デレマス短話集   作:緑茶P

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(・ω・)あけおめことよろ、ですわ!!

_(:3」∠)_という事で去年の年末ネタの周子をぽちっとな。


(/・ω・)/頭を空っぽにしてお楽しみ頂ければ幸いです!!いえーい!!


周子√ 最終章はこちら→https://www.pixiv.net/novel/series/923084




捨てられないモノ と 増えていくモノ

「周子さん、予備のゴミ袋ってどこにありましたっけ?」

 

「あー、確か食堂脇の階段棚で……たぶん、右上の白いダンボールに仰山はいっとるはず~」

 

 “了解ですー”なんてトテトテ幸子ちゃんが走っていく脇を雑巾がけレースに精を出すちみっこたちがドリフトをかまし行き、ソレを手慣れた様子で避けて歩く乙女たちの手には各々が配分された掃除用具。

 

 忙しく行きかい、各所で起きたトラブルに騒がしい声が響いたりするものの、基本的には雑談の片手間に穏やかな空気でこの“346寮”大掃除は粛々と進んでいく。

 

普段は世間を賑わすトップアイドルの彼女たち。

 

 だが、そんな事は感じさせないありのままの乙女の姿は普段の喧騒や熾烈さから遠く離れた世界の風景で、忘れかけていた“日常”という奴を思い出させるには実にちょうどいいイベントとなっているらしくその顔はどこか穏やかだ。

 

 ましてや年の瀬は稼業柄、のんびりと仕事納めという訳にもいかないので年が明けてしばし立ったこの時期はそういう張り詰めた糸をちょっとずつ解すにはちょうどいいイベントな為か寮に住んでないアイドル達まで“気分転換に”なんて参加してくれているので―――管理人の千代婆と管理人見習いだった私“塩見 周子”の二人でやっていた頃に比べれば雲泥の差がある。

 

 この元旅館だったという無駄にデカい346寮。

 

 寮住みアイドルと常務の間で起こった『改築事変』が起きる前はもっとオンボロで今よりずっと掃除に手間暇が掛かっていた頃の寂し気な光景と今の光景が眼下で重なり、思わずクスリと笑いを零してしまう。

 

 そんなかつては隙間風すら吹き込んで人もまばらだったココが、今や綺麗に補修されこんなにも賑わっている。

 その光景が嬉しくもあり、時間の流れの速さも感じさせてちょっとだけ切なさも感じてしまうのは何とも身勝手な感傷だ。

 

 気持ちを切り替えるように手に持っていた段ボールを抱え直し、すわ片付けへ……なんて思った矢先の事。

 

「みるでごぜーますっ! これが箱根で唸らせた伝説のっ、ヘアピンどりふとぉっ―――はれっ!?」

 

「「「「あーーっ!!」」」」

 

「どわっち!?」

 

 談話室から玄関に続きますコースから現れましたのは冬休みを利用してお泊りに来ていた“市原 仁奈”ちゃん9歳児。後続を更に大きく引き離す見事な逃げを見せる中で更にスピード上げますが、迫るは最大の難所“談話室カーブ”!

 このまま減速せずにツッコめばコースアウトは必至。それを補うかのように彼女はその小さなお膝を地面に擦りドリフトを試みるが―――残念な事に角から急に現れた障害物である私の事までは計算に入れ忘れていたようで後続のちみっこたちの声を受けつつも私を巻き込んで派手にクラッシュしてしまったのであった、とさ。

 

 見事の横膝カックンを受けオッサン臭い叫び声で崩れ落ちる私と、見事にぶっ散らかる段ボールの中身が程よく悲惨な事故現場を彩っている。

 

「もぉ~っ、急な飛び出しはあぶねーでごぜーますよぉ!」

 

「しれっと自分が被害者みたいな雰囲気を出して誤魔化そうとするんじゃないっつーの」

 

「あばばばばっ」

 

