神様である蘭丸さん(https://www.pixiv.net/member.php?id=36219497)に頂いた原案は「大槻唯ちゃんとのしっとりラブストーリー♡ちょい嫉妬もあるよ!!」 です!!
苦労しただけあってホントに甘々な内容に出来たと自負しております!!
お互い趣味に走って原案を見失うくらい改造を各自で加えましたが――――甘々です!!('_')ウソジャナイヨ
いつも通り、心を空っぽになんでも許せる方のみお進みくださいませー _(:3」∠)_
はろいん?……知らない子ですね。
さて、突然な話題で手前味噌な話から始まるがどうか勘弁してほしい。
俺が社畜として奉仕をさせられている“デレプロ”は実に多忙を極めている。それこそタダでさえ軌道に乗った最近では所属している事務方も大量のアイドルも例外なくみっちりとスケジュールが埋まってから随分と久しい。ルーズだったり、タイトだったりと先の読みづらい予定をやりくりしている分だけ多少の遊びを残しているがソレが真っ黒に埋まったりすることなんて日常茶飯事で、そんな中でもギリギリで回転しているのが現状である。
芸能関係者としてはその時期こそ華とされているが、巻き込まれて頭を悩ませる身としては実に勘弁していただきたい現状なのである。
ただ、何事にも例外というモノは存在する。
いくらソレが華だとしても、いくらソレが仕事だとしても――――体調を崩した人間を鞭打つほどここは腐っていない事がせめてもの救いである。それに、誰かが倒れたのであればソレを補うだけの人員が豊富に揃っているというのもこのプロジェクトの数少ない利点ともいえる。
誰かが倒れた穴を埋めるために休日であろうと、個人の予定をキャンセルしようと、駆けつけてくれる人間がいることはきっと人生において幸せなことである。
そんな身勝手で実感のない独白を心の中で呟き、小さくため息を吐いて意識を現実に戻す。
目の前のスタジオの入り口に立ちはだかる―――眩い金髪を湛えた息も絶え絶えな少女。
立っているのもやっとであろうに、挑むような視線に乗せる熱はさらに燃えるように熱く、微塵も引く気がない事が窺える。そのあまりの気迫に俺も、後ろの少女たちも何も言うことができずに息を呑む。
「みんな、せっかく来てくれたのにごめんね。…でも、今日だけは――――絶対に譲るつもりはないから」
ふらつく体から絞り出されるその声。
それでも、視線と声だけはまっすぐとその意思を伝える“大槻 唯”の声が――――この先で待っているであろう熱狂したファンたちの声とは正反対に、静かに響いた。
―――――――――――――
目の前の馬鹿娘を見て、もう一度深くため息をついてしまう。
彼女が急な高熱を出して寝込んだという連絡を受けてから随分と苦労した。そこそこに手をかけた番組放送でのライブバトル。そのメインとしていて調整していた彼女の欠番を埋めるためにあっちこっちに頭を下げて回り、他のメンバーとの再調整によって頭を悩ませ、ようやく整ったこのステージ。
その原因となった本人が目の前に立っているのだからもう頭痛を通り越して、呆れるほかないだろう。
「……病人は大人しく寝てろ。また今度、「今度じゃ意味がないんだよ!!」
無駄だろうと分かっている気休めの言葉は案の定に打ち消され、おぼつかない足取りの彼女はそれでも前へと進み俺の肩を掴み、まっすぐと視線を交わす。
「ちょ、むりぽよ!!ゆいっち39度あるって聞いたよ!!」
「お願いだから休んでよ、唯ちゃん!!」
後ろで控えていた里奈や、莉嘉がソレを引き留めようとするのをやんわりと手で制して柄にもなくその瞳を逸らさずに返す。肩を掴む彼女の手からは伝わる熱は異常なくらい熱く、興奮して絶叫した彼女はさらに体がかしいでいく。
