デレマス短話集   作:緑茶P

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( `ー´)ノ明日も仕事、細かいことが気にならない人は頭を空っぽにお楽しくだされー♡


とある哀しき人外の昔話

「ねー、ねー、芳乃~。暇なのでなんかお話してほしーでごぜーますよ」

 

「ほー、急な無茶ぶりでしてー」

 

 秋口に入った日暮れというのは存外に早い。

 

 レッスンも仕事も終わって早く帰りたい気持ちいっぱいのお子様アイドル“仁奈”には悪いが一人で帰すのも危ないし、仕事ももう少しでひと段落つきそうなので送っていく事にしたのだが、その待ち時間が退屈だったのか事務所にいた芳乃の膝元でそんなことを強請りだした。

 

 呑気に歌舞伎揚げと緑茶を啜っていた現人神系アイドルの“芳乃”もそんな事を言いつつもじゃれてくる仁奈の喉元を猫のように撫でながらあやしつつ、リクエストに答えるためか目をしばし遠くにやって脳内の小話を探している様子で―――チロリと俺を見た。

 

 その真意が何だったのかは分からないが小さく微笑んだ彼女はその特徴的な間延びした声を紡いで、ゆったりと語りだす。

 

 それは、とおい とおい 昔の物語。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 それは雪も解け切り、若草萌ゆる春のことであった。

 

 ギシギシと五月蠅くなる床板を踏みしめて呼び出された“親父”殿の広間に顔を覗かせれば、家の主だった面子はすでにそろい踏みしており、それぞれが気楽な様子で声をあげて何事かを話している。

 

「お、若君のご到着じゃ」

 

「殿より遅れてくるとは大物であることだ」

 

「大方、嫁御のご機嫌取りでもしていたのだろうよ」

 

「やかましい、暇人どもめ。―――親父殿、“一幡”遅ればせながら参りました」

 

 顔を覗かせた俺に揶揄いの声を気安く投げてくる家臣共に悪態を突きつつも、この館の主に深く頭を下げる。

 

「おう、来たか。忙しいだろうに悪いな」

 

 最奥で扇子を弄びながら寛いでいた禿頭の男。この鎌倉においては知らぬものの居らぬ重鎮の一人であり、一大勢力“比企”の棟梁である彼はその肩書には到底似つかわしくない朗らかな顔立ちと気さくさで俺に手をあげ労う。

 

 本家の格式張った奴らや、嫌味な貴族共とは違って当主がこんな事だから下に付くもの共もさっきのように緩く呑気になっていく。

 

 だが、そんなこの家の朗らかさが俺は昔から好きであった。

 

「それで、今日の用事というのは―――そこな娘の事ですか?」

 

 人が挨拶をしてる間もやいのやいのと騒ぐむさ苦しい連中の中心で紅一点……というには少々だけ若い少女がぼんやりと座り込んでいた。

 

 服はその辺の漁村に居そうな質素な出で立ちで、顔も可愛らしくはあるが欲よりも先に愛でる感情が沸くもの。これだけの野郎衆に囲まれて怯えないという肝の座りは珍しいが、わざわざ郎党一同が集まって騒ぐほどでもないと思うのが正直な所。

 

「まさかとは思いますが、これを室に入れるかどうかで呼び出された訳でもあるまいに」

 

「ん、まあ、どうしたモノかと思ってなぁ」

 

「………まさか、本気ですか?」

 

 軽口のつもりで放った言葉に頭を掻いて答える親父殿に呆れてしまった。

 

 幼女趣味も早い婚儀も珍しいものではないが、多くは政略結婚によるものだ。そして、もうすでに結構な歳になるはずの彼がいまさら村娘を娶るとは完全に想定外である。

 

「ま、まあ、よろしいのでは。母様方には我らからも気を回しておきますゆえ――」

 

 想定外の展開と、この後に訪れる荒れ狂う奥の修羅場に巻き込まれないようにお茶を濁してそそくさと広間を去ろうとする俺を

 

「ふむ、一幡……人魚の肉を食った女は“人”と“化生”どちらを産むと思う?」

 

 そんな一言が凍り付かせた。

 

「いま、なんと?」

 

「人魚の肉を食ったらしい、と言った。―――最近、浜辺を荒らす賊どもを掃討していた途中、焼き払われた村外れの洞窟で矢に塗れて倒れていたのがこの娘よ。その脇に転がっていたのが伝承に聞く“魚の半身を持った女”の遺骸だった。

