デレマス短話集   作:緑茶P

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(´ー`)なんで俺の人生には美嘉との夏祭りデートというイベントが無いんだ…(絶望

という訳で、今日も脳みそ空っぽでいってみよーー


進む路は祭囃子のごとく揺らめいて 中編

 夏の夕刻特有の湿り気を帯びた草木の匂いと共に流れ込む涼やかな風が吹き抜け、夕日に深く染まった入道雲とひぐらしの鳴声、そして、添え物程度に流れるお囃子が“寂れた村祭り”という風情を醸し出していて郷愁を誘う。

 

 日本の中心地“千葉”出身の俺からすれば神社の参道に並んだ一巡り5分も掛からない出店は物寂しくも感じるが、それでも石段を駆けあがってくる子供達や親子ずれの楽し気な様子を見れば小さくともここはやはり催事の場所なのだと気持ちが綻んだ。

 

「へぇ~、なんか人込みも無くていい感じじゃん☆」

 

「まぁ、ソコは同感だな」

 

 なんとなく在りもしないノスタルジーに浸っていると隣で並んで境内を眺めていたギャル“美嘉”が少しだけ楽し気にそう呟くのに相槌を打てば、いつもの姉御肌は何処へやら子供のように待ちきれないと言わんばかりに俺の袖を引いて先を促した。

 

「ほらほら、そんな顰め面してないでどれから行く? 定番から言えばたこ焼きとか粉モノでお腹膨らませてからゆっくり遊ぶとかだけど―――」

 

「……いや、ちょっと待て」

 

 無邪気に笑いながら先を促す彼女のプランを一旦遮って黙考をしばし。

 

 不審げに眉を顰めるのを横目に脳内であれこれと明日の予定だったり事前調査していた近隣のマップを脳内で総ざらいした末に――――今日はビールを飲んでも明日の仕事に間に合う事が判明した俺の行動は早かった。

 

 歩いて行ける近場の宿に予約をすまし、今日は車のトラブルで帰れなくなったというやんごとなき報告をちっひーに送り、近くの住民に車を置かせて貰う許可を貰った俺は意気揚々と唖然とする美嘉の元へ戻ってサムズアップ。

 

「よし、という訳でとりあえず今日は泊まりだからまずはビールから飲んでいいか?」

 

「………アンタって、偶に見せるそのやる気をなんでいつも出さないの?」

 

 喧しい。いっつも全開で働いてると更にその先を要求されるのが社会人なのだ。だから、いつも6割で働いて、偶にやる気を見せるだけで評価が上がるという社畜マジックを知らない奴だけが俺に後ろ指を差す。

 

 そして、学生の頃はなんとも思わなかったが酒の味を知ってから来る祭りは地味に初めてのせいか、焼鳥に焼きそば、牛串にたこ焼き、酢だこに焼きおにぎりの香ばしい匂いを嗅いでいると“酒、飲まずにはいられないっ”となるのだから仕方ない。次からは徒歩で帰れる時に寄ろうと反省しましたひきがやはちまん、まる

 

「えっ、ていうか今日は泊まりとか聞いてないからなんも用意してないんだけど!? ちょ、どうすんのさ!!」

 

「さっきホームセンターで買った奴きときゃいいだろ? 別にパンツくらい3日4日変えなくたって死にゃしな―――いでっ! いででででっ!?」

 

「乙女をなめんなしっ!! 男とは根本的に違うん、だっ、っつーーの!!」

 

 げしげしと人の尻を容赦なく蹴飛ばしてくる美嘉。ふうむ、どうにもパンツの替えを心配している訳ではないらしい……その昔、十時にも急な出張で怒られた事がある気がするがとんと思い出せないし、今でも何を怒っていたのか理解する前に向こうが折れたので未だに分からん。

 

 というか、周りの微笑ましい視線も痛いし、もう喉が完全に乾いてビールが飲みたくて仕方がないので茶番もソコソコにしまわせて頂こう。

 

「まぁまぁ、ほれコレを見ろ」

 

「……なにこれ、花火?」

 

