大掃除の気晴らしにでもなれば。
さてはて、今回は美優さん回!!
もうタイトルからえろーーい ←
世の中、あてにならない事ばかりだと私“三船 美優”は思います。
例えば、新作アロマの発売日だと期待に胸を膨らませて店舗に行けば発売延期となっていたり。
例えば、目玉焼きを作ろうと思って割った卵に黄身が入ってなかったり。
例えば、“アットホームでストレスのない職場”と評価が高かった前職場ではセクハラと嫌がらせで散々であったり。
例えば―――――チラつく程度というはずだった雪が、いつまでもどこまでも降り積もってゆく天気予報だとか。
そんな独白をカップから立ち上ぼる濛々とした湯気の先で降り注ぐ雪を眺めつつ零して、事務所にいるもう一人の青年の声へと意識を戻します。
「ええ、はい。中止できるものは業者へのキャンセルと払い戻しなんかの事後処理込みで大体の対処は今さっき一通り。外せない収録がある連中は女子寮に念のため移ってもらってたのでなんとか。明日の朝のそれぞれ送ってく予定ですね。それらの一覧は―――――」
膨大なファイルとパソコンを濁った眼で睨むように見比べつつ、電話先の偉丈夫に淡々と業務報告をしてゆく彼“比企谷君”。長らく続いた報告と調整。でも、ソレもようやくひと段落ついたのか、電話先から零れる低く小さな声が労いを呟き、彼はいつもの様に皮肉気な愚痴で答えて受話器を置いた。
「……お疲れ様です。武内さん達からは何かありました?」
「新幹線に飛行機、車にフェリー。移動手段は全滅で慌ててホテルにちひろさんと逃げ込んだそうですよ。帰れるのは交通網が復活してからになりそうっすね」
受話器を置いたまま深ーーくため息をついて動かない彼にほんのりと苦笑を漏らしつつ、先ほど入れたココアを差し出せば小さく手を拝むようにあげ受け取り、口をつける。その温もりに若干でも緊張と疲労が和らいだのか今度はちょっとだけゆとりのある苦笑でそう呟いて、恨めし気に窓の外で降り積もるソレをねめつけている。
天気予報を大きく裏切って関東どころか、本土全体を覆うくらいに急成長した分厚い雪雲。その猛威はほぼすべての交通機関を直撃して完全にマヒさせてしまいました。今やニュースはてんやわんや。かなり遅い時間であるのに関わらず周辺ビルやこの大きな346本社にも多く明かりが灯っているのは雪害の対応に追われている人々か、帰宅難民としてとりあえずの避難をした人が多いからだろう。
何しろ、今現在の私たちがそうであるのだから、さもありなん。
“まさか、でも、大丈夫だろう”なんて思いつつ空を伺いつつ二人で仕事をして、アイドル達を全員送り返した定時間際。ついに、真っ暗な雲がその溜まりに溜まった鬱憤を爆発させました。
15分で大きな道路に見事なおしろいを施したその威力に二人で冷や汗を滝のように流して途切れることなく鳴り響き始めた電話やメールに必死に対応する事、数時間。雪によって問題が発生した各種業者への指示や、テレビ局の予定変更、ライブなんかの中止問い合わせ。それを乗り切った先に帰ることもできないとなると、彼でなくたって睨みたくもなるでしょう。
「……一応、聞いておきますけれど。比企谷君はこの後どうするつもりですか?」
「俺は…宿直室か仮眠室でも借りるとしますよ」
「あー、それなんですけど…」
まあ、妥当だと言えるその結論に言葉を濁す私に、彼は眉をしかめ、その先を予想したのか苦虫を噛み潰したかのような顔を浮かべる。おそらく、残念ながらその通りです。
「さっきの報告の間に問い合わせたらもうそっちは一杯だそうです」
「………ですよねー」
この346本社。豪華な見た目を裏切らずに設備も充実しています。それこそカフェやエステ、トレーニングルームなどの中には仮眠室や宿直室なんかもあったりするのですが、勝手に誰かが住み着かないようになのか基本的に申請と予約が必要だったりします。まあ、それだって平時の空いているときは好きに書き込みベッドに潜り込むこともできるのですが現在は非常事態。
ましてや、各部署の社員からの要望もそうですが、タレントや女性社員を優先的に使用させるようにという常務のお達しがあり、あっという間に満席。そのほかの社員は現在各自で寝なかったり、椅子で簡易ベッドを作ったりとそれぞれ逞しく対応を強いられている状態だそうです。
まあ、睡眠もそうですが食糧事情も中々切迫しているようで、近隣のコンビニは全滅。カフェの食材や、緊急用保存食もあるにはあるそうですが今晩は温かい物にココであり付くのは…諦めたほうがよさそうです。
「美優さん……都心ってホントに大災害起きた時に生き残れるんすかね?」
「私もそこはかとない不安を感じます」
軽口に私も苦笑して答えると“くわばらくわばら”なんて呟き、事務所の角に纏められていた不用品を漁り始め、厚手の段ボールを一抱えした彼がこちらに振り返ります。
「俺はテキトーに何とかするんで、美優さんはそこのソファー使ってください。毛布がわりには薄いですけど、ちっひのひざ掛けなんかが引き出しに何枚か入ってるはずなんで」
なんてことのないようにそう言って部屋を出ていこうとする彼を慌てて引き留めます。
「そ、そんなの抱えて今からどこに行こうとしてるんですかっ!?」
「いや、適当なロビーとか暖房効いた部屋に」
「……ここではダメなんですか?」
「男と同室って時点で駄目でしょ」
「――――――――へ?」
男? 同室? 駄目なのは――――私に気を使って…?
