今回も頭を空っぽでお楽しみください。
僕も農繁期もあと少しなのでみなさん頑張りましょう!!
あと、いつでも設定引継ぎ3次と絵師様お待ちしてます!!なんならみんなあげちゃう!!かまん( `ー´)ノ!!
キシリ、と年季を感じさせる床板が鳴く。
叔父が“日が入らず本が傷まない”という理由で気に入り購入したこの家屋は昔ながらの造りらしく木の湿度と土の冷たさを強く感じさせる。陽の高いうちからそんな調子なので夜になってしまえば温かくなってきた今頃でもうっかりすれば寒くすら感じてしまいます。それでも、故郷の実家に近い雰囲気が好ましく思いつつ、響く板の鳴き声と共に歩を進める。
そんな益体もない感想を抱いているうちに目的の場所へとたどり着いたので手に持つ盆を脇に置いて小さく声をかけると気だるげな返答が入室を進めてくれます。
その壁越しにでも伝わってくる苦々しい雰囲気にちょっとだけ胸がすいて笑ってしまうのは少々だけ意地が悪すぎるでしょうか?
「進捗はいかがですか、先生?」
「……冗談でも勘弁してくれ」
促されるままに開けた襖の先で窓べりに腰を下ろす男性が困ったように苦笑を漏らしたあと、顎でランプに照らされた年代物の文机を目線だけで見やって肩を竦めます。その視線を追った先には何度も書き直したあとが見られる原稿用紙に投げやりに放られたような鉛筆。
私が彼にお願いをしたのは“作品の完成”。
しかし、その惨状から芳しくない進行状況を察してしまい、もう一度ころころと笑ってしまう。
「ふふっ、それは失礼しました。――お詫びというわけでもないですけど、一息いかがですか?」
「………差し入れなんだか、妨害に来てんのかわからねぇなぁ」
そんな私が脇に置いていたお盆に乗ったワインとおつまみをチラつかせると文句を言いつつもいそいそと真ん中のちゃぶ台へと寄ってくるので、不愛想な猫を餌付けしたような優越感が浮かびます。しかし、余計なことを言うと拗ねてしまいそうなので黙ってグラスに二杯分注いで彼に渡します。
「文豪たちも煮詰まるとお酒で頭を柔らかくしたそうですし、ささやかですがレポート完成の打ち上げもしていませんでしたから」
「あー、それは悪かった。というか、ホントに焼肉でもよかったんだぞ?」
「いえ、これくらいの方がゆっくり出来て助かります。―――とりあえず、お疲れさまでした」
気まずげに首筋に手を当てる彼が申し訳なさそうに答えてくれるのをやんわりと断って、グラスを差し出すとそれに合わせるように交わされて、チンと澄み切った音が部屋に響きます。
渋みと、甘さ。そして、酒精が通った部分がほんのりと温かく感じる不思議な感覚。
その熱が体にゆっくりとしみ込んで、微かに上がった体温が春の夜風をより心地よく感じさせる。そして、ちょっとだけ凝り固まった身体を伸ばすついでに静かな向かい側を盗み見る。
別に彼と二人きりの時に会話がないことなど珍しくない。
もともとがお互い饒舌なほうでもなく、自分が読書に夢中だったり、彼がぼんやりと益体もないことを考えていたりとする。そんな調子なものだから、何かを喋らなければという圧迫感なんて今まで感じた事などなかったのです。
それでも、今日はなんだか違いました。
ざっくりとまとめられた髪の中で特徴的なアホ毛が風に揺れている彼は舐めるようにワインを味わいつつ窓から覗く月を気だるげに眺めている。たったそれだけのことなのに、表情を窺えない彼の佇まいに、一瞬息を呑んでしまう。
触れば砕けてしまいそうな、瞬きをすれば消えてしまいそうな、問いかければ溶けてしまいそうな。
そこにいるのに、遠くに佇む蜃気楼のようなその表情。
その視線の先にいる誰かを私は知りません。
月明かりに照らされる部屋の中で、風で白紙の原稿用紙が小さくはためきました。
彼が書いた未完成の物語の完成。それが、私が彼に臨んだ宿泊の対価です。
その完成を、私は
彼に望んだのです。
月を眺める彼に奪われていた視線をそっと切り、私は言葉を紡ぎます。
胸をざわつかせる感情を飲み込んで、昔の事を韜晦するように言葉を探りながら。
「随分と昔の話ですけど…」
「ん?」
「私も小説の作成に挑戦してみたことがあります」
遠い月を眺めていた彼は私が発した言葉が意外だったのか、目線を向けてきます。その視線と自分の失敗談が恥ずかしくて少しだけ居心地が悪いですが、私も酒精の力を借りてその続きを語ります。