 

 まあ、そっちは腐乱して見れたものではなかったが、特筆すべきはその死体に残った歯形と全身に矢傷を負ってなお生きていたこの娘よ。

 

 人魚の方は辛うじて食えそうな一部を残して焼いたが、この娘まで焼くのは流石に儂には出来なんだ。出来なんだが………そうなると困ったのは矢を抜いた瞬間から傷が癒えてしまったこの娘の処遇。―――はて、どうしたモノか」

 

 どうしたモノか、ではない。

 

 その時に心を鬼にしてでも焼き払っておくべきだったのだ。

 

 そんな俺の零れ出そうになる罵倒を何とか呑み込んで、もう一度その少女に目を見やる。

 

 聞くに哀れな境遇の少女だがその瞳に力はなく、茫洋とただ天井を眺めるばかり。生まれた村を焼かれてしまったモノにとっては珍しくもない様子だが、その身体のどこにも戦火を潜った跡など見当たらず綺麗なものだ。

 

 これが親父殿の零した言葉でなければ揶揄われていると思ったことだろう。

 

 そして―――その少女の前に置かれた三宝に乗った塩肉。

 

 それが、生々しい現実感をもってさっきとは違う汗が滲み出る。

 

 一口食えば不老不死となり、どんな病もたちどころに治ると呼ばれた妙薬。

 

 だが、それは―――人の理から外れた文字通りの“人外”だ。

 

 俺はそもそも人が嫌いだ。

 

 だが、例え死ぬことになってでも“人”を捨てようとは思わない。

 

 そんな頭にある矜持と、死ぬ間際にちらついた生への細い糸に飛びついてしまった哀れな少女を責める無意味さと惨さも分かってしまうゆえに深く息を吐いて腰をその場にどっかりと下ろした。

 

「それで―――どうするおつもりなのです?」

 

「それを聞きたくてお前を呼んだのだ」

 

 丸投げか、くそ爺め。

 

 普通に考えれば、天皇か将軍に揃って献上するのが正道。一大勢力になりつつあるとはいえこんな谷に引きこもってる一族には確実に“不老不死”なんて持て余す代物だ。

 

 だが、ココで面倒なのがウチの欲のなさだ。

 

 これを献上すれば天皇の覚えもめでたく次代の権趨は完全に我らのモノになるであろうが、そんなものはココにいる誰もが望んじゃいない。

 ソコソコに困らない程度の地位と土地があれば誰かに適度に平伏し、のんびりとくらしたいと思っている怠け者共の巣窟なのだ、ココは。

 

 ならば―――

 

「全部、隠しましょう。人魚なんて居らず、村を焼かれた少女を親父殿が哀れに思って拾ってやった……そういう事にしてこの件は全て忘れる。各々方、それでよろしいか?」

 

「「「異議なーし」」」

 

 もう全部忘れよ? という俺の意見に誰もが満場一致で賛成。誰もかれもが厄介ごとが片付いたと胸を撫でおろしまたガヤガヤと騒ぎだす。終いには真昼間だというのに女中を捕まえて酒をもってこさせる奴までいるのだからホントにこいつら緩すぎである。

 

「うむ、お前がそういうなら皆も納得じゃろう―――ほれ、芳乃。こやつがお前の新しい主人だ。挨拶なさい」

 

「………」

 

「――――えっ?」

 

 親父殿がそんな光景を眩し気に眺めて微笑みながら少女にそんな事を言いつけ、それに茫洋と頭を下げてくる“芳乃”とかいう少女。その流れに間抜けな声が漏れ出てしまった。

 

 親父殿が面倒みるんじゃないのん??