ただ、その目だけは一切揺れることはなく俺を射貫くように向けられる。
「最高の友達で、憧れのギャルと――――本気で戦えるのは今日だけなんだよ、はっちゃん」
その瞳に、その静かな言の葉に―――――俺はもう一度深くため息をついて問う。
「………インフルは?」
「ない。診断書も貰ってきた」
「できんのか?」
「当たり前じゃん。死んでもやり切るよ」
「――――――こっちが無理だと判断したら即座に打ち切る」
「――――ありがとう」
短いやり取り。その言葉にようやくいつもの無邪気な笑みを迎えた彼女が小さく俺の胸に額を当てて数秒。颯爽と振り返りその扉を開ける。
中からはスタッフの困惑の声と、それを塗りつぶす熱烈なファンたちの絶叫。
それらすべてを塗りつぶすかのような太陽のような声が応える。
「みんなーーー!待たせてごめんねーーー!!346最高のギャルアイドルを決める決勝戦に風邪なんてぶっ飛ばして、唯ちゃん!!ここに参上!!!」
さっきまでの満身創痍など感じさせないようなその姿。
その姿に、誰よりも目を見開いたのは―――挑戦を受けるはずであった“城ケ崎 美嘉”であったというのも何とも皮肉な話だ。
そして、苦し気な葛藤と、責める様な俺への視線を小さな深呼吸で全てを飲み込み――――カリスマJKとして君臨する彼女は不敵に微笑む仮面を身に着け、挑戦者を迎い入れた。
「遅かったじゃん、危うく不完全燃焼でてっぺんにのぼっちゃう所だったよ――唯?」
「へっへー、ライブ終わってから燃え尽きて真っ白になってもしらないよー!!」
「上等、病み上がりだって手加減してあげないから」
「唯だって、全力全開なんだから!!」
その掛け合いの末、会場のボルテージが最高潮になったと同時に会場がさらなる爆音に包まれる。
それに完全に呼応するように二人は激しく、強く、自分の全てをかけるかのように――――舞う。
その輝きに誰もが見せられる中で―――――俺たちと、そして、全力で彼女に応える美嘉が誰よりも苦虫を噛み潰したかのように、臍を噛んでその行く末を見守ることしかできないまま、ライブはさらにその熱をあげていく。
――――――――――――――――
ちょっとひんやりした秋空の朝。
あれから三日ぶりのけだるさも眩暈もない清々しい目覚めを迎えた私は目一杯に体を伸ばしきって一気に脱力し、もう一度柔らかく体を包むお布団の中に身を任せた。
程よい温もりと微睡の中で思い返すのはあのライブバトルの仄かに残った熱。
全力でやって、全力で負けた。
体調不良なんて吹き飛ばしてしまうあの熱狂の中で間違いなく自分の中で追い求める最高のパフォーマンスができた。それでも、届かない親友の強さへの憧れとちょっとの悔しさ。でも、決して嫌な感情ではない。
次は勝ってみせるという意気地と、もっと登りつめられるという高揚が私を振るい立せてくれる。
そして、自分を信じて送り出してくれたあの皮肉屋な彼。
いつもめんどくさそうに振舞っているくせに、私たちが譲れない事だけは絶対に守ってくれるあの人を思い浮かべさっきとは違う熱が灯るのを感じる。その感情を一瞬だけ噛みしめて―――――身を包む布団をおもいっきり跳ね飛ばして立ち上がる。それと、同時にターン、ステップ、決めポーズ。鏡に向かってスマイル。
「うん――――唯ちゃん完全復活!!」
ライブの後にひっくり返ってさらに迷惑を掛けちゃったのだ。これは特別に感謝を伝えなきゃいけない。そうに決まっている。例えば――――――話題のギャルアイドルの一日ご奉仕デート、とか?
