デレマス短話集   作:緑茶P

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(・ω・)2月に入ってから雪将軍が本気出して来てつらい……。

(/・ω・)/はい、という訳でニューフェイス編のデビューライブのお話はこれにて落着ですね!

これが後々に加入してくる”新人研修”という名の伝統になるのはまた別のお話ですね(笑)

この後、新人を迎えたデレプロは炎陣とバトルしたり、秋の765合同ライブに向けて頑張ったり、常務率いるクローネとバトルしたり激動の時代が加速していきますが……まあ、それはまた別の機会に。

という訳で、今日もなんでも許せる方は脳みそ空っぽでいってみよー!!♡


『Catch on pride』 chapter Last

「トーク…舞台上でお話をする機会も多くありますが、飾らず素直にお話をした方がいいかもしれません。私のような…本の虫の蘊蓄でも皆さん……根気強く聞いてくださるいい方ばかりですので……」

 

「そうですっ! 現に私もよく進行の内容がボンバーして真っ白になるのですが、皆が耳打ちしてフォローしてくれるのでなんとかなっていますからっ!!」

 

「……いえ、その、茜さんはもう少し頑張った方がいいかもしれ、ません」

 

「あれっ!?」

 

 茜と文香のやり取りを聞いていた2期生が堪えきれず笑いだしてしまう事で場の空気は更に朗らかになって新人ゆえに不安に思っていた部分の相談が次から次へとされるようになりその一個一個に丁寧に答える二人。

 

 もう何度目かになる“新人交流会”なる催しは最初の敵愾心が嘘のようにほぐれ切って、スケジュールの関係でバラバラにしか顔を出せない一期生だが、その時間を設けるたびに格段に彼女たちのパフォーマンスが上がっていくのでやはり先達からの会話で得るものは多いのだろう―――まあ、ボッチにはその手法が取れないので常に一人で最善手を探していく羽目になるのだが……はちまん、寂しくないもんっ!

 

 そんな独白を脳内で零しつつ、隣でその光景を微笑ましく眺める偉丈夫のボス『武内』さんに声を掛ける。

 

「少しだけ意外でした」

 

「意外、とは?」

 

「武内さんはこういう問題が起きてた時に一番に出張ってくるもんかと」

 

「あぁ……以前なら、そうだったかもしれません」

 

 俺の素朴な疑問と“おかげで苦労させられました”というささやかな皮肉に苦笑して応えた武内さんは首筋を撫でるいつもの動作をして考えを纏めた後に言葉を紡ぐ。

 

「十時さんの時も……一期が始まった頃の時も、自分は『プロデューサー』という仕事は演者を鼓舞し、寄り添い、時に激励することによってパフォーマンスを発揮して貰えるようにするのが仕事だと思っていたのです」

 

「………なんにも間違ってない、と思いますけど?」

 

 そう恥じ入る様に呟く武内さんに首を傾げながら俺が問えば、彼は楽し気に唇を緩めて首を横に振ってこたえる。

 

「いえ、比企谷君や皆さんを見ていて思い改めました。彼女たちに寄り添い全てをお膳立てするのではなく、彼女たち自身が悩み、苦しんだ果てに選び取った道を整えていく事こそが自分の仕事なのだと。そして、その悩み苦しむ期間こそが―――“可能性”という代えがたい彼女たちの貴重な機会なのだともしりました」

 

「………それは、」

 

 ある意味では正論で、そして、残酷な答えである。

 

 だが、子の全ての道を整えるのが親心ではない様に。

 

 蛹が孵化する瞬間に手を加えることが酷く歪な結果を齎すように。

 

 もどかしく、そのままダメになってしまうかもしれない事に固唾を飲むというずっと苦しい選択をこの偉丈夫は選び取り―――見守ることを選んだらしい。

 

 自らで魚を取り与え続ける方がずっと楽であろうに、自らが思いつかなかった方法を生み出す可能性が見たいとこの強欲な男は嘯いた。それが眩しくて、カッコよくて捻くれた小鬼である俺は軽口でお茶を濁す。

 

「“木の上に立って見る”とは言いますけど、実際の所は高みの見物ですよね?」

 

「親自身が導けずとも、支える人間がいてくれるから安心していられるのでしょう」

 

 シレっとそんな事を返して微笑んでくるのだからこの男の人たらしも大概である。いい加減にしないと嫁と小姑の両方に刺されんぞぃ?

