デレマス短話集   作:緑茶P

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_(:3」∠)_リクエストと妄想がぴったり一致したための衝動作(笑)

これで君も熊本弁マスター


第136話 「レッツ 熊本弁 マスター」

 日本語というモノは広い世界を見回してもかなり特殊な部類に入る言語なのだそうだ。

 

 まず、漢字、カナ、ひらと三種類を何千と組み合わせ、その中でも同じ読みでも意味が変わり、含まれるニュアンスも大きく変わるという。ソレを読み間違えると“いとわろし”と後ろ指を差されてしまうし、何ならこじつけでいくらでも文句をつけられる実にヤクザで雅なムリゲーと言ってもいいだろう。

 

 スタンダードモデルですらそんな難易度であるのに“方言”なんてものが出てくるとさらにソレは複雑になる。例えば、九州で広く使われる(美穂談)相槌の“あーね”は七段活用まであるらしい。ソレを他県民がなんとなくで発音することが不可能なほどに訳がわからん。

 

 東西南北での言葉の壁を抱えた日本がグローバル化に乗り出すには今少しばかり時間がかかるだろう―――――そう、今まさに

 

 

「悠久の時を超えて再び同胞とまみえんこの時に祝福を!!」

 

 

 春の陽光に輝く銀の髪をたなびかせた人形と見まごうばかりの美少女が、決めポーズと共に卓越した熊本弁で語り掛けてくること10分。まるで、理解することができず棒立ちするしかないのだから、いわんや海外など。と思いましたひきがやはちまんまる

 

 

――――――――――― 

 

 

「あの、すまん」

 

「何事か同胞!堕天の宴へのいざないか!!我が体内に溜りし言霊を汝と共鳴させ―――「さっぱり何言ってるか分かんねぇんだわ」――――――ぴえっ!!!?」

 

 もう少しだけ、もう少しだけと粘っては見たものの自分にはグローバルは無理なのだと悟って直球で聞いてみることにした。そもそも引きこもりで専業主夫志望の自分が世界を目指す必要がなかったとも気が付いたのも大きい。

 

 先ほどまで元気にキメキメ(脳みそも)で語り掛けていた“デレプロ”の新人である“神崎 蘭子”はその一言を信じられないとでもいう様に目を見開き、わななく唇で言葉を紡いでいく。

 

「…そ、そうか!!汝は我に試練を与え、久遠の先にある絆を試そうという――――「いや、だから初対面でそんな特殊言語を理解できんから普通に話してくれ」――――ぴゃっ!!!」

 

 くじけず再び立ち上がる彼女に無慈悲な言葉を重ねて掛けると今度は頬をパンパンに膨らませて目尻に涙をためて睨んでくる。ただ、惜しむらくは彼女は美少女だ。そんな顔されても可愛らしいだけで迫力には少々かける物がある。

 

「……用がないならもう行くぞ?」

 

「ちょ、まってまってまってください!!」

 

 擦れた先輩アイドル達に慣れているせいかその新鮮で初心な反応に心が癒されるのを感じるが、緑の事務員のせいでそれなりにやることが山積みの身である。心が十分に癒され成分を補充してその場を後にしようとするとシャツの裾を必死で掴まれる。―――というか、なんだ。やっぱり普通に標準語も喋れるんじゃねえか。紛らわしい。危うくこの先、熊本県民との関係を根絶するところじゃねえか。

 

「………で、なんだ?」

 

「う、うぅぅぅぅ~―――――っ!!しばしの休息を挟め!!」

 

 しばらく幼子の駄々の様に俯いて唸り声をあげていた彼女は何かを閃いたかのように抱えていたポーチの中を物色しつつ背中をむけてガチャガチャし始める。その様子を何とはなしに見つめてぼんやりしていると振り返った彼女。

 

 赤い縁取りの地味目の眼鏡と括られた髪の毛が解かれたその姿。

 

 その目尻に涙を湛えつつも困ったようにしかめられた形のいい眉。

 

 遠い記憶のなか、微かに脳裏をかすめるその姿は――――。

 

「去年のコミケで迷子になってた――――“堕天ちゃん”……か?」

 

「“ルシフェリン・アブソリュート・ゼロ”です!!」

 

