デレマス短話集   作:緑茶P

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茄子('ω')「………ガチャガチャ……コロン ”その花の名は” 」

茄子('_')/〇 スッ


茄子( ゚Д゚)「…いままで散々”笑いの女神”とか”オチ担当”とか言ってた奴ら全員ケツバットですよー?」


――――――――――――――――――

_(:3」∠)_という訳で茄子様が無事に引き当ててくれたので”相葉夕美 メモリーメピソード”後編です(笑)。

何のことか分からない人は前作(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12202089)や、過去の茄子活躍作品を見てみよう!!←ステマ

 さて、今日も広い心で頭を空っぽにしてお進みくださいませ!!



その花の名は

 

 

 うららかな春を感じさせる日差しの中、近し気な距離感で言葉を交わす二人を見ている事に少しだけ胸が締め付けられ、それを遮るように上げかけた手で視線を遮ったついでに気だるげな頭を支える―――昔、彼女が言っていた言葉を思い出す。

 

『こっちに来たばかりの時、偶然で相席になった私が語った夢を笑わずに応援してくれたんだぁ』

 

 初めて“ハチ君”なる人の事を語るときに彼女はそう語った。

 

 それは、自分が昨日経験したであろう高鳴りときっと一緒の物で―――こんな事になって初めて彼女の気持ちが分かるというのも皮肉なものだと思わず苦笑を零してそのまま小さくため息を零す。そんな心の中のモヤモヤは飲み込めていないけれど、時間は残酷に進んでいて彼女たちはもうすぐでココにたどり着く。そんな時にこんな辛気臭い顔で八つ当たりの様に接するのが失礼なことが分かるくらいの自制は効いてくれている。

 

 

 だから――――精一杯の強がりと、笑顔で二人を私は迎えなきゃ。

 

 

 近づいてくる二組の足音に視界を遮っていた手を避けて視線を送る。初めてであろう“友人面接”に少し緊張気味な愛梨ちゃんと――――少し驚いたように胡乱気な目を見開いた彼。その反応に自分の事を覚えていてくれたという場違いな喜びが湧いてくるのを抑え込んで可能な限り気さくな感じを装って手をあげる。

 

「昨日ぶり、かな?」

 

「なんでアンタがココにいるんだ?」

 

「へ?ほえ?――――お二人って…へ?」

 

 

 交わされる短いやり取りと困惑の声。

 

 

「ふふっ――――こーさん、降参!本日の“面接”は無事に合格です!!」

 

「えぇーー!!どういうこと!!だって昨日は徹底的に取り調べるっていってたのにー!!」

 

 その友人の愛嬌のある仕草に思わず笑いが零れて、私は両手を降参するように上げてことさら明るい声で彼女に“面接”の終了を告げると彼女はさらに困惑したように説明を求めてくる。それが可愛らしくてさらにからかいたくもなるが、いつまでも来てもらった人を立たせるわけにもいかないので二人にさりげなく席を進めて紅茶をいれるついでに種明かしをしていく。――――とは言ってもさっきまでうろたえていた自分が語れるほど大した内容ではないのだけれども。

 

「昨日、花壇のお手入れをしているときに偶然この人が“妹さん”を連れてきてくれててね。その子との接し方や花束を一緒に作ってるのを見てたんだけど―――“いい人だな”ってその時に素直に思ったんだ。だから、試験は私の独断と偏見によって無事に合格です。でも、まさかソレが噂の”ハチ君”だったとは思わなかったから君がココに来た時にはほんとに驚いちゃったよ」

 

「あんなんでその評価を下す節穴具合はともかく……世間は意外と狭いらしいな。で、女友達による“面接”とやらが緊急で行われるくらいにはボロクソに言われてた内容は?」

 

「えー、それは凄かったよ?“女たらし”で“不良学生”で“優しさが全然たりない”とか他には―――」

 

「わぁーーーっ!!とにかくっ!!面接は無事合格したんだからいいじゃないですか!!?あっ、ハチ君甘いの好きですよね!!ケーキ頼ましょうそうしましょう!!ねっ、夕美ちゃんも!!ねっ!!!」

 

 慌てて私の口を塞ぐため前のめりになった彼女は怒涛の勢いで言葉を連ねて事実のもみ消しと甘い物による懐柔を図ってくるので私はお腹を抱えて笑ってしまい、ハチ君はジトっと座った眼で彼女を睨んで呆れたようにため息を漏らしている。それを取り繕うために彼女がさらに慌てふためく姿にちょっとだけ意地悪な気分が解消されるのを感じて――――嫌な女だなっと内心で小さく自分に毒づいた。

 

 そんな和やかな光景を楽しんでいると彼がおもむろに腕時計を確認して、慌てている愛梨ちゃんにソレを指し示します。

 

「阿保、そもそも午後の移動ついでにちょっと寄る程度の話だったのにそんな時間あるかよ。“面接”っていう訳分からん行事も終わったならさっさと移動だ。―――アンタもこの馬鹿の思い付きに付き合わせて悪かったな。これに懲りず構ってやってくれ」

