(´ω`*)どういう√なのかこっちを読んでから来ると倍楽しめます→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=13600322
局からの帰り道。
もはや見慣れた街並みの街灯は濃く色づいた銀杏の落ち葉によっていつもより艶やかに、柔らかく目に映る。
助手席からすることも無く、覗くはすれ違う車たちの対流に翻弄されて舞い上がっては風に乗りどこかへ飛んで行ってしまう。そんな光景に羨望と憐れみを同時に抱いてしまうのは人間ゆえの身勝手か―――これから自分自身もどこかへ連れていかれる境遇故か。
「………仕事は終わったのに事務所に戻るんですか、Mr.労働超過?」
「仕事の終わりは小間使いの俺が決められる事じゃないからな。叶う事なら俺もお前を駅に放り出して直帰を決め込みたい、切実に」
「ほんと、サイテーな男ですね」
私“樋口 円香”のため息交じりの嫌味にも肩をすくめるだけで飄々と答える男“比企谷”。
コイツがウチの事務所に“出向”という名目で大手から飛ばされて来てもう一年が過ぎた頃。
あれだけ暇だった芸能活動はいつの間にか波に乗り、夢だおとぎ話だと呼ばれたW.I.N.G優勝にも現実感が出てきた。そうなるまでにこの男と過ごした時間は薄いものではないし―――つまりは予定調和。
いつものやり取りに、いつもの終着点。
それが心のどこかで心地いいと思ってしまうのも、まあ、いつものこと。
ただ、その心地よさの奥底にソワソワと落ち着かない期待感というモノが覗くのは今日という“特別な日”のせいだろう。
「……それで、わざわざ事務所に顔出しする用事というのは何ですか。内容いかんによってはメールで済ませて欲しいんですけど?」
「帰ってから説明すんのになんで2度手間しなきゃいけないんだよ。あと十分くらいでつくんだから、そん時でいいだろーが」
「ほーん、概要説明も出来ないとは随分な“悪だくみ”でもしてるんじゃないですか?」
「ウザがらみにも程があんだろ……なんなんだ、一体」
運転する彼の顔を覗き込むように睨みつつ、肩を指先でぐりぐり。言葉を重ねるが呆れたようにため息を落とす彼に変化は見られずに内心つまらない。
あの幼馴染の想い人たる優男プロデューサーならばこれくらい弄れば顔に出るくらいの可愛げがあるのに、こっちはなんとつまらないことか。このMr.厚顔め。
だが、脇が甘い。
そんなポーカーフェイスを決め込んでいても状況証拠はすでに挙がっているのだから、むしろ滑稽とすら言える。
事務所にいるこちらの身内から、本日は事務所で“私のサプライズバースデー”が企画されている事も、彼の机の下に花束と“小包”があることは確認済み。
こんなそっけない態度をしている癖に内心ではこの企画がバレでもしないかヒヤヒヤしていると思えば――――随分とお可愛いことだ。
久方ぶりに感じるこの男への勝利の予感に脳内の夢想は止まらない。
バレてないと思い込んで神妙に事務所の扉を開けた先で鳴らされるクラッカーと幼馴染達の祝福の言葉。それに意表を突かれたと思い込んでいる私に向かって花束とプレゼント用にラッピングされた小包をぶっきらぼうに差し出してくるコイツ。
それを驚いたふりして受け取ってやり―――中身は何だろうか?
自分が欲しいと言っていた小物だろうか。それとも、何かのアクセサリー?
女の子にアクセサリーを送るとか独占欲丸出しでまるで余裕がない。大人の男としてそういう配慮とか全然なさそうだし、センスだって怪しいしホントに罰ゲームなまである。―――まあ? かわいそうだし、勿体ないから次の日からはお情けでつけてあげますけど??
いかん、思考にノイズが走った。
………そう、そうだ。
受け取ったら、笑顔でネタ晴らしをしてやるのだ。
いつも人を見透かしたような事ばかり言うお前のことだって、丸っとお見通しなのだと分からせてやらねばならない。
それで、悔しがるコイツを肴にケーキをほおばり最高のバースデーとなる完璧な計画。
明日はお互いオフなのは念入りに確認済み。口惜しさと混乱で慌てふためく彼の揚げ足を取って、搦手を使って、友軍の援護射撃で包囲して彼に女心が何たるかを貴重な休日を費やしてレクチャーしてやる。
自分以外にこんな事をすれば今の時代はセクハラだと言われても文句は言えない。
事務所から犯罪者を出さないための予防措置。
それ以上でも以下でもない彼とのデー………“教育”。
頭に止めどなく走るノイズをかき消しながら、際限なく緩みそうになる頬を引き締めて彼を追い詰めるためにギンと目力を入れて睨んでやる。
「………その顔はどういう感情発露なんだよ」
「―――」
失敬な。
無礼な彼に肩パンを一つ叩き込んで、念のため窓ガラスで自分の顔を確認してみれば―――ゆっるゆるな顔でニコニコしている変な生物がいた。
………おかしい、怪奇現象かな?