 噛みつくように訂正を加えてくる涙目の彼女に埋まっていた記憶がさらに掘り出され、明確にあの時の事が思い出される。―――材木座に誘われて言った去年の夏のコミケ。溢れる人込みの中で泣きそうになりながら流されていた彼女を壁際に引き抜いた時の事を。

 

 

 余りに長いペンネームを勝手に省略したことも、頑なにソレを固辞して“ルシア”と略させたことも、会場の外にあったアイスを奢って満面の笑みを浮かべたことも。そして―――

 

「くっ…こんな痛々しい事になる前にあの時に止めておいてやれば」

 

「い、痛くないもん!!カッコいいもん!!」

 

 改めてみた彼女のその服装。

 

 真っ黒な布地に、華美に纏われたレース。その背につけられた控えめな翼の文様。まごうことなくゴスロリに染められたその風貌と解読不能な熊本弁の数々。ソレはあの会場で見た可愛らしさを湛えつつもちょっと地味目のホンワカするファッションに身を包んでいた彼女には無い物で、たどたどしくも素朴だったあの言葉はそれこそもはや見られない。

 

 

その姿は過去の自分の黒歴史をやんわりと刺激し、嫌な汗が滴る。

 

 

 そう、久しく会う彼女は思春期を襲う恐怖の病――――“中二病”を見事に発症していたのだ。

 

 その事実が、深く俺の胸に突き刺さる。

 

「な、なんで泣くんですか!!?」

 

「ごめんな、ごめん――――くっ!!」

 

「う、うわーん!!比企谷さんのばかーーーー!!!」

 

 

 その日、会社の廊下で痛恨の無念を抱えて泣き崩れるボッチと、その男をポカポカと叩くゴスロリ少女の久々の再開は見事に我がプロジェクトの評判を再び地に叩き落したのであった。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

「……いや、すまんかった。ちょっとだけ取り乱した」

 

「…よい、我も運命の再会に心乱してしまったことを認めよう(私も久々に会えてちょっとだけ興奮しちゃいました)」

 

 場所は移って346の誇る屋上庭園。

 

 年中細やかな手入れによって花や緑が咲き誇るここのベンチに座って糖分を大量に入れたコーヒーと、ミルクティーを握る俺たちが深くため息をついて謝罪を挟みつつチビチビとソレをすする。

 

 不思議なもので、かつてほおり投げた中二フィルターを通せばなんとなく彼女の伝えたいことも理解できるようになったのだが、解読するたびに過去の自分がこの身を苛むので非常に心苦しい。これが逃れられぬ過去の追求か←

 

 しかし、それこそなんで彼女はこんな所で新メンバーにしれっと交じっているのだろうか?

 

 かつて自分が出会った少女はそれこそ初対面の人間には話をすることすら戸惑ってしまう程にボッチの素質を感じる内気な少女だったはずだ。ソレがたった一年でここまで見た目も性格も、将来設計まで一変させてここまで来るとはいったい何事だ?

 

「同胞が膝を突こうとしていた我が魂を奮い立たせたのではなかったのか!!(ひ、比企谷さんがそういってくれたんじゃないですか!!)」

 

「……はい?」

 

 そんな事をふわっと伝えたら今度こそ零れ落ちそうな涙を湛えた彼女が、つらそうに表情を歪めて勢いよく俺の方に詰め寄ってくる。その拍子に少しだけ零れたミルクティーの熱も気にならない程に―――彼女の熱に呑まれてしまう。

 

「久遠の彼方に、世界の絶望に包まれた我に希望の光と真の姿を解放せんと指し示しめたのは汝である!!故に、我は心の赴くままに覇道を突き進んだのだ!!(あの時、“女の子がこんな趣味なんておかしいですよね?”って言葉に“おかしくない”って言ってくれたじゃないですか!!だから、私、あの時から自分を偽るのを辞めて本当に好きな事をしようって思えたんです!!)」

 

「………そういや、言ったな」

 

 その熱量に呑まれつつ、その言葉を思い出す。

 

 お目当ての同人誌を片手に嬉々として語っていた彼女が唐突に暗い表情を浮かべ、膝を抱えて語ったあの時の事を。

 

 それは、いわゆる中二が満載に詰まった堕天使の葛藤と歩みを綴った戦記物。コミケとしては中堅に引っかかるかどうかというマイナーなサークルのモノであったはずだ。内容は確かに線の細い美男子系が多く出てくるので女の子が興味を持ってはおかしくないのだろうけれども、ストーリー自体はあまりソレ系統ではなかったはずだ。

