『話題沸騰中のデレプロの皆さんの中でも一際に注目されている“速水 奏”さん。水着を着ない事でもファンの間で有名ですが何か理由があるんでしょうか?』
「……え?」
新作のCD発売ということで受けていたインタビュー。大体の事も語り終わり、そろそろお開きかというときに投げかけられたその質問に一瞬だけ間の抜けた声が漏れてしまった。そして、ようやく追いついた頭で思い返してもどうにも聞き間違いという感じでもないのでリポーターを見返してみると、満面の笑みで返される。
どうにも、お流れにしてくれる雰囲気でない事に緩く苦笑を漏らして考えてみる。
さてはて、どう答えたものか?
「すみません、唐突な質問で驚いてしまって。んー、別に明確な理由があるって訳ではないんですけれど…」
『つまり、縁がなかっただけでそういう機会があれば挑戦してみる気持ちはあると?』
顎に指をあて、ちょっと漏らした言葉に食い気味に前のめる彼に思わず笑ってしまう。
「随分と熱心に聞いていただいてるのはありがたいんですけど―――なんでか聞いてみても?」
『全国の速水ファンの期待を一身に背負っておりますし、僕自身の熱烈な希望も載せて今回のインタビューに臨んでいるものでして!!』
欲望を隠すどころか胸を張ってあけすけにそう言い切る彼に思わず今度こそ大笑いをしてしまった。お高く留まったジャーナリズムで生真面目に公平に、遠回しに探られるよりはずっと気持ちがいい。それに、これくらい下心に正直なのも可愛げがあって図らずも高評価である。
腹を抱えて笑っている私に掴みはばっちりだと思ったのか彼もペンを取り直して、熱心に取材を再開した。
『笑っていただけて何よりです。もしかしたら、ここで追い出されちゃうのも覚悟していたもので。――――それで、先ほどのお話だと、僕らファンが待ち望んでいる速水さんの水着を拝める日は近いという事でしょうか?』
「ふ、ふふ、そういって貰えるとは光栄です。んー、そうですねぇ……」
ようやく収まった笑いの余韻を転がしながらなんとなく思考を巡らせる。
別に―――勿体ぶっているわけでもないのだ。
見られて困るプロポーションでもない。
人目や、あけすけな視線が今更に恥ずかしいというわけでもない。
それに、プライベートでリップスのみんなで遊びに行くときには普通に着て遊びもした。
きっと、写真集なんか出せばきっと売れ行きは好調だったりするかもしれない。
そこまで考えて、スタジオの隅でこちらには無関心といった風にあちこちに電話をかけて指示を出している気だるげなアシスタント君に自然と意識が向かう。自分で言うのもなんだが、こんな美少女の水着が拝めるかどうかという分岐点でもそんな態度をとる可愛げのない彼に思わずため息が漏れそうになる。
もう少し、この記者さんを彼は見習うべきだ。
ちょっとだけ心の中で膨らませた頬は、ふと思いついた言葉と共に漏れ出た。
「別に、水着を特別避けてるわけでもないんですけれど…でも、」
「でも?」
興奮と共に身を乗り出してくる彼にちょっとだけ微笑み、その先の言葉を紡ぐ。
「やっぱり、そういう姿は大切な人に一番最初に見せたいじゃないですか」
紡いだ言葉は自分で思っていたよりもずっと甘く、優しい音色で。自ら語ったくせにその青臭い理屈に自分の頬が勝手に熱くなるのを感じる。それでも、目の前で真っ赤な顔で口を金魚のように口を動かす記者さんを見るにこれくらいなら許容範囲でしょうと勝手に納得して荷物をまとめる。
「か、奏さん、それってもしかして意中の方がいるってことでしょうか!?」
「――――女の子の秘密は、見れないほうが魅力的でしょう?」
追いすがるように手を伸ばした彼に、ちょっとだけ悪戯っぽく微笑み唇を押さえて短く答える。それだけで、何とも言えない引きつり笑いを浮かべる彼に背を向け、可愛げのないアシスタント君の元へと歩を進める。
「……なんか問題でもあったのか?」
「付き添いで来てるんだからちょっとくらいは聞いてなさいよ」
脱力している記者をいぶかし気に見やった彼が電話を切りつつ聞いてくるが、この男ホントに全く聞いていなかったらしい。誰のせいであんな事を言う羽目になったのかとちょっとだけ八つ当たりを含めて軽く肩をはたき、ワザとらしくねめつけてみる。
「自分に関係ない仕事はできるだけスルー。それが社会人としてのスタンダードだ」