 

「お前んとこは3人も嫁御を同時に孕ませていま大変だろう。身の周りの世話をさせながら色々と教えてやるがよい。あと、この肉も処分しといて……儂もうこれ以上呪われたくないもん」

 

「………」

 

「――――あれっ???」

 

 流れるような押しつけに、ポロリと漏らされた本音。それに無言のまま俺の傍によってきてもう一度ぺこりと頭を下げる少女にあっけに取られ呆然とする俺をよそに宴会はやいのやいのと大盛り上がりをみせつつあったのだ、とさ。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 住んでいた村を焼かれ、転がる様に逃げ出した。

 

 幸いだったのは孤児であったために身内はなく、散々にこき使われていたせいで誰が死んでも胸の内が済々したくらいで済んだこと。

 

 不幸だったのは背中に燃えるような痛みを感じつつも――洞窟まで逃げきれてしまったことだ。

 

 嫌なことがあった時、耐え切れず泣くときに夜中にひっそりと訪れていたソコに足を向けたのはほぼ無意識で、たどり着いた時には既に目は霞んでいた。それでも、そこにいた先客には目を剥いてしまった。

 

 下半身は滑りを帯びた鱗にてらついて、豊かな乳房に白魚のような肌。

 

 子供を驚かす童歌の通りだったのはそこまで。その顔は魚の目玉のようにぎょろついて、頬まで裂けた口の中には鋭い牙が幾重にも連なっている。

 

 人を海に連れ込み、貪るという“化生”。

 

 それが実在していたことに息を呑み、冥途の土産にとその姿を見てみたくて近寄った。

 

 最初こそ異様に飲まれて気が付かなかったがその化生の脇は“鰐”か何かに嚙みちぎられたのか大部分が欠けており、飛び出そうな目玉は悪くなった魚のように白く濁っているので死んでから結構な時間が経っているのだろう。

 

 痛む背中から折れかけていた矢の柄を折り、投げつけてみても反応がないことを確かめてその生臭い死体に近づいた所で―――倒れた。

 

 驚きですっかり忘れていたが、自分は死にかけていたのだったと思い出しておかしくなった。

 

 あれだけ痛かった背中も今はじんわりと暖かいくらいのもので、その対比なのか体は冷え込んで心地いい。力も入らず、目も霞ゆく中で短い人生を振り返ってみたが本当に短く、毎日雑用と憂さ晴らしに使われていただけの毎日なので一瞬で振り返り終わってしまった。

 

 そんな自分を嘲笑って―――意識が途切れる間際に渾身の力で何かを噛んで八つ当たりをした。

 

 今までの人生で抑え込んできた憎しみすべてを込めて、最後に自由に動く口で何かに嚙みついた気がするが――――もう、どうでもいい。

 

 

 

―――――――― 

 

 

 終わったと思った人生は、意外にもその先が続いていた。

 

 瞼の上からすら差し込む陽光に耐えかねて開いた瞳の先には禿頭の老人を始めとしたいかつい武者が私を覗き込んでいて、海賊に捕らえられたかと思い背筋が凍ったが――跳ね起きた私を押さえる手の平の柔らかさが荒くれモノのそれではない。

 そして、よくよく見れば野盗とは比べ物にならないくらいに揃えられた具足に立派な旗印。

 

 何よりも、私に微笑みかけ握り飯を差し出してくる老人の暖かな笑顔と甘いコメの匂いに私はおそるおそると その手を取ったのだ。

 

 それから紆余曲折。

 

 手ひどい仕打ちには合わないらしいと安堵してからしばらく、彼らの行軍に付き添い連れられたのは見たことも無い立派なお屋敷で――――私の主人として紹介された“若武者”。

 

 育ちは良さそうなのにどこか気だるげで疲れた様子が板についた男が私の人生の始まりで、最も幸福な時間の始まりであった。

 

 初めは気難しそうな顔でぶつくさと文句をいいつつ私の手を引く彼に委縮もしていたのだが、どうにも自覚はないが化生となった自分を普通の女中として扱い、奥方様や若君たちには甘い彼がどうにも嫌いにはなれずに私は彼の家に溶け込んでいった。

 

 

――――― 

 

「芳乃~、おなごはもっとお淑やかにおはなししなければなりません~」

 

「えっ、あの…分かりましたの、でして??」

 

「あはははっ、変な話し方じゃっ!」

 

「わらわが教えてあげまする~」

 

「は、はぁ」

 

「これっ、芳乃の仕事の邪魔をするでないぞ!」

 

「「「「母様がおこった~」」」」

 

 

―――― 

 

 

「芳乃、随分と読み書きも上達してきましたね」

 

「奥方様達のお陰でありますればー」

 

「ふふっ、無理に畏まらず普通に話しても構いませんよ?」

 

「……娘様方に怒られてしまいますゆえにー」

 

「なにを言いますか。貴女とて私は娘のように思っているのですよ」

 