「おう、さっき駐車許可証を貰った時に渡された。この祭りの締めに花火が上がるんだがソレが終わる頃にはもう9時だ。そっから都内に帰っても12時ちょっと前。お前の電車も間に合わんし、送ったとしても12時過ぎ。なら、明日の朝に出た方が体調も予定も余裕がある。――――なら、もういっそのことのんびりした方が得だろ?」

 

「………なーんか丸め込まれてる気もするけど、結局はビールが飲みたいだけでしょ?」

 

「金にモノを言わせる大人の祭りの楽しみ方を教えてやろう」

 

「サイテーな楽しみ方だなぁ……」

 

 呆れたような溜息を漏らして半目で睨んでくる美嘉。だが、帰宅は諦めてくれたようでポチポチと携帯を弄り始めたので家に連絡を入れてくれているのだろう。

 それを幸いにと、とりあえずビールを売っている売店にて大カップで生を一つ。ソレとついでに懐かしの瓶ラムネを購入して彼女に差し出す。

 

 呆れも通り越すと苦笑に代わるらしく、彼女はソレを景気よく開けてゆたりと俺のカップにぶつけてきた。

 

「ま、どうせ言っても聞かないんだろーし? 今日くらいは付き合ってあげますか」

 

「おう、諦めが良くて助かる。――――ま、とりあえず」

 

 

「「お疲れさん」」

 

 

 夜の帳が降りきった山間。頼りない提灯の灯りと祭囃子の中で弾ける炭酸に交わって―――クスリとどちらか、あるいは二人の笑い声がとけていった。

 

 

――――――――

 

 

 

「えっ、なにこれ? 金魚すくいって紙ポイじゃないの??」

 

「俺も噂にしか聞いた事が無いが、モナカのポイとか本当にあるんだな……」

 

「文句があるならやらなくてイイよ」

 

 あの乾杯からつれづれと適当に二人で出店を冷やかしながら歩いていたのだが、かつて妹の為に何匹の金魚を釣ってやった事があるかと妙なシスコン抗争が起きてどっちが妹を愛しているかを金魚すくいの勝敗で白黒つける事になったのだが―――渡されたポイに二人して膠着してしまった。

 

 十時から聞いた事があるのだが、まさかこのコンプライアンスが重要視されている現代で実在するとは思えず鼻で笑った幻のアコギ商法に出会って俺たちは固まってしまった。

 

 意気揚々と腕まくりして金魚すくいに挑んだ俺たちに配られたのは洗濯ばさみで挟まれただけの半割のモナカ。

 知っての通り水にめっぽう弱いコレを水につければモノの数秒でふやけて金魚を掬うどころではないだろう。だが、不機嫌そうな店主はおろか他の子どもたちは疑問も無く挑戦し破れつつも数匹の金魚を捕えている―――え、これで取れるってマ?

 

 十時、すまん。お前の証言てマジだったんだな……。

 

「………水につけて数秒で破けたんだけど」

 

「すげぇ、そのまま金魚の餌になる仕組みなんだな」

 

「次いかないなら他の子に譲って貰っていい?」

 

 システムもすげぇけど店主の態度もすげぇな。―――だが、社畜バイトの給料を甘く見るなよ?

 

「親父―――モナカ20枚くれ」

 

「――――っつ!!」

 

「あ、アンタ馬鹿ぁっ!? こんな事に6000円とか完璧な無駄遣いだよっ!?」

 

「ソレは―――俺たちの妹への愛より重い値段か?」

 

「――――っつ!!!?」

 

 その一言に息を呑んだ美嘉に俺は不敵に微笑む。

 

「安心しろ。妹への愛はプライスレス。10枚はお前の分だ。―――勝負を続けようか?」

 

「………上等」

 

「……(変なのきちゃったなぁ)」

 

 その後、俺と美嘉のデットヒート60枚に及び、いつの間にか増えた観客たちに見守られながらお互い3匹を吊り上げた所でお互いの健闘を称えて終わりを迎えたのであった―――のちに言うヒグラシ山シスコンバトルの元となったのは別の話。

 

 

 

 




=蛇足=

「まいったよ。アンタらの情熱には俺も久々に熱くされた―――この6匹、大切に育ててくれよな」

「「あ、ペット飼えないんでそのまま戻してください」」

「いや、持ち帰らないんかーい……」

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