デレマス短話集   作:緑茶P

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(/・ω・)/あきらちゃん回投稿!!


。:゚(;´∩`;)゚:。いつも誤字脱字チェックありがとうございます!ホントに助かってます!!


好きこそものの上手なれ

「その話、マジ…ですか?」

 

「おう、前の雑誌で評判が良かったから面白がった編集さんが特集組んでくれるとさ。おめっとさん」

 

「――~っしゃ!」

 

 ユニ募のミニライブも無事にりあむさんが炎上し、いつものように乗り切った土曜の昼下がり。いつものように同伴してくれたやる気なさげなアシスタントの“比企谷”さんから珍しく自分が呼び止められ、告げられた内容に思わず柄にもないガッツポーズをしてしまった。

 

 だが、構うもんか。

 

 “悟り世代”だなんて呼ばれることも多いけど、嬉しいときは喜ぶし、ムカつくときには普通に怒る。この胸に溢れる感情を周りの評価に合わせて押し殺す方が馬鹿馬鹿しい。

 

 ましてやそれが、自分が好きなものを評価された時ならば猶更。

 

「ふ、ふふふっ、#砂塚あきら #モデル本格デビュー #来てるコレ」

 

「喜んで貰えたようで何より。……ほんで、早速で悪いが今から衣装の要望を纏めて向こうに送っときたいから時間取れるか?」

 

「いや、全然大丈夫デス。むしろ、この件に関しては兄ぃとのゲームなんて後回し確定」

 

 鼻息荒く詰め寄る私に苦笑を零しながら『どこのお兄ちゃんも大変だな』なんて呟く彼が愛用の業務タブレットを抱えてついてくるように指示をする。

 

 その後ろ姿に軽い足取りを跳ねさせて着いていきながら、しばし彼について振り返る。

 

 それなりの上背は緩く猫背になり気だるさを醸し、男の人にしては長めの艶のある髪をざっくり乱暴に纏めただけの中で柔らかそうなアホ毛が特徴的な彼だがこう見えてウチのプロダクションの屋台骨の一人らしい。

 

 膨大な人数のアイドルの実地でのスケジュールをほぼ一人で調整し、色んな現場での要望や問題は無難に纏めてつつがなく進行していく実質的なマネージャー業を請け負うせいでその目の下の濃いクマが取れないのかと思えばその気だるげな風貌も中々責められるものではない。

 

 それに、こう見えて面倒見がいいせいか多くのアイドル達からも慕われているのは周知の事実。それが色恋だったり、親愛だったりと形は数あれど少なくとも信頼はしていい人物だと思う。

 何より、あのウチのピンク髪の問題児が何度問題を起こしても見捨てずに構い続けてるお人よし加減を見ていれば初期の不信感はさっぱり綺麗に消えている。

 

「ねっ、今回の企画ってどんなん何デス?」

 

「人気動画配信者がオススメする“次に来るコーデ7選”ってのをやりたいらしい。最近はそっち系を目指す人間も多いから需要があんだろ……知らんけど」

 

「ほーん、いいですねぇ。こういう自由度が高いのってゲームでも何でもテンションあがるっ♪」

 

 途中の自販機で希望を聞かれたついでに概要を聞いて更に興奮は高まっていくが――彼が自分自身の分以外にもう一回飲み物を購入したのに首をかしげてしまう。

 

「……喉かわいてるんですか?」

 

「いや、コレは別口だな」

 

「??」

 

 その言葉の意味が分からず首を傾げる私を置いてそのまますぐ近くの会議室へとさっさと入って行ってしまうので慌てて後を追い―――その先にあった光景に目を見張る。

 

「待たせたか?」

 

「いんやー、こっちも今さっき打ち合わせ終わったとこだぞ、っと☆彡」

 

 彼が気さくに声を掛けたのに答えるのは絶世の美女。

 

 艶やかで軽やかなブロンドの髪は緩く纏められ、知性を宿す翡翠のような瞳は金縁の丸眼鏡の奥で柔らかく光りつつ子供のような無邪気さも内包している。そして、そのスタイルのいい体を包むのは純白のブラウスにシックな黒のフレアスカートがその清楚な雰囲気に甘さを足して女の私でも見とれる程に整えられたファッション。

 

 そんな声を掛けるのを戸惑うほどの美女に気安く話しかける彼も大概だが――――問題は、自分がその人物に抱いた既視感だ。

 こんな美女一回あったら忘れるわけがない。だけれども、その蓮っ葉で特徴的な口調と気負いのない笑い方。それが脳内でちらつく知り合いの像と重なり息をのむ。

 

「――――まさか #心さん? #うそでしょ??」

 

「おいーす、あきらちゃん。今日はおねーさんがバシッと要望を聞き出しちゃうぞ☆彡」

 

 清楚で可憐そのものの姿で彼女はテレビでよく見かける“佐藤 心”そのまんまの笑顔で自分に手を振るのであったのに私は眩暈を覚えたのであった、とさ。

 

