デレマス短話集   作:緑茶P

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_(:3」∠)_去年の書き納めはふみふみです!! 皆さんお世話になりました!!


(/・ω・)/さあ、頭を空っぽにいってみよー!!



二人の年末

 のそりと足を突っ込んだが最後、普段から存在が疑われていたやる気と緊張感はあっという間に雲隠れしてベガスへさよならバイバイ。もう彼らが戻ってくることは無いと思われるおーばー。

 そんな旅立つ彼らに心の中で手を振りながら俺“比企谷 八幡”は身体を更に滑らせ肩までどっぷりと炬燵の中へと潜り込み、その仄かな温みに体の芯をトロかせて全身の力を抜いた。

 

 あっという間に沁み込んでくる眠気にうつらうつらしつつも流れるテレビを何とはなしに眺めれば自分のバイト先である芸能事務所のアイドル達がゴールデン番組にも関わらず大暴れして場を賑わせているのを見て呆れのため息を一つ。

 

 芸能事務所としても異例の大所帯というのもあるけれど、それぞれが個性の暴力のような奴らで3秒に一回はお祭り騒ぎを引き起こすのだからあれほど芸能界向きの奴らも他にいるまい。

 

 いよいよ本格的になってきた冬の寒さも吹き飛ばすような彼女たちの舞台袖にいつもは自分もいたりするのだが、今日ばかりはお茶の間で見学させて頂く側である。

 

 それというのも――――

 

「無事、店の戸締りも終わりましたから……これで試験に論文提出、ウチの大掃除まで年末への準備は万端ですね」

 

「おかげで貴重な年末前の休みは消滅したけどな」

 

「一年分の代返と論文の代筆の代価としては安いモノ、だと思っていただければ」

 

 カラリと小気味の良い音を響かせて店からお茶の間に戻ってきたのは大学の同期であり、バイト先のアイドルである“鷺沢 文香”その人。

 俺の嫌味にも彼女がクスリと意地悪気に微笑んでそう返すだけで俺としては耳を塞いで明後日の方向を睨むことになる。

 

 バイト先の連中はすっかり忘れがちではあるがこちとら現役大学生なのである。

 

 日夜ずっと社畜として働いている生活を送っているにも関わらず俺がまだその籍を失っていないのは同期の彼女の全面的な支援によるものと、OBである上司二人から教わった最適単位履修の口伝があってこそのモノ。

 

 なので、試験期間でバイトを休んでいる間はずっと勉強を教えて貰っているし、論文に至ってはもうほとんど書いて貰っている身分の俺は試験最終日に彼女が『あぁ、そういえば仕事で忙しくなる前に下宿の大掃除を済ませなければなぁ……(チラリ』なんてワザとらしく呟けば拒否権などなく、“自主的に”お手伝いをする羽目になるわけだ。

 

 完全に尻に敷かれてますね、はい。おぅ、ふぁっきゅー。

 

「ふふっ、でも助かりました。店の本だけならばともかく、家の方はやはり比企谷さんがいなければやり切れなかったと思いますので」

 

「346寮の大掃除で毎年こき使われてるせいで手慣れちまったよ……」

 

「悪い事ではないと、思います」

 

 そんな軽口を叩き合い彼女がそう微笑んでまとめた所で、台所への襖を開いていく。

 

「それに、いつもお世話になっている分のお心づけもちゃんと用意していますから」

 

「――――うぉ、すっげぇなそれ」

 

 ほどなくして戻ってきた彼女が持っていたのは“大きな鍋”と“ブリ刺”。それだけで彼女のいう“ご褒美”とやらが分かって思わず感嘆の声を漏らしてしまった。

 次々とテーブルに並べられていく豪華な品々にさっきまでの疲労は吹き飛んで、今度は現金に腹の虫がなり始めるのだから男子ってホントばか。

 

「実家に今年も帰れそうにないと伝えたらブリ一匹送ってきてくれたんですが、叔父と私だけでは余らせてしまいますから………“年取り料理”にはちょっと早いかもしれませんけど、二人で内緒の贅沢と洒落込みましょう」