浮き立つ心と体の赴くままに彼へと会いに事務所へと行く準備を進め、部屋を後にする。
嫌そうな顔を浮かべるであろう彼の反応すらもくすぐったく、心を弾ませて。
――――――――――――
「へ、……きん、しん?」
「…ええ、唯ちゃんを勝手に出演させた事に関して彼に出された処分よ」
通いなれた事務所へたどり着き、お目当ての彼のデスクに向かえば不在中の看板。出鼻をくじかれて拍子抜けしていた所に通りすがった川島さんに彼の行方を聞いた返答。何度も咀嚼しても飲み込めなかった言葉が、彼女の一言で正しく変換され―――意味を理解した瞬間に目の前が真っ赤に染まるほどの怒りが湧き上がる。
引き留める川島さんを置き去りに真っ直ぐに走り抜けていき、その勢いのまま蹴破るように開いた扉の先にいる偉丈夫に掴みかからんばかりに詰め寄って激情をまき散らす。
「ふざけないで!!勝手に出たのは唯なんだから、罰則を与えんなら唯にやりゃあいいじゃん!!!」
「……とりあえず、落ち着いて下さい。大槻さん」
息を荒げ、詰め寄る私を“プロデューサー”は無機質な冷たい瞳を向けつつ、私の肩を押さえようと手を伸ばすのを荒々しく振り払う。その態度も、声も、対応も―――全てが私の勘をさわる。
「落ち着いてるよ!!当たり前の事を当たり前に怒ってるだけじゃん!!倒れたのも、無茶したのも、皆に迷惑をかけたのも全部が私の責任なのになんではっちゃんが“謹慎”なんてくらってんのさ!!意味が分かんないのはそっちの―――「そう勘違いしている時点で貴方は冷静ではありませんし、何も今回の件を理解していません」
叩きつけるように叫ぶ私を、冷め切った声が遮る。
何も、間違っていないはずなのに――――その迫力に息を呑んでしまった。
そんな私に彼は聞き分けのない子供を見る様な視線を向けて、深くため息をついて言葉を紡いでゆく。
「な、なにを―――」
「彼は確かに多くの仕事を請け負ってくれていますが、本来ただの“アルバイト”です。重要事項に関する決定権は一切ありません。そんな中で、高熱による体調不良が明らかである貴方をライブに出すという判断を独断で行うなど許されることではありません」
「だ、だって、あれは唯が無理を言って―――」
「ならば、上司である私に貴方も彼も最初に相談すべきでした。そして、これが何よりも大切なことですが―――――貴方の身勝手を許したという前例を残せば、今後はそういった事が多発する事を防げません」
その一言に、体の中の芯に宿る熱が――――一気に冷えた。
容赦なく“お前が原因なのだ”と突きつけられたその事実が、何よりも響いた。
「熱意さえあれば、なんでも許容するべきですか?
怪我や、事故――それこそ、一生に関わる障害も目を瞑りますか?
信念があればどんな行いだって許されますか?
多くの人間が関わる番組や、イベントを台無しにしたとしても?
今回の件を何事もなく終わらせればソレがまかり通ってしまう。
彼はそれを責任の取れぬ立場でソレを勝手に行い、貴方はソレを強要した。
―――――――ソレが彼を謹慎に処した理由です」
「そん、な、だって、 じゃ、じゃあ、私にだって責任と罰があるべきじゃん!!それが、なんで―――」
空転する脳で、必死に酸素を求め喘ぐ呼吸を押し殺して漏らした言葉。でも、分かっている――――これは、ただこの胸を締め付ける罪悪感から逃げたくて絞り出している吐き気がするほどの自己保身に満ちた言葉だという事を。
「体調不良の間に滞ったスケジュールが多すぎるという事もありますが――――それが貴方が行った罪を最も自覚させる方法だと思いましたので」
まっすぐに向けられる冷たい視線と、端的に述べられたその言葉に足元が崩れたような錯覚に陥る。
罰とは、許すために行われると博識な友人が語った事を覚えている。