―――――――――――
「「「「「円香(ちゃん、せんぱい、樋口)! ハッピーバースデー!!!」」」」」
彼の肩をサンドバックにしつつ駐車場から事務所に入れば、目に飛び込むのは予想した通りで、ここ数年のうち見慣れた光景。
でも―――それは決して自分の胸の奥に響かない訳ではないのだ。
軽快な音と共にきらめきを放つクラッカーの色紙に、あったかな空気と、へそ曲がりな自分にも嫌な顔せずに自然体でそばにいてくれる仲間たち。
それが必ず自分をこうして向かい入れてくれることに確かな“寄る辺”を感じて私は息を突き、毎年綻んでしまう。
ココが私の居場所だと、何度でも確信する大切な日。
そして、今年からはそこにもう一対のへそ曲がりが加わっ――――
「んじゃ、俺は用事あるから帰るぞ。遅くなってもいいけどちゃんとプロデューサーに送って貰えよ。おつかれさーん」
らなかった。
笑顔で揶揄うように目くばせをした幼馴染達の奥から花束と小包を抱えた彼は、颯爽と見慣れた皮肉気な笑顔でそう簡素に言い残してさっさと事務所の階段を降り消えてしまった。
「「「「――――え?」」」」
コツコツとなんの未練もなく消えていく彼の足音を誰もが凍り付いて見送り、私は上げかけた手の行き場を失ったまま―――とりあえず、プロデューサーの鳩尾を打ち抜いた。
「おぐふっ!!!」
「―――――だれか、説明」
「「「「………」」」」
的確に急所を打ち抜かれスローモーションで崩れ落ちるプロデューサーを横目に私の自分でも驚くほど冷え切った声に幼馴染の誰もが目をそらした。
おかしい。
浅倉を介しプロデューサーからサプライズの誘いを彼に送り
雛を使って私の誕生日と好みを覚え込ませ
小糸から入念な計画の経過観察と成果の報告を受けていた今回の“比企谷アシスタント:まどかラブラブ甘々バースデーデート作戦”は間違いなく成功するはずだったのだ。
なのに、なぜ―――なぜ私は
「ひきがやぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁっつ!!!!!!」
こんな号泣しながらプロデューサーをボコボコにしているのだろうか、だれか、おしえて?
「ぴゃぁぁっ、円香ちゃん! プロデューサーがしんじゃうよ!!?」
「や、ははは……これは流石に雛菜もわらえない、かも」
「ひぐちっ! 顔はやばいっ!! ボディだよボディ!!」
「ま、まどか――お前の哀しみ、俺がっ、うkrっ うがっ、 ちょっ―――あでぇっ!?」
この日、私の誕生日は荒れに荒れた事をお伝えしておこう。
ちくしょうめ。
――――――――――――――
風も冷え込みを強め、捲ったばかりだと思った暦はもう年末に差し掛かっているという事を嫌でも思い知らされ、一年がこんなに早くめぐる様になったのは歳のせいか、はたまた自分の歩みを進める気力が衰えてきたせいかは微妙なところ。
いま出向している事務所のプロデューサーに誘われた樋口のサプライズパーティー。
忙しさにかまけて不参加を伝え忘れていたのだが、事務所を出た時に聞こえた大盛り上がりからあちらはあちらで愉しくパーティーを始めたのだろう。
箸が転がっても楽しい年頃の彼女たち。そんな彼女たちが楽しむ光景に自分は水を差すだけだろうし、何よりも眩すぎて酔いよりも先に眩暈を覚えてしまいそうでやはりそれなりに年を食ったのだと自覚してしまう。
「若人は若人と、年寄りは年寄りと、ってか?」
そんな皮肉を口の中で転がし笑いをかみ殺しつつ、“約束”の店にたどり着いて首を巡らせたところ―――馴染んだ顔がうつらうつらと微睡んでいるのを目に止めた。
多少は気を遣って足音を控えめにその席に近寄っては見たのだが、気配か何なのか漕いでいた船はぴたりと止んでその空を溶かしたような瞳が自分を捉えた。
沙耶のような黒髪に特徴的な髪留め。緩いながらも清楚な服装を少しだけ厚めに着込んだその姿はなんだか隠居した老婦人の典型のように思えて先ほどの皮肉にあいまってつい笑ってしまう。
「待たせたか?」
「いえ、待ちきれず…少々だけ、早く来すぎてしまったようです」
“子供みたいですね”なんて口元を押さえてコロコロ笑う彼女の名前は“鷺沢 文香”。
