デレマス短話集   作:緑茶P

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渋では一挙公開でしたが、はーめるんでは改ページがないので分割(笑)


デレステSSS 十時の日常

 

=比企谷君、帰る=

 

“実家に帰らせていただきます”

 

「ほへ?」

 

 大学の講義も無事に終え、事務所にいつもの通り来た時になじみの彼の机の上にそんな書置きがおかれていた。あまりの唐突さに思わず間抜けな声が漏れてしまいましたが、まあそれはこの際置いておきましょう。何度もその書置きを眺め、逆転してみたり、裏返したり、水を垂らしてみますがどうにも変化は起きません。

 

「…何をされてるんですか、愛梨ちゃん?」

 

「むむ、ちひろさん!!この怪文章の取り調べですよぉ!!」

 

「……いえ、怪文章も何も、そのままの意味じゃないですかね?」

 

「………ほえ?」

 

 色々な方法を試しているウチに後ろから可愛げなおさげを垂らした事務員のちひろさんに声を掛けられたので、検証を重ねている事を伝えると心底不思議そうにそれだけを言い残して彼女は自分のデスクに去って行ってしまいます。そして、そんな端的な言葉だけを残された私は、ついに残酷な現実と向き合うことになってしまいました。

 

 

 つまり、これは――――ドラマとかで見る“例のアレ”と言うことが確定してしまったのです。

 

 

 その事実に、私の体はブルリと震えて冷や汗が滴ります。

 

 そんな荒ぶる感情を必死に否定したくて、震える指を辿って何とか携帯のお気に入り通知を開きます。何度かの電子音のあと、呼び出しコールが“プルルルル”「うひゃあ!!」

 

「……いや、人の机の前で何してんの?」

 

 真後ろで鳴り響いた着信音と聞きなれたその気だるげな声に飛び上がって振り向いた先にいたのはいつもと変わらない彼の姿。そんな彼がここにいることの安堵と同時に余計な不安を感じさせた悪質な悪戯に対する怒りがメラメラと湧き立ってきます!!

 

「ハチ君!!こんな悪戯書きなんか残してどういうつもりですか!!」

 

「………いや、書いたまんまの意味でしょ」

 

 力強く紙切れを握って彼に問い詰めると、あろうことか彼は全く反省してない様子でさらに怪訝に眉根を寄せて溜息なんかをつきます。それがさらに私をヒートアップさせ、ずんずんと彼に詰め寄ります。

 

「大体、こういうのは事前に私に相談とかしてしかるべきなんじゃないですかぁ」

 

「なんで実家の法事をお前に相談しなけりゃならねえんだよ」

 

「……へ?」

 

 心底めんどくさそうに溜息交じりで返されたその返答に急に毒気が抜かれてしまいます。

 

「…法事、ですか?」

 

「だいたい、週間予定表にだって書いてるだろうが」

 

「……あれ、そうでしたっけ?というか、いつまででしたっけ?」

 

「今日から一週間ほどだな。――――と、あったあった」

 

 呆然とした私を脇に寄せて、彼が机の下から紙袋に詰まったお土産らしきものを取り出します。察するに、どうにもこれを取りに彼は事務所に寄ったのでしょう。中身を確認して手早く去ろうとする彼からソレをひったくります。

 

「……いや、何してんの?」

 

「………私も行きます」

 

「いや、予定ぎっしりじゃん。お前」

 

「いーやーでーす!!一週間も会えないとかいーやっ!!」

 

「子供か!!てか、さっさと返せそれ!!」

 

「これ返したらハチ君、行っちゃうじゃないですか!!絶対にいや!!」

 

「意味が分からん!!?」

 

 

 

――――――――― 

 

 打ち合わせを終え、扉を開ければ姦しくじゃれつく二人の男女。

 

 その様子に首を傾げつつ先に部屋に戻っていた事務員のちひろさんに何事かと尋ねてみると呆れたようにため息を吐きつつも答えてくれる。

 

「いつものバカップルのお惚気です」

 

 彼女の入れてくれたコーヒーを一口すすり、小さく頷く。

 

 

 今日も、この部署は騒がしくも、平和である。

 

 

 

 




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