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いつも通り、頭を空っぽにしてお楽しみいただければと思います。
カラッとした秋晴れの陽気は心地よく降り注ぐが、思い出したように吹く風が季節は着々と冬支度を進めていることを思い出させる。その証明の様に豪華絢爛な時計塔を供えた屋上庭園のテラス脇に供えられた自販機から取り出した本格的な焙煎式のコーヒーはその熱気を示すように湯気を揺らしている。
猫舌で甘党の身としてはやる気を漲らせていない自販機の程よいぬくもりと、脳を焼くような甘さのお気に入りの缶コーヒーが恋しくもなるが無い物ねだりは宜しくない。飲み込んだ文句と共に眉をしかめてしまったとしてもだ。
そんな独白をぼんやりとしつつ甘味を足そうと手を伸ばすと、それを遮るように目の前をふわり、ふわりと漂い儚く散るものが通り過ぎる。
「あ、おにーさんも居やがりますですよ!!」
「あ、先生がいる!!」
「また……さぼ、り……?」
秋風に弾けるソレに目をしばたかせていると、静かだったその場に底抜けに明るい聞き覚えのある声が響き、一気に騒がしくなる。―――というか、雪美。またとはなんだ。またとは。
「おう、随分と懐かしいもん持ってんな。ちびっこども。あと、サボりじゃねえ。採寸待ちなだけだ」
瞬く間に群がって俺を包囲する仁奈、薫、雪美がぎゃいぎゃいと好き勝手に話し出すが、あいにく聖徳太子でもない俺は聞き取れるわけもなく適当に挨拶を返す。たったそれだけでもケラケラ、コロコロと笑う彼女たちに思わずため息が漏れる。
箸が転がっても爆笑し始めるであろう年頃の小学生の相手が少々しんどいと感じるのは歳のせいだろうか?なので、とりあえずまともな会話になりそうな話題である彼女たちの手元に握られているその道具の話題を振ってみる。
「おー、お目がたけーでございます!!」
「志希ちゃんが“これで遊んできなー”って作ってくれたの!!」
「……洗剤で、あっという間に作った………やはり天才かも」
―――――――大方、昼寝の邪魔でもされて追い出すために作ったのだろう。というか、その手があったか。俺も今度真似をしよう。
事情とその手腕に若干の感動を覚えていると目の前の彼女たちは楽し気に即席で作ったであろうストローから“シャボン玉”を吹いてゆく。
陽を受けて極彩色に輝くソレはゆったりと風に煽られて、秋空を彩ってゆく。
その光景に童心を擽られ、ちょっとした悪戯心が芽生えてしまう。
「よし、お前らにシャボン玉の秘伝を授けてやろう。ちょっと貸してみな」
「「「?」」」
顔を見合わせて首を傾げる彼女達から器具を借りうけ、懐から喫煙セットを取り出す。その様子にさらに首を傾げるちみっこ共。―――大人の英知に慄くがいい。
そうほくそ笑んで、手慣れた動作で細巻きに火をつけ紫煙を肺にいれ―――そのまま、筒に口をつけて吹き出す。
「「「おおおおおっ!!!」」」
普段から小さめの声しか出さない雪美までが大声で喝采を上げるのを内心でちょっとだけ優越感に浸って、さらにソレを増産する。
極彩色の幕の中に不定形な形をたゆとわせながら、それはゆったりと風に乗る。
秘儀“けむり玉”。
二十歳以上の成年にしか許されない身を蝕む禁術である。
パッと弾けた瞬間に広がる煙に素早く距離を取る仁奈たちに不敵に笑ってやる。
「ほーれ、お前らが大嫌いな煙草の煙だ。精々当たらないように逃げ回れ」
「うひゃー!!怪獣“けむり野郎”が出やがりました!!」
「いーけないんだ!いけないんだ!!ここは禁煙エリアなんだよ、先生!!」
「ほ…、や…、………そい!!」
