デレマス短話集   作:緑茶P

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 個人的第一章”シンデレラプロジェクト 黎明期編”の最終話風味。

 なんでもバッチコーイな方のみお進みくださいませ_(:3」∠)_


鐘は鳴り響き、魔法は終わりを迎える chapter1

 肌を焼くような熱狂が、聖夜の雪を溶かす。

 

 体の芯を震わせるような大歓声が、闇夜の静けさを追い払う。

 

 目を眇めてしまう程のまばゆい光たちが舞い、歌い、微笑むたびに七万人を超える人々が国籍も、嗜好も、性格もすべてが関係なく歓喜する。

 

 この光景を見て誰が想像するだろうか?

 

 あれほどの輝きを放つ星達が、社会で言う“落伍者”だったなんて。

 

 ある少女は、何百というオーディションを落ち。

 

 ある少女は、元気だけが取り柄の何の変哲もない学生で。

 

 ある少女は、自らの容姿以外は何も語ることができず。

 

 ある少女は、生きている意味も見いだせずに華やかに微笑む人形で。

 

 ある少女は、紙面の閉じた世界のみで完結していて。

 

 ある少女は、しがらみの中で必死に輝きを求めて。

 

 ある少女は、特殊な能力によって世界にはじき出されて。

 

 ある少女は、裏切りの果てに何度でも立ち上がり。

 

 ある女性は、長年続けた誇りある仕事を些細なことで下ろされ。

 

 そして、―――――ある人は、最も輝く自分の姿を氷の仮面の下に閉じ込めて。

 

 

 そんな彼女たちがいまここで、ここ以外の場所ですら誰かの心に火を灯し、誰かの希望として輝いているこの光景に不覚にも視界が滲んでしまう。

 

 人は自分を大仰に“魔法使い”などと呼ぶ。

 

 かつてない偉業を誰もがほめたたえる。

 

 だが、そんな称賛にどれほどの価値があるのだろうか?

 

 幾千、幾万の人を照らす輝きを、誰もが見ようともしなかった宝石を拾っただけの自分には過ぎた言葉だ。

 

 なによりも―――――その輝きに魅せられ、自ら滅びへの誘いに抗うことのできない愚か者にその呼び名はあまりにふさわしくない。

 

 

 輝く星々の中でも、最もまばゆく輝く彼女に目を眇めつつ差し込んだ月を見上げる。

 

 

 太陽を目指した英雄はその羽を焼かれて、地に落ちた。

 

 

 天空を目指し建てた塔は、雷に焼かれ崩れた。

 

 

 届かぬモノへと欲した渇望は何時だって、その身を滅ぼしてきたのだ。

 

 

 いっその事――――――星などでなく“ただの石ころであってくれたのならば”と願ってしまうこの浅ましさに笑ってしまう。

 

 

 自分への嘲笑を多分に含んだ苦笑を漏らした所で隣に誰かが並び立つのを感じた。

 

「私は、私だけは、最後まで貴方に付き合いますよ。―――先輩」

 

 本当に久々に聞いた、かつての学び舎で呼ばれたその名。

 

 気に食わない粗忽者と、無表情だった彼女との過ごした日々。そんな思い出からここまで自分を支えていてくれた彼女に、意気地をしぼり出して頬を引き延ばす。

 

 ただ、聖なる夜に、静かな沈黙と――――大歓声でフィナーレを迎えた彼女たちの笑顔が輝いた。

 

 

 さあ、魔法の終わりを告げよう。

 

 

 針の頂点の鐘を打ち鳴らせ。

 

 

 彼女たちに、魔法などもう、必要ないのだから。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

楓「杯を乾すと書いて~~?」

 

 

「「「「乾杯!!」」」」

 

 

 けたたましいグラスのぶつかり合う音に続いて一瞬の沈黙。そして、次の瞬間にその間に溜めた歓喜が一気に弾けて一気に場は姦しい歓声に包まれる。

 

「「「「初クリスマスライブ、大成功――――――!!!!!!」」」」

 

 一気に乾されたグラスを誰もが荒らしくテーブルに放り投げ、喜びのままに隣り合う人間と抱き合って今夜の偉業に歓声を上げる。あまりのはしゃぎようにグラスがテーブルから落ちて割れるのも構わぬほどに彼女たちはハイテンションだ。

 

 普段大人しい小梅や文香ですらもその中に交じってうれし涙交じりにもみくちゃになっている。

 

 そんな様子を見ていると、というか、今日成し遂げた偉業を考えれば、それくらいの事は苦笑してやるべきなのかもしれない。

 

 なにせ、どん底から始まった彼女たちが名実ともにトップアイドルとなった日なのだから。

 

 動員8万人を超える大規模ライブ。

 

 観客収容人数に収まらず、会場外すら埋め尽くし12万人以上が詰めかけた。そんなライブは誰もが熱狂に包まれたまま大成功を迎えて、押さえていた感情を打ち上げ会場たるココで爆発しているのだ。緊張、疲労、プレッシャーで明日は動けなくなること請け合いだが、今日くらいはこれくらいの事は目をつぶってやるのが人情だろう。