 

 ――――プロデュースの方向性、絶対に間違えてるでしょ…。

 

 

――――――――――――――

 

 

 

「なはははっ、この格好で会うと大概の娘は同じ反応しやがるからな。ありすちゃんの時なんてしばらく気が付かないで笑いを堪えるのに大変だったんだぞ?☆彡」

 

「……いや、失礼は承知デスけど、気が付けって方が無理ゲーでしょコレ」

 

 結局あの後、固まる私を促して座らせたハチさんは手持ちの資料と概要を心さんにざっくりと伝えるだけ伝えてさっさと出て行ってしまい二人きりとなった。

 まるでいつもと雰囲気の違う彼女になんと声を掛けたものかと気まずい感じでしこもこしているウチに彼女が声を掛けてきてくれたことによって何とか会話の糸口が戻ってくる。

 

「というか、#なんで心さん? #いつもの衣装さんはいずこ?」

 

「あー、今日はいつもの人別件で動けないらしくてな。紗枝ちゃんも遠征ライブでいないし、とりあえずの叩き台だけは私が纏めとく事になったの。まあ、代打ってやつだな☆彡」

 

「……え、心さんってファッション系のお仕事関連の人でしたっけ?」

 

「んー、というか、初期のデレプロの衣装は全部私の手縫いだぞ? まあ、小早川コーポレーションがスポンサーに着いてからは流石に作るのはやってないけど原案会議とかふつーに呼ばれるし、聞き取りが難しい娘の要望確認はいまだ暇見つけてやってるんだわ」

 

「え“?」

 

 自分の不安と疑いの入り混じった探りの言葉。それに渡された企画書を流し見しつつ答える彼女の投げやりな返答は私の度肝を抜くにはあまりに十分な内容だった。

 

 自分が知っている彼女は“地下アイドルあがりのキワモノ枠”のおねーさんというモノ。

 

 もちろん、竹を割ったような清々しい性格も面倒見のいい姉御肌な所は好ましくおもっているし、動画配信者の端くれとして彼女のカメラワークや間の取り方や聞き取りやすい声など瞠目するほどに上手いことは尊敬すらしている。

 

 だが、初期のデレプロのステージ衣装。

 

 それは、いってしまえば“オリジナル9”と呼ばれた初期メンバー達が身に纏い―――パフォーマンスとともに完成度の高さで世間を騒がせた伝説の一品。

いまやウチの衣装室に大切に展示されている超プレミアム品を作り出したのが彼女だなんて事実はそのイメージをぶち壊すには十分すぎる情報であった。

 

「え―――#心さん #もしかしてすごい人?」

 

「なははっ、地下アイドルてのは兼業がなきゃやってけないってだけだよ。だから、一応は服飾デザインに関してはセミプロだから安心していいぞ、っと☆彡」

 

 意外過ぎる事実に唖然とする自分の前で悪戯気に微笑む彼女に内心を見透かされていたバツの悪さから肩をすくめてしまいつつ、差し出された雑誌をのぞき込む。

 

「……コレが今度、特集してくれるっていう雑誌ですか?」

 

「そ。元々がネット関連や動画の情報誌なんだけど、アニメ声優や配信者の写真も最近は力を入れてる雑誌らしいわ。んーで、今回のお声があきらちゃんに掛かったてわけ。……これが今までの既刊サンプルね」

 

「…………うん、これ、自分好みの雑誌かも」

 

「どんな趣味も高じれば一芸ってな。んじゃ、内容の打ち合わせだけど、7ページも貰えるからシーン配分と、要望に一番近いスタイル洗い出して服のメーカーにOK貰えるかどうかから洗い出してくか☆彡」

 

「はいっ、デス」

 

 少しだけ気まずい疚しさを抱えたまま差し出された雑誌を眺めたのだが、思ったよりもちゃんとした雑誌に自分が特集されるという嬉しさと、気負いなく柔らかに自分の希望を聞き出してくれる心さんの話術に気が付けば―――全然関係ない自分の想いまで時間を忘れて語ってしまっていた。

 

 いま、思い返せば、これはちょっとハズイな。反省。

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

「……うぅ、すみません。調子にノリスギました」

 

「んー? 好きなことに夢中になるなんてフツーだし、それを聞くための打合せなんだから気にすんなって☆彡」

 

 あれから小一時間。ベラベラ、ベラベラと止めどなく語りまくっていた自分の痛さに気が付いた私が顔を真っ赤に俯いてもそういってくれる心さんに心の中で深く頭を下げ、ぬるくなった缶コーヒーをジルジル啜る。

 

 これじゃ自分もりあむサンを笑えないキモオタじゃないか。

 

 内心で猛省しつつ、ちらりと心さんを盗み見る。

 

 こんな素人小娘の持論を長々と聞かされたのに嫌そうな顔も浮かべず付き合ってくれた彼女はいま手早くメモした概要を元にラフデッサンと候補となる服を丁寧に細かく書き連ねて鼻歌を奏でていて―――その姿は、服装も交わって本当に綺麗だと目を奪われた。