 あ~あ~、なんてため息を付きつつ最近急激に悪知恵をつけ始めた彼女の頭をこぶしで挟んでゴニゴニして折檻してやる。全く、小さな子供たちは事務所のメンバーの良い所も悪い所もグングン吸収していくので喜ぶべきやら、呆れるべきやら。

 

「「「周子さん、ごめんなさーい」」」

 

「ほんま一生懸命に掃除してくれるのも、楽しんでやるのもええけど塩梅が大切だよーん?」

 

 薫ちゃんなどなど後続レーサー達もわらわら集まって謝りに来たのに軽くデコピンを食らわしながら小言を一つ。ま、コレで勘弁して進ぜよう。

 

 気持ちを切り替えて散らばった中身を回収に動き出す。

 

 そもそも、幸か不幸か中身もまだそんな詰めて無かったので被害はそこまで甚大という訳でもないのが救いか。

 

 自分がアイドルになる前。まだ管理人見習いだった時にロビーや食堂、談話室なんかに置いていた個人的な小物たち。

 買い出し用のメモだったり、手書きで手順を書いた古式ボイラーの使い方。その他にも自分用の手袋や足場台に肩もみ棒、なんとなく気に入って置いていた置物などなど――まあ、管理人業が出来なくなってきた上に、当番制が採用されてからめっきり使う事の無くなってきたこれらを片付けていたわけである。

 

 まあ、いらないと言えばいらないモノばかりなのだけれどスッパリ捨ててしまうのも寂しい気がして自室にてとりあえず審議にかけていくつもりであった。

 

 散らばったそれらをちみっこたちに手伝って貰いながらダンボールに詰め直していると仁奈ちゃんが大きな声で“ソレ”を手に取る。

 

「おーっ、すげぇでごぜーます! これって飴でありやがりますか?」

 

「ふふっ、凄いやろ。でも、食べたらアカンで。――もう2年以上も前の奴やから」

 

 彼女が目を輝かせながら持っているのは棒に可愛らしく付けられた干支の飴細工セット。それが結構いい出来なので他の子達もきゃいきゃいと集まってその可愛らしい飴に好き好きに感想を零していく。

 

「わっ、でもこんな可愛かったら食べるの勿体ないよね~」

 

「千枝も今度探してみます!」

 

「ほえー、こずえもほしー」

 

 それらを囲んではしゃぐ彼女たちに苦笑をしつつも思い返す。

 

 かつてこの寮でソレを持ってきた男と、自分の小さな昔の思い出を。

 

 仕事の合間にすぐに食べきってやろうと思いつつ―――結局、今日まで食べることが出来ずにずっと飾り続けるだけだった、淡く暖かい あの日々を。

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 時は年末、世はぱーりない。だというのにも関わらず、超絶美少女看板管理人娘こと私”塩見 周子”の手には――使い込まれたデッキブラシが一本。

 ちくせう、なんでこのくそ寒い中で無駄にデカい風呂場の掃除に汗水たらさにゃならんのか。全く持ってかったるいことこの上ない。

 

 クソみたいな実家から家出し、当てもないまま東京に流れてきた私が拾われてからもう早1年半。

 

 なんのかんのと言いながらも身分証明もままならない自分が曲がりなりにも3食寝床付きでココに雇って貰えているのは幸運な事だとは思うのだけれども、何を隠そうこのオンボロ寮は一応“アイドル”達が住んでいるのでその華やかな生活に比べると対比で愚痴の一つも出したくなるというモノ。

 

 プロジェクト初期こそ軌道に乗るまですったもんだあったが、結果を出し続け、幼馴染の紗枝ちゃんがスポンサーに着いてからはあっという間に人気に火がついた。今日だって寮はもぬけの殻で、みんなテレビの向こうで華やかに活動に精を出している。

 

 普段がみんなと仲良く、なまじ一緒に生活をしているせいかこういう時になんだか身勝手にも置いて行かれてしまったかのような寂しさが沸き上がるのは如何ともしがたい。

 

