デレマス短話集   作:緑茶P

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_(:3」∠)_ウチのナスビはお笑いの神に愛されております(笑)


【しぇあ】

 

 それはCD収録の休憩時間の事です。

 

 順調に進んでいく日程の中で誰もがリラックスしている様子で思い思いに過ごしています。そんな中、黒いドレスを纏った銀髪の魔王こと“蘭子ちゃん”が自販機の前でうんうんと唸っています。最初は室外機の真似でもしているのかと思っていましたがどうにもお財布と目線を忙しなく動かしているのを見るとどっちの飲み物を買うのか迷っている様子。

 

 ぶっちゃけ、いまやトップアイドルの私たちの収入はその辺のおじさんなんて比じゃないんですがご両親がしっかりしている子は“お小遣い制”が大半を占めているらしくこうした可愛い悩みはまま見られます。

 

 そんな悩みもかれこれ五分ほど続いていると見ている側としてはどんだけなのかと思わないでもないのですが、面白いのでベンチからこうして眺めている訳なのですが―――状況は彼女の後ろに現れた陰によって変わりました。

 

「……いや、悩みすぎでしょ。両方買えばいいだろ?」

 

「暗き瞳よ、浅はかなり。器に収まらぬ欲は破滅の調べであるぞ!!……我は混沌のゆりかごにある(そんな簡単じゃないんです!二つも飲んだらお腹痛くなっちゃうし、残すのも良くない事だし……うー、どうしましょう?)」

 

「変な所で生真面目なんだよなぁ…で、どれとどれで迷ってんの?」

 

「“紅き果実の滴り”と“甘美なる泡沫“よ(イチゴオレとソーダです)」

 

 彼女の細い指が指したソレをみてちょっと眉をしかめた彼がため息一つ吐くと同時に硬貨を自販機に投げ込んで手早くその二つのうち片方を彼女に手渡す。ソレに目を白黒させる彼女に彼はちょっとだけ皮肉気に笑ってタブを引き開けた。

 

「半分ずつ飲めば解決だな」

 

「我が友っ!!天の閃きを身に宿したか!!(比企谷さん!頭いいです!!)」

 

 そんな彼に満面の笑みで抱き着く蘭子ちゃんと鬱陶しそうにしながら邪険には扱わないその光景。――――なるほど、その手がありましたか…。

 

 閃きを得た私はニタリと頬をあげ、次の機会を狙って息を潜めます。

 

 ハンターは決して焦らず確実に獲物を捕らえるのですから。

 

 

―――――― 

 

 

 

茄子「あー、困りましたー。どっちも飲みたいんですけどー迷いますねー!!」

 

ハチ「………あ、そっすか。じゃ、おつかれ」

 

茄子「あ――――!困りましたね―――! 誰かシェアしてくれる人いませんかね――!!」

 

 収録が無事に終わり、各自解散になったロビー。颯爽と帰ろうとする彼の前でこれ見よがしにアピールをしますがそのまま帰ろうとする彼の腕を捕まえてより大声で繰り返します。すんごく迷惑そうな顔をしていますが、このハンター茄子。狙った獲物は逃がしません。ついでに言えば心も強化ガラス製なので滅多にくじけません!!

 

 これから起こるであろう彼とのいちゃラブに心ときめかせて彼を自販機前まで引きずっていくと彼は深くため息をついて小銭を入れてくれます―――今日はやけに物分かりがいいですね?

 

 そんな殊勝な心掛けに関心していると、おもむろに彼が私の指を取って――やだ照れちゃう――自販機のボタンへと導きます。当たり前のように出てくる飲み物。そして――――当たり前のように当たってもう一本追加で別の飲み物が転がり出てきます。

 

「へ?」

 

「良かったな。無事にどっちも飲めるぞ。余ったら茜でもかなこでも好きなやつに呑んで貰え。―――んじゃ」

 

 手渡された飲み物はキンキンに冷えていて、ついでに彼の対応もキンキンに冷えていました。

 

 颯爽とその場から走り去る彼を唖然と見送る私と、遠くで様子を見ていた一部のメンバーのゲラゲラ笑う声に全身が怒りでプルプル震え――その怒りのまま私は叫びます。

 

 

「こ、こういうんじゃなーーーーーーーーーいっ!!!!!」

 

 

 私の怒りの叫びは空しく夕焼けへと吸い込まれて行きましたとさ。ざけんな。

 




( *´艸`)評価感想を貰えると嬉しくてビンビンです(笑)

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