「――――ありがたき、お言葉ー」

 

 

――――― 

 

 

「芳乃、なんか菓子ないか。干し柿でもいいぞ」

 

「奥方様達から食べ過ぎだと怒られたばかりではありませんでしたかー?」

 

「仕事してると甘いもんが欲しくなんだよ」

 

「最近は写経や趣味の絵巻を眺めているだけではありませぬか……一個だけなのでしてー」

 

「お前のそういう物分かりのいいとこが俺は気に入っているぞ」

 

「嬉しくないお言葉なのでしてー」

 

 

――――― 

 

 

 ほんとうに、楽しく穏やかな日々が 過ぎてゆきました。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「敵はおおよそ3万ほど。我らを討つには少々数が足りぬようで」

 

「一人100人倒せば楽勝だな」

 

「かははっ、我ら比企一党には容易すぎることですな!!――しからば、お先に失礼仕る!!」

 

「おう、先に逝っとけ」

 

 賑やかに笑いながら立ち去る家臣たちへ“あの世でまたな”などと小さく呟く主の脇で点てた茶を差し出し、わたくしは里の外に広がる圧倒的な敵方の軍勢に呆れたため息を漏らしてしまいます。

 

「しかし、一領主を落とすためによくぞここまで人をかき集めたものでしてー」

 

「本当に世の中は阿呆ばかりで嫌になるな。―――天下を譲ると言っても聞かん叔父上に、そんな愚物を説得するために刀も下げずに赴き殺された親父殿。欲の皮を突っ張る大名に、逃げりゃいいのにやる気満々の馬鹿な家臣共。それに、ガキを抱えて俺と心中しようとする嫁に人外女中」

 

「ふむー、人気者は辛いのでしてー。心中お察しいたしますー」

 

「ならさっさと逃げろよ。そもそもお前はそこまで義理立てすることも無いだろうに」

 

「元々が一度死んだ身でありますしー、どうせならば死ぬときは好いた方々と逝きたいとここに居て思いましたー。……一人で生きながらえるのは、寂しすぎますゆえー」

 

 呆れたようにこちらを見ていた彼は少しだけ眉を顰めて、語ります。

 

「人魚の肉は“不老”ではあっても“不死”ではない、とはホントかね?」

 

「はて、老いはないのは確かのようですがー出来ればホントであれば貴方様についていけるので助かりますー」

 

「だから、そこまでされる義理は―――」

 

「貴方様を好いておると、そう何度も言っておりますー。死ぬには十分すぎる義理でありますればー」

 

 何度も何度も繰り返してきた問答を、ついには秘めてきた言葉でぴしゃりと黙らせた。そこから先はもう何にもない。

 惚れた腫れたは理屈ではどうあっても動かない。それは気が狂うほどに最後まで逃げるため離されることに抵抗されていた奥方様の事でようやく朴念仁なこの主も思い知ったことだろうから。

 

「…………だから、阿呆ばかりだというんだ」

 

「だからこそ、この里はあんなにも平和だったのでしてー」

 

 不貞腐れ干し柿をかじる彼にクスクス笑いながら、彼の茶碗からお茶を少し飲ませてもらい、腰を上げた。

 

「せっかくの死出の旅ですから、再会の祈祷も込めて一舞ふるまいましょー」

 

「地獄でか?」

 

「もちろんでしてー」

 

 私たちの皮肉にまた声を漏らして笑いつつ、彼が蝋を倒しまいていた油を舐めるように火の手は広がっていき、鎌倉でも有数の寺はあっという間に燃え上がり、すべては灰になっていく。

 

 滴る汗も、焼けただれる肌も無視をして、膝に肘をついてのんびりと業火の中で私を微笑み見つめる愛しき男にすべてをささげるつもりで舞う、舞う、舞い踊る。

 

 こんな時でも彼はあがかない。

 

 目の前の仏像の中に生きながらえる術である“人魚の肉”があると知っていても手を伸ばさない。

 

 あるがままに人を忌んで、あるがままに人として生きて、あるがままに死んでいく。

 

 その生きざまが尊くて、悲しかった。

 

 そして、いとおしかった。

 

 全てが灰になって消えてゆく中で――――私の最後の踏み込みと共に、すべては瓦礫の下へと呑まれて行く。

 

 嗚呼、愛しき君よ。

 