 

 苦笑しつつも、割れたグラスをモップで隅に跳ね飛ばしていると思い切り首をヘッドロック気味に掴まれ無理やり作業を中断させられる。

 

瑞樹「ちょっと~、こんなめでたい日に何を辛気臭い顔してモップもってんのよ!若いんだからもっと私たちを崇めて飲みなさい!!かえでちゃーん、世間が羨むトップアイドルの特製カクテルこの子にいっぱーい!!!」

 

楓「かしこま~、くりこま~。単純明快に分かりやすいレディキラーの代名詞“スクリュードライバー”!!」

 

瑞樹「いいわねー!!さっ、八くんのいいとこみてみたーい!!」

 

 テンションが年甲斐を無視してアゲアゲの川島さんの掛け声を受けて楓さんがテーブルに置かれたウオッカとオレンジジュースを適当な割合でかき混ぜて俺の前に差し出してくる。見ていた限り、ウオッカ8割、オレンジ2割のこの魔カクテルは飲みやすく酔いやすい“レディキラー”の範疇を超えて殺意しか籠ってないきがする。今回のライブ段取りでそれこそバイトの域を超えてがんばったのになぁ……。

 

 そんな懊悩をため息に変えて吐き出し、周りを見る。

 

 普段は絶対にそんなノリに乗らない面子まで謎のコールに手拍子をしてやがる。

 

 俺は、阿保みたいな大学生のノリが大嫌いだ。

 

 呑めれば強いだの、注目を集めたくてバカみたいな飲み方をするのは本当に唾棄すべき行為だ。

 

 だが、まあ、死ぬほど苦しい思いをしてここまで駆け上がってきたバイト先の同僚、というか妹分たちの門出を祝ってやることに躊躇するほどケチではないつもりだ。

 

 だから、これは祝杯だ。

 

「「「おっ?」」」」

 

 誰もが俺がそのグラスを持ったことに驚く。

 

 そんな間抜けな顔と意外そうなリアクションに苦笑を漏らしてもう一言。

 

「今日のお前らは、最高にカッコよかった。…あー、おめでとう」

 

 どうしたって締まらないのは今更だ。

 

 それでも、今日の彼女たちは本当に心の芯が震えるほどにカッコいいと思ったのだ。

 

 誰もが見向きもしない、最底辺から始まった。

 

 それでも、こんな社会現象だなんて騒がれるまでに至った彼女たち。

 

 それは――――――まあ、俺が似合わない事をするくらいには祝福されるべきことだろう。

 

 流れ込む液体は案の定、酒精が強すぎて喉を焼く。

 

 それでも、体が示す拒否反応はうちゃり、胃に流し込む。

 

 馬鹿みたいに騒がしかった飲み会が急に静まり返り、そんななか俺のグラスがおく音だけがやけに響く。

 

 

「「「………」」」

 

「…いや、なんか反応してくんないと辛いんだけど?」

 

 そんな小さな沈黙も一瞬、馬鹿どもが一斉になだれ込んでくる。

 

美穂「八さん――――!!」

 

小梅「うへへへへへへ」

 

まゆ「もう!もう――――!!」

 

茜「うぉーーーー!!最高のげきれいでした!!」

 

幸子「ずびっ、ぞんだこといわれても、いまざらでず!!ぼくば、さいこうぶにkばいいですから!!」

 

文香「…比企谷さんも、お疲れ様、です」

 

十時「ハチ君、やっぱ大好き!!」

 

美嘉「ぐずっ―――、もっと素直に言えよ★」

 

瑞樹「もう!!憎い子ね!!」

 

楓「これがツンデレ…ツン、つん、……がば――――!!」

 

 様々に滅茶苦茶に、もみくちゃに押し掛ける彼女たちにされるがままにしつつも思う。

 

 誰もが口を揃えていった“灰被り”。

 

 誰もが去った寂しい事務所。

 

 それでも、今日ここまで、こんなところまでたどり着いた。

 

 もみくちゃに人に押し寄せる彼女たちの目尻に浮かんだ涙に積もった想いと苦痛はきっと誰に語った所で分かりはしないだろう。それでも、俺は彼女たちの軌跡を見てきたのだ。

 

 埋もれた輝きが、苦悩という泥を払って輝くその姿を。

 

 だから、今日くらいは俺もこの無礼講を笑ってやろう。

 

 そう――――思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に、素晴らしいライブでした。―――――“第一期シンデレラプロジェクト”の最後を飾るには、これ以上無いくらいの」

 

 

 

 

 

 

 

 小さく、呟くような―――それでいて、どこまでも通る低い聞きなれたその声を、聴くまでは。

 

 

 

楓「―――――さい、ご?」

 

 

 

呆然と、力なく繰り返したその言葉を、彼女たちをここまで押し上げてきた“魔法使い”はいつもと変わらない力強さで肯定する。

 

 

「ええ、このライブを持って“第一期シンデレラプロジェクト”は――――終わりを迎えます」

 

 

 

 

唐突な宣言に、言葉を失う俺たちに―――――どこか遠くで、終焉を告げる鐘が鳴り響いた。

 

 

 


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