 

 嫌そうな顔で肩を竦めて武内さんに応えていると眺めていた向こうからお呼びの声が掛かった。

 

「比企谷、ライブでの登場にもう少し工夫をしたいんだけど今から変更って間に合う?」

 

「……いや、総責任者が横にいるんだからそっちに聞きなさいよ」

 

「うっ、だって、アンタの方が言いやすいし…」

 

 俺が呆れてそういうと渋谷が少しだけ気まずそうに武内さんを伺った。それに苦笑で彼も応えてしばし間をもって答えた。

 

「概要をお聞きしてからになりますが―――多少の変更は問題ありません。そういった貴方達の挑戦したいという意欲に応えることが我々の職務ですので」

 

「――――うんっ!」

 

 武内さんのその返答に花が咲くように微笑んで彼女は再びメンバー輪に戻っていきみっちりと書き込まれたホワイトボードの余白を更に埋めて盛り上がっていく。その光景自体は微笑ましいのだが―――

 

「予算と調整はどーすんすか」

 

「………後で打ち合わせをよろしくお願いします」

 

 実務の方はもうてんてこ舞いのキュウキュウなのである。そのうえ、最初は渋々ながらうなずいていたウチの金庫番だってソロソロ頭の上に角が生えてきそうな予算オーバー。

 

 そんな世知辛い実情に肩をガックリ落としながらも、少女たちの姦しく賑やかな舞踏会は刻一刻と近づいてきていて―――そのステージが輝かしいモノになるかどうかは、神のみぞが知る、という奴だろう。

 

 まったくもって、あーめんハレルヤ ピーナッツバター。

 

 信じてもいやしない神様に悪態を突きながら脳内でスケジュール表の修正を行う哀しき社畜バイトの一日はつつがなく過ぎてゆくのであった、とさ。

 

 

 

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 そして、月日はあっという間に流れに流れ梅雨の小雨が珍しく止んだ睦月の事。

 

『みんなーっ、まだまだへこたれるには早いよーっ!!』

 

『湿気も熱もボンバーっ! 今日のライブはココからがっ 本番ですっ!! ボンバーーーっっッ!!!』

 

 美嘉と茜の喝に応えるのは既に2時間も大歓声を空に響かせている4万人ホールにびっしりの超満員のファンたち。彼らの歓声とその団結力たるや恐ろしく、響く声は雷声。曲が始まるたびに振られるライトやプラカード、横断幕は完全な統率で会場を彩ってアイドル達を奮い立たせる。

 

 スタッフが先導したわけでもないのに、ファン同士で示し合わせて訓練してきたという恐るべき猛者たちがひしめくその会場にはいつもとまた違った熱が籠っていてどこかソワソワと忙しない。

 

 そんな空気を敏感に感じ取った我らがリーダーである“高垣 楓”が悪戯に微笑んで問いかける。

 

『ふふっ、皆さんなんだか気もそぞろですね~。私の駄洒落で“オチついて”置きますか~?』

 

『大阪出身としてはそんな鬼みたいな行為させないわよ、楓ちゃん』

 

『いや、実質もう半分くらいかまされてんすわ~。いじめ ダメ、絶対☆彡』

 

『あー、もう、何やってるんですか皆さん! 僕たちはアイドルなんですからコントなら番組でやってください!!』

 

 年長組の掛け合いに緩い笑いが広まっていくのを幸子が叩き切り、楽曲から夢うつつの熱狂から観客たちの思考は少しづつ引き戻される。そして、引き戻されたがゆえに告知されていた“ビッグイベント”はまだかまだかと焦らされて期待は募っていってしまう。

 

