自由に楽しめないとはアイドルとはとかく不便なモノである。

 

 人混みを楽しむ気も無いボッチがそう笑う滑稽さに自嘲をしつつも、車は宵闇に染まるあぜ道をゆるりと進んでいくのであった。

 




_(:3」∠)_ 渋で先読みできるので気になる方はそちらにどうぞ→https://www.pixiv.net/novel/series/624470
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