その時は、意味の分からぬまま呑気に笑えていた。
だが、その言葉の残酷さを―――――いま、私は思い知ったのだ。
自身が裁かれず、近しい人間がソレを背負う。そして自分は何事もなく済まされるという行いは、きっと――――どんな罰よりも、残酷だ。
「貴方には、明日から普段通り活動をして頂きます。―――今日はゆっくりと自宅で療養に専念してください」
ふらつく体を支え切れずに座り込んでしまった私の上から、無感情な声が降りかかり興味もなさそうに私の横を通りすぎてゆく。
誰も居なくなった彼の執務室で、私は、静かに涙をこぼした。
そんな資格も ないくせに。
――――――――――――――――
「私も大概だが、お前も随分と容赦がないじゃないか」
「まあ、ちょっと厳しいですけど見逃すわけにもいかない事ですからねぇ」
「……お二人とも、僭越ながら趣味が悪いと言わざるえません」
崩れ落ちた彼女に声を掛けそうになるのを断腸の思いで置き去りにし、執務室の扉をくぐったその先にはこの城の覇者である常務と、常にプロジェクトを支えてくれているちひろさんが随分とニマニマと嫌らしい表情でこちらに声をかけてくるので八つ当たり気に答えると悪びれなく二人は肩を竦める。
「ほう、これでも褒めているつもりだぞ?ただただ甘やかしているだけというのはこれからの方針に響く。今回の件は良くも悪くも引き締めには好都合だった。その上、結果も上々だったというのならば言うこともない」
「………そのようなことは」
ついて来いと指で指し示す常務が語る一言に反論が止めどなく湧き上がるがソレをかみ殺して一言に収め、歩を進める。貫徹した合理主義である彼女との意見が平行線なのは今更であるし、何よりもその言葉に否定しがたい事実が含まれているのも否定できない。
関係者から多少のクレームはあったものの、あのライブバトルは当初の予定を超える反響を呼び、彼女を彼と共に何らかの処分を下せなくなるほどに多くの依頼が舞い込んできたのも関係がなかったわけではないのだから。
「というか、確かに比企谷君の判断は普通は大問題ですけど―――結局は“バイト”ですからねぇ。謹慎とか罰則なんて出される身分でもないですし、あっちが聞く理由だって本来はありません。まあ、体のいい長期休暇の名目としてはちょうど良かったです」
さすがに労基にごまかせる出勤量でもなくなってきましたからねぇ、とホンワカと笑う同僚を視線だけで諫めると可愛らしく舌を出すだけでいなされ、更にため息が漏れてしまう。
大槻さんが倒れたライブの後に、彼にも真剣に叱責を下し、彼もソレを真剣に受け入れてくれたが――――結局、内実を晒せば彼女たちのあけすけな内容が今回の全てだ。
あんな暴挙を今後は出さないためのレクレーション。
その一言に尽きる。
だが、それでも―――自分が見出した輝きがあんな表情を浮かべるというのは、非常に苦い感情が付きまとう。
「……彼女は、立ち直れるでしょうか?」
「あれで終わるならばそれまでの原石だったということだ」
「――っつ!!それは「原石は、磨かねば輝かん」
切り捨てる様なその一言に飲み込んだ言葉が零れそうになるのを遮られる。
その表情は、不敵ながらも――――見守る強さがあって。
「あれだけ輝きを放つ原石が、苦しみと後悔。ソレを乗り越えてまだ先に進むならばその輝きは誰にも負けないものになる。だからたまにはお前も信じて待つことを体験してみろ。―――割れそうになる寸前までを見極めるのも大切な資質だ」
「――――はい」
その一言に頷く自分を楽し気に見やった彼女は満足げに頷き歩を進めてゆく。
「ふん、そんな事よりも仕事だ。私も暇ではない」
「その割には随分と心配そうに耳をそばだててましたよね?」
「…ちひろ、お前にはあとで話がある」
