デレマス短話集   作:緑茶P

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あらすじ!!!

 ハチを篭絡し765の魔の手から取り戻すという重大な任務。

 しかし、先遣隊の惨敗に誰もが恐れおののく中でも彼女たちは諦めずに攻勢を続ける!!

 負けるなシンデレラ!!頑張れシンデレラ!!

 そんな情熱がついにゾンビの枯れた心を動かすのだ!!




シンデレラの招待状 ―終―

「「「ええかげんにせいっ!  ありがとうございましたーー!!」」」 ダダッ

 

 

 「…………一体なんなんだ、あいつら?」

 

 346本社の清潔で広々とした廊下で体を張った一発芸? 漫才?をして走り去っていったアイドル(笑)達の背中を目で追いながら俺“比企谷 八幡”は思わず首を傾げてしまう。

 

 変人や問題児が闇鍋されているようなこの“デレプロ”では奇行や突拍子もない行動なんかはさして珍しくもないが、ここ最近はその頻度が随分と多いような気がする。

 

 例えば、事務所にミラーボールとDJぴにゃを設置して踊り始めたり、急に昔のライブ映像を事務所で流し始めて解説しつつ新曲をアピールし始めたり―――――水着姿で事務所に乗り込んできたときは本当に羞恥心と微かに残ってた常識まで無くなったのかと思って眩暈がした。

 

 ライブ段取りや一般業務でクソ忙しい中でそんな阿保みたいな悪ふざけに巻き込まれているせいで度々イライラさせられていたのだが、ソレにしたって最近はその頻度が多すぎる。―――単純な経験則に従うならば、ろくでもない事を考えている前兆ともいえる。

 

 良くも悪くも分かりやすいあいつ等に小さくため息と苦笑を漏らして俺は目的地を変更した足を再び一歩進める。

 

 

 とりあえず――――問題は根っこから取るに限る。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

「で、今度は一体なんなんだ?」

 

「真っ先に首謀者として嫌疑をかけられてる件についてーん」

 

 食堂で呑気にうどんを啜っていた銀髪の狐目をマイベストブレイス(非常階段裏喫煙所)に連行してとりあえず問い詰めてみると不満げに彼女は口を尖らせ抗議の声をあげてくる。だが、こいつのモリアーティ張りの主犯を仕立て上げつつソレを裏で操る暗躍実績から考えれば残当な人選だと自負している。あとは間違っていたとしても唯一心が痛まない貴重なキャラなのだ。

 

「モリアーティってまたレトロで大仰やなぁー。……というか、今回の騒動の原因はどっちかって言えばおに―さんやで?」

 

「……俺?」

 

「そ、おに―さん。――――おに―さんの好きな“アイドル”って誰?」

 

「はぁ?」

 

 ホームズになり切った気分で紫煙をくゆらせて彼女に問えば、呆れたように笑った彼女が予想外の言葉を呟く。ソレに怪訝と不服が入り混じった視線を彼女に向けてみればそれすらも緩やかに受け流されて見当違いの問いを返されては肩を竦めるしかない。

 

「意味が分からんが―――初めにあった時と答えはかわらねぇなぁ。特にアイドルに興味はない」

 

「……ほーん」

 

「なんだその目は…」

 

「おに―さんが765のチケット持ってたのは調べがついとるんやで?ついでに、サイン入りのCDも持っとんのも。―――ほれほれ、正直にどの子がええんか言うてみぃ?」

 

 ジト目のままこちらに近づいてきて雑に肩に手を回した彼女の言う言葉に目を白黒させている俺に彼女はさらに言葉を重ねる。次々と上げられる名前は確かに他事務所とはいえ確かに魅力的なアイドル達であるが――――それと今の会話の繋がりが噛み合わず混乱は増していくばかりである。

 

「“やよいちゃん”か?それとも、“あずささん”なんかも好きそうや「――――周子、ちょっと待て。俺、CDもチケットもどっちも持ってないんだけど?」―――――へ?」

 