 

 そんな内容を読んでいる事を親戚にも、同級生にも笑われていたらしい。

 

 それでも、彼女ははるばる熊本からそのサークルに一言伝えたくて必死にこの時期に開かれるコンクールを調べ、それに入賞することによって口実を得てここに来たらしいのだ。

 

 

 その輝きと熱意が―――――随分と眩しく見えたのだ。

 

 

 それは、決して笑われるようなことではないと思ったのだ。

 

 

 だから俺は、自分が失ったその熱を抱える少女が何もせず胡坐をかいて冷やかすだけのどっかの誰かに笑われ、傷つくことがムカついてそんな気休めを嘯いた。

 

 

“好きなんだからしょうがないじゃないか”、と。

 

 

 今になってみればあまりに無責任な言葉だ。

 

 それでも、その言葉に偽りはなかった。

 

 誰とも交流を結ばなかった俺はそれこそ彼女よりもどっぷりとその病を抱えていたはずだ。それでも、それによって得た多くの作品との巡り合いの感動は誰にだって否定させやしない。

 

 例え、誰にも共感を得なくたってその時に俺は確かに満たされていたのだ。

 

 今よりずっと不便な時代だったはずに生み出された過去の名作。心の何処かにあった願望を救ってくれた冒険譚。ままならない世界への付き合い方を教えてくれた物語。ソレは薄っぺらい表面だけで付き合って、裏で貶め合っている事を思い知らされた現実よりもずっと崇高で確かな感情を俺に宿したのだ。

 

 それに、飲み込まれようとする少女に掛けられた空っぽな俺の――――空っぽだったから零れた本音。

 

 そんな過去の独白と郷愁を噛みしめ、目の前の少女に再び視線を向ける。

 

 その身纏う衣服は既製品などでなくきっと自分で作ったもので―――

 

 その言葉遣いは彼女の理想を表す信念で――――

 

 その焦がすような熱量と悲しみを浮かべた瞳は―――――彼女の夢への想いなのかもしれない。

 

 

 だから、俺は、ほんの少しだけ愉快になってその泣きそうな彼女の頭を優しく撫でる。

 

「……そうだよなぁ。好きなんだから、しょうがねえよなぁ」

 

「我が同胞!!(比企谷さん!!)」

 

 ひっそりと紡がれた言葉に今度こそ大粒の涙を流しておいおいと泣き始める彼女にそっと胸を貸してぼんやりと春の青空を見上げる。

 

 そういえば、昔の別れ際に“今度会った時には自作の中二ノートを見せてやろう”なんて二度と会わない事を見越して言った言葉を思い出して苦笑する。

 

 傷を深くえぐるであろうことを予見しつつも捨てられずにひっそりと実家の段ボールの奥にしまい込んだソレの行方を思い出し、俺は胸元で達者な熊本弁を泣き喚く少女に溜息を洩らした。

 

 

 

 

 熊本弁をマスターする日は、遠くはないのかもしれない。

 

 

――――――――――

 

 

本日の蛇足

 

 

――――――――――

 

 

蘭子「この勇壮なる決意よ!!(こ、このシーンカッコいいです!!)」

 

八「なー、城を大群に囲まれた時にソレを悔やむ王に『負け戦だって分かってみんなアンタについてきたんだぜ、誇ってくれよ』っていう副将とか俺の中二歴に誇る名シーンだわ」

 

蘭子「今度このシーン、私のノートに写していいですか(フンスフンス!!あ、昨日考えた新キャラクターなんですけど……」

 

八「おぉー、やっぱソロモンの72柱とか鉄板だよな。てか、滅茶苦茶手が込んでんなこの絵」

 

蘭子「コンクール佳作ですので(フンス」

 

 

周子「ん、なんや二人ともいつの間にそんな仲良くなってーん。ウチも混ぜてy――――「「来るな(不可侵なり)!!」」ッダ

 

周子「な、なんやねん……?」

 

 

 その後、二人で頻繁に密談する二人を訝しんだ寮のメンバーによって包囲され、ハチと蘭子の中二ノートが白日の下にさらされ二人が顔を覆って絶叫したのはまた別のお話である。

 

 

 

 




('ω')へへ、旦那。今回のお話いかがでしたかね。

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