 

「鷺沢家はスケールがデカいな……」

 

 クスリと悪戯っぽく口元に指を当てた彼女はそのまま鍋に火をかけ――その“ブリしゃぶ”の段取りをテキパキと進めてくれる姿を手伝えることも無くぼんやりと眺めつつなんとなく過剰に貰い過ぎている気がして居心地が悪い。

 

 というか、文香がアイドルになってから一度も正月に実家に帰れていないというのも申し訳なさすぎるし、その上、娘を想って送った御馳走をどこの馬の骨とも知らない男(単位寄生虫)がご相伴にあずかっていると知られたら普通に殺されそうだ。

 

「あぁ、そうです。そういえば叔父が出版社から貰って来た良いお酒も折角ですから飲ませて貰いましょう」

 

「いや、そこまでは流石に……」

 

「どうせ下戸の叔父が一口飲んだ後は料理酒になってしまう運命ですから、呑まれた方がお酒も嬉しいでしょうから」

 

 そうコロコロ笑いながら彼女はくつくつ煮立ち始めた鍋にひと回しその高そうな酒をふりかけ、花みたいな甘い匂いが広がったのを確認してグラスへとそれを注いでゆく。

 

 外では割かし引っ込み思案である彼女であるが、家の中では割かし遠慮が無く強引な家弁慶なところがあり、それに毎回押し切られつつなんだかんだと首を縦に振らされてしまう。

 

 NOと言え日本男児になりたいもんだね、まったく。

 

 だが、やる気も意気地も、緊張感も全てがベガスに飛び去ってしまった俺には目の前でてらてらと輝く脂の乗ったブリと瑞々しい野菜。そして、金色に輝く出汁と柚子薫るポン酢を前にして簡単に意思は揺らめいて。

 ニコニコとグラスに酌を受けるのを待っている美人な同級生と見るからに名のある銘酒を目の前に試験と肉体労働でくたくたになった心身はあっという間に白旗を上げたのだ。

 

「ちょっと早いですけど―――今年もお世話になりました」

 

「ま、こっから休みなんてお互い無いから丁度いいだろ……ん、おつさんでした」

 

 チリン、なんて杯を交わしたグラスが可憐に鳴り小さな喉鳴りが部屋に響き――流し込んだ後の小さな息をお互いついて苦笑を零し合う。

 

「こりゃ料理酒にするには勿体なさすぎる酒だな」

 

「ふふっ、楓さんたちが見たら卒倒しそうですね。―――さ、そろそろ鍋もいい頃合いですから頂きましょうか」

 

「ん、そんじゃご相伴に預かりますか、っと」

 

 そこからは特に語ることも無い。ブリしゃぶの旨さに感動したり、お互いの地元の年末のローカルネタを話しつつ話題はあっちにふらふら、コッチにふらふら。

 テレビに映る同僚や他の事務所の面子の話題で盛り上がり、本だの店の特売がCMで流れれば小まめにメモをしたり、どっかで時間をとれそうにないかと頭を捻ったり。

 

 なんだか若い男女二人が揃っている割には、色気もない熟年夫婦のようなやり取り。

 

 どうにも“本の虫”と“ボッチ”は同じ個人主義な生き方に特化しすぎたせいで色気や艶というモノをすっかりと何処かに落っことして来てしまったようで―――それが妙な居心地の良さを感じさせる時間を齎した。

 

 そんなこんなで、あれだけあったブリも野菜も綺麗に胃袋に消え去り。〆の信州ソバまで平らげた俺達はもう炬燵から立ち上がるのも面倒で、いつの間にか隣に移ってきていた文香は酔いが回ったのかずっと上機嫌にコロコロ笑っている。

 

 対面に座っている時に足がぶつかるドキドキよりかは心臓にいいが、寄りかかられた小さな頭から薫る甘い匂いは緊張よりも先に眠気を誘う。

 

「む、呑み過ぎたか。滅茶苦茶眠いな」

 