 厭らし気な顔していた彼女が化かされたような顔をして瞬きをしてこちらを見てくるが、いったい彼女が何をもって俺が765ファンだと思っているのか分からずこっちが聞きたいくらいだ。

 

「―――って、そんなんでシラキレる訳ないやん!こっちには証拠写真だってあるんやで!!」

 

 キッと眦を引き上げた彼女が差し出してきた携帯の画面に映るのはいつだか事務所で居眠りをしていた時の物でその端に移っている物にようやく何の話かの理解が追い付いた。

 

「人を盗撮してたことは後で聞かせて貰うとして――――ソレ、赤羽さんから武内さんに渡すように頼まれてたチケットだぞ?」

 

「……あっれー?」

 

 ちなみに、サイン入りCDは事務方全員分に用意してくれたらしいので俺も貰ったのだが、小町が速攻で見つけて持って行ってしまったのであまりに記憶に残っていなかった。そうだね“比企谷さん”って書かれてたら兄妹だから同じだしね。小町にねだられたら基本断れないしね。

 

「そ、そんじゃ、他の女の箱で粗末な棒を力の限り振り回して汗を滴らせたりは…せんの?」

 

「おい、言い方。アイドル以前に人間性としての言い方が最低で悪意にまみれすぎだぞ。―――てか、大体、これの日付がウチのライブと被ってんのにどうやって行くんだよ?」

 

「――――ちゃんと、こっちに、来てくれるん?」

 

「早く俺がいかなくても済むようにしてくれ。トップスター」

 

 力なく最後にそう呟いた彼女の頭を軽く撫でて苦笑と共にそう呟く。

 

 “ぜったいいやや”なんて捻くれたことを呟く彼女の頭を軽くこずいてため息を吐いて、頭を軽くかく。まさか最近の奇行の原因がそんなくだらない事だとは思ってもみなかった。ありもしないアイドルへの興味をいまさら引こうとされたって意味がない。ゼロに何を掛けたってゼロなのだ。だから――――扉の向こうで息をひそめてる馬鹿どもにもそのことを教え込んでこの馬鹿さわぎを終わらせなければなるまい。

 

 

 足音を潜めて扉に近づきドアノブを捻れば、“どっさ”という擬音が聞こえてきそうな程になだれ込んでくる“シンデレラ”達。どいつもこいつも気まずげな顔して目を逸らしたり、冷や汗を流したりと浮かべる表情は様々だが―――共通して口元だけはにやけるように歪んでるのが心底俺の癇に障りやがる。

 

 

「このバカ騒ぎのせいで常務に何度、始末書を持ってく羽目になったと思ってんだ、ばかやろー共」

 

 

「「「「「「「「「「し、失礼しましたーーー!!」」」」」」」」」」

 

 

 蜘蛛の子を散らすかのように逃げていく彼女達。

 

 その叫び声は口々に勝手なことを嘯きつつも、楽し気にお城に響き渡り――――今日もこの城は騒がしい。

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

---後日談---

 

 

 

「比企谷君、ライブも軌道に乗ったようなので少し付き合って貰っていいでしょうか?」

 

「へ、いや、――いいんですか?」

 

 音響、警備、段取り、機材、客席、販売などありとあらゆる段取りを綿密にこなしても当日はやはり予期せぬ事態とは起こるもので裏方というのは本番中だって忙しない。それでも、一個一個をつつがなく処理していけば流れというモノは出来ていくらしくちょっとだけ息をつくことのできる時間もできたりもする。

 

 武内さんが珍しい提案をしてきたのはそんな折の事だった。

 

 普段ならばこの空き時間すらアイドル達のコンディション確認や段取り調整に費やす人から現場を責任者二人で抜ける提案をされる日が来るとはついぞ思っていなかったので、本人よりも周りのスタッフに確認の視線を送ってしまったくらいだ。

 