346の時計塔はそんな経営陣に溜息をつくように、鐘を打ち鳴らした。
――――――――
あのライブバトルから早くも1週間。
あの後、楽屋に引っ込んだ大槻が文字どおりぶっ倒れ救急搬送されて、常務・武内さん・ちひろさんにしこたま怒られた。ついでに、美嘉にまで“あんな状態の唯を出すなんて何考えてんのよ!!”なんて全力ビンタと号泣を食らった痕跡も消えた。
ご立腹の皆さんの説教はまったくもって言い返す余地のない正論で、その結果として言い渡された“謹慎”。もちろん、社員でもない俺がソレを受け入れる必要もないのだがいつもみたいに屁理屈をこねる気にもなれなかったし――――何より冷静に考えたら“仕事しなくていい”って言われてんのに抗う必要なくね?、と気が付いてしまった俺は
戸塚「はちまーん、いくよー?」
ハチ「(お前との将来も)ばっちこーい」
天使と爽やかな汗を流しつつ、久々すぎるプライベートタイムを満喫している現在なう。
もう一生謹慎になんねーかなぁ、などと思いつつ戸塚のサーブを受けるのであった
―――――――
「えへへ、最近、八幡も忙しくてテニス出来なかったからうれしかったよ!!」
「あぁ、マジで俺も久々に楽しめた気がするわ」
天使の様にはにかむ戸塚がテニスコートからの帰り道に銀杏の葉に彩られた金色の道のなかでそう語り掛けてくる。その尊い光景に思わず拝みそうになる衝動を抑えてそう答えると、一転して落ち込んだ表情を浮かべる。……俺の邪な感情を読み取られてしまったのだろうか?
「ど、どうした?」
「ん、いや、この後に予定がなければ八幡と飲みに行けたんだけど…寂しいなぁって。――――あ、やっぱり今からでもキャンセルして」
「ぐぅ…いや、そこまでさせんのは悪い。大切な講習会なんだろ?」
「むぅ、それはそうだけど―――しょうがないかぁ」
かっくりと肩を落とすと共に輝く髪の毛と、蜂蜜のような甘い匂いが薫ってきて俺の理性を蹂躙していくがかつて鋼の理性と呼ばれた俺はその匂いを逃すまいと鼻を膨らませるのみに留まった――――我ながら凄まじい紳士ぶりである。
「ま、別にいつでもいけるだろ。頑張って来いよ」
「じーーーーー、いっつも予定があって断ってる人が言う台詞じゃないよね?」
「………今度は、最優先で開けておきます」
「よろしい!絶対だからね!!」
肩を竦めて返す俺に半目で睨んでくる戸塚の視線と嫌味がぐっさり刺さったので、直角に腰を曲げ平謝りをすると胸を張って満足げに応え、別れを告げ駆けてゆく。
いつまでも元気に腕を振る戸塚が見えなくなることに胸が引き裂かれそうになりつつもため息一つでその気持ちをしまい込み俺も帰路へとつく。
とまあ、こんな具合で最近は実にパリピな大学生らしく遊び惚けている次第。そもそもの受講講義が最小限というのもあるが、滅多に大学に現れない俺がここ一週間でよく出てきているため教授や数少ない知り合いに気味悪がられてしまうまである。なんなら警備さんに学生証の提示を求められ、偽装を疑われたまである。
どういうことだってばよ。
ともあれ、そんな空き時間は戸塚や雪ノ下達のような古い馴染と久々の旧交を温めたり、積みゲーや話題作。懐かしのラーメン屋めぐりと実に充実している。マジで謹慎最高と考える俺を責めるにはあそこの労働環境は過酷すぎた――――八幡悪くない。
そんな独白を浮かべつつも歩いていると、ひたりと顔が冷たい雫に叩かれた。
何事かと思い見上げれば、さっきまでの晴天が嘘のように厚い雲に覆われていて今にも振り出しそうな雰囲気を醸している――――というか、降ってきた。
ポツリ、ポツリ、と地面に広がる黒点はあっという間に広がって―――それらを一瞬で染め上げた。