彼に呆れたように言われた言葉が飲み込めず呆けた顔を浮かべてしまった私は、追いついたその思考がたどり着いた結論に思わず吹き出して笑ってしまいました。
「ふっ、ふふふ――いえ、すみません。決して馬鹿にしているとかそういう訳じゃないんですけど……くくっ。比企谷君って、そういうところ意外と紳士ですよね」
「……妹に手厳しく躾けられてるもんで」
急に笑い出す私に若干の不満と呆れを混ぜたような色が彼の瞳に宿る―――そのあんまりに自然な気遣いとお人好しさ。それが、妙にくすぐったくて。
嬉しくて 新鮮で。
ここで知り合った友人たちがこぞって彼をからかいたくなる気持ちがなんとなく分かるような気がします。あの子たちが彼に構って貰いたくなる気持ちもいま分かりました。きっと、どんなに甘えても許してくれそうなこの青年の根っこの部分を何度だって味わいたくて誰もが彼の周りに集っていくのでしょう。
でも、それに甘えてみたくて心の何処かで疼き始めた悪戯心はそっとしまい込んで、零れた笑いと涙を拭い取って、彼よりちょっとした年上としての威厳を精一杯ふりしぼって言葉を紡ぎます。
「職場が職場ですからそういった気遣いはとても大切だと思いますし、嬉しいです。でも、私はただの事務員ですからそこまで気にしないで大丈夫ですよ?
それに、明日も朝早くからあの子たちの送迎をしなければいけないのに、空いてるかも分からない部屋を探して凍えて過ごした上に、ご飯まで食べないで済ませるのは絶対によくありません」
「いや、そりゃ叶う事なら俺だって安眠したいっすけど……」
当然の事を言う私に困惑する彼に、続く言葉を一瞬だけ逡巡。
そもそも、男性との関りどころか人間関係が絶望的に下手糞な自分が今から言おうとしている言葉はあまりに荷が重い。言葉を紡ぐ前にその意味に顔が真っ赤になって、声が震えそうになるのを必死に抑え込む。
でも、きっと、こっちが少しでも無理していることを悟れば彼は絶対に今から言う提案を呑むことはしないだろう。
そんな彼だから言える。
そんな君だから―――言われるまで同じ部屋で眠ることを全く気にせずいられた。
だから、私も―――精一杯になんて事のないように言葉を紡ぐ。
世の中当てにならない事ばかりだ。
でも、昔の偉い人は“当てようとするから外れる”と言ったそうです。
“期待”や“信頼”なんて言葉や想いを横着して無責任に放り投げるから外れる。
だから、本当に大切なものはちゃんと相手に向かって、しっかりと渡すことにします。
色んな部署から悪評や批判を受けているこの場所や、ここにいる人たちには―――それくらい真摯に向き合いたいと思えるくらい救われているから。
「私の家、歩いて帰れる圏内なので――――今日は泊まっていってください」
「……は?」
私の提案に唖然とする声が、雪の降り積もる事務所の中で小さく響いたのです。
――――――――――――――
はてさて、雪は“しんしんと”なんて形容句が一般的だったが、“どさっと”降り積もり首都圏に交通マヒを引き起こし、哀れな社畜に多大な残業を引き起こした雪模様。
鳴りやむことなく続く電話やメールの対応が終わったのが夜も更け、俺の顔も老け切った夜遅く。帰りの電車は運休、上司にした報告の連絡では“しばらく帰れそうにないから上手くやってくれ”なんて無責任に言われたので“特別手当よろしく”なんて嘯けば“期待していてください”との事。
――――いや、金さえ貰えりゃ働くって意味じゃなく、“休ませろ”とか”管轄外です“って事を伝えたかったんですけど。
聞いてませんか、そうですか。
「比企谷君、散らかってますけど…どうぞ上がってください」
数十分前にしたクソ上司ズ達とのバッドコミュニケーションを降りしきる雪を眺めつつ思い出して現実逃避していると、後ろから掛けられる静かな声に引き戻される。その声のあまりの無警戒さに深くため息をついて自分は一体何をやっているのかと改めて意識する。
「……やっぱり、事務所に戻ります。要望通り無事に送り返しましたし」
「いまさら何を言ってるんですか。早く入ってください」