口々に文句を言いつつも楽し気にその球体を避けて逃げ回る彼女たちを緩く追い回してやる。もちろん、指向性なんてありゃしないので風に乗って彼女たちに当たることもなく遠くで弾けるのでまあ、問題あるまい。それよりも、さっきから雪美がわざと近距離によってきてギリギリを避けようとするので当たらないようにペースを緩やかにする方がきつかったりする。――――変なところでチャレンジ精神が旺盛すぎるんだよなぁ、こいつ。
そんな感じで逃げ惑うちみっこ共と戯れていると、後頭部を襲う結構ガチ目の衝撃と怒声がその終わりを告げる。
「小さい子相手になんて遊びをしてるんですか!!」
「ミナミ、―――それは、あー、とても痛いデス?」
スパーンと軽快な音と共に暗転した視界を何とかその方向に向けると、スリッパ片手に憤怒の表情で睨んでくる“新田 美波”と“アーニャ”が苦笑気味に彼女の肩を掴んでなだめている。
ちみっこ共の相手をしていたせいで忘れかけていたが、そもそも自分はこいつらの新衣装の採寸待ちでこんな所で時間を潰していた事を思い出した。……一番面倒なこいつに捕まってしまった事に内心げんなりする。委員長モードのこいつは何かとめんどくさいのだ。
「無事に採寸は終わったのか?」
「ダー、でも、ミナミが少し数値変わってたので「アーニャちゃん!!」
アーニャが朗らかに結果報告してきたのを真っ赤になった新田が遮る。というか、大体の結果はそれで察せられる。成長期なのはいい事だ、などと考えていると再び般若の形相で睨んでスリッパを振り上げてきたので素早く半歩下がる。さすがに二度目は勘弁願いたい。
そんな俺を睨みつつも彼女は、呑気にそのコントを笑っているちみっこ共へ駆け寄って彼女たちに言い含めるように諭し始める。
「あの人の悪い遊びなんか覚えちゃ駄目よ?さっきのは忘れてね?」
「おー、でも、必殺技はカッコいいでありやがるです!!」
「おもしろかったー!!」
「ちょー……エキサイティング」
彼女の心境など知ったことではないようにケラケラと元気よく答える彼女らにガクッと肩を落とした彼女が恨めし気にこっちを見てくる。……いや、睨まれても。
「美波おねーさんはなんか必殺技ねーでごぜーますかー?」
「えっ!?」
そんな彼女に今度はちみっこ共の白羽の矢が立った。
まっすぐに向けられる好奇心旺盛な瞳は新たなる娯楽を求めて爛々と輝いている。
「あっ、そうだよ!!美波せんせーは物知りだから他にも知ってるよね!!」
「え、いやー、その………」
しどろもどろに目線を逸らす彼女に期待値だけは高まって。
「ペロも……興味………深々」
「うっ、その―――――、あうぅぅぅぅ」
詰め寄る彼女たちのそのプレッシャーに耐えかねた彼女が謎のうなりを上げ始めたころに俺の脇を軽くアーニャが突いてくる。
「ハチ、あー、ミナミ困ってます。助け舟、漢気、ハラショーですよ?」
「……そのボキャブラリー誰が吹き込んでんの?」
「駅前留学デース♪」
「マジかよ…」
茶目っ気たっぷりにウインクしてくる彼女に深々ため息を吐いて両手を上げ、降参を示す。純真無邪気とはいい事ばかりではない。悪気なく意地悪をすることだって妖精の本質なのだという事を彼女を見ているとつくづく思う。
そんな俺をみて楽し気に笑う彼女に押し出され、俺はポケットからさっきコーヒーに入れ損ねた“あるもの”を器に足しつつもう一度、息を吹き込む。
それは――――――
「「「デッカー―――――!!!」」」
シャボン玉の儚さや可愛らしさと無縁なほど何処までも大きくなってゆく。
そして、息を切って離れたソレはちょうど彼女らの手元に落ちて――――
「「「割れね―――――――――(ハラショーーーー)!!!!」」」
でっかいソレに大興奮するちびっこ衆とロシア少女。その中で驚きで目を真ん丸にする新田に得意げに笑ってやる。
「妹相手に身に着けた芸も案外バカに出来ないもんだろ?」