「試験中、というか、ずっと今日まで忙しかったですから……叔父も今日は受賞先のホテルで泊まるそうなので、このまま少し横になって休みます、か?」

 

 なんだ、あの爺さん帰ってこないのか。

 

 喧々と五月蠅い爺さんなので御馳走を食って横になっていればどやされるかと思って身構えていたが、帰ってこないと分かればいよいよ瞼が重くなってきた。

 机を見れば一升瓶はもうほとんど空で、普段からあまり酔っぱらいはしないものの寝酒としての効果は流石に十分すぎる。

 

「わり、ちょっと寝る。起きたら適当に かたずけて 帰るから   部屋、戻って く、れ」

 

 

「―――――はい、おやすみなさい。比企谷さん」

 

 

 そう思えば睡魔を留めるモノはなく、ぼんやりと暖かくなった体をそのまま仰向けに倒れ込んで意識をあっさりと手放す。

 

 畳の匂いと炬燵のヒーターの熱。遠くなっていくテレビの音に―――なんだか甘くて、柔らかい何かの感触を頬に感じながら俺は夢の世界へと落ちてゆく。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

アイドルとしての仕事に、大学の両立。それにお世話になっている彼の補助も決して楽なモノではないけれど―――こういった役得があるのならば苦ではない。

 

 年末は世間の男女が一気に距離を縮める絶好の機会だというのはあらゆる書籍から聞き及んではいたのだが、こと“アイドル”という職種に限って言えばそんな目論見は遠い世界のおとぎ話と知ったのは2年前から。

 

 クリスマスが始まる前に収録は全て終わっていて、大晦日のライブ前には正月の収録は全て終わり、何なら気の早いファッション誌では既にもう春物の撮影も始まるというある意味季節感というモノに最も遠い稼業。

 

 そんな生活を送る中で想い人と二人きりの時間を確保するのはもう天文学的確率で厳しいのです。

 

 他の同僚の娘たちもその現実に打ちのめされながらもなんだかんだと安心している節すらあるのですが、私だけは。

 

 彼の大学の同学部同期である私だけはその法則からちょっとだけ抜け出せます。

 

 試験とレポートを質に彼を下宿におびき寄せる、なんて言うと人聞きが悪いですがこれをしなければ普通に彼が留年と落第をしてしまうので仕方のない事なんです。ついでに言えば、最終日にちょっと早い年越し気分を味わうのも同期としては珍しくない慰労会の範囲といって良いでしょう。

 

 その成果か、それとも長年の付き合いのせいか、普段から手負いの獣のごとく警戒心と猜疑心の強い彼がご覧の有様。

 

 お腹を満たされ、良い酒気で少しだけ緩んだ顔で何とも無防備に炬燵で眠り込む姿はなんとなく自分の中の独占欲と達成感。それと、ちょっとだけむず痒いナニカが沸き立つのを感じます。

 

 普段は顰められた眉間が緩み、安心しきった貌はいつもより幼く可愛げがある。

 

 そんな顔を見てると『あわよくば』なんて期待していた自分が少しだけ恥ずかしくて苦笑を零してしまった。

 さて、かといってこのまま素直に部屋に帰るのも勿体ないし――何より私も酒精でかなり意識がとろりと溶け出しているのを感じる。

 

 目の前には好いた男がいて、炬燵は暖かく、部屋はきっと冷えている。

 

 なら、今日はもう少しだけ“いい想い”をしてもきっと罰は当たらないだろう、なんて言い訳をつらつら重ねて私は彼の腕に頭を潜らせてその胸元に身をひしと寄せ、小さく息を吐いた。

 

 

 すぐそばに感じる彼によって暖かく、満たされる。

 

 

 この温もりをきっと来年はもうちょっと近くして、満たされたい。

 

 

 そんな小さな祈りを込めて私は静かに眠りに落ちたのであった、とさ。

 




(・ω・)ほかにもいっぱい載せてるのはこっち→https://www.pixiv.net/users/3364757/novels
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