美優さんに降り積もる道すがら頭や肩に積もった雪をざっくりと払われ呆れたように呟かれる。そんな事を言っている彼女にもそもそも俺は随分と抵抗したのだ。
喧々囂囂と言い合いをしていた俺たちは最終的に『そうですか、そんなに言うならもういいです。帰り道に私が行き場を失った暴漢に襲われても、きっと比企谷君はここの事務所で気持ちよくぐっすり寝ているんでしょうね…。暴力を振るわれて泣き喚く私なんか気にもなりませんよね…。いえ、“送ってくれ”なんてそもそも私ごときが図々しかったですよね……』といじけ始めて白旗をあげさせた人がなんでそんな俺を困った子を見るように見るのか納得がいかない。
それでも、今更に20分も歩いてきた雪道をまた戻る徒労と、この呆れた目を向ける彼女の自覚のなさになんだか全てがどうでもよくなり俺は渋々と彼女の家へと踏み入った。
――――
都内のど真ん中にある346本社の徒歩圏内というのでとんでもないマンションに住んでいるのかと思えば、意外と都内の裏路地にあるこじんまりとしたみずぼらしいマンション。それでも、内装を見ればリノベーション工事でもしたのか、見た目以上に整っていて小さく驚きを飲み込んだ。
こんな物件を掘り出した細やかさと、イメージ通りに大人の女性らしい小物で装飾されている室内。それと、男の家ではそうそうに嗅ぐことのない特有の甘い香りは彼女の趣味だというアロマの香りだろうか?
そのイメージを裏切らない内装に落ち着かない気分になりつつも歩を進め、リビングへとたどり着く。小綺麗なガラス張りのローテーブルや小柄で品のいいソファー。それに、飾られる見た事もない綺麗なガラス製の調度品。そして―――――部屋の隅に鬼の様に積まれた数々の酒瓶と乱雑に寄せられたパーティーグッズの山々。
「……女性の部屋について早々に不躾なんですが、あの頭の悪い大学生の部屋にありそうなグッズと酒瓶の数々はなんすか?」
「ここ、事務所から近いのでよく楓さん達が泊りに来てくれるんですけど…そのたびに皆が持ち寄ってくれるのであんな感じに纏めています」
「まんまと溜まり場にされてるじゃないですか……」
どおりで最近は成年組が、朝まで飲んでたであろう酒臭さを漂わす割にはしっかりと遅刻することなく集合している訳だ、なんて変な所で疑問が解決した事に呆れつつも美優さんに嫌味をチクリと投げかけてみれば“私、大学の時も友達と夜更かしとかしたことなかったので…楽しいものですね”なんて嬉しそうにはにかむ彼女。
一瞬だけその表情で良い話風に誤魔化されそうになったが、多分、騙されています。
それを伝えぬ一片の慈悲くらいボッチの俺にもあるので特に触れず、そのガラクタの山に近づきどんなものがあるのかを見させてもらうことにする。―――部屋の他の部分を不用意に見るよりはおそらく穏当な時間潰しにはなるだろう。
「ツイスターゲーム?」
「あぁ、それをやった時に奈々ちゃんが腰をやっちゃって大変でした」
「あの腰痛はこれのせいかよ……」
物色する俺を横目にキッチンの方へと向かった彼女の返答に肩を落としつつ、脇に寄せ次の品を物色する。
「スーフ〇ミ…」
「爆裂マンとか、マルオとか、単純なのにずっとやれちゃう魅力がありますよね。…ナナちゃんが色んなソフトを実家から持ってきてくれるんですよ」
「…もうなんか隠す気がないっすよね、あの人も。―――これは、うそ発見器?」
「あぁ、早苗さんが“取り調べを行う”ってドンキで買ってきた奴ですね。その時も奈々さんが―――」
「オチが読めたんでもういいっす。というか、あの人ばっか火傷してんじゃねえかよ…」
バリエーション豊かに出てくるパーティーグッツとソレらの由来を語る美優さんの声をBGMに漁っているのが若干楽しくなり始めてきた頃、ふわりと薫る優しい匂いが鼻孔を擽り腹の虫がうなりをあげた。
「作り置きで申し訳ないんですけど…味の方は楓さん達が保証してくれているので大丈夫だと思います」