ヤバいと思った瞬間に公園のボロイ休憩所に飛び込んでは見たものの、被害は甚大だ。バケツをひっくり返したような大雨によって濡れた体が秋特有の冷え込みによってさらに冷やされる。
恨めし気に空を見つめても返答は当たり前のようにないので、心のささくれを抑えるために煙草を求めてバックの中身を開くと―――― 一緒に放り込んでいた携帯に何件も着信があった事に気が付く。
仕事用に渡されたものではなく“個人用”に、である。
その上、それを知る限られたアイドル達からの――――ただならぬ着信量。
首筋にのしかかる嫌な予感が杞憂であることを祈って
俺は 通話ボタンを 押す。
「あ、ようやっと出おった!! おに―さん所に “唯ちゃん” おらへん!!?」
そんな願いは案の定打ち消されて―――――特大の問題が俺の元に届けられた。
――――――――――
相も変わらぬ土砂降りの雨の中を駆け抜ける。
昔の学園祭のように手掛かりも目撃例もない、ただ我武者羅に走り回っているだけだ。
何事かと振り返る通行人も無視して、必死に問題児を探して足を回す。
周子からの電話では、大槻は復帰してから普段と何ら変わりなく仕事に取り組んでいたらしい――――いや、むしろ、取り組み過ぎていたらしい。普段からレッスンや台本の読み込みを嫌っていた彼女が鬼気迫る様子で自ら行い、撮影や収録では誰よりも張りつめていたそうな。
周りもあの件が相当堪えた影響だろうとそっとしていた日々のなかで、それが弾けてしまった。
きっかけは、収録後に仁奈が呟いた何気ない一言だった。
彼女は“おにーさんはいつ頃戻ってくるでごぜーますか?”と問いかけられ、その場から失踪した。
ソレが二時間前。それからメンバー全員で捜索をしているらしいが―――いまだ見つからないらしい。
「つぎから、次へと、厄介ごとばっか――――起こしやがって」
上がってきた息の中で、必死に酸素を求めるついでに悪態を混ぜつつ吐き出していく。冷え込んだ空気にさらされたソレは真っ白に染まりつつ雨にかき消されていく。
そんな中で一応の目的地としていた場所が見えてくる。
特徴的な時計塔に、堅苦しい銅像が目立つその場所。
基本的に、俺はあいつ等に個人情報は渡さないように留意してる。その必要もないし、知っているというだけで人間は何かしらの影響があるものだ。それこそ自意識過剰と笑われるかもしれないが、あいつ等にはそんな些細なことですら影響を与えたくないという自己満足の勝手なルールだ。
それでも、知られて問題のないものくらいは会話に出てきたりもしている。
例えば出身地、例えば名前、例えば年齢、例えば―――所属している大学。
繰り返しになるが、人は知っているだけで行動に変化があるものだ。だから、自分と大槻の間で彼女が知りうる自分の居場所に関連するものなど思い返してもそこしか思い当たらない。
だから、
その時計塔の前で大雨の中で無気力に佇むその少女を見つけた時に
今度からは大学名も隠すべきかと本気で頭を抱える羽目になった。
――――――――――
「ほれ、飲め」
「……ずび、ありがどう」
差し出されたココアの缶を差し出すと赤らんだ鼻をすすりあげながらも聞き取りずらい声で答えて大槻はソレを受け取った。その様子に多少は落ち着いたと判断して小さくため息を吐き、自分用に買ってきた缶コーヒーをすする。
無機質で誰もいない講堂にちょっとだけ甘ったるい香りが漂い、なんとなしに俯く大槻を眺める。
土砂降りの中で濡れネズミになっていた彼女は俺を見つけた瞬間に訳の分からない事を喚きながら号泣をしてしまったのだ。大雨で人が少ないとはいえ目立つ彼女を無理やり引っ張り込んでここに押し込み、生涯で買う事なんてないと思われていた我が母校のグッツ体操着一式を自分と彼女の分を購買で買って半ば無理やり着替えさせた。