自分の見た事もない、想像もできないような世界をいつも届けてくれる本たちに小さなころから私は夢中でした。そんな日々を過ごしている中でいつしか自分もそんな素敵で、心躍るような物語を作ってみたいと思うようになったのは“身の程”というモノを知らなかったのでしょうね。
人から与えられてばかりで、実際には部屋に引きこもってばかりいた少女は背伸びして買った高価な原稿用紙と上質な鉛筆を前に固まってしまいました。
当たり前の事です。
その少女が感動したことなんて“誰かの物語”であって“自分の物語”なんて一つとしてありはしなかったのですから。
それでも、諦めきれずに随分と書き方の勉強を重ねたり、実際に作家として生計を立てている叔父にコツなどを聞いてみましたが、どの書籍も叔父も“自分の日常の体験を思い出し”という文言が最初に出てくるのですから救いがありません。
それでも、なんとか書き上げた内容の小説を自分で読み返して――ようやく諦めがつきました。
何処かで読んだような内容と主人公に、借り物の言葉だけで彩られた言葉。
ソレは何より残酷に私に現実を教えてくれました。
才能うんぬん以前に、自分の空虚な生き方を。
結局、自分は誰かに与えてもらった感動を誰かに伝えたいのではなく――そんな自分を否定したくて身近な何かに縋っていたのだと。
「……それは」
そんな滑稽な私に何かを語ろうとする彼に静かに微笑みかけて言葉を遮ります。
否定の声は大きいでしょうけれども、小説はきっとその人の人生なのだと思います。
構成や、キャラクター。語られる言葉。すべては形にならない“想い”というものを何度も組み替えて、混ぜ合わせて、必死にソレを読み取ろうとさらに深く潜ってようやく絞り出される結晶なのかもしれません。
だからこそ――――私には書けませんでした。
だからこそ――――彼は物語を終わらせることができないのでしょう。
偏屈で臆病な少年。物語の中の彼は、変わり者の二人の友人への思いを最後まで保留したまま最終章を迎えてしまいました。
その答えは、きっと彼自身が出せていないゆえの葛藤だと思うのです。
終わらせるだけならば安易なハッピーエンドで締めくくればいいものを、不器用で実直な彼はそれすら自分への偽りだと戒める。
それだけの大切な日々がこの作品には詰まっているのでしょう。
だって、気だるげに、仕方なさそうに綴っていた物語を書く彼は眩しいものに目を眇めるように、苦笑しつつも書き進めていて――――こんなにも自分を惹き付ける物語になったのだから。
「貴方が何を抱えているか、私には…分かりません。でも、これだけ私を引き付ける物語は――――比企谷さんが駆け抜けた日々は決して間違ってなんていないと思うんです」
「――――っ!!」
私の言葉に息を呑む彼の瞳は、激情はなんと表現したものでしょうか。
怒りと、悲しみと、憧憬と、後悔。様々なモノが混ぜ合わさったその瞳。
いつもの深い諦観の奥底に隠された激情。
その複雑な輝きを彼がまた飲み込んでしまう前に、私は彼の頬に手を添えます。
願わくば、彼から分けてもらったあの一匙の温かさが、彼の冷え切った心に届くようにと願いを込めて空っぽの人形だった私は賢しら気に言葉を紡ぎます。
「その答えが分からなくたって、終わりを迎えられなくたって、その日々を歩いた貴方の軌跡は間違いなく私を救ってくれました。こんな数日の恩返しで返せないほどの感謝を貴方に抱いています。―――だから、もう一度だけ未完成だって向かい合ってください。ソレが私にできる精一杯の恩返しで、意地悪です」
月明かりに光る雫は、私のものか彼のものか―――――語るのは無粋ですね。
無言で私の手を取った彼は数秒だけその熱を確かめるように握って、何も言わずに文机に戻って一心不乱に物語を書き綴ります。握られたその熱は何時までも私の手に残って、いつまでも燻ります。胸を焦がしつつも、甘いこの痛み。
それを静かに抱きしめて月を肴に、杯を重ねます。
完成した物語を読みたくないと願うなんて心境を抱く日が来るとは思わなかったです。でも、それでも、大いなる敵に塩を送ってしまった事に湧き上がる後悔よりも、これでようやく私も彼の綴る物語に登場できたかもしれない高揚感が湧き上がります。