そういって彼女が持ってきてくれたお盆には里芋やキノコ、牛肉など様々な具材がこれでもかと澄んだ汁の中でひしめき合っている独特の汁物と、つやつやと輝く新米と思しき白米が濛々と湯気を立てながら並んでいる。
なんだかんだと言ってはいても、空腹の体は素直にその旨そうな食事に歓声を上げて思わず涎まで密かに出てきてしまう。だが、それ以上に―――
「アロマとかそういう物より、こういう飯の香りの方がほっとしちゃうのは自分の感性が小庶民すぎるせいですかね?」
「分かる気がします。私も実家に里帰りしたときは母のご飯を前にするとやっぱり“ほっ”としますから。―――せっかくですから冷めないうちに食べちゃってください」
俺の色気もクソもない戯言のような言葉に彼女は苦笑をしつつも同意をして、俺にソレを進めてくれるので軽く手を合わせてそれらに口をつけていく。
白米と具がたっぷりの芋汁は冷えて、飢えていた体に溶けるように消えていき気がつけば促されるままにそれぞれ三杯もお代わりをしてしまう程に旨く、美優さんが楽し気に“うどんもありますけど食べますか?”なんて空の鍋を見せてくるまで夢中で貪っていた事が無性に恥ずかしさが湧き上がり、それを何とか固辞する。
あれだけ飯なんかいらないと言っていたくせに人の家の飯を貪るとはどんな教育を受けているのか、親の顔が見てみたい。―――――思い返した両親の顔は蔑むような眼で俺を睨んでいたのであっちもそんな教育をしたつもりはないようだ。
不肖の息子で申し訳ございません。
「ふふ、やっぱり男の子なんですね。見ていて気持ちがいいです」
「いや、ほんとにスンマセン…。あまりに美味くて――――って、なんですかそれ?」
食器を下げてくれた彼女が零した言葉にしこもこと見苦しい言い訳をしぼり出していると、何食わぬ様子で目の前に置かれたもの。綺麗でおしゃれなガラス張りのローテーブルにはどうしたって馴染まぬソレがでんと鎮座した一升瓶。
その意図と、唐突さに困惑した俺が思わず彼女に問い返すと不思議そうに首を傾げられる。
「えっ?―――違う銘柄が良かったですか?」
「違う、そうじゃない」
隅に積まれた大量の酒瓶に視線と歩みを向ける彼女を思わず素でツッコんでしまった。
「いや、男を部屋に入れてる時点でアレなのに酒まで飲ませるとか――何があっても知りませんよ?」
「――――――何か、するつもりなんですか?」
あまりに無防備すぎるその行動を諫めるためにちょっとだけ強めの語気と視線で彼女の手を掴んで引き留める。そんな俺と、引き留めるために握られた手を交互に眺めた彼女は心底と不思議そうに首を傾げてそう問い返すのだから――――俺は
→ ・深く、ため息をついて天を仰いだ。
・その華奢な細腕を強く引き寄せた。
――――――――――――
「―――いつか痛い目みますよ?」
何とかそう絞り出した俺は、回復した心労がまたずっしりと肩にかかるのを自覚してうなだれ“なるようになれ”なんて自暴自棄にそう吐き捨てる。その勢いのまま一升瓶の脇に置かれたおしゃれな切子グラスに荒っぽく中身を注ぎ、一足に飲み干す。――――存外に、甘くない辛口のその飲み口が今の気分に合っていて良い酒だと素直に思った。
それでも、不機嫌そうな顔は保ったままソレをチビチビと舐めるように飲んでいると、耳を楽し気な笑い声がくすぐり、向いに座り直した彼女がそんな俺を面白がるように見つめて自分のグラスにもソレを注いで、一口。
「そういう下心がある人って覿面に分かりやすいですから、ちゃんと分別はつけてますよ。―――こうやって安心してお酒を飲むなんて、普通の男性となんて絶対に無理です」
グラスを離すとともに呟いたその一言は理性的で、ほんのちょっとの暗さを含んでいる。
かつて、セクハラと嫌がらせと、無関係な痴情のもつれに巻き込まれた末に前職を辞めたという彼女のその一言はきっと字面よりずっと重く、深い。ただ、大体がこんなクズを家に呼んでいる時点でその選球眼も大分難ありである。
「ソレに、他のみんなが比企谷君と飲みに行った話を聞いたりしてちょっとうらやましかったんです」
「……あの面子には無理やり連行された記憶しかないんですけど?」