もうここまで思い返しただけでも、字面だけでも犯罪臭が半端ねぇな。今頃、飛び交っているであろう俺の噂話がどんな尾びれを振るっているか怖すぎて想像することすらしんどいわ。まじべーっわ。
フワフワと現実逃避をする俺は彼女の号泣していた時の支離滅裂な言葉を纏めて思い返す。
曰く、自分のせいで俺が謹慎なんてくらった事。
曰く、武内さんに抗議してコテンパンにされた事。
曰く――――ソレを挽回するために頑張ったが、仁奈の一言でソレが取り返しのつかない事だと思い知って耐えきれずに逃げ出したという事。
そのどれもこれもを何度見返しても俺が出せる結論はたった一つだ。
「大槻」
「……なに?」
呼ばれ顔をあげた彼女は普段の輝きが嘘のように消沈して、目には暗い光を宿している。そんな、彼女に距離を詰めると怯えるように一歩だけ彼女は後ずさる。
勝手に押し掛けてきて、近づいたら離れるとは身勝手なやつである。だが、そんな彼女に頓着せずにさらに詰め寄っていく。
離れては詰めて―――やがて逃げる先もなく壁際に追い詰められた彼女は心底に怯えた表情で目を瞑る。そんな彼女の両頬をそっと手を添えて
「馬鹿かお前は?」
「ひぎゅっっ!!!?」
全力で頭突きをかましてやった。
珍妙な悲鳴を上げてのたうち回る彼女の首根っこを捕まえて猫の様に持ち上げ、目線をまっすぐに合わせる。
涙と激痛に戸惑いながらも―――その目は初めて俺をまっすぐと見た。
「お前を行かせることを決めた時点で俺はこうなるって知ってた。――――俺の責任にお前がでしゃばるな」
そんな、突き放すような一言に彼女が何かを口にする前に、その先を重ねていく。
「大体、武内さんの言うことに何一つ間違いなんてねぇだろ。あんな事を何事もなく許すわけにはいかねえんだよ。それでも、俺とお前はやった。それに文句を言うなんざ筋違いもいい所だ」
当たり前の話だ。俺が決めるられる権限を越えた事は、本来なら即刻クビだって文句を言えない勘違い行為だ。ソレを決行した俺もこいつも罰せられるべきことだ。
それに、更にこいつは酷い勘違いを重ねている。馬鹿のくせに賢しらな言葉を知ったか振って悲劇のヒロインごっこに興じるこいつは一番根本的な部分を忘れてやがるのだ。
それが、どうにも俺には納得がいかない。
「罪には罰?じゃあ、お前は“罰は受けるので人を殺させてくれ”っていえば受け入れんのか?それこそ酷い勘違いだろ。罰を受けたって“許される”なんて限らねぇんだ。自分を痛めつけて許された振りなんかしてんじゃねぇ」
「だ、だって、それじゃ―――どうすればいいの?」
目尻に溜まった雫は激痛のモノから、悲痛のモノへと切り替わり―――迷子の様に問う彼女に心底呆れる。
んなことは幼稚園の頃に誰だって教わっている単純なことだ。
単純で一番大切なことだ。
許して欲しい時に言う言葉など――――決まっている。
「“ごめんなさい”って謝るのが最初だろうが」
「―――――っっ!!」
そんな単純な事に、彼女は初めて知ったかの様に目を見開く。
勝手に自分を追い詰めて、勝手に罪を背負った気になって償われた気分に浸るなんてのは欺瞞だ。そんな自己満足なんかより先にすべきことがきっとあったはずなのだ。
真剣に頭をさげて、それでも失ったものを取り戻すために学び―――そこから、自分の過ちを背負わねば意味がない。
だから、彼女は―――――そこからやり直さなければならない。
「そのココアのみ終わったら謝罪リレーに行くぞ。お前のせいで、やることが一気に増えちまった」
「―――――――うん」
押さえていた頬を開放し、俯いたその頭を軽く叩いてやると彼女は小さく、それでも確かに強くくぐもった声で答えてくれる。
窓の外に目をやれば雨は上がり、夕焼けに虹が描かれている。
泣きじゃくる微かな声を聴かないふりをするには十分な時間つぶしだ。