「……こういうのがあるなら最初からそうしてください」
俺の軽口にハッとしたような彼女は恨めしさと悔しさをちょっとだけ織り交ぜてそっぽを向いてしまう。そのいつもより幼い動作に苦笑をかみ殺して、群がる彼女たちにその液体を手渡してやる。
まだ小町が小さかった時にシャボン玉が割れるたび悲しそうにするので、割れないものを作ってやるため随分と調べた時期がある。今では細かい配合はうろ覚えだが、自販機の横に備え付けられているガムシロップを混ぜる程度でかなりの強度が出ることを知ったときは随分と騙された気分にもなったもんだ。
何より、感動してネタバレをせがんできた小町に教えてやった時のあのぶすっとした顔が今の彼女とそっくりでつい笑ってしまう。それに目ざとく気づいた彼女の機嫌はさらに悪くなる。
「どうせ、勉強と運動しかしてこなかった優等生ですよーだ」
「大学生がガキみたいに拗ねたって可愛かねぇーんだよ。ほれ、せっかくだからあいつ等に必殺技でも見せて威厳回復でもして来いよ」
「…何してるんですか?」
屋上庭園にある大き目な植木鉢。
それに巻かれた針金と支柱。ついでに、大き目な底皿を拝借して細工をする俺を不思議そうに問いかける彼女。結果はとくと御覧じろてなもんで、彼女に細工をしたセットを振らせてみれば―――――――
「わっ!!おっきい!!」
人がすっぽり入れそうなくらいにデカい玉が屋上の陽光を反射して輝く。
「「「「おおおおおお!!!」」」」
それに目ざとく気づいた他の面子も駆け寄ってきて、何よりも不機嫌真っ最中だった新田も見た事もないほど大きなシャボン玉に大はしゃぎでそれを振り回す。
抜ける青空に、儚き泡沫が飛んで弾けては明るい歓声が響く。
その声に釣られた乙女達がさらに増え、庭中を埋め尽くさんばかりにソレは漂ってゆく。
そんな光景に小さく笑いを零して細巻きに火をつける。
風に流れるその泡沫が、どこまでだって飛んでゆけばいいと願いをそっと込めて、俺は小さく息を漏らした。
――――――――――――――――――――
ちひろ「あーあ、庭中が泡だらけですね」
乙女たちのシャボン玉大会が開催されたと同時に会社中のガムシロップと洗剤が消えたと苦情を受け急行した私たちの前に広まるその光景はあまりに幻想的で、爽快で、止めるのをためらってしまう程に楽し気な笑顔が広がっている。
本来はこわーい顔でお説教をするべきなのだろうが―――その呑気な風景に思わず毒気を抜かれてしまいため息を吐く。そんななか、共に向かった同僚であり、ちょっと特別な人に指示を仰ぐように視線を向けて、もっと深いため息を吐くことになった。
これは、完全に仕事モードですね。
武内P「ちひろさん、次のプロモーションの件ですが―――」
ちひろ「はいはい、今までの案を全部廃棄しときますよー」
言い切る前に先取りされた事に彼は困ったように首に手を添えて微笑む。毎回思うが―――これこそ、狙ってるのではないかと思うあざとさだと思う今日この頃である。それでも、目の前の光景をまっすぐと、キラキラした目でおうその姿に文句も言えないのは惚れた弱みというやつだろう。本当に――――困ったものだ。
そんな不満を飲み込んで、心の奥のくすぐったさを抑え込んで。
その手を引いて、会場へと乗り込んでいく。
今日は幸いにも恋敵がいない。そんな日くらい想い人との役得を味わなければ割に合わない。
戸惑う彼をいい気味だと笑って、泡沫の園へと飛び込んでゆく。
('ω')へへ、旦那。個人的SSSははいかがでしたかね。
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_(:3」∠)_新田ルートもプロットは出来ててもやる気がなぁ……チラッ。