 そんな自分の情けない“かまってちゃん思考”に苦笑を零しつつ―――鏡をチラリ。

 

 私だって、そんな悪い見た目ではないと思うのだけれど。

 

 湯気に濡れた鏡に映るツナギの上半分を腰にまとめた姿で立つ見慣れた自分の姿はムカつく親父譲りの銀糸のような髪に、母親方から遺伝した細い目尻の京美人顔。その下にある身体だって十時ちゃんほどではないにしろ肉付きもいいし、手足も細い。

 関西の血か実家の店番の成果か話せと言われればいくらでも話せるし、勘働きだって、センスだって悪くはない、はず。

 

 それに―――

 

 湯気はスモークで ブラシをマイクに。

 

 一段下がった湯舟は満員の観客席。

 

 かんかんに温まった客席へ不敵に微笑んで、テレビで見た彼女たちのステップや振り付けを“見たまんまに”自分の身体で再現する。

 

 時に激しく、時にしとやかに 脳内で流れる伴奏に合わせて―――喉を鳴らす。

 

 大きな風呂での反響がマイクのエコーの様で、気分が上がる。

 

 ほらみろ、出来るじゃないか。私だって、―――わたしだって  。

 

『未成年の――ましてや、ご両親の了承も得ぬままスカウトは 残念ながら……』

 

 そう零しかけた所で、偉丈夫のプロデューサーが気まずそうにそう零したの姿が脳内に流れ、手足が止まった。

 

 冗談交じりに、でも、少なくない淡い期待を込めた私の心を折るには十分すぎるその一言がジクジクと私の昏い感情に火をくべていった。

 それが、遠回しな彼の“気遣い”だという事は頭では分かっていても、あの自分をあっさり捨てた家に頭を下げて赦しを乞いに行くなどと考えただけで頭の中を掻きむしりたくなるくらいに嫌悪感を沸き上がらせた。

 

 実力だけでいいじゃん。

 

 誰にだって負けないから―――私を見ろよ。

 

 誰でもいいから  誰か  私自身を―――――“  ”してよ。

 

「なんだ、コンサートと風呂掃除はもう終わったのか?」

 

 声にならない嗚咽が漏れ出そうになった時、耳朶を打った聞きなれた気だるげな声。

 

 あの日、自暴自棄になって身売りしようとした少女を何故かこのオンボロ寮に拾って押し込んだ変なアルバイトの男が胡乱気に風呂場の入り口からこちらを見つめていた。

 この世の全てを諦めてしまったかのようなその昏い瞳と、冷笑を含んだような声はいつもと変わらないまま、そこにいる―――いてくれる。

 

「ちょいちょーい、一応ここは男子禁制のアイドル寮やで“おにーさん”。なにシレっと風呂場まで入ってきとんねーん」

 

「守銭奴に大掃除の手伝いに派遣されてなきゃわざわざこんわ、こんなとこ。そんで、来てみればご機嫌な歌声で掃除サボってる馬鹿までいるんだからもう逆に謝ってほしいレベル」

 

「風呂掃除は歌いながらやるもんやってドリフの頃から決まってんねん。……というか、おにーさんあっちのお仕事終わったん?」

 

「全員、紅白の会場に無事送り届けたからな。後は武内さんがいればいいそうだ」

 

 そんな事を言いながら並々と揺れる湯舟に手を突っ込みながら暖を取るおにーさんを横目にしていると、さっきまでの胸のさざめきがあっという間に収まっていくのを感じて自分の現金さに笑ってしまった。

 

 誰もいない寮に覚える寂しさも、実力だけを見て貰えない口惜しさも、実家へと燻る怒りも―――この気だるげな姿を見ていると肩肘張っている自分の方が間抜けな気がしてくるのだ。

 

 それに

 

「お客さん、なんなら温まるまでの間、しゅーこちゃんの歌声もサービスしよっか?」

 