長いプロローグの果てに、ようやく素の彼と出会えた少女。
彼の過去と深い関わりのある二人の友人。
はてさて、これから紡がれる自分の物語は―――昔の処女作よりも随分と刺激的だ。
それでも、そのエピローグに立つ権利だけは譲るつもりはないけれども。
いつか、それを笑って彼に語る未来を想像して“鷺沢 文香”は小さく微笑んだ。
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~本日の蛇足~
とある有名私立大学に通う何の変哲もない大学生の私には、最近、友人が増えた。
ぺらり、と最近では電子化が進み聞くことも珍しくなってきた独特の紙の擦れる音につられて目を向ければ、沙耶のような黒髪の奥にある目を輝かせて文庫本に目を輝かせる超絶美少女。それどころか、最近ではアイドルとして知らない人はいないトップアイドル“ふーみん”こと“鷺沢文香”。その人が件の友人だというのだから人生分からないものだ。
きっかけは、彼女が落としたハンカチを届けて、なんど呼び掛けても気づかれないのでシカトされたかと思って頭をひっぱたいたのが始まりだったはず。
ケンカ腰の自分にも怒るどころか、平謝りしてくる彼女に毒気を抜かれて話してみれば意外と気さくに冗談も交えてきた彼女と言葉を交わしてるうちに、いつの間にか授業が被れば隣に座るくらいには親しくなってしまった。
どうにも、本ばかり読んでる根暗なタイプだと思っていたがいつも本に夢中なだけでおしゃべりは結構すきらしいので実際に言葉を交わすというのは大切なことらしい。
ただ、親しくなればそれ以外の事にも気が付いてしまうもので、お節介を焼きたくなるのは自分の昔からの悪い癖だと思いつつも止まらない。
「ねえ、ふーみん」
「……っ。すみません、また夢中になってしまいました。どうしました?」
「いや、私はいいんだけど…ふーみん的にはアレってオッケーなん?」
私が顎でしゃくった窓の先にはレンガで舗装された鮮やかな広場で親し気に話している見覚えのある後輩らしい小柄で茶髪の女の子と、気だるそうなアホ毛が特徴的な同級の“比企谷”。
姦しく彼に構う彼女の対応は明らかに好意的であるし、目立たないようにしているのだろうが“友人”と浅からぬ関係っぽい男がああしているのは正直、胸糞が悪い。これだけの美少女に粉をかけてるくせに別の女と見えないところでいちゃつくとか普通に死刑ものだ。昔からアイツはどれだけ―――――と、勝手に義憤を滾らせているとふーみんは私の視線を追ってその光景を見た後、何かを納得したように頷く。
「あぁ、そういえば去年あたりに後輩が入ってくるといってましたね…。彼女がきっとその子なんでしょう」
「…………それだけ?」
「それだけ、とは?」
不思議そうに首を傾げる彼女は非常に可愛らしいのだが、こっちは肩を落とすしかない。この動作が嫌味じゃないってのもある意味すごい。
「いや、ああゆうの見ても平気なんかなーって」
そう問いかけた私に彼女は少し考えた末に、思い付いたように手を軽く打って言葉を紡ぐ。
「思いのほか年下の面倒見がいい人なんですよ、彼」
「いや、そういう事じゃなくて…て、言うか――――」
無邪気に嬉しそうに語る彼女に色々と煩悶しつつも、そんな彼女にかける言葉を考えるのも馬鹿らしくなり、直球に切り替える。もともと、繊細なやり方なんて性に合わないし、彼女の職業柄聞くのも憚られたその質問。
「確認だけど…ふーみんって比企谷に、気があるとか訳じゃない系?」
その一言を聞いた瞬間のことを私は、たぶん、一生忘れない。
花が綻ぶようなその柔らかさや、艶やかな彩りを見せたその表情を。
「それは秘密、です」
その女の私の背筋を震わせるような、芯を蕩けさせるような声の甘さを。
「―――――――っつ///⁉」
そんなの、言っているようなもんじゃないか。
まったくもって新しくできたこの友人の底知れなさには敵わない。
だからこそ、実際に話してみるということはきっと大切だ。
あの日、かつての高校のレクリエーションで出会った古い知り合いにだってそう学んだではないか。だから、今は、根暗なかつての同級生にエールを送ろう。―――この子の相手はたいそう大変だ、頑張れ。比企谷。
思考を放棄した私は癖の強い地毛を弄りつつ投げやりに彼の冥福を祈った。