――――――――――――――――――――
その後、というか 後日談
―――――――――――――――――――――
あの後、探し回ったメンバーから始まり、武内さんたちや、あの日の関係者に一件一件頭を下げまわって、何とか各所からお許しを頂けたのだ。何より、最後に謝りに行った美嘉の本気の心配からの叱責と二度とあんなことをしないという二人の約束は感動的ですらあって枯れた俺の心にもクスンと来てしまう事があった。
そんな事を乗り越えた大槻も吹っ切れたのか晴れ晴れと、見事に復活を果たしたのである。ただ一つだけ誤算をあげるとするならば―――――――
「ええ、はい。そっちの見積にはゆとりを持ってるんでその程度なら『比企谷さーん!これってスケジュールのここは変更ってことでいいのかな!?』――はい!!最新版あるんでそっちで進めてください!!―――あ、すんません。なので、そのまま―――『比企谷くーん!!』………お願いします」
一緒に頭下げに回った俺までお許しを貰ったせいで、見事復帰(強制)させられてしまったことぐらいである。――――ちくしょうめ。
そんな独白と共にため息を一つ漏らす間にも絶え間なく俺を呼ぶスタッフと、携帯の着信音に急き立てられ――――俺は今日も元気に社畜へとなり下がったのである。
「「「「「比企谷(くーん、さーん、)!!!」」」」」
「いまいきますよ(怒!!!!!!」
――――
激動の一日を今日も乗り切り、スタジオの喫煙所にようやくたどり着き染みわたる煙草に大きく疲れを滲ませて息を吐き出すと―――体当たりの様に首っ玉にしがみついてくる少女が大音量で話しかけてくる。
「“はっちゃん”お疲れ―――!!ねえねえ見た見た見たっ!!今日の唯超いけてなかった!?褒めて!全力で頑張った唯を超褒めて!!!」
「……うっせぇ。まず、火を持ってるときに突っ込んでくんな“大槻”」
ぐりぐりとどっかの大型犬よろしく頬をこすり付けてくる彼女を無理くり引きはがして、追い返すと彼女は不満そうに頬を膨らませる。
「あ、また唯のこと“大槻”って呼ぶ!!ちゃんと下の名前で呼んでよ!!」
プリプリと無邪気に憤る彼女にあの時の暗さは見られない。それどころか彼女はあれ以来ただでさえ高かった人気をさらに高める様な活躍を残している。それだけで済めばよかったのだが――――あれ以来、俺に対してのスキンシップが随分と過剰で暑苦しい上に図々しさも増している。
プリプリと文句を言いつつも、今度は一転してケラケラと今日の活躍を語る彼女に小さく苦笑を漏らして考える。
無思慮の様で意外と考えていて、雑なようで繊細で、無邪気なようで悪意にはめっぽう撃たれ弱い―――他人との距離の取り方が不器用なこの少女。
かつて自分の隣にいたお団子頭の少女がそうであったように――――きっとこの少女もいつかは自分の友人の様に大人びて落ち着く日が来るのだろう。
なら、その時が来るまでは――――ちょっとだけ彼女の他愛の無い好意という勘違いに付き合ってやるのも年上の務めだろう。
そう思って俺は煙を空に溶かしつつ、言葉を紡ぐ。
「あと、六年はええよ」
「はぁっ!!なんで、いますぐよびゃーいいじゃん!!はっちゃんのケチ!!」
むくれる彼女に今度こそ大笑いして答える。
きっとその頃には彼女も大人になって――――――そんな約束も忘れるくらい高みに上っているであろうことと祈りと、自虐を込めて
俺は彼女に
優しく微笑んだ。
('ω')へへ、旦那。今回のお話いかがでしたかね。
気が向いたら下にある評価ボタンをぽちっと押して貰えるとあっちの承認欲求がビンビンでさあ。
コメントに見てみたい√とか書いちゃうとわりかしフワフワ生きてるあっちは妄想を膨らませちまうのでよかったら気晴らしにポチっとお願いしまさぁ、へへへ←小物感
_(:3」∠)_