今や伝説として語り継がれる“シンデレラプロジェクト”というアイドルグループの創始メンバーの一人にして、拡大に拡大を続けたそのプロジェクトの頂点“シンデレラガール”にまで上り詰めた傑物。そして、俺の大学の同期であり、私生活でもちょっとだけ深く関わったことのある読書中毒気味の“友人”だ。
最初期では絶対に見ることが出来ず、いまはもう見慣れたその笑顔も昔に比べて幼さは完全に抜けきって誰もが振り向く可憐さだけがそこに咲く。
そんな彼女に肩をすくめるだけで応えて、持っていた荷物を彼女の前に座るついでに差し出した。
「歳をとっても残念ながらお互いに成長は見られないな。ほれ、誕プレ」
「でも、こうして強請る前にプレゼントを用意してくれるくらいには進歩はしてますので良いことです。―――開けてみても?」
“無視した年にお前が滅茶苦茶すねたからだろうが”なんて一言を呑み込むことが出来たのも年の功という事にして苦笑いをかみ殺し、彼女に頷く。
毎年、たいして変わり映えもしないモノしか送っていないというのに律儀に嬉しそうにそう聞く彼女。毎回、この光景が一番に緊張し、少しだけ嬉しく思ってしまう男の単純さはきっと年齢は関係ない。
「これは――メガネストラップ、ですか」
「このまえ、家で眼鏡なくしたって騒いでたろ?」
彼女が小包からそれを取り出し、しばし悩んだ末に正解したその黒い鎖に碧い宝石が揺れる“ソレ”。
彼女が本の読み過ぎで衰えてきた視力を補うために最近かけ始めた眼鏡をこいつは結構な頻度で失くすので実用優先で選んだものだが、それなりに小奇麗な店で買ったので彼女の見栄えにも負けないだろう。
「というか、今どきあんな古典のギャグに付き合わされる身にもなれ」
「……慣れてないんですから、仕方ないことでしょう?」
しばし嬉し気にそれを手の中で弄んでいた彼女を揶揄うように、結局頭の上にのせていた当時を思い出して笑っていると、少しだけ拗ねた彼女は花束に顔を埋めて誤魔化したのが更におかしくて笑ってしまう。
「比企谷さんは、年を重ねるたびに子供じみてきました」
「なんなら前みたいに捻くれようか?」
「――――ふふっ」
完全にご機嫌を損ねた文香の嫌味におどけて答えれば、目を一瞬だけ見開いた文香が今度は一転してクスクスと笑いだすのだから気味が悪い。
「なんだ、急に」
「い、いえ、比企谷さんが来る前にちょうどその頃の夢……暗い部屋で一人本を読む女の子と一緒に開いた本。その内容がかつての大冒険でした。
捻くれた青年と、引きこもりの女。
偏屈なおじさんによって知り合って、運命の糸に紡がれた二人は大きなお城の中でもめぐり合った。
毎日、毎日がお祭り騒ぎのお城で愉快に歌って踊って、泣いて笑って、挑んで挫けて――時には心を壊してしまいそうになったけど、あれだけの物語を重ねてもその本は半分も読めていません。
青年がひょんなことからお城を飛び出した後は、“一体どうなるんだろう”と胸を弾ませて少女と話していたら―――いい所で起こされてしまいました」
「………そんで、そのあとはどうなるんだ?」
揶揄うようにそんな夢の内容を語る彼女に絶賛お城飛び出し中の“青年”としては肩身が狭く、不貞腐れつつそんなことを問う。
「さてはて、でも――――とりあえず、しばらく会えなかった寂しさを埋め合わせて貰うために美味しいディナーと明日はきっと奉仕精神を見せてくれると私は信じていますね?」
ぬけぬけと、そんな事をやったばかりのプレゼントを眼鏡に着けつつ小首をかしげる目の前の女。
それがあどけなくて、あざとくて―――不覚にも“可愛い”と思わされてしまう。
重ねた年月と、経験を吸った彼女はいつの間にか臆病で無垢な少女ではなく立派な魔女となってしまったらしい。
ならば、その若さの秘訣は―――男の生命力に違いない。
彼女は若く強く美しくなり、男は愚かにもソレを喜び自らわが身を差し出す。
まったくもって―――――女子に男子は一生敵わないようにできているらしい。
そんな独白を頭の中だけで呟き苦笑して、俺は彼女のこれ見よがしに揺らされる手を取ってエスコートしてやる事にした。
ま、アインシュタインだって言ってたろ?
『綺麗な女の子とのおしゃべりの時間は一瞬ですぎさる』、と。
どおりで最近は暦も進みが早い訳だ。
そして、そんな年の取り方を―――いまなら、悪くないと俺は微笑む文香を見て
心からそう思ったんだ。
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