遠くを見つめるようにグラスをくゆらしてその波紋を楽しむ彼女は俺が呟いた反論に苦笑を漏らす。
「武内さんやちひろさんは凄く良くしてくれますけどやっぱり上司ですし、楓さんや奈々ちゃん達はアイドルで何処かで一線があるじゃないですか。そういうのを関係なく深く楽しくやり取りしてるのを聞いてると―――ずるいなぁ、って思います」
「………いや、体のいい鬱憤の捌け口にされてるだけでは?」
「そういう事じゃなくて…いや、ある意味そうなんでしょうか?でも、そういうのってやっぱ、えー、と……ふふっ、言いたいことがよく分からなくなってきたので単純に行きましょう――――たまには唯一の平社員同士で語りませんか?」
「もうすでに大分に酔っぱらってますね。大体、んな改めて話すこともないでしょうに…」
「そんなことありませんよ?例えば、仁奈ちゃんの可愛さだったり、際限なく増えるアイドルだったり、本社の経理担当に会うたび嫌味言われたり~、―――」
言いたい言葉がまとまらず強引に纏めに入った彼女に呆れたような視線を向けつつ、彼女が指おりあげていくたわいない話題に苦笑を漏らし、減ったグラスに中身を注ごうとして―――
「あとー、あっ、比企谷君っていう程にボッチじゃないですよね?」
「あぁん?」
聞き捨てならない言葉に滅茶苦茶に低い声が零れた。
睨むように見据えた彼女は不敵に微笑みつつ、グラスを舐める。
「前々から思ってたんですけど“ボッチ”を名乗る割には高校時代の知り合いの話とか、恩師とか、休日に予定があったりとか……正直、ボッチ歴の長い私としては“お前のようなボッチがいるかっ!!”ていうのが個人的な主張だったりします」
「…くっ」
ドヤ顔でそう伝える美優さんの言葉に確かに否定しがたい最近の自分の“ボッチ道”へのたるみを突かれ、ひるんでしまう。だが、しかし、その程度の事を黙らせるには十分な経験を俺は積んできている――――プロボッチを、侮らせはせん。
「あのパーティーグッズの中にゲームボーイと通信ケーブルありましたよね?」
「…? はい、皆で実家からレトロゲームを持ち寄ろうってなって「通信ケーブルを使う程度には友達がいたんですね~、美優さんって」―――それはっ⁉ちがっ」
今度は一転して焦る彼女を満面の笑みで微笑みかけるともの凄く悔しそうな顔を肴に酒を舐めるとさっきよりも大分甘く感じる。やはり、他人の苦渋は最高のみつだZe !!
「あれは、小学校の時の女子グループの付き合いで―――っ!!」
「へー、小学校は“グループ”にいたんですねー?」
「“ボッチデビュー”はそのグループから外されてからが本番です!!」
「へー、でも、一度もグループに属さなかった僕にはちょっと“にわか”の気分は分からないので何とも言えないですねー」
「あ、あっー!いま、“にわか”とかいいましたね!?」
喧々囂囂と、年頃の男女が一つ屋根の下で“ボッチ自慢”。
毒にも薬にもならぬどころが、損しかない上にためにもなりゃしない。
それでも―――今日俺はこの唯一の同僚仲間である彼女の素顔を初めて見た。
物静かで、控えめで、子供好きで――――存外に子供っぽく怒り、笑い、自慢して、それでいて母親のように口うるさく、お節介だったりする。
深々と雪が降り積もり続ける都心の中、さっきまでの気疲れを感じていた自分が馬鹿らしくなって苦笑と共に酒で飲み込んでしまう。
一宿一飯の恩、という訳ではないけれども
ブラック企業のよしみという訳でもないけれども
たまにはこうして彼女と仕事以外での、くだらない言葉を交わすのも悪くないと思った馬鹿らしい感傷と勘違いを彼女の必死の反論を聞き流しつつ小さく吐息に漏らして吐き出した。
('ω')へへ、旦那。今回のお話いかがでしたかね。
気が向いたら下にある評価ボタンをぽちっと押して貰えるとあっちの承認欲求がビンビンでさあ。
コメントに見てみたい√とか書いちゃうとわりかしフワフワ生きてるあっちは妄想を膨らませちまうのでよかったら気晴らしにポチっとお願いしまさぁ、へへへ←小物感
_(:3」∠)_ 大掃除辛いゆ