 そんな空気を楽しむように焦らしては茶化し、茶化しては気を持たせファンはなすすべもなく弄ばれ―――それが最高潮になった頃にカリスマJKとして熱狂的な支持をもつ“城ケ崎 美嘉”が一歩出て全ての視線を搔っ攫う。

 

 会場の緩やかな笑いの声は彼女の張り詰めた空気によって一瞬で沈黙する。

 

 そんな無音の世界で三拍だけ深呼吸をした美嘉がその瞳を開けて会場を見まわした。

 

『みんな、ごめんね。ちょっとだけ時間を貰って良いかな?』

 

 それは進行の台本には載っていなかった完全なアドリブと独断。だけれども、メンバーは勿論、スタッフの誰一人としてその行為を咎めるものはなく粛々と彼女のサポートへと全ての工程を変化させてゆく。

 

 メンバーは一歩引き彼女を際立たせ、照明は彼女のみを自然に照らし――会場のファンたちは暖かな声でソレを迎え入れた。

 

『ありがとう―――ふふっ、そんな声を掛けられるくらいにお客さんが来てくれるようになったのがたったの一年くらい前の事だったなんて自分でもちょっと信じられない話だよね。

 うん、そう。たった一年ちょっとの短い時間なんだけど―――断言できるくらいに今までの人生で一番濃くて、必死に走り抜けた時間だった。

 

 そんな私達が今あるのはここに居るみんなや、仲間や、スタッフや、プロデューサーを始めとする色んな人たちが支えてくれたからだって心から思う。本当にありがとう』

 

 いつもは勝気で、どこまでも力強いその声と瞳はしっとりと柔らかくその会場の全てを見渡し、静かに頭を下げた。

 そんな光景に古参といわれる初期からのファンは涙ぐみ、新規のファンは意外そうに眼を丸くしつつその光景にあたたかな声で応える。

 

『そして、今日からそんな私達に新しい仲間が増える』

 

 その声に会場は息を呑んだ。

 

 明言をぼかされてきた今日のメインイベントであり、その発表に引き寄せられたのでは――――なく。

 

 その瞳と声に宿る熱と光に、誰もが圧倒されたから。

 

 鳶色の瞳は爛々と鷹のような眼光を宿し、不敵に笑う口元は肉食獣のように吊り上がり―――さっきまでのお淑やかさなどなかったかのように腰に手を当て会場を睥睨するその姿はまさに“カリスマ”と呼ばれる先駆者にして道しるべたる眩い星そのもの。

 

 そんな彼女は好戦的な笑みのまま会場にいる人間の胸に――灯をともす。

 

『そんな私達に泥を塗るようなライブはすんなよ――ニューフェイスども?★』

 

 そういって不敵に笑った彼女が放り投げたマイクは後方に飛んで行き

 

 それを―――掴むものがいた。

 

 彼女に絞られていたピンライトが軌跡を追うように照らした先に居たのは一人の少女。

 

 煌びやかな純白の衣装に身を包み、肩までかかる髪は沙耶のようにまっすぐと滑らか。だけれども、その顔はいまだに伏せられて伺う事が出来ず誰もが身を乗り出して引き寄せられ

 

『――――そっちこそ、後で吠えづらかかないでよ?』

 

 キッと引き上げられた顔に浮かぶのは不敵な笑みと、どこまでも透き通る凛とした声。

 

 その蒼い瞳が大スクリーンにアップされ誰もが息を呑んだ瞬間に大音量のBGMが会場に響き渡り、絞られていた照明は華々しく踊り狂い―――爆音と共に奈落から飛び出してきた少女たちにその声は歓喜の絶叫に変えられた。

 

 誰も彼もが見たことの無い顔ばかり。

 

 これが噂に聞いた新人たちなのだと理解が追いついても、そんな事を熟考する暇は観客たちには与えられない。

 

 ハイレベルに磨き上げられたダンスと歌。そして、これでもかと個性を溢れさせた先輩アイドル達に負けないくらいに節々にアピールされる自己主張は“これこそが自己紹介だ”と言わんばかりに初見のファンたちの脳裏にその全てを焼き付けていく。