 

「えっ、いや――こっちこそ忙しいのに無理言ってごめんね?」

 

「えー!!というか、来てまだ5分もたってないじゃないですかー!!そんなに急がなくても次の現場での出番はもうちょっと後じゃないでした?―――って、いたっ!」

 

「今回は武内さんが直接様子見に来るらしいし……挨拶回りやらなんやら含めて早めに入っておくに越したことはねーだろ」

 

 文句を口走る彼女が名残惜しそうにケーキのメニューを見ているのをデコピンで黙らせた彼が振り返り申し訳なさそうに頭を下げてくれるのに思わずたじろいでしまった。

 

 昨日の妹さんに対するような優しさを変わらず覗かせるのに、社会人としてキチっと仕事に向き合おうとする新しく知った一面。そして、彼女が忙しいと知っていて無茶を言ってしまった昨日の自分の幼さが居たたまれなくて―――つい、視線を下げてしまう。

 

 そんな間にも彼らはちゃきちゃきと動いて、あっという間に帰り支度を済ませてしまう。

 

 このまま、ただ見送れば―――――きっと、もう深くかかわることが出来ないと

 

 なんの根拠もないまま不思議とそう確信した。

 

 そう、おもった瞬間に――――伝票に伸ばした彼の手を無意識に掴んでいた。

 

 見た目よりも固く温かいその手の感触。ソレに胡乱気な暗い瞳が問う様に向けられるが掴んだ自分が一番驚いているのだから場には沈黙が流れるばかりだ。

 

 それでも、無意識に繋いだこの細い糸を逃すまいと大して良くもない頭を必死に振り絞って――――私は

 

 

 

「あ、アイドルの、友達のお仕事を見学して見たりって……大丈夫、ですか?」

 

 

 

 生まれた事を後悔するくらいにとんちきなお願いをしぼり出したのでした。

 

 

 

-------------------------

 

 

 

 その初めて見る世界に―――圧倒された。

 

 屋外ステージの中に張り巡らされた配線に、見た事も無いくらい物々しいカメラや音響機材。それだけでも学園祭のステージなんかと比べ物にならない規模なのにもっとすごいのは人の熱気だ。

 舞台の微調整や演出さんやカメラマン。それぞれが怒号にも近いくらいの声でやり取りを交わしディレクターさん達がさらにソレを上回る大声で指示を出すたびに周りのスタッフさん達が慌ただしく走り回る。それらの脇では出演者であろうテレビで見た事がある歌手さん達や、“シンデレラ”の女の子たちが細かくそれぞれが打ち合わせや衣装の最終確認を行っている。

 

 テレビ越しでも驚くほど可愛い彼女たちは実際目の前にしてみるとそれよりも綺麗な子たちばかり。その上、華やかなその笑顔の後ろにある迫力みたいなものに思わず息を呑んでしまったくらい。

 

 そんな世界で―――あの友人はトップになったという凄さを改めて、知った。

 

 そんな感心と、寂しさにも似た感傷を首から下げた関係者の青い名札と一緒に転がしながら俯いていると仄かな紅茶の匂いと、紫煙の独特な匂いが鼻孔を擽る。

 

「案外と退屈なもんだろ舞台裏も」

 

「いや、逆に熱気に押されちゃったくらいで……正直、愛梨ちゃんがこんな凄いとこで戦ってるなんて思ってもみなかったんです」

 

 “ハチさん”に差し出された紅茶をありがたく受け取って素直に言葉を漏らす。今では愛梨ちゃんの援護に助けられ勢いだけで車に同乗してしまった時の気まずさはなりを潜めてしまって、今は単純に心の中に生まれた自分への卑下を誰かに聞いてもらいたかった。

 

「別に急にこんな所で始まった訳じゃないし、今くらい平気な顔してライブができるようになったのも最近の話だ――――その前は吐いたり、失踪したり、ロッカーに閉じこもったり酷いもんだったぞ」

 

「ふふ、そんな好き勝手言っていると愛梨ちゃんに怒られちゃいますよ?」

 

 彼が苦笑と共に零した冗談にちょっとだけ気持ちが楽になって、軽口で答えると彼は意味ありげに煙草を吹かすだけで答える。その動作が皮肉屋っぽい見た目に妙に合っていてつい微笑んでしまう。

 

夕暮れの日差しが近づいても冷え切らない春の宵闇に浮かぶその季節外れの蛍。ソレが柔らかな風によって緩く散ったその光景に

 

 

どうせ痛い思いをするならば―――早いほうがいいかと、覚悟を決めた。

 

 

「“ハチ君”は――――愛梨ちゃんと付き合ってるんだよね?」

 

 

「――――――――――はい?」

 

 

 

 覚悟を決めて絞り出した問いはあまりに気の抜けた答えに塗りつぶされてしまい、思わずこけそうになった私を、彼はもの凄い残念な物を見ているかのような視線を向けてくる。

 

「……いや、アイドルは恋愛しちゃ駄目でしょ」

 