「いいから掃除しなさいよ………どうせ歌うならウチの奴以外で頼む。もう仕事の曲きいてるだけで最近憂鬱になるくらい耳タコなんだよ」

 

「ファンに聞かれたら殺されんで、おにーさん……ふーむ、んじゃあコレが“しゅーこちゃん初ライブ”記念やねぇ。お代は期待してるよ~ん?」

 

「この、帰りに出店で買ってきた飴細工をくれてやろう」

 

 “なんやの、しけとんな~”なんて文句を零しながら、私はデッキブラシを改めて持ち直して考える。

 

 私の人生ってのは――惰性に流されてきただけのちっぽけなもんで、悔しくて、やりきれなくて、全然納得なんて出来ていないけれども、管理人の仕事だってだるくて仕方ないけれども。

 あの日、“誰でもない私”を拾ってくれた彼がいつものように意地悪気な顔で微笑んで私の元へ帰ってきてくれるのならばそんなのはどうでもいい。

 

 誰に置いて行かれても、誰にも見られていなくても―――彼だけにこの声が届けばいいと心から今は思うから。

 

 そんな彼が雑にポケットから出した飴細工にケラケラ笑いながら、彼にどんな歌を届けようかと静かに私は心の中で自分の歌える歌を探したのであった。

 

 こんな幸せな時間がいつまでも続くことを柄にもなく祈りながら、そう願った。

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

「なんだ、まだ食ってなかったのかソレ」

 

 そんな他愛もない思い出にどれくらい浸っていただろうか。

 

 今年も今年とて季節外れの大掃除に駆り出された彼が、上から覗き込んだ影と共に零された変わらない呆れた声。それがあんまりにあのときのまま過ぎてつい笑いが零れてしまった。

 

「なんや、うかうか半年も飾ってたら今度は食べるのが怖なってきてなぁ」

 

 とはいえ、本人にあの時のやさぐれていた気持ちを放り込むのは流石に恥ずかしくて適当な言葉で煙に巻く。長い付き合いであるがゆえに“想い人との思い出を残したくて”なんて文言冗談でもちょっと勇気がいりすぎるし、それに、こうして見つかりたくなくてダンボールに入れてこそこそ運んでいたというのもある。

 

 そんな私に彼は呆れたように肩をすくめて、荷物を脇に置き――仁奈ちゃんの持っていたネズミの飴を迷いなく口に放り込んでしまう。その唐突な行動に子供たちと一緒に目を丸くしていると、しばしそれを口の中で転がしていた彼が小さく頷く。

 

「確か飴ってでんぷんだから悪くなんないらしいけど……舐めた感じ、普通の飴だな」

 

「ちょっと、子供たちが真似したらどうすんのさ。それに、人のもん勝手にたべんといてーや!」

 

「2年も飾ってたらもう十分だろーが。ほれ、お前らも真面目に掃除すりゃ飴くらい買ってやるから散れ散れ。そして、俺を早く帰らせてくれ」

 

 そんな分かりやすい“飴玉”の効果は覿面で、子供たちは鼻息荒くどんな飴を買ってもらうかを姦しく相談しながら掃除へと戻っていく。そんな微笑ましい光景を横目に、ちょっとだけ甘えるように彼の袖をつかんでチロリと睨んでみる。

 

「もちろん、日々お仕事を頑張ってるウチにも期待しててええやん、な?」

 

「……子供に張り合うなよ」

 

 げんなりとした彼に今度こそ堪えきれずにケラケラ笑って、その腕に抱き着いて。

 

 胸にたゆとう暖かな思い出も捨てがたいけれど、変わらず傍にいてくれる彼から毎年新しい思い出を重ねていくというのも悪くない。

 

 こうして、いつまでも ずっと

 

 穏やかで、優しい日々が続いてくれることを祈って―――私は彼の腕を強く引き寄せた。

 

 “愛して” という家無き少女の声なき叫びは もう 聞こえない。

 

 




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