 その返答も早く行けと冷たくあしらわれるばかりなので何とも言えない気味の悪さを感じつつスタッフ用通用口で待つ武内さんの後を追った。

 

「珍しいですね……というか、もしかして二人して頭を下げなきゃいけない事態だったりします?」

 

「いえ、ライブは極めて順調です。ただ、今回の件は……まあ、我々としても少し反省すべき点があったと思いましたのでその埋め合わせだと思って頂ければ」

 

 土下座の準備でもしといたほうがいいかしらぁんなんて思って叩いた軽口に首元を掻きながら要領の得ない回答が返ってきた。いつものポエミーな意味不明でなく、会話がつながらない感じの意味不明なのでこちらとしても首を傾げるしかできない。そんな彼にとりあえずついて行くと、見覚えのある通路に行き当たる。

 

「武内さん、そっちはVIP席用通路っすよ?」

 

「はい、こちらに用があります」

 

 静止も意味なくズンズン進んでいく背中に渋々とついてゆくが、やっぱヤバい案件なんじゃないかと胸がバクバクしてくる。というか、どうか先に用件を言って欲しい。アドリブで難問を乗り越えられる器用さなどこちらは持ち合わせていないのだ。

 

 そんな恨み節のような事を考えつつ歩みを進めると遂にはその背中が止まった。

 

 一般ブースとは違って少し重厚に作られた扉の上に書かれているのは“VIP”という単語。毎回、熾烈な抽選会を潜り抜けるか大企業としてスポンサーになるしか手に入れられないというそのある種の幻とすらされている席。そんな扉の前で武内さんは困ったように首筋を抑えつつ、苦笑する。

 

「デレプロの活動初期から一緒に仕事をしていたせいで比企谷君が我々のライブを見た事がないというのをある人達から言われて初めて気が付きました。正直、こんな機会がなければこうした場も設けられずにいたかもしれません。軌道に乗るまで手伝って貰わなければならないというのも情けない話だったのですが――――今日の残りのライブは“観客”として楽しんでください」

 

そう告げた武内さんは俺の耳についていたインカムを取り外して、唖然とする俺を扉の中に送り出す。

 

 

 目を眇める程の眩しい光源たち。

 

 耳どころか体の芯まで響いてくる音。

 

 肌を焼くほど、声が枯れんばかりのファンたちの声援。

 

 そして、何よりも――――その中心でその全てを飲み干して咲く彼女達。

 

 

 歌い、舞い、繋がって、離れて、火花のように一瞬の輝きに命を燃やして

 

 語り、笑い、支えて、引っ張って、包むように心の芯に潤いを与えて

 

 

 そんな輝きが目の前に広がっていた。

 

 

 

 だが、武内さんも、吹き込んだ誰かも根本的な勘違いをしている。

 

 俺は何度だって彼女たちのライブを目にしているのだ。

 

 それこそ、簡素な木箱のお立ち台の時から、ステップを踏み外して盛大にずっこけた時も、初の大規模ライブで燃え尽きた時も、何度も超えた聖夜も――――ここまで人を沸かせる様になるまでずっと見てきた。

 

 

 “アイドル” だからじゃない “アイツ等” だったからこそそこまで付き合った。

 

 

例え、自分がそんな輝くステージに上る事はなくても、ただの少女だった彼女たちがあそこまで輝く星へとなった軌跡を俺は誰よりも近くで見て、一生忘れることはない。

 

 

 だから、俺は今も昔も“アイドル”なんかに興味はないのだ。

 

 

 そんなキモイ妄想と言い訳を抱えてる奴がこんな時どうするかなんて決まっている。

 

 

 腕を組んで、不敵に口角をあげ背筋をまっすぐ。目元に滲んだ涙は悟られぬように俯き加減で

 

 

 

    ベガ立ち   これ一択でしょう。

 




 風邪でぶっ倒れて定期更新が途切れたぬ_(:3」∠)_

 無念。

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