 

 美人で、気遣い上手で、センスが良く、仕事もできる。

 

 この世の女性のトップに間違いなくいるであろう彼女を見てしまったからこそ沸く疑問。それを―――

 

「なーんで普段はあんな恰好してんのか不思議?」

 

「えっ、あ、いやーーっ!」

 

「顔に書いてんぞ☆彡」

 

 見事に見抜かれて息を詰まらせてしまった。

 

 だが、こんなにみっともなく反応してしまった以上は隠すことも出来ずに開き直っておずおずと頷いてしまう。

 

「あの、ホントに自分は、ファッションは自分の好きにやるのが一番だと思ってるんですけど……その、でも、やっぱり笑われるのってしんどくないのかな、って」

 

「んふふふっ、新入生組はある意味ではホントにピュアだからおねーさん好きだぞ☆彡。そーだなぁ……まあ、いっつもこの格好でいれば笑われることも無いと思うし、昔と違って今はこっちの道でもお仕事関係で食うに困ることも無いと思うよ、実際」

 

 かなり失礼な話をしてしまったと思うのだが、彼女はそれすら優しく微笑んで受け止めてペンをその形のいい唇に当てて空を仰ぐ。まるで、そうなっていた未来を創造するように。

 

「綺麗な服で清楚にキメて、お仕事もそこそこにクリエイティブで、自分の作った衣装が輝いてる子たちを煌めかせて―――たまには男から声を掛けられて洒落たホテルでディナーに誘われたりなんてしてな?」

 

「……………」

 

 そう。そんな一般的な人なら誰でも憧れる平均以上の暮らし。そのすべてが何不自由なく手に入る彼女が―――そうはならなかった理由。

 

「でも、それは“やりたい事”じゃなかったんだろ。結局」

 

 それは、あまりにも単純で、清々しい割り切りだった。

 

熱意とか、夢とか、理想とか、そういうもっと熱く譲れない何かがあるのかと身構えていた自分の中に不思議と違和感も、嫌悪もなくその言葉は胸の奥底に落ちていく。

 

「売れなくても、笑われても、生活が苦しくて賞味期限ぎりぎりの女友達同士で集まって安酒あおる毎日でも―――私はこっちの方がよかったってだけなんだよ、結局」

 

「――――あはっ、その結果が大人気アイドルって最強すぎデスよ」

 

「そうそう、趣味も極めりゃ芸になんだよっ☆彡」

 

 胸の奥に落ちた言葉は緩やかな波紋を広げ―――あたたかな笑いとなってこぼれ出た。

 

 そんな私を彼女はカラカラ笑って書き上げたデッサンを並べ、意見や修正点を聞いてくれる。柔らかで、あたたかなその線で描かれたラフはまるで、彼女の人柄の様で私の目を引き付ける。これが――――彼女の人生の縮図なのだろう。

 

 だから、私も

 

 自分なんかを見てくれる人たちを、こんなあたたかな気持ちに出来ればいい。

 

 そんな柄にもないことを、考えた。

 

 

 

 

=本日の蛇足=

 

 

 ラフを眺めながらうんうんと唸り理想のコーデを考える後輩を眺めつつ、温いミルクティーを啜って小さく微笑んでしまう。

 

 新たにデレプロに入った新人たちは誰もかも個性的で話題を毎日のように量産しているが、こういう風に真剣に好きなものには全力でぶつかる姿を見ていると皆が素直にいい子たちだと思うし、微笑ましい。

 

 この光景を見られただけで次回の大規模ライブの衣装会議でくそ忙しい中で時間を取った甲斐もあるというモノだ。

 

 そんな無茶ぶりをしてきた馬鹿を思い浮かべて、ミルクティーをもう一口。

 

 さっきの言葉に一個だけ混ぜた嘘を思い返す。

 

 今の人生に不満なんてありはしないけれど―――かつては揺らいで、道を捨てかけたことだってある。

 

 今と変わらないこじゃれた恰好で、自分を拾ってここに連れてきた男とそんな生活でも送れば十分じゃないかと思い、地下アイドルであることを辞めようとした。だけど、最後の一回だと女々しくも縋った未練のライブに偶然来たアイツは、嗤わなかったのだ。

 

 いつもと変わらない気だるげで、淀んだその瞳のままで

 

 ただ、見届けた。ただ、認めてくれた。

 

 好きなことを好きにやり切って、好きなものを好きなままでいていいと言ってくれた。

 

 その言葉に、人の人生を変えてしまう力があることも自覚しないままに紫煙とともにそんな言葉を投げかけてくるのだから溜らない。

 

 

「………責任とれよ? ばーかっ☆彡」

 

 

 口の中で小さく囁いた悪態にあきらちゃんが首を傾げたのがおかしくて、私は心の中に燻る恋心をゆったりと楽しんだ。

 

 本当に、厄介な男である。

 




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