「それ、一般的には職務怠慢っていうのご存じかしら?―――さ、お腹が減ったわ。これで今日のお仕事はおしまいだから何か近くで美味しい物でも食べて帰りましょ?」
「自分に関係ない事は積極的にスルー。それがボッチのスタンダードだ――いてっ」
繰り返しくだらない事を口走る彼の脛を蹴り飛ばして、強引にその腕をひく。背後で文句をブツブツいう彼にもう一回だけ深くため息を一つ。
ホント――――― 何が良くてこんなのを選んじゃったんだか。
手から伝わる温もりに、緩む頬を自覚して私は小さく口の中でそう呟いた。
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後日談 “346プライベートビーチにて”
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夏特有の濃い青空に、潮の香りが海風と共に強く吹き抜けてゆく。
真っ白な砂の粒は素足を撫でるように舞って、その熱さにちょっとだけ驚く。
さくり、さくりと心地よい音を楽しみながらもまっさらな砂浜に足跡を刻んでゆく。
心地よい暑さと、初めての風景とは別に高鳴る鼓動の原因を噛みしめて、目的の人を見つけゆっくりと距離を縮める。
“ねえ” と声を掛ければ夏の日差しの下でも暗さを湛えたその瞳が振り返る。
一瞬だけ、見開いた眼は――――単純な驚きかしら?
それとも――――見惚れてくれたってうぬぼれても許されるかしら?
彼の瞳と同じ深い黒に、溶かすように惹かれた紫安の色。
普段よりずっと露出の多い、ちょっとだけ大人びたその選択。
それでも、最初に――――彼に見せるならこれがいいなって思った。
目を逸らして、いつもの軽口。
これだけ勇気を振り絞ったのにそんな対応はちょっと失礼じゃない?でも、目を逸らしたって事はそれくらいには動揺させられたってことよね?
ちょっとだけ調子に乗って彼に放り投げたのはサンオイル。
流し目で小ばかにするように背中に塗るお願いをしてみる。
安い挑発にノってくれてもいいし、照れて降参してくれてもいい。
負けの無いちょっと意地悪なお願い。
そんな風に内心でほくそ笑んでいると聞こえてくる了承の声。まさか、そんな簡単に受けられると思ってなかった私は一気に恥ずかしさが勝って紅くなる。あの細いけど、骨ばった手が自分の無防備な背中を撫でるその感覚を予感して言い知れない怖さが湧き立つ。
それは、嫌でもないが―――後戻りできない何かな気がして本能が思わず撤退を叫ぶ。
そんな怖気ずいた私の声が上がる前に、その手は無情にも私の背を襲った。
太陽に焼かれ程よく火照ったその肌に―――――おもいっきり冷たいオイルをぶちまけられたのあばばばばばば。
あまりの冷たさに目を白黒する私を意地悪気に笑った彼が追撃を掛ける。
曰く、”年上をからかうとどうなるか教育してやる“とのこと。
あまりの冷たさに飛び上がった私にせまる追撃。
荒っぽく、無遠慮に塗りたくるその手は想像していた色っぽさなどなく私を攻め立て、そのくすぐったさに逃げるようにもがくが、彼も負けじとその手を休めない。
漏れ出る笑いに、誘われちびっこ達も寄ってきて、全身を塗りたくられる。
やられっぱなしも悔しくて何とか奪ったボトルで他の子たちと彼を塗りたくってやる。
結構な値段のしたそれも、今ではもはや笑いの種。
それでも――――久々に子供のように無邪気に大はしゃぎ。
そんな姦しい喧騒が、潮風に乗って―――きっと、これからもこんな風に、背伸びをしない自分でいさせてくれる彼が―――初めて好きになれて良かったと心から思えた。
その恋心を蒼い空の元で、私は小さく抱きしめた。
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その後、事務員が密かに撮影・編集・発売したこのプライベートビーチでの写真集に載った彼女の無邪気に戯れる水着姿は、彼女の生涯唯一の水着写真であり幻の写真集として崇められるのはもうちょっと後のお話である。
('ω')へへ、旦那。今回のお話いかがでしたかね。
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コメントに見てみたい√とか書いちゃうとわりかしフワフワ生きてるあっちは妄想を膨らませちまうのでよかったら気晴らしにポチっとお願いしまさぁ、へへへ←小物感