 どうか、彼岸の岸辺で今度こそ。

 

 貴方の手を取りましょう。

 

 それまでは、どうか さようなら。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

「それで、二人はあの世で再会できたのでごぜーますか?」

 

「いえ、残念ながら化生の女は全てが灰になった廃墟の中で一人目を覚ましてこの世の無常をこれでもかと嘆いたのでしてー」

 

 そう、その慟哭は比企の民の怨念と恐れられ何百年もその地を忌地として人々が避けるくらいには激しく響いたというほどに――。

 

「彼岸の水面に渡ることも出来ず、此の世に残ってしまった女はそれでも再開の誓いを果たす為に愛しき君が輪廻の輪を潜り戻ってくるまで待つことに致しましたのでしてー。

 

 化生とは言え何の力も持たぬ女は日本各地の霊験あらたかな場をめぐり、様々な、本当に見境なくあらゆるものへ弟子入りをして異能の一端を身に着けて彼の君がこの世に戻られた時に必死に備え、幾年も幾年も待ち続けましたのでありますー」

 

 話に聞き入る仁奈殿が悲し気に眉を顰め、裾を握りしめます。

 

 幼子には遣る瀬無いお話かもしれませぬ。

 

 ですが、物語の締めは“幸せ”で終わるものだとずっと昔から決まっている。

 

 積み重ねた思いは報われると、相場が決まっている。

 

 そうであったと――わたくしは知っているのですから。

 

「そして、その悲願は 「愛した男と無事に再会して報われました、とさ」 ……話のオチを横取りするのは頂けないのでしてー」

 

 わたくしの言葉を遮り、仁奈殿を後ろから抱きしめた“彼の君”に不満げに頬を膨らませて抗議をすれば呆れたような顔で窘められた。

 

「脇で聞いてたけど子守話にするような密度じゃねーよ、阿呆。大体が比企の一幡は死んだときまだ幼いはずじゃなかったか?」

 

「ふふふー、歴史とは語られない部分が8割なのでしてー」

 

「そーかい、なら俺は建設的に仁奈と今日の晩飯デートについてでも語るとするかね」

 

「おーっ、仁奈おなかペコペコなのでごぜーますよ!!」

 

 気だるげな風貌と暗い瞳。それでもなお、幼子をあやすときの貌は甘く優しいその姿は―――あのかつての日々で目に焼き付けた姿そのもので。

 

 茫洋と世俗を渡るのも疲れ果て、離島で神事の真似事を惰性で繰り返すだけとなっていたわたくしの瞳に飛び込んだ彼の姿。

 失せモノ探しの権能を得てからも、いや、得たからこそ“此の世”にはいないという事が分かりすべてに失望していた世界に一瞬で光を取り戻したその存在。

 

 もう、離しはすまい。

 

 離れてなるものかと妄執にも近い思いを胸に、重ねてきた歳月で溜め込んだ全てをつぎ込んで彼の傍にわたくしは今ここに居る。

 

 そして、彼の君は一つだけ勘違いをしていることがある。

 

 再会しただけで満足など、するものか。

 

 今度こそ、その手の温もりを

 

 肌の柔らかさを

 

 その眩いばかりに清すぎる性根の全てに

 

 自分を刻みたい。

 

 また彼岸に渡るその日が来たとしても―――今度は、来世でも私を覚えているように。

 

 彼の全てをわたくしで染めてこそ数世紀待った甲斐があるというモノ。

 

「彼の君―、わたくしはハンバーグの気分でしてー」

 

「えー、仁奈はグラタンがいいでごぜーますよー」

 

「なんでしれっとお前まで着いてくるのかは置いといて……ならサイゼでいいじゃん。なんでもあるよ??」

 

 だけれども―――からり、ころりと木下駄を鳴らし 

 

 貴方の肩に寄り添い、自然に甘えられるこの時間を

 

 もうしばし味わっていたい。

 

 それもまた、心からの本音なのでしてー。

 

 

 

 

 あの燃え行く寺院の煤の匂いは――――現世ではもうしない。

 

 

 

 それが、心安らかで

 

     少しだけ寂しいと思うのは

 

 

 

 郷愁誘う、秋風のせいにして  わたくしは  彼の肩に殊更に寄り添った。

 

 

 

 

 




(・ω・)いろんなの載せてるのはこっち→https://www.pixiv.net/users/3364757
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