「い、いや、ごめん!そうだよね! こんな事聞かれて普通に答える訳にはいかないもんね!!このことは――――」

 

「いや、まて。…多分だけど絶対に誤解してる人間の反応だソレは。大体、なんで俺があいつとそんな事になってる?」

 

 慌てて言葉をなかったことにしようとする私を宥めた彼が本当に不思議そうに聞いてくるのから逃げられず渋々と私は口を割ることになる。

 

「愛梨ちゃんが新人の頃から支えてきてくれた“大切な人”だって……」

 

「“大切”かどうかはともかく…ソレで付き合う事になるならこのプロジェクトの人間全員と付きあわにゃいけない計算だな――――うち事務が4人しかいないんだから大体の新人のお守は俺が担当だし」

 

「……傍にいないとすぐに他の女の子に色目使うとか」

 

「いや、何人いると思ってんだウチのプロジェクト…」

 

「実家には行き来する中だって……」

 

「地元撮影に行っておいて菓子折り持って行かない方がおかしいだろ」

 

 

「……………」

 

「……………………もしかして、付き合ってない?」

 

「最初からそう言ってる」

 

 淡々と答えられていくその言葉にいよいよと固めた覚悟が盛大に肩透かしを食らって無慈悲に脳内を転がってゆく音が聞こえた気がした。というか、その事実に自分が固めていた覚悟の裏面。つまり―――自分の気持ちを塞いでいた重しを失くして大暴れを始めて顔が真っ赤になるのを止められない。

 

「ど、どうした急に?気分でも悪くなったか?」

 

「――――っ!ちょ、ちょっと待ってね。…………ちなみに、付き合ってる人って今いますか?」

 

「……残念ながらJDを楽しませられるような恋バナの在庫は揃えてねぇんだ」

 

「――――えへへ、そっか。フーン、そうなんだー。………ね、ただ見てるだけっていうのもあれだし私にもお手伝いできることってあるかな?」

 

「人の恋愛遍歴きいてそんなご機嫌になっちゃう要素あった?――――あー、じゃあ、ステージ周りの花飾りが人手足りて無さそうだしそっちに聞いてくるわ」

 

「うん、せっかく無理言っていれて貰ってるんだから頑張る!!」

 

 胸が咲けそうな興奮を辛うじて抑えて絞り出した探りはひねくれた最高の回答によって帰ってきたことでさらに高まっていく。そんな気分で改めて周りを見回せばさっきとは違う輝きに溢れていて、少しでも自分の力になれることがあればと随分と気持ちも上向きになる。

 

 手伝いを勢いよく申し込んだせいもあってか彼は苦笑を堪えつつも花を飾り付けているスタッフさんに話を通しに行ってくれた背中をなんとは無しに見送っていると、後ろに誰かが立つのを感じて振り返ると――――引きつった笑顔の愛梨ちゃんがそこにいた。

 

「あっ、愛梨ちゃん。今日は色々我儘を聞いてくれてありがとう!!おかげで、心配事が全部解決しそうだよ!!」

 

「そ、そうですかぁ~。よかったです!……ところで、さっきはハチ君と何を話してたんですかぁ?」

 

「ん? “ハチ君はお付き合いしてる人いる?”って聞いたら―――いないって!!」

 

「なっ!!」

 

 口をあんぐりと開けて驚く彼女に“悪いなぁ”なんて思いつつも今日一番の笑顔が出てしまう自分はやっぱり性格が悪いのかもしれない。それでも、いい子のふりをしてつかみ取った糸を手放してしまうつもりは全然ないけれども。ましてや、その糸がどこにも繋がっていないなら気後れする理由も無くなったことだし―――ね?

 

「……ハチ君は、渡しませんよぉ?」

 

「お互い頑張ろうね!!」

 

 プリプリと怒る彼女に満面の笑みで答えると彼女はズカズカとメンバーの元へと戻って行き、ちょうど私も彼に呼ばれそちらに歩を進める。ご機嫌斜めな愛梨ちゃんを見て不審に思った彼が首を傾げるのを苦笑で誤魔化し、彼との間でし忘れていた一番大切な事を仕切り直すため手を差し出します。

 

 

「今更になっちゃったけど――私、“相葉 夕美”っていうの。A大の3回生!花が好きなの!!」

 

 

「そういや自己紹介してなかったな―――“比企谷 八幡”。W大3回生。まあ、見ての通りバイト漬けの社畜だな…」

 

 

 言われて気が付いたかのように呆けた彼が、苦笑と共に軽く手を握る。その手をしっかり握り返して何度も彼の名前を心の中で転がして味わう。

 

“はーちゃん” でもなく

 

“ハチ君” でもない

 

 自分だけの彼の名。

 

さて、このタネはどんな花を咲かすのか。

 

その未来と注ぐべき“愛情”の分量を真剣に考えて、楽しんで私は微笑んだ。

 

 

――――――――― 

 

 この後、現場に来た武内によって彼女が電撃スカウトされることによって起こる一悶着があるのだけれども――――ソレは、別のお話である。

 

 




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