 このパフォーマンスを見て、このクオリティと個性を知って――彼女たちを2番煎じだの、先輩アイドルの人気にお零れを貰っているなどと嗤うモノはいないと断言できる。

 

 なんならば、どこの世界にお披露目のライブで先輩アイドルとあんなにバチバチする阿呆がいるというのか。

 

 だが、だからこそ“2期生”という色眼鏡はもうない。

 

 新たな“シンデレラ”が舞踏会に上がっただけなのだと、会場の誰もが熱狂のうちその事を理解し、少女たちが命を燃やす輝きを夕闇に閃かせたその瞬きは―――また世界に新たな輝きを灯したのであった。

 

 

 

 

=蛇足 という名の 舞台裏=

 

 

 

「「「「「みんな、ありがとうございましたっーーー!!!」」」」」

 

 初ライブも恙なく終わり、全員でのカーテンコール終えてようやくスタッフ全員が安堵の息を吐いたのも束の間。

 帰ってきた新人たちの前に美嘉が立ちふさがり、固い顔でそれに対峙する新人たちに舞台裏での緊張感は弾けんばかりに高まって向かい合う。

 

 そんな一触即発の空気で先に動いたのは美嘉で

 

「ま、そこそこ、やる……うっ、うぇぇっ じゃ、ん。 無事に おわてっで ひっぐっ―――よかったぁぁぁ!」

 

 最後まで“悪役”になり切れないところがこのカリスマが憎めない所である。

 

 新人を差し置いて、メイクもボロボロに号泣する美嘉に見返してやろうと奮起していた新人たちは面を喰らっておろ突くばかり。まるで狐か何かに騙されているかのような有様に陥っているのを他の一期生が苦笑しながら間に入って事情を漏らしていく。

 

「美嘉ちゃん、貴方達が上手くなれるならってわざわざあんな憎まれ役買ってたんですよ」

 

「本当に誰に似たのかやり方が不器用よね、わかるわ~」

 

「心配でしょっちゅうバレない様にレッスン室覗きに行って一喜一憂して、自分でいえばいいのに気になった点を私達にメモの束わたして指導させてたんですよぉ?」

 

「変更で詰まったタイムスケジュールも自分の出番をほとんど潰して譲ったり……ホントにお人好しというか、過保護というか見てるこっちが呆れてしまいましたわぁ」

 

「むむっ、熱く美しい青春ですね! 私も燃えてきました!!」

 

「茜さん……衣装が崩れますから…落ち着きましょう」

 

「まあ、おかげで劇的に上達してったんだから結果オーライってことで☆彡」

 

「いい話ですねぇ……と、いうか皆さん! もう次の出番ですよ、急ぎましょう!!」

 

 そんなアレコレの果てにあっという間に次の出番が来た彼女たちがステージへと去っていき、もちろん美嘉も崩れたメイクを最低限整えて次の曲の準備に向かおうとして―――呆ける新人たちに抱き着いて囁いた。

 

「これからもよろしく、戦友」

 

 そういって未だに目尻に涙を溜めながら、勝気な笑顔で走り去っていく。

 

「……かっこ、いぃ」

 

 阿呆のように呆ける新人たちの誰が呟いたのか、はたまた、ソレは彼女の最愛の妹からだったような気もするが―――そこを言及するのは野暮というモノだろう。

 

 舞台袖からその様子を除いてほっこりとしていたスタッフさん達を手振りで促して、俺も残りのつまりに詰まったスケジュールの消化に奔走することにしたのである。

 

 さてはて、忙しいのはここからである。

 

 ライブしかり、今後の活動しかり全てはようやく始まったばかり。

 

 初っ端の活動が再開する前からこんな気疲れが絶え間ないというのだから先が思いやられるが――――ようやく遅れてきたライブ成功を泣きながら祝い合う新人たち。

 

 彼女たちの契約解除の書類を作るのは

 

 まだまだ先になりそうだ。

 

 そんな事を心の中でクスリと嗤って、絶え間なく流れる無線機に指示を返してゆくのであった、とさ。

 




その他いっぱいあるとこ→https://